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8・青い狸
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どうしようもなく性格が破綻した龍の少女を無視して、ミュールはテレビの映像に注目します。
「何かの劇を行っているようですが、言葉がわかりません。変ですね? アスカさんはこちらの言葉が使えるし、先ほどのハゲの人も言葉が通じてたのに?」
「うん? それはワシが魔法を使っておるからな。じゃが、テレビを通して流れる言葉に魔力を使い翻訳するのは、ワシとて難しいのじゃ」
「そうなんですか? ちょっと待っててください」
ミュールはウエストポーチから薄い透明な用紙を取り出しました。
サラ〇ラップのような物体を目にしたアスカは不思議そうな顔を見せています。
「これを使ってみましょう」
「なんじゃそれは?」
「翻訳用の道具です」
「翻訳用?」
「はい。本当はこの後、補聴器のような形に加工するのですが、このままでも効力はありますので使ってみましょう。えっと、音が出てくる場所はここですか?」
ミュールはテレビの下部にあるスピーカーをさすります。
それを見て、アスカは小さく返事をしました。
「あ、ああ、そうじゃが……」
「それじゃあ、ここにぺたりと。本来は異種族間の意思疎通に使うものですけど、別惑星の言語でも問題ないでしょう。よし、ぴったりくっついた。音を少し上げることはできますか?」
「お、おお」
リモコンを操作して、音量を数段高くします。
すると、どうしたことでしょう。
テレビからはミュールが使ってる言語が届いてきます。
「うん、うまくいきました」
「た、たしかに、言葉が日本語じゃなくなっておる。凄い道具じゃな」
「そうですか? 結構優しい道具ですよ、これ。むしろ、いま作ってる薬の方が格段に難しいですし」
「薬? そういえば、ミュールは薬専門の錬金術士だったのぉ」
「ええ、そうですよ」
「ワシの血を使って薬を作っているようじゃが、一体どんな薬なんじゃ? 龍の血を使用するくらいじゃから、不老不死クラスのさぞ貴重な薬であろうな」
「いえ、腰痛肩こりに効く湿布薬です」
「はっ!? いま何と申したのじゃ!?」
「だから、湿布薬」
「龍の血を使って、たかが湿布薬を? 翻訳の道具で物凄い錬金術士かと思いきや、とんだへっぽこ錬金術士じゃったわけか、くふふ」
アスカはせせら笑いを見せます。
この憎たらしい笑いに、ミュールはプライドを傷つけられました。
「ムッ。こう見えても私、錬金術士協会認定の一級錬金術士なんですよ!」
「はんっ、一級だか協会だか知らぬが、龍の血で湿布薬くらいしか作れんようでは、たかが知れておるのぉ」
「そんなことありませんよ。龍の血を使わなくても、並みの人なら腰がフニャンフニャンになれるくらいの湿布薬くらい作れますよ。ただ、ヤスキーおじいさんの腰は金剛石よりも固く手強いから、薬が効きにくいだけです!」
「はいはい、わかったわかったのじゃ。へっぽこ錬金術士の言い訳は見苦しいのぉ」
「ムムムッ、いいでしょう。証明してみせますよ。私の薬が超一流品だってことをっ」
「ほぉ、どうやって?」
「表に出てください!」
ミュールはアスカの腰に生えた七色の羽をガシッと掴みます。
そして、ずりずりと引っ張って玄関に向かいます。
「さぁさぁ、いきますよ!」
「ちょ、ちょっと待て。羽をひっぱるな! 手を持て、手をっ」
家の外に出て、玄関前の庭奥にある、大きな岩の前にミュールは立ちました。
薬の話をしていたのに、ミュールはこんな岩の前で何をしようとしているのか?
アスカもそのことが気になるようで、こめかみに指を置いて首を傾けています。
「何をする気なのじゃ?」
「何って、薬の効果を証明するんですよ」
そう言って、ミュールは腰のポーチを弄ります。
そこから一枚の湿布を取り出しました。
アスカはポーチから度々道具が出てくる様子を見て、ミュールに尋ねます。
「いくつもの道具がポーチから出てきておるが、大きさの割にはいろんなものが入っておらぬか?」
「ええ、ポーチ内部の空間を捻じ曲げてますからね。だから、たくさんの品物を詰め込めるんですよ」
「く、空間を?」
「そんなことよりも、はい、貼りますよ」
「な、なに? 貼る? まさか、お主っ?」
ミュールは湿布薬をぺたんと岩に貼り付けました。
その阿呆な姿に、アスカは残念な子を見る瞳を浮かべます。
「へっぽこどころか、救いようのない子じゃったか……」
「また、失礼なことをっ。いいから、ほら、触ってみてください」
「触れと言っても、岩に湿布を貼って……お、おお、おおおっ?」
言われるがまま岩に触れると、岩はグニョングニョンに波打ち、低反発枕も真っ青の、人を駄目にする柔らかさをアスカの手のひらに伝えてきます。
「え、いや、なんでじゃ? どうして、湿布薬で岩が柔らかく?」
「湿布はこりを取る薬ですからね」
「いや、岩じゃぞ」
「岩の表面は岩肌って言われるんですから、人の肌と同じです。疲れがたまるとかちこちにこってしまいます。ですが、湿布を貼ってあげれば、ご覧の通りです」
「え? は? おかしい……物理の法則が乱れておる」
「何を言っているんですか?」
「なにって……」
アスカは黄金の瞳にミュールの姿を宿します。
見目は可愛らしい少女。魔力は乏しく、腕力もか細い。
しかし――。
(こやつは世界の理を捻じ曲げる力を宿しておるのか? それとも錬金術士と呼ばれる存在がその力を宿しておるのか……まぁ、宇宙の遥か先には時間が逆行している場所もあることだしのぉ。こんな不思議があっても……う~む)
じっと、ミュールを見続けるアスカ。
それを奇妙に思い、ミュールが声を掛けてきます。
「どうかされました?」
「お主たち、錬金術士は皆、このような不思議な道具を作るのか?」
「ええ、専門分野に分かれますが、世間一般から見れば不思議な道具を作っていますね」
「そうか……かつて、地球にも錬金術士と呼ばれた者たちがいたが、それとは毛色が違うようだ」
「地球にも錬金術士が?」
「昔な。やがて科学という名に変わり、ワシの部屋にある人の皮膚持つ人形の素材や、テレビといった便利な道具を生み出すようになった」
「それじゃあ、名前は変わっても、私たちと同じですね」
「いや、ポーチの存在といい道具といい、お主らの錬金術は……青い狸のような存在じゃな」
「青い、たぬき?」
何を言われたのかよくわからないという態度をミュールはとっています
彼女の様子を瞳に宿しながら、アスカは思う。
(なかなか、面白そうな星じゃの。ミルティアとは)
「何かの劇を行っているようですが、言葉がわかりません。変ですね? アスカさんはこちらの言葉が使えるし、先ほどのハゲの人も言葉が通じてたのに?」
「うん? それはワシが魔法を使っておるからな。じゃが、テレビを通して流れる言葉に魔力を使い翻訳するのは、ワシとて難しいのじゃ」
「そうなんですか? ちょっと待っててください」
ミュールはウエストポーチから薄い透明な用紙を取り出しました。
サラ〇ラップのような物体を目にしたアスカは不思議そうな顔を見せています。
「これを使ってみましょう」
「なんじゃそれは?」
「翻訳用の道具です」
「翻訳用?」
「はい。本当はこの後、補聴器のような形に加工するのですが、このままでも効力はありますので使ってみましょう。えっと、音が出てくる場所はここですか?」
ミュールはテレビの下部にあるスピーカーをさすります。
それを見て、アスカは小さく返事をしました。
「あ、ああ、そうじゃが……」
「それじゃあ、ここにぺたりと。本来は異種族間の意思疎通に使うものですけど、別惑星の言語でも問題ないでしょう。よし、ぴったりくっついた。音を少し上げることはできますか?」
「お、おお」
リモコンを操作して、音量を数段高くします。
すると、どうしたことでしょう。
テレビからはミュールが使ってる言語が届いてきます。
「うん、うまくいきました」
「た、たしかに、言葉が日本語じゃなくなっておる。凄い道具じゃな」
「そうですか? 結構優しい道具ですよ、これ。むしろ、いま作ってる薬の方が格段に難しいですし」
「薬? そういえば、ミュールは薬専門の錬金術士だったのぉ」
「ええ、そうですよ」
「ワシの血を使って薬を作っているようじゃが、一体どんな薬なんじゃ? 龍の血を使用するくらいじゃから、不老不死クラスのさぞ貴重な薬であろうな」
「いえ、腰痛肩こりに効く湿布薬です」
「はっ!? いま何と申したのじゃ!?」
「だから、湿布薬」
「龍の血を使って、たかが湿布薬を? 翻訳の道具で物凄い錬金術士かと思いきや、とんだへっぽこ錬金術士じゃったわけか、くふふ」
アスカはせせら笑いを見せます。
この憎たらしい笑いに、ミュールはプライドを傷つけられました。
「ムッ。こう見えても私、錬金術士協会認定の一級錬金術士なんですよ!」
「はんっ、一級だか協会だか知らぬが、龍の血で湿布薬くらいしか作れんようでは、たかが知れておるのぉ」
「そんなことありませんよ。龍の血を使わなくても、並みの人なら腰がフニャンフニャンになれるくらいの湿布薬くらい作れますよ。ただ、ヤスキーおじいさんの腰は金剛石よりも固く手強いから、薬が効きにくいだけです!」
「はいはい、わかったわかったのじゃ。へっぽこ錬金術士の言い訳は見苦しいのぉ」
「ムムムッ、いいでしょう。証明してみせますよ。私の薬が超一流品だってことをっ」
「ほぉ、どうやって?」
「表に出てください!」
ミュールはアスカの腰に生えた七色の羽をガシッと掴みます。
そして、ずりずりと引っ張って玄関に向かいます。
「さぁさぁ、いきますよ!」
「ちょ、ちょっと待て。羽をひっぱるな! 手を持て、手をっ」
家の外に出て、玄関前の庭奥にある、大きな岩の前にミュールは立ちました。
薬の話をしていたのに、ミュールはこんな岩の前で何をしようとしているのか?
アスカもそのことが気になるようで、こめかみに指を置いて首を傾けています。
「何をする気なのじゃ?」
「何って、薬の効果を証明するんですよ」
そう言って、ミュールは腰のポーチを弄ります。
そこから一枚の湿布を取り出しました。
アスカはポーチから度々道具が出てくる様子を見て、ミュールに尋ねます。
「いくつもの道具がポーチから出てきておるが、大きさの割にはいろんなものが入っておらぬか?」
「ええ、ポーチ内部の空間を捻じ曲げてますからね。だから、たくさんの品物を詰め込めるんですよ」
「く、空間を?」
「そんなことよりも、はい、貼りますよ」
「な、なに? 貼る? まさか、お主っ?」
ミュールは湿布薬をぺたんと岩に貼り付けました。
その阿呆な姿に、アスカは残念な子を見る瞳を浮かべます。
「へっぽこどころか、救いようのない子じゃったか……」
「また、失礼なことをっ。いいから、ほら、触ってみてください」
「触れと言っても、岩に湿布を貼って……お、おお、おおおっ?」
言われるがまま岩に触れると、岩はグニョングニョンに波打ち、低反発枕も真っ青の、人を駄目にする柔らかさをアスカの手のひらに伝えてきます。
「え、いや、なんでじゃ? どうして、湿布薬で岩が柔らかく?」
「湿布はこりを取る薬ですからね」
「いや、岩じゃぞ」
「岩の表面は岩肌って言われるんですから、人の肌と同じです。疲れがたまるとかちこちにこってしまいます。ですが、湿布を貼ってあげれば、ご覧の通りです」
「え? は? おかしい……物理の法則が乱れておる」
「何を言っているんですか?」
「なにって……」
アスカは黄金の瞳にミュールの姿を宿します。
見目は可愛らしい少女。魔力は乏しく、腕力もか細い。
しかし――。
(こやつは世界の理を捻じ曲げる力を宿しておるのか? それとも錬金術士と呼ばれる存在がその力を宿しておるのか……まぁ、宇宙の遥か先には時間が逆行している場所もあることだしのぉ。こんな不思議があっても……う~む)
じっと、ミュールを見続けるアスカ。
それを奇妙に思い、ミュールが声を掛けてきます。
「どうかされました?」
「お主たち、錬金術士は皆、このような不思議な道具を作るのか?」
「ええ、専門分野に分かれますが、世間一般から見れば不思議な道具を作っていますね」
「そうか……かつて、地球にも錬金術士と呼ばれた者たちがいたが、それとは毛色が違うようだ」
「地球にも錬金術士が?」
「昔な。やがて科学という名に変わり、ワシの部屋にある人の皮膚持つ人形の素材や、テレビといった便利な道具を生み出すようになった」
「それじゃあ、名前は変わっても、私たちと同じですね」
「いや、ポーチの存在といい道具といい、お主らの錬金術は……青い狸のような存在じゃな」
「青い、たぬき?」
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