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20・その者、太古の怪獣なり
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――ポワソの森
様々な怪物たちが跳梁跋扈する――魔の森。
同時に多くの生命宿る――命の森。
その命に魅せられ迷い込めば、魔の餌食となる。
弱肉強食という単純極まりない掟が全ての世界。
そんな森に、10歳程度の小さな女の子がふらりふらりとおぼつかない足取りで歩いています。
「う~い、森がぐ~るぐる~、吾輩もぐ~るぐる~」
女の子は地面にまで届く白銀の髪を揺らしながら、道なき道を歩いています。
ボリュームのある髪のおかげで、後ろから見ると毛玉の塊が動いているようにしか見えません。
少女は血のように真っ赤な瞳を動かし、森を見回します。
「ここ~、どこ~?」
女の子は水晶のように透き通る白い手を前に出し、ふらふらと歩きます。
道に迷ってしまったのでしょうか?
服装は森の探索に不似合いな真っ黒なゴスロリですし、おそらくはそうなのでしょう。
これに加えて、時折足を止め、ぼーっと森の奥を見つめては首を傾げていますから。
「これはだめなの~。う~い、頭が回らな~い。足らないからなの~」
女の子は近くにあった倒木に腰を掛けて、懐より瓶を取り出しました。
取り出した瓶の形は寸胴なガラス瓶。
それはとても濃い夕焼け色の液体が満たされています。
女の子は真っ黒なボトルキャップに小指を置き、ピンと跳ねて蓋を開けます。
「ふっふっふ、やっぱりアルコールが足りないの~。飲まなきゃ、頭が回らな~い」
そう言ってボトルを咥えると、ラッパ飲みでお酒らしきものを一気に飲み始めました。
女の子……未成年。のように見えるのですが、大丈夫なのでしょうか?
少女はごくりごくりと水を流し込むかのように、喉、食道、胃と順番に、アルコールの刺激でそれらを満たしていきます。
そこへ、厭らしい三人の声が飛んできました。
「おいおい、ガキがこんなところに居やがるぜ」
「へぇ~、美味そうじゃねぇか。って、おい、こいつ酒を呷ってやがる」
「自分から酒漬けになってるとはぁ、親切じゃん」
三人は皆、緑色の肌を持つ人ならざる者たち。
鼻は潰れた豚鼻。
口は大きく、端からは唾液を漏らし、腹はでっぷりとしていて、服は腰みのを巻いているだけ。
手には固そうな棍棒を。
とても友好的には見えない人たちです。
それもそのはず、彼らはポワソの森に棲む魔物たち。
目の前の女の子を今日の御馳走として捉えています。
このような醜悪で恐ろしげな姿をした魔物が近づいてきたら、普通の女の子ならば叫び声をあげるか、恐怖で声さえ殺してしまうところです。
ですが、女の子は彼らの存在を無視して、お酒を堪能している様子。
その態度に魔物たちは戸惑っているみたいです。
「んぐんぐんぐんぐ、ぷはぁぁ。森の中での一杯。風流なの~」
「一杯って、一瓶丸々開けてるじゃねぇか」
「いや、そこじゃねぇだろ。酔ってるから状況がわかってないのか、この人間のガキは?」
「いや、よく見ろよ。こいつ人間のガキじゃねぇな」
一人の魔物が棍棒で女の子の尻の部分を差します。
そこには白銀の髪から飛び出した、七本の尾っぽが生えていました。
尾っぽは全て鱗で覆われていて、うねうねと奇妙な動きを見せています。
「知らねぇ種族だな。何もんだ?」
「森の外から来たんだろ? どうでもいいだろ」
「そうじゃん。どうせ、食っちまうんだから」
最後の一言に女の子は反応して、空っぽの酒瓶を懐にしまい、真っ赤な瞳をチロリと魔物たちへ向けました。
「ねぇ、吾輩を食べるつもりなの~?」
「え? ああ、そうだぜ。言っとくが命乞いなんて無駄だからな。小さなガキの女なんて滅多にありつけねぇご馳走。見逃すつもりないぜ」
「おい、お喋りはなんかしてる暇はないぞ。他の連中に見つかったら、分け前が減っちまう」
「そうじゃん。てなわけで、いただきます!」
二匹の魔物を後に置いて、せっかちな一匹の魔物が女の子へ飛び掛かりました。
女の子は血の満ちる瞳に、食欲という原始的な欲求に忠実な愚かな魔物を宿します。
すると、少女の瞳に囚われた魔物は、身体を凍り付かせて身動き一つできなくなってしまいました。
「かぁ、こ、な、なん、だ?」
「吾輩の目は相手を痺れさせちゃう力があるの~。そして、ここから~」
女の子は瞳の奥に光を宿します。
その不穏な様子に怖れを抱いた二匹の魔物が声を上げようとしましたが、間に合いませんでした……。
「やめっ」
「バイバイ」
瞳より衝撃が飛び出し、襲い掛かった魔物の身体はぐちゃぐちゃの肉塊になってしまいました。
飛び散った肉片は辺りに散らばり、土砂降りの雨のように残った魔物たちへ降り注いでいきます。
二匹の魔物は、仲間の肉体に詰め込まれていた、脳みそや腸、心臓、胃、肺などの臓腑を全身に浴びながら、声を出すことも逃げ出すこともできず、女の子の瞳に足を捕まれてしまいました。
魔物たちは真っ赤な瞳に映る自分の姿を見つめ、緑の皮膚が彼女と同じ瞳の色に染まってしまうことに怯えています。
もはや、彼らにできるのは、微かな叫び声を漏らすことと、身体を震わせることだけです。
女の子は彼らを見つめながら、くすりと愛らしい笑みを浮かべて尋ねました。
「ふふ。ねぇ、錬金術士さんのおうち知ってる~?」
様々な怪物たちが跳梁跋扈する――魔の森。
同時に多くの生命宿る――命の森。
その命に魅せられ迷い込めば、魔の餌食となる。
弱肉強食という単純極まりない掟が全ての世界。
そんな森に、10歳程度の小さな女の子がふらりふらりとおぼつかない足取りで歩いています。
「う~い、森がぐ~るぐる~、吾輩もぐ~るぐる~」
女の子は地面にまで届く白銀の髪を揺らしながら、道なき道を歩いています。
ボリュームのある髪のおかげで、後ろから見ると毛玉の塊が動いているようにしか見えません。
少女は血のように真っ赤な瞳を動かし、森を見回します。
「ここ~、どこ~?」
女の子は水晶のように透き通る白い手を前に出し、ふらふらと歩きます。
道に迷ってしまったのでしょうか?
服装は森の探索に不似合いな真っ黒なゴスロリですし、おそらくはそうなのでしょう。
これに加えて、時折足を止め、ぼーっと森の奥を見つめては首を傾げていますから。
「これはだめなの~。う~い、頭が回らな~い。足らないからなの~」
女の子は近くにあった倒木に腰を掛けて、懐より瓶を取り出しました。
取り出した瓶の形は寸胴なガラス瓶。
それはとても濃い夕焼け色の液体が満たされています。
女の子は真っ黒なボトルキャップに小指を置き、ピンと跳ねて蓋を開けます。
「ふっふっふ、やっぱりアルコールが足りないの~。飲まなきゃ、頭が回らな~い」
そう言ってボトルを咥えると、ラッパ飲みでお酒らしきものを一気に飲み始めました。
女の子……未成年。のように見えるのですが、大丈夫なのでしょうか?
少女はごくりごくりと水を流し込むかのように、喉、食道、胃と順番に、アルコールの刺激でそれらを満たしていきます。
そこへ、厭らしい三人の声が飛んできました。
「おいおい、ガキがこんなところに居やがるぜ」
「へぇ~、美味そうじゃねぇか。って、おい、こいつ酒を呷ってやがる」
「自分から酒漬けになってるとはぁ、親切じゃん」
三人は皆、緑色の肌を持つ人ならざる者たち。
鼻は潰れた豚鼻。
口は大きく、端からは唾液を漏らし、腹はでっぷりとしていて、服は腰みのを巻いているだけ。
手には固そうな棍棒を。
とても友好的には見えない人たちです。
それもそのはず、彼らはポワソの森に棲む魔物たち。
目の前の女の子を今日の御馳走として捉えています。
このような醜悪で恐ろしげな姿をした魔物が近づいてきたら、普通の女の子ならば叫び声をあげるか、恐怖で声さえ殺してしまうところです。
ですが、女の子は彼らの存在を無視して、お酒を堪能している様子。
その態度に魔物たちは戸惑っているみたいです。
「んぐんぐんぐんぐ、ぷはぁぁ。森の中での一杯。風流なの~」
「一杯って、一瓶丸々開けてるじゃねぇか」
「いや、そこじゃねぇだろ。酔ってるから状況がわかってないのか、この人間のガキは?」
「いや、よく見ろよ。こいつ人間のガキじゃねぇな」
一人の魔物が棍棒で女の子の尻の部分を差します。
そこには白銀の髪から飛び出した、七本の尾っぽが生えていました。
尾っぽは全て鱗で覆われていて、うねうねと奇妙な動きを見せています。
「知らねぇ種族だな。何もんだ?」
「森の外から来たんだろ? どうでもいいだろ」
「そうじゃん。どうせ、食っちまうんだから」
最後の一言に女の子は反応して、空っぽの酒瓶を懐にしまい、真っ赤な瞳をチロリと魔物たちへ向けました。
「ねぇ、吾輩を食べるつもりなの~?」
「え? ああ、そうだぜ。言っとくが命乞いなんて無駄だからな。小さなガキの女なんて滅多にありつけねぇご馳走。見逃すつもりないぜ」
「おい、お喋りはなんかしてる暇はないぞ。他の連中に見つかったら、分け前が減っちまう」
「そうじゃん。てなわけで、いただきます!」
二匹の魔物を後に置いて、せっかちな一匹の魔物が女の子へ飛び掛かりました。
女の子は血の満ちる瞳に、食欲という原始的な欲求に忠実な愚かな魔物を宿します。
すると、少女の瞳に囚われた魔物は、身体を凍り付かせて身動き一つできなくなってしまいました。
「かぁ、こ、な、なん、だ?」
「吾輩の目は相手を痺れさせちゃう力があるの~。そして、ここから~」
女の子は瞳の奥に光を宿します。
その不穏な様子に怖れを抱いた二匹の魔物が声を上げようとしましたが、間に合いませんでした……。
「やめっ」
「バイバイ」
瞳より衝撃が飛び出し、襲い掛かった魔物の身体はぐちゃぐちゃの肉塊になってしまいました。
飛び散った肉片は辺りに散らばり、土砂降りの雨のように残った魔物たちへ降り注いでいきます。
二匹の魔物は、仲間の肉体に詰め込まれていた、脳みそや腸、心臓、胃、肺などの臓腑を全身に浴びながら、声を出すことも逃げ出すこともできず、女の子の瞳に足を捕まれてしまいました。
魔物たちは真っ赤な瞳に映る自分の姿を見つめ、緑の皮膚が彼女と同じ瞳の色に染まってしまうことに怯えています。
もはや、彼らにできるのは、微かな叫び声を漏らすことと、身体を震わせることだけです。
女の子は彼らを見つめながら、くすりと愛らしい笑みを浮かべて尋ねました。
「ふふ。ねぇ、錬金術士さんのおうち知ってる~?」
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