素直になれない魔女と不思議な少年

雪野湯

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外ってすごいことになってるのかな?

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 手帳には見たこともない文字……いや、おそらく文字と思われるものが書かれていた。
 手帳を閉じて裏返して見ると、さらに驚かされる出来事が。

(な、なんて、正確さなのっ)
 手帳の裏には、少年そっくりの絵が挟んであった。
 絵は、すぐそこで倒れている少年の姿を、そのまま映しこんだと言っても過言ではないほど正確に描かれている。


(一体、なにが起こっているの?)
 結界の異変。魔力を持たぬ少年。
 そして、彼が持つ奇妙な品々。

 私は他に何か少年の正体の手掛かりになるものがないかと辺りを見回した。
 すると、少し先の茂みに鞄のようなものを見つけた。
 早速、鞄らしきものを茂みから引きずり出す。そこでまたもや、いくつもの品々に驚かされることになる。
 
 まずは、鞄の肌触り。
 少年が来ている服とは違うが、鞄もまた異質な手触りであった。材質など見当もつかない。  
 さらに、材質といえばこの奇妙な金具。留め金となっている金具は、金属ではなく不可思議な材質でできている。
 触った感触から、先程の二つ折りの入れ物に入っていた一部のカードに似ている感じがする。


(とにかく、中身の確認を。この子には悪いけど、武器を隠し持っている可能性もあるし)
 鞄を開けようと留め金に手を掛ける……が、開け方がわからない。革のベルトのようなものとは全く形状が違う。
 少しの間、留め金の部分を弄っていると、他の部分より柔らかくへこむ部分を見つけた。
 へこむ部分は左右対称にある。

(ここが怪しいけど……両方押さえるの?)
 へこむ部分を左右同時に押すと留め金が外れた。
(なるほど、よくできている。左右を同時に押すと、引っかかっていた爪の部分が外れる仕組なんだ)


 構造に感心しつつ早速中身を拝見と行きたかったが、またもや不思議な錠が阻んできた。
 開け口と思われる部分を、ギザギザした何かが覆っている。材質は留め金と同じもの。魔力を感じないため、魔法による錠ではなさそう。
 どうしたものかとギザギザの部分をなぞり辿る。ギザギザの片方にだけ、ヒラヒラした何かがくっついているのを見つけた。

 何だろうと思い、ヒラヒラを摘みあげる。
 すると、ギザギザに封印されていた開け口が少し解放された。
 もう少しだけ力を入れ、ヒラヒラを引っ張る……ギザギザが開いていく。


(お、面白い。ギザギザは互いに留め金となって合わさっているんだ。そして、このヒラヒラを引っ張ると、ギザギザが解放されると。さらにヒラヒラを戻すと、ギザギザが元に戻る。なんて一品。こんなの見たことないっ)
 初めて見る品に心が躍り、気持ちが逸る。


(外は随分と妙なことになっているみたいっ)
 どうやら、外の文明や技術は、私の想像だにできぬものとなっているようだ。
 ヒラヒラを動かして開け口を解放し、中身を取り出す。
 鞄の中に入っていたのは、小さな袋に何冊もの本。
 
 小さな袋にもギザギザの封がされていたが、鞄の口と同じ要領でヒラヒラを引っ張り解放する。
 中には、色とりどりの棒が入っていた。
 赤色の棒を手に取ってみる。
 棒の先には蓋のようなものがされてあり、蓋を取り外すと赤い突起物が現れた。


(なんだろ? ペン、とか? でも、羽ペンとは全然違う形状だし、よくわからないからこれは後回しでいいか)

 危険な武器などには見えないので、とりあえず今は保留にしておく。
 棒きれを袋に戻して、代わりに一冊の本を手に取りパラパラと捲った。
 そこには見たこともない文字と、時折差し込んである絵で何かの説明がしてある。


(うん、さっぱりわからない。それにしても、この紙……恐ろしく上質な紙。私が普段利用すると紙とは比べ物にならない。こんなにも外の技術が進んでいるなんて……)


 私はさらに別の本を開いてみる。
 本には、数式と思われるものが多量に書かれてあった。
 数字は私の知る数字とは全く別物だが、文字や記号の組み合わせでなんとなく数式と知ることができる。


(と、なると、この本は教本? じゃあ、この少年は、学徒?)
 少年の服装。これは軍服なのではなく、制服。手帳は身分証のようなもの?
 しかし、学徒であったとしても、これほど高品質な品々を持っていることに疑問が湧く。 
 この少年は、何かの研究機関に付属する、教育機関にでも所属しているのだろうか?
 これらはそこで産み出された、最先端の品々なのかもしれない。

 全ては想像にすぎないので、答えが知りたいなら少年に問いただすしかないが……。
 一通りの品物を観察し終えて、もう一度教本を手にした。
 私は教本に記載される、人が書いたもの思えぬ整然と並んだ文字を見ながら呟く。


「見たこともない文字。古代文字とも違う……どうして、全種族共通文字であるカクミ語を使わないの?」


 使わない理由は機密保持のための暗号か、新たに文字が生まれたのか。
 様々な疑問があるが、まずは少年の取り扱いを決めてからだ。
 結界から放り出して放置するか、もしくは……。
 少年の様子を窺うと、いまだ気を失っているようだ。
 左足首は痛々しく腫れ上がり、時折うめき声を上げている。


(どうしよう。母さまと違って治癒術は使えないし……気を失っているなら、私が魔女だと気づいていないことになるけど……)
 もう一度、少年の左足首を見る。くるぶしの部分が青く変色し、大きく膨れ上がっている。
(結界の外に放置しても、あの足では。飢えで衰弱死するか、獣の餌食になるか……)

「はぁ、仕方ない」
 私はため息を漏らして、少年を保護することを選んだ。


 しかし、保護するといっても、私の華奢な身体では少年を背負って運ぶことなどできるはずもない。
(さて、うまく調節できるかな?)
 
 私は杖に魔力を込めて、軽く上から下へ振るった。
 少年の身体が白い光に包まれ浮かび上がる。
 彼にかけた魔法は、浮遊の魔法。
 少年は地面から、私の腰丈ほどの高さに浮かんでいる。

「ふぅ、よしっ」
 魔法がうまくいって少しほっとした。私は破壊を行う魔法は得意だが、他の特殊な魔法は不得手。特に浮遊などという繊細さを要求される魔法は。
 私はもう一度杖を振るって、少年の荷物を浮かび上がらせた。

(よし、こっちもうまくいった。それじゃ、運ぼう)
 私は少年と荷物が周囲の木々や草に引っ掛からぬように注意しながら来た道を戻っていった。
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