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7・恐れおののけ未開人!
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人形とハゲのお話はここまでにして、アスカたちは本題へと入っていきます。
ミュールはようやく扉をくぐり抜けて部屋の中に入りました。
彼女が目にしたのは、四方本棚に囲まれた圧迫感のある部屋。
辛うじて外の光を望める窓の近くには、妙なガラス板の乗った机。机の下にはおっきな黒い箱。
本棚には、本と人形と細いケースがずらりと並んでいます。
そして、部屋の正面奥の中心には、机にあったガラス板を大きくしたものが、ドドンッと鎮座していました。
「何といいますか、不気味な部屋ですね。息苦しいというか、人形に囲まれて気味が悪いというか」
「何を言うかっ、趣味の広がる至高の部屋じゃろうが! ちなみに今のは、至高と嗜好をかけておるのじゃ」
「はい」
「う、つめたいのぉ。まぁ、そんなことよりも、これじゃっ!」
アスカはテレビのリモコンをクルクルクルっと回転させて、電源ボタンをポチっと押しました。
すると、ガラス板に眼鏡をかけた警部が映ります。
彼は紅茶の入ったポットを高く持ち上げて、カップに降り注いでいるところです。
周りに飛び散ったりしないんでしょうかね?
アスカは視線をテレビからミュールへと向けます。
「さぁ、恐れおののけ未開人よ。これぞ、文明の利器ぞっ!」
彼女はミュールが飛び上がるほど驚くだろうと思っていました。
ですが……。
「はぁ、すごいですね。映像を映し出す道具ですか?」
「あれ?」
予想よりも冷静な反応に、アスカは肩透かしを食らいます。
そのようなアスカを置いて、ミュールはテレビに近づいていきます。
「どんな仕組みになっているんでしょうか? えいえい」
ミュールは液晶画面をぺちぺちと叩きます。
その姿を見て、アスカは飛び上がるくらい驚きました。
「やめぇ! 液晶を叩くなっ!」
「ひゃっ、なんですか、もう!?」
「なんですか? ではないのじゃ! 液晶テレビはブラウン管テレビと違って繊細なんじゃぞっ。なんちゅー恐ろしい真似を!」
「はあ……」
「なんだ、その気のない返事は? だいたい、どうして驚かぬ? ここは『ひゃ~、箱の中に人が入ってるズラ。おら、おったまげただ~』って驚くところじゃろうが」
「何語ですか、それ? それに箱じゃなくて、これは板でしょう」
「昔は箱が定番じゃったんじゃ! くぬ~、どうして、驚かぬのじゃ? 見たこともない機械じゃろ?」
「たしかに見たことはありませんが、映像でのやり取りは、魔導士や錬金術士であれば行うこともありますし」
「うん?」
「こんな風に」
ミュールはウエストポーチから小さな青い宝石を取り出します。
その宝石に魔力を籠めると、宝石の表面から一筋の光が落ちて、幼いミュールの姿が立体的に映し出されました。
「私が持ってるのは立体映像になっちゃいますけど、こんな風に映像を収められる道具がこちらにもありますし」
映像は鮮明で、花畑の真ん中で花の冠を作っている幼きミュールが、今そこにいるかのように存在しています。
それはとてものどかで幸せな光景。
それを目にしたアスカは…………舌打ちをしました。
「チッ! ホログラムとは……レ〇ア姫気取りかっ」
「れいあ、ひめ?」
「これだから魔法寄りの文明は! 大人しく遅れた世界であればよいのに! 魔法せいで、地球の技術を上回りよってからに! こんな展開、漫画でもゲームでもよく見るわっ!」
「ど、どうして、そんなに怒ってるんですか?」
「ワシは見たかったのじゃ! テレビでよく見るホームステイ的な感じのやつを!」
「なんですか、それ?」
「たまにの、番組で電気もないような不便な生活をしている者たちと、日本の素晴らしきインフラに囲まれた生活の双方を体験し合う番組があるのじゃ」
「はぁ」
「その番組で、文明の利器も良く知らぬ連中が、水道に驚き、高いビルを見て驚き、新幹線に驚くさまが、実に愉悦! 何も知らぬ無垢な者たちが英知に触れ行く様は、実に楽しいのじゃ~」
アスカは両方の口端を悪魔のように捻じ曲げて、見るに堪えない醜い笑顔を見せます。
それは手入れをしていない台所の三角コーナーのような笑顔。
ですが、ミュールはそんな生ゴミ以下の笑顔混じる話に、清浄なるフィルターを通し、しっかりと番組の内容の本質を理解したようです。
「それって、互いの価値観や生活様式が違う人たちの生活を体験し合う、という話ですよね?」
「そうじゃ、日本に来た者たちが驚き戸惑う姿はたまらんわいっ」
「ああ~、なるほど。わかりました。アスカさんがクソだってことですね」
「ク、クソ? なんて下品なやつ。なんでワシがクソ呼ばわりされねばならぬのじゃ?」
「その番組とやらはわかりませんが、趣旨は互いの文化や習慣の違い。価値観の違いを通して、新しい発見や思いを見つけ出すことじゃないでしょうか?」
「え、そうなのか?」
「そうなのかって、あなたの世界の話でしょう?」
「でも、言われてみれば、そういう趣旨の番組だったようなぁ……」
首を傾げるアスカ。
本来あるべき趣旨を色眼鏡を通し見ていたアスカの姿を目にしながら、ミュールは思います。
(日本の人たちが変じゃなくて、この人の頭がおかしいんだ……)
ミュールはようやく扉をくぐり抜けて部屋の中に入りました。
彼女が目にしたのは、四方本棚に囲まれた圧迫感のある部屋。
辛うじて外の光を望める窓の近くには、妙なガラス板の乗った机。机の下にはおっきな黒い箱。
本棚には、本と人形と細いケースがずらりと並んでいます。
そして、部屋の正面奥の中心には、机にあったガラス板を大きくしたものが、ドドンッと鎮座していました。
「何といいますか、不気味な部屋ですね。息苦しいというか、人形に囲まれて気味が悪いというか」
「何を言うかっ、趣味の広がる至高の部屋じゃろうが! ちなみに今のは、至高と嗜好をかけておるのじゃ」
「はい」
「う、つめたいのぉ。まぁ、そんなことよりも、これじゃっ!」
アスカはテレビのリモコンをクルクルクルっと回転させて、電源ボタンをポチっと押しました。
すると、ガラス板に眼鏡をかけた警部が映ります。
彼は紅茶の入ったポットを高く持ち上げて、カップに降り注いでいるところです。
周りに飛び散ったりしないんでしょうかね?
アスカは視線をテレビからミュールへと向けます。
「さぁ、恐れおののけ未開人よ。これぞ、文明の利器ぞっ!」
彼女はミュールが飛び上がるほど驚くだろうと思っていました。
ですが……。
「はぁ、すごいですね。映像を映し出す道具ですか?」
「あれ?」
予想よりも冷静な反応に、アスカは肩透かしを食らいます。
そのようなアスカを置いて、ミュールはテレビに近づいていきます。
「どんな仕組みになっているんでしょうか? えいえい」
ミュールは液晶画面をぺちぺちと叩きます。
その姿を見て、アスカは飛び上がるくらい驚きました。
「やめぇ! 液晶を叩くなっ!」
「ひゃっ、なんですか、もう!?」
「なんですか? ではないのじゃ! 液晶テレビはブラウン管テレビと違って繊細なんじゃぞっ。なんちゅー恐ろしい真似を!」
「はあ……」
「なんだ、その気のない返事は? だいたい、どうして驚かぬ? ここは『ひゃ~、箱の中に人が入ってるズラ。おら、おったまげただ~』って驚くところじゃろうが」
「何語ですか、それ? それに箱じゃなくて、これは板でしょう」
「昔は箱が定番じゃったんじゃ! くぬ~、どうして、驚かぬのじゃ? 見たこともない機械じゃろ?」
「たしかに見たことはありませんが、映像でのやり取りは、魔導士や錬金術士であれば行うこともありますし」
「うん?」
「こんな風に」
ミュールはウエストポーチから小さな青い宝石を取り出します。
その宝石に魔力を籠めると、宝石の表面から一筋の光が落ちて、幼いミュールの姿が立体的に映し出されました。
「私が持ってるのは立体映像になっちゃいますけど、こんな風に映像を収められる道具がこちらにもありますし」
映像は鮮明で、花畑の真ん中で花の冠を作っている幼きミュールが、今そこにいるかのように存在しています。
それはとてものどかで幸せな光景。
それを目にしたアスカは…………舌打ちをしました。
「チッ! ホログラムとは……レ〇ア姫気取りかっ」
「れいあ、ひめ?」
「これだから魔法寄りの文明は! 大人しく遅れた世界であればよいのに! 魔法せいで、地球の技術を上回りよってからに! こんな展開、漫画でもゲームでもよく見るわっ!」
「ど、どうして、そんなに怒ってるんですか?」
「ワシは見たかったのじゃ! テレビでよく見るホームステイ的な感じのやつを!」
「なんですか、それ?」
「たまにの、番組で電気もないような不便な生活をしている者たちと、日本の素晴らしきインフラに囲まれた生活の双方を体験し合う番組があるのじゃ」
「はぁ」
「その番組で、文明の利器も良く知らぬ連中が、水道に驚き、高いビルを見て驚き、新幹線に驚くさまが、実に愉悦! 何も知らぬ無垢な者たちが英知に触れ行く様は、実に楽しいのじゃ~」
アスカは両方の口端を悪魔のように捻じ曲げて、見るに堪えない醜い笑顔を見せます。
それは手入れをしていない台所の三角コーナーのような笑顔。
ですが、ミュールはそんな生ゴミ以下の笑顔混じる話に、清浄なるフィルターを通し、しっかりと番組の内容の本質を理解したようです。
「それって、互いの価値観や生活様式が違う人たちの生活を体験し合う、という話ですよね?」
「そうじゃ、日本に来た者たちが驚き戸惑う姿はたまらんわいっ」
「ああ~、なるほど。わかりました。アスカさんがクソだってことですね」
「ク、クソ? なんて下品なやつ。なんでワシがクソ呼ばわりされねばならぬのじゃ?」
「その番組とやらはわかりませんが、趣旨は互いの文化や習慣の違い。価値観の違いを通して、新しい発見や思いを見つけ出すことじゃないでしょうか?」
「え、そうなのか?」
「そうなのかって、あなたの世界の話でしょう?」
「でも、言われてみれば、そういう趣旨の番組だったようなぁ……」
首を傾げるアスカ。
本来あるべき趣旨を色眼鏡を通し見ていたアスカの姿を目にしながら、ミュールは思います。
(日本の人たちが変じゃなくて、この人の頭がおかしいんだ……)
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