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6・日本に対する誤解

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 ミュールの家は地上一階と地下室で構成されています。
 地下室には錬金術に必要な道具類が納められ、地上階にはトイレや風呂の他に、部屋が六つ。
 
 リビングキッチン。ミュールの部屋。実験室。師匠が住んでいた部屋。空き部屋が二つ。
 現在は空き部屋のうち一つがアスカの部屋になっています。
 師匠の存在については、いずれ別の機会に触れますので、今はアスカの部屋に注目しましょう。


 玄関、リビングを通り、少し長めの床張りの廊下を通って、二つ目の部屋がアスカの部屋です。
 彼女は扉を開き、ミュールを招待します。

「見よ、ミュールにとって珍しいものばかりじゃろう!」
「え、ええ、そうですね……」
 ミュールは部屋に入らず、扉の近くで身体を硬直させて、あるモノを凝視しています。

「な、何ですか、この等身大の人形は?」
 
 扉を開けてすぐ左に、ミュールよりも背の高い女の子の人形がありました。
 人形は金色の髪を持つ可愛らしい女の子。
 短い黄色のスカートを履いて、焦げ茶色のコルセットを着けています。
 そして、手にはマスケット銃……。

 ミュールは人形のスカートをめくり上げます

「うわ、パンツまでちゃんと履いてる」
「何をしておるんじゃ、お主は?」
「いや、気になるじゃないですか。ま、そんなことよりも、なんですこれ?」

「昔、ドハマりしてな、有志に頼んで特注で作ってもらったのじゃ」
「はぁ、なんというか、得も言われぬ恐怖を感じますね。お姉さんっぽいですけどいくつくらいですか?」

「え~っと、たしか……設定は中三だったはずじゃから、十五歳じゃったはず」
「えっ、私と一歳差!? あり得ないですよ、そんなの」

 ミュールは金髪の女の子の胸に目を向けます。
 そこには黄色のリボンが結ばれていて、リボンは胸の上で少し浮いています。

「こんな、大きすぎますって。日本の女の子はこんなに発育良いんですか?」
「う~ん、おることはおるじゃろうけど、普通はそんなに大きくなかろうな。設定じゃ、設定」
「設定って」
 
 ミュールは胸に手を伸ばして、触れてみます。
 すると、ふにゅうっとした感触が指先に伝わってきました。


「うわわわ、柔らかいっ。人形なのに、胸が柔らかいですよっ!?」
「ふふ、胸だけではないぞ。太ももや手を触ってみい」
「え、まさか……嘘、柔らかい。人間みたいに」
「すごいじゃろ」

「はい。すっごい気持ち悪いです」
「何をっ? かわいい子じゃろうが!」
「この女の子は可愛いですけど、人間のような皮膚を持つ人形を作っているところが気持ち悪いんですっ! でも……ふむ、このくらいなら再現可能かも」

 知的好奇心が刺激されたのか、ミュールは人形の女の子の胸やお尻や太ももを真剣な表情で、触り触り揉み揉みしていきます。
 その怪しげな姿には、人智を超える龍であるアスカも思わず、背に寒気を走らせてしまいました。

「ミュ、ミュールよ。あまり良い光景ではないから、そこまでにしておくのじゃ」
「え? あ、そ、そうですね。私としたことが、つい……そういえば、この女の子何なんです?」

「魔法少女なのじゃ。と言っても、物語に出てくる登場人物という意味でじゃが」
「魔法少女……こんな可愛い子ですから、主役なんですか?」
「えっとな……ミュール、耳を貸せ」
「なんですか、もう?」

 そっと、アスカがネタバレをすると、ミュールが眉を顰めます。

「え、ええ? なんでそんなことに? いいんですか? そんな話、幼い子どもたちが見たら泣きますよ?」
「幼い子どもたち?」
「そうですよ。魔法少女。少女が活躍するお話なんでしょうから、お子さん向けの話なんでしょう?」

「いや、違うぞ。おっきなお友達向けなのじゃ」
「はい?」
「大人が楽しむための娯楽。そんなアニメなのじゃ」
「大人が、これを……?」


 これは、ミュールにとって馬鹿げた話です。
 自分のことを担いでいるのではないかと、アスカに疑いの視線を向けます。
 ですが、アスカはアスカで、ミュールが何故そんな視線を向けてくるのかわからないようでキョトンとした表情をしています。

 嘘は言っていない……ミュールはそう判断しました。
 そして同時に、日本に対するかなり湾曲したイメージが定着します。

(ハゲの隠し方といい、この人形といい。日本って、変な人たちが集まっている国なんですね)
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