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3・パンツ集め

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 巨大な蛇のようだった龍はミュールよりも幼い容姿をした少女と変化して、黄金に輝く瞳をきらりと輝かせています。
 ミュールは戸惑いながらも、少女へ問いかけます。


「ちきゅう? それはどこかの国の名前ですか? それとも大陸?」
「おお、そうかそうか。言葉足らずじゃったのぉ。地球とはこことは別の惑星の名前なのじゃ」
「別の惑星……はぁ~、そうなんですか?」

「なんじゃ、あまり驚かぬのぉ」
「まぁ、龍族であれば、人にできない事象をいくらでも引き起こせるでしょうし。えっと、ケツ、ケツ、ケツあなるとるさんでしたっけ?」
「おい、気をつけよ。とんでもない名前になっとるぞ!」

 ミュールは名前を間違えただけですが、その響きは決して少女が口にしてはいけないもの。
 ですが、ミュールは目をぱちくりして、咎められた理由がわかっていないみたいです。

「名前、間違ってましたか?」
「知らぬのか、気づいておらぬのか……まぁいい。ワシの名は呼びにくいから大変じゃろう。日本で使っている名を代わりに伝えるかのぉ。ケツァルコアトル改め龍野たつのアスカなのじゃ」

「元の名前と全然違いますね」
「まぁ、日本で暮らしていくためには日本名の方が都合よくてのぉ。それに一応、名には自分の存在や故郷とをかけておるんじゃが」
「はぁ」

「それで、お主の名は?」
「私はミュールと言います。錬金術士を生業としています」
「なに、錬金術士じゃとっ!?」

 
 錬金術士という名を聞いて、アスカの偏った知識がにわかに沸騰します。

「知っておるぞ! お~っきな鍋に調合素材をポイポイっと投げ入れて、ぐるこん、チ~ンという感じで道具を作るアレじゃろ!?」
「できませんよ、そんなこと」

「両手をパンと叩けば、土の壁がドドドドドドってことができるやつじゃろ!?」
「できませんよ、そんなこと」

「指をパチリと跳ね上げれば、炎がドーンと!」
「あ、それならできます」
「できるのかっ?」

「はい、いきますよ~」
 ミュールは親指と中指を使い、指をパチリと跳ねる。

――ポフ
 
 しかし、生まれ出た炎はマッチにも満たない、可愛らしい炎の子ども。
 アスカは期待外れの魔法に呆れ返ってしまいます。

「何じゃ、今のは?」
「炎の魔法ですけど?」
「……ショボ」
「それは仕方ないですよ。魔導士とは違うんですから。そんなことより、アスカさんは私にどんな恨みがあって、洗濯物を駄目にしたんですか?」
「洗濯物?」
「見てください。せっかく洗ったのに、あなたのせいでっ」
  
 ミュールが庭に散乱した洗濯物に向かい両手を広げて怒った顔を見せます。
 その惨状を目にしたアスカは、自分が引き起こした事態を理解しました。


「あ~、それはすまないことをしてしまったのじゃ」
「とりあえず、散らばった洗濯物を集めるのを手伝ってください。話はそれからです」
「え、ワシが?」
「当然ですよ。はい、キリキリ集める!」
 
 アスカの見た目は少女とはいえ、その正体は龍。
 しかし、ミュールは全くと言っていいほど物怖じを見せず、アスカに命令します。
 その勢いに呑まれたアスカは、戸惑いつつも彼女の言葉に従いました。
「お、おう、わかったのじゃ」

 
 二人は洗濯物を一枚一枚拾い上げていく。その途中でアスカはミュールのパンツを手に取り、まじまじと見つめています。

「はぁ~、何とも色気のないパンツなのじゃ」
「人のパンツを見ながら引っ張らないでくださいよ!」
「木綿の白パンツ……中年のきっもい親父が好みそうじゃな」

「ひどいこと言いますねぇ。そういうアスカさんはどんなパンツを履いているんですか?」
「ふっふっふ。もちろん、この容姿に合わせて可愛らしいクマさんのパンツなのじゃ。見よっ」

 白いワンピースの丈をひらりとめくる。
 露わとなったのはつんつるとしたお肌。

「ちょっと、アスカさんっ。履いてないじゃないですか!」
「あ、そういや、パンツの替えがなくなってノーパンで過ごしておったんじゃった」
「変態」
「なんじゃと!?」

「アスカさんはタオルやお洋服を集めて、下着に触れないでくださいね」
「待て、本気で変態扱いしておるでないか!」

 
 こういった感じで、洗濯物を拾い集めている間ずっとアスカは愚痴っていましたが、手を動かすことはちゃんとしていたようで、洗濯物を無事すべて回収し終えることができました。

「これで全部じゃな。よもや別惑星に渡って、いきなりパンツ集めに精を出すと思いもよらなかったのじゃ」
「パンツ集めじゃなくて洗濯物です! まったく、迷惑な方ですよ。それで、何をしに来たんですか?」
「地球では魔力が枯渇してのぉ、住みにくくなったから、魔力の潤沢なこの惑星に引っ越してきたのじゃ」

「ミルティアに?」
「ほぉ、それがこちらの星の名前か。ま、そんなわけでよろしく頼むのじゃ」
「よろしくと言われても……どちらにお住みになるんですか?」
「それは、今から……」

 アスカは金色の瞳に、ミュールの背後にある家を映し込みます。
 一階建ての木造住宅。横幅は二つ分の部屋程度。ですが、奥行きはかなりのもの。
 屋根にはレンガ造りの煙突。
 外壁は白色ですが、ところどころ緑の葉に覆われていて、そこには花が咲いています。
 それは自然に抱かれる優しく暖かなおうち。

「ミュールよ。お主はあの家に一人で住んでおるのか?」
「はい」
「洗濯は自分でやっておるようじゃが、炊事も得意なのか?」
「ええ、お料理や掃除は好きですけど? それが何か?」

 ミュールの返事を耳にしたアスカはニンマリとした笑顔を見せます。
「ほほぉ、ほほぉ。これは思わぬ拾い物かもしれぬのぉ」
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