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10・ミュール母さん
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「ぷぎゃぁぁぁ!」
「うわっ!? な、なんですっ?」
「お、お、おぬしっ。なんちゅー持ち方をするんじゃっ!」
「はい?」
「ディスク! データ面を指で触れてはならぬのじゃ!」
ミュールはゲームディスクのレーベル面とデータ面を指で挟んで持っています。
どうやらアスカにとって、その行為が許せなかったようです。
「ディスクはセンターホールに人差し指を入れて、親指で縁を持つのじゃ!」
「え? たしか、これって、絵のついてない方を触っても平気のはずじゃ。多少の埃や傷も問題ないって話していたじゃないですか?」
「たしかに、指で触れた程度では読み込み不可にはならぬ。一説によると、最近のディスクのデータ面はハードコート仕様なので、多少強く擦っても傷がつかぬという噂じゃが。試す度胸はないがの」
※注意です。
絶対に試してはいけませんよ。
多少丈夫になったとはいえ、繊細なものには変わりありません。
「でしたら、この程度問題ないでしょう?」
「それでも嫌なのじゃ。ディスクを雑に扱うのは我慢ならぬのじゃ。よく、海外ドラマなんぞでCD、DVDをパソコンにガチャガチャと入れておるシーンを見かけるが、雑に扱い過ぎて不安を覚えておるわ!」
「もう、面倒な人ですねぇ。だったら、ご自分でやってください」
ミュールはディスクをゲームケースにパチリとはめ込みます。
すると、豚が啼く。
「ぷきぃぃ! き、きさま。今、ぎゅっと押さえ込んで入れたな!」
「ええ、それはそうしますよ。じゃないと、入らないじゃないですか」
「ちがうっ。入れ方が違うのじゃ!」
「何がですか、もう!」
「ディスクを入れる際は、センターのプッシュボタンを押しつつ、ゆっくりとディスクをはめるのじゃ」
「はい?」
「はい、ではないっ! ぎゅっと押し込むと、センターホールがひび割れるおそれがあるのじゃ」
アスカはミュールに近づき、ディスクを取り出して、ミュールに見せつけます。
「よいか? センターホールはデリケートなのじゃ。プッシュボタンを押さずに入れると、この透明な部分にひびが入ったり、割れたりするのじゃ」
「はぁ」
「そういえば昔、ひび割れたディスクをそのまま本体に入れたらのぉ、途中でカラカラと音が響いて、まさかと思いディスクを取り出したら、本体内部にプラの破片入り込んで、にっちもさっちもいかんことがあったな」
「ふ~ん」
「まぁ、最近のケースはプッシュボタンが柔らかいものが多いから、ひびは入りにくいが、PS2の頃のケースにはまれに固いものがあってな。力任せにギュッとはめ込むと、パキッとなることがあったのじゃ」
「へぇ~」
ミュールにとってどうでもいい話なので聞きたくないのですが、何故かアスカは饒舌に語っていきます。
「そうそう、PS2のケースといえば、メモリーカードを入れる部分があってな。あれがまた曲者なのじゃ。説明書が分厚いと、カード入れの跡がついてな。それでマニアクスの説明書に跡が付いたときは、泣きたくなったのじゃ」
「ほほぉ」
「あと、プッシュボタンを押す時の話じゃが、やさしくな。でないと、裏表紙にプッシュボタンの跡がついてしまうのでな。とにかく、物は大事に扱うに越したことがないのじゃ」
全てを語り終えて何に満足したのか、アスカはふんぞり返っています。
ミュールはその姿を目にして、心に怒りの炎を灯しました。
ミュールのターンです。
「物を大事に扱う。素晴らしいことだと思います」
「じゃろっ」
「なら、なぜ、先ほど雑誌を投げたんですか? 畳を毟ったんですか?」
「え、その話に戻るのか?」
「それだけじゃありませんっ。見てください、この部屋を! あちこちゲームや漫画を散らばせて! 大事だというのなら、ちゃんと片付けなさい!」
「ひぃっ」
「このゲームの中身だってそう! よく見たら、ケースとタイトルが違うじゃないですかっ。どうしてケースとディスクのタイトルがバラバラなんですかっ?」
「そ、それは、元に戻すのが面倒でのぉ」
「何が面倒なんですか? ちょっとしたことでしょう。このゲームだってっ」
と、ミュールが一本のゲームソフトを手に取る。そして、パカリと中を開くと……。
「アスカさん、なんですか、これは?」
「ん? どうしたんじゃ?」
ミュールはディスクのレーベルを見せつけます。
「なんで、エッチなDVDがゲームソフトのケースに入っているんですか?」
「あ、そ、それは……」
「しかも、このゲームのパッケージ。せっかく童話のような絵柄でとても良い雰囲気なのに……なんてものを入れてるんですか?」
「ぐるぐるディスクをシャッフルするうちにいつの間にかの」
「まったくっ。それにしても、このDVDの絵は……とんでもなく、エロスですね」
ミュールが手にするDVDのレーベルには、女性の性的な魅力がこれでもかと詰め込まれていました。
たった一枚の絵ですが、そこからはDVDの内容がとても刺激的なものであることが伝わってきます。
すると、何故かアスカは自分が褒められたかのように、声に喜びを乗せてきました。
「じゃろっ。PVみて一発で惚れてしまっての。すぐにポチってしまったのじゃ。あまり肉感を表すタイプは苦手なのじゃが、そいつはエロくてエロくてついの」
「そうですか。没収しますっ」
「なんでじゃっ!?」
「隣の部屋でこんなの見られてると思ったら気持ち悪いからです」
「それは理不尽じゃろう。自分の部屋でナニしようと勝手なのじゃ」
「たしかにそうですね。じゃあ、わかりました。ちゃんと部屋の片づけができたら返してあげます。それまで、このDVDも他のゲーム没収です!」
「な!? お、横暴じゃっ。人権侵害じゃ」
「龍でしょ! アスカさんはこれくらいしないとダメみたいですからね」
「鬼じゃ、鬼子がおるのじゃ~」
アスカは畳をどしどし踏んづけて抗議を続けます。
しかし、ミュールはそんな我儘を一切無視して、近くに転がっていた段ボールに次々とソフトを入れていきます。
「はぁ、かなりの数ですねぇ。ダウンロードでしたっけ? それだとデータだから嵩張らないんじゃ。それにしないんですか?」
「たしかに、その方が便利じゃが……ワシは嫌なのじゃ」
「どうしてです?」
「本棚につまっていく、本やゲームたち。その光景にワシの物欲が極限まで満たされていくからのぉ」
壁という壁に設置された本棚に両手を広げて、アスカはニンマリと微笑みます。
その本棚には、たしかにぎっしりと本やソフトが詰まっていますが、歯抜けの部分も多々見受けられます。
抜けた場所に納まっているはずの本たちは畳の上に転がっているようです。
それらを見て、ミュールは瞳に殺気を宿し、その視線をもってアスカを貫きました。
「物欲を満たしたいなら……ちゃんと本棚に納めなさい……」
「あ、う、ごめんなさいなのじゃ……」
「うわっ!? な、なんですっ?」
「お、お、おぬしっ。なんちゅー持ち方をするんじゃっ!」
「はい?」
「ディスク! データ面を指で触れてはならぬのじゃ!」
ミュールはゲームディスクのレーベル面とデータ面を指で挟んで持っています。
どうやらアスカにとって、その行為が許せなかったようです。
「ディスクはセンターホールに人差し指を入れて、親指で縁を持つのじゃ!」
「え? たしか、これって、絵のついてない方を触っても平気のはずじゃ。多少の埃や傷も問題ないって話していたじゃないですか?」
「たしかに、指で触れた程度では読み込み不可にはならぬ。一説によると、最近のディスクのデータ面はハードコート仕様なので、多少強く擦っても傷がつかぬという噂じゃが。試す度胸はないがの」
※注意です。
絶対に試してはいけませんよ。
多少丈夫になったとはいえ、繊細なものには変わりありません。
「でしたら、この程度問題ないでしょう?」
「それでも嫌なのじゃ。ディスクを雑に扱うのは我慢ならぬのじゃ。よく、海外ドラマなんぞでCD、DVDをパソコンにガチャガチャと入れておるシーンを見かけるが、雑に扱い過ぎて不安を覚えておるわ!」
「もう、面倒な人ですねぇ。だったら、ご自分でやってください」
ミュールはディスクをゲームケースにパチリとはめ込みます。
すると、豚が啼く。
「ぷきぃぃ! き、きさま。今、ぎゅっと押さえ込んで入れたな!」
「ええ、それはそうしますよ。じゃないと、入らないじゃないですか」
「ちがうっ。入れ方が違うのじゃ!」
「何がですか、もう!」
「ディスクを入れる際は、センターのプッシュボタンを押しつつ、ゆっくりとディスクをはめるのじゃ」
「はい?」
「はい、ではないっ! ぎゅっと押し込むと、センターホールがひび割れるおそれがあるのじゃ」
アスカはミュールに近づき、ディスクを取り出して、ミュールに見せつけます。
「よいか? センターホールはデリケートなのじゃ。プッシュボタンを押さずに入れると、この透明な部分にひびが入ったり、割れたりするのじゃ」
「はぁ」
「そういえば昔、ひび割れたディスクをそのまま本体に入れたらのぉ、途中でカラカラと音が響いて、まさかと思いディスクを取り出したら、本体内部にプラの破片入り込んで、にっちもさっちもいかんことがあったな」
「ふ~ん」
「まぁ、最近のケースはプッシュボタンが柔らかいものが多いから、ひびは入りにくいが、PS2の頃のケースにはまれに固いものがあってな。力任せにギュッとはめ込むと、パキッとなることがあったのじゃ」
「へぇ~」
ミュールにとってどうでもいい話なので聞きたくないのですが、何故かアスカは饒舌に語っていきます。
「そうそう、PS2のケースといえば、メモリーカードを入れる部分があってな。あれがまた曲者なのじゃ。説明書が分厚いと、カード入れの跡がついてな。それでマニアクスの説明書に跡が付いたときは、泣きたくなったのじゃ」
「ほほぉ」
「あと、プッシュボタンを押す時の話じゃが、やさしくな。でないと、裏表紙にプッシュボタンの跡がついてしまうのでな。とにかく、物は大事に扱うに越したことがないのじゃ」
全てを語り終えて何に満足したのか、アスカはふんぞり返っています。
ミュールはその姿を目にして、心に怒りの炎を灯しました。
ミュールのターンです。
「物を大事に扱う。素晴らしいことだと思います」
「じゃろっ」
「なら、なぜ、先ほど雑誌を投げたんですか? 畳を毟ったんですか?」
「え、その話に戻るのか?」
「それだけじゃありませんっ。見てください、この部屋を! あちこちゲームや漫画を散らばせて! 大事だというのなら、ちゃんと片付けなさい!」
「ひぃっ」
「このゲームの中身だってそう! よく見たら、ケースとタイトルが違うじゃないですかっ。どうしてケースとディスクのタイトルがバラバラなんですかっ?」
「そ、それは、元に戻すのが面倒でのぉ」
「何が面倒なんですか? ちょっとしたことでしょう。このゲームだってっ」
と、ミュールが一本のゲームソフトを手に取る。そして、パカリと中を開くと……。
「アスカさん、なんですか、これは?」
「ん? どうしたんじゃ?」
ミュールはディスクのレーベルを見せつけます。
「なんで、エッチなDVDがゲームソフトのケースに入っているんですか?」
「あ、そ、それは……」
「しかも、このゲームのパッケージ。せっかく童話のような絵柄でとても良い雰囲気なのに……なんてものを入れてるんですか?」
「ぐるぐるディスクをシャッフルするうちにいつの間にかの」
「まったくっ。それにしても、このDVDの絵は……とんでもなく、エロスですね」
ミュールが手にするDVDのレーベルには、女性の性的な魅力がこれでもかと詰め込まれていました。
たった一枚の絵ですが、そこからはDVDの内容がとても刺激的なものであることが伝わってきます。
すると、何故かアスカは自分が褒められたかのように、声に喜びを乗せてきました。
「じゃろっ。PVみて一発で惚れてしまっての。すぐにポチってしまったのじゃ。あまり肉感を表すタイプは苦手なのじゃが、そいつはエロくてエロくてついの」
「そうですか。没収しますっ」
「なんでじゃっ!?」
「隣の部屋でこんなの見られてると思ったら気持ち悪いからです」
「それは理不尽じゃろう。自分の部屋でナニしようと勝手なのじゃ」
「たしかにそうですね。じゃあ、わかりました。ちゃんと部屋の片づけができたら返してあげます。それまで、このDVDも他のゲーム没収です!」
「な!? お、横暴じゃっ。人権侵害じゃ」
「龍でしょ! アスカさんはこれくらいしないとダメみたいですからね」
「鬼じゃ、鬼子がおるのじゃ~」
アスカは畳をどしどし踏んづけて抗議を続けます。
しかし、ミュールはそんな我儘を一切無視して、近くに転がっていた段ボールに次々とソフトを入れていきます。
「はぁ、かなりの数ですねぇ。ダウンロードでしたっけ? それだとデータだから嵩張らないんじゃ。それにしないんですか?」
「たしかに、その方が便利じゃが……ワシは嫌なのじゃ」
「どうしてです?」
「本棚につまっていく、本やゲームたち。その光景にワシの物欲が極限まで満たされていくからのぉ」
壁という壁に設置された本棚に両手を広げて、アスカはニンマリと微笑みます。
その本棚には、たしかにぎっしりと本やソフトが詰まっていますが、歯抜けの部分も多々見受けられます。
抜けた場所に納まっているはずの本たちは畳の上に転がっているようです。
それらを見て、ミュールは瞳に殺気を宿し、その視線をもってアスカを貫きました。
「物欲を満たしたいなら……ちゃんと本棚に納めなさい……」
「あ、う、ごめんなさいなのじゃ……」
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