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お絵描き
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私の疑念など知る由もないユタカは、かなり値の張るであろう純白の用紙に惜しみもなく何かの絵を書いていた。
彼は絵を書き終えて、私に向かってノートを見せてくる。
そこには女の子の絵と、女の子を挟むように背の高い人物が描かれてあった。
ユタカの絵像は今まで見たこともないもので、一風変わったもの。
女の子は人物画を簡素化した三頭身ほどの大きさ。見目はかなり可愛らしく感じる。
「変わった絵だけど、なかなか上手いじゃないか」
私が感想を述べると、ユタカは少し照れくさそうな態度を見せる。
言葉はわからなくても、多少なりとも通じるものがあるようだ。
さて問題は、ユタカが何を意図してこのような絵を書いたのかだ。
女の子の絵は簡素化されているとはいえ、かなり丁寧に書き込まれてある。一方、左右を挟む背の高い人物は、線で人の形を模しただけのもの。
書き込まれた女の子は青い服を着ていて、頭はキノコのように膨らんでる。
(青い服の女の子。おそらく、これは私……キノコ頭はちょっといやだけど。それにしても、色つきのペンが発明されているなんて)
羽ペンの先に色のついたインクをつけることはあっても、専用の色つきのペンなど見たこともない。
ペンの不思議な構造もそうだが、驚くことばかり。
しかし、今はそういった驚きは抑える。
私は、絵の女の子と私を交互に指差して、絵の女の子が私であることを確認する。
ユタカはそうだと頷いた。
(やっぱり。となると、両脇の人物は? 私より、背が高くて……あっ)
絵に意味に気づいて、『しまった!』と頭を抱え込んだ。抱え込もうにも帽子があるけど……と、それはさておきっ、ユタカが紙に描いた私を両脇で挟む背の高い人物……おそらく彼らは、両親。
彼は絵を通して、私の家族を訪ねてきたのだ。
これは当然のことだろう。なにせ、私の見た目は十一歳の少女なのだから。
長い独り暮らしで自分の姿の異常性と、黒髪の心配に気を回しすぎたせいで、基本的な心配要素を忘れていた。
(な、なんて答えればいいの? 少女が一人でこんな森の奥で暮らしている理由……全くもって思いつかない!)
しかし、何としてでも言い訳を振り絞り出さなければならない。ユタカに訝しまれ、私が魔女と気づかれないためにっ。
ならば、どんな言い訳を? 両親は少し用事で出かけたということにして……。
では、いつ帰ってくるのか? 適当に数日後とでも……駄目だ、ユタカが歩けるまで五日は掛かる。いや、五日で治まるとは限らない。
それに、ユタカが近くに住んでいるとは決まっていない。
旅の途中に迷い込んだ可能性もある。
となると、ユタカの身の安全が確認できるまでとなれば十日……いや、下手すればひと月以上かかるかもしれない。
(そうだ、旅行に行っていることにすれば? って、子どもを置いて旅行に出かける親がどこにいるのっ。ど、どうすれば⁉)
「はぁ~」
私は大きくため息をつき、ユタカからペンを借りて両親の背中に絵を書き足した……羽を。
ここは素直に、両親は他界していると伝えることにした。
私のような幼子が一人で暮らしていることに大きな疑問を抱くだろうが、下手に嘘をつくよりマシだと判断して……。
ユタカは私が書き足した絵をしばし見つめる。そして、絵の意味を理解したようで、私に向かって何度も頭を下げた。
彼は不躾に両親の死に触れたことを謝罪しているようだ。
私は構わないと身振り手振りで伝える。
気持ちは伝わったようで、ユタカは最後に小さく頭を下げて謝るのを止めた。
とりあえず誤魔化せた、とは程遠い状況だけど、その場しのぎにはなった様子。
(さてと、次はどうしようかな?)
絵を使っての意思の伝達方法を確立した。全てを伝えるには不十分だが、今はこれだけで十分だ。
これから何を伝え、何をするべきかを思案する。
そこに、ぐ~っと腹の虫が泣く音が部屋に響く。
腹の音は私のものではない。
ユタカに視線を投げると、彼は照れ臭そうに頬を赤らめていた。
「ふふ、腹が空いているのか」
気がつけば、窓からは夕日が差し込んできている。
「ユタカを見つけてから、結構時間が経っているな。かなり長い間気を失っていたから仕方ない。腹も空くはず。わかった、ちょっと待ってなさい」
私はベッドの上で待つようにと振る舞いを見せてから、部屋を出て一階の台所へ向かった。
彼は絵を書き終えて、私に向かってノートを見せてくる。
そこには女の子の絵と、女の子を挟むように背の高い人物が描かれてあった。
ユタカの絵像は今まで見たこともないもので、一風変わったもの。
女の子は人物画を簡素化した三頭身ほどの大きさ。見目はかなり可愛らしく感じる。
「変わった絵だけど、なかなか上手いじゃないか」
私が感想を述べると、ユタカは少し照れくさそうな態度を見せる。
言葉はわからなくても、多少なりとも通じるものがあるようだ。
さて問題は、ユタカが何を意図してこのような絵を書いたのかだ。
女の子の絵は簡素化されているとはいえ、かなり丁寧に書き込まれてある。一方、左右を挟む背の高い人物は、線で人の形を模しただけのもの。
書き込まれた女の子は青い服を着ていて、頭はキノコのように膨らんでる。
(青い服の女の子。おそらく、これは私……キノコ頭はちょっといやだけど。それにしても、色つきのペンが発明されているなんて)
羽ペンの先に色のついたインクをつけることはあっても、専用の色つきのペンなど見たこともない。
ペンの不思議な構造もそうだが、驚くことばかり。
しかし、今はそういった驚きは抑える。
私は、絵の女の子と私を交互に指差して、絵の女の子が私であることを確認する。
ユタカはそうだと頷いた。
(やっぱり。となると、両脇の人物は? 私より、背が高くて……あっ)
絵に意味に気づいて、『しまった!』と頭を抱え込んだ。抱え込もうにも帽子があるけど……と、それはさておきっ、ユタカが紙に描いた私を両脇で挟む背の高い人物……おそらく彼らは、両親。
彼は絵を通して、私の家族を訪ねてきたのだ。
これは当然のことだろう。なにせ、私の見た目は十一歳の少女なのだから。
長い独り暮らしで自分の姿の異常性と、黒髪の心配に気を回しすぎたせいで、基本的な心配要素を忘れていた。
(な、なんて答えればいいの? 少女が一人でこんな森の奥で暮らしている理由……全くもって思いつかない!)
しかし、何としてでも言い訳を振り絞り出さなければならない。ユタカに訝しまれ、私が魔女と気づかれないためにっ。
ならば、どんな言い訳を? 両親は少し用事で出かけたということにして……。
では、いつ帰ってくるのか? 適当に数日後とでも……駄目だ、ユタカが歩けるまで五日は掛かる。いや、五日で治まるとは限らない。
それに、ユタカが近くに住んでいるとは決まっていない。
旅の途中に迷い込んだ可能性もある。
となると、ユタカの身の安全が確認できるまでとなれば十日……いや、下手すればひと月以上かかるかもしれない。
(そうだ、旅行に行っていることにすれば? って、子どもを置いて旅行に出かける親がどこにいるのっ。ど、どうすれば⁉)
「はぁ~」
私は大きくため息をつき、ユタカからペンを借りて両親の背中に絵を書き足した……羽を。
ここは素直に、両親は他界していると伝えることにした。
私のような幼子が一人で暮らしていることに大きな疑問を抱くだろうが、下手に嘘をつくよりマシだと判断して……。
ユタカは私が書き足した絵をしばし見つめる。そして、絵の意味を理解したようで、私に向かって何度も頭を下げた。
彼は不躾に両親の死に触れたことを謝罪しているようだ。
私は構わないと身振り手振りで伝える。
気持ちは伝わったようで、ユタカは最後に小さく頭を下げて謝るのを止めた。
とりあえず誤魔化せた、とは程遠い状況だけど、その場しのぎにはなった様子。
(さてと、次はどうしようかな?)
絵を使っての意思の伝達方法を確立した。全てを伝えるには不十分だが、今はこれだけで十分だ。
これから何を伝え、何をするべきかを思案する。
そこに、ぐ~っと腹の虫が泣く音が部屋に響く。
腹の音は私のものではない。
ユタカに視線を投げると、彼は照れ臭そうに頬を赤らめていた。
「ふふ、腹が空いているのか」
気がつけば、窓からは夕日が差し込んできている。
「ユタカを見つけてから、結構時間が経っているな。かなり長い間気を失っていたから仕方ない。腹も空くはず。わかった、ちょっと待ってなさい」
私はベッドの上で待つようにと振る舞いを見せてから、部屋を出て一階の台所へ向かった。
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