マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
249 / 286
第二十八章 笠鷺燎として

開花する才

しおりを挟む
 黒の雷球は表面に何重もの稲光を走らせながら、こちらへ向かってくる。
「あんちゃん、逃げんぞっ!」

 
 バーグのおっさんが大声を張り上げた。
 だけど、俺は足を動かす気力もない。
 もとより、逃げるなど不可能。
 あの魔法の力を地球の力で置き換えれば、核兵器並みの威力を持つ。
 
 とても逃げ切れるものじゃない。


 俺はただ、まっすぐとアプフェルの魔法を見つめる。

(すげぇな、アプフェル。一年も経っていないのに神なる魔法を使いこなすなんて。バスクを越えたんだ)
 たとえ、マヨマヨの造った装具の補助があろうとも、彼女の力は神なる魔法を生み出すに値する力を秘めていた。

(ふふ、結局死んじまうのか。でも、無の世界で焼け死ぬより……ウードに殺されるよりマシかな)

 アプフェルの成長をしっかりと瞳に宿し、その細部まで見つめ続ける。
 すると……。

(あれ? 流れが……)

 アプフェルの放った魔法の流れが見える。
 それは荒々しく、とてもを追いきれるものではない。
 なのに、その流れが、どういうわけかはっきりと追える。

(どうして……そっか、単一の魂になって、制御力が上がってるからだ)

 流れを見続ける。
 雷が産む流れは互いにぶつかり合い、波紋を生み、流れを複雑化していく。
 だけど、俺にはある一点が見えていた。
 それは流れのかなめ


 かつて、俺はエクレル先生とウードと協力して、トーラスイディオムの咆哮を受け止めた。
 あの時は単純な流れであったにも拘らず、それでも流れを潰し制するのに、十重二十重とえはたえの手や足や目が必要だった。

 今、目の前にある雷球は、あの時とは比べ物にならないくらい複雑な流れ。
 そうだというのに、俺の二つの目は流れを完全に捉えている。
 確かな目は、かなめとなる一点を捉えていた。

 指先に必要最低限の魔力を宿し、全てを消し去る神なる魔法に手を伸ばしていく。
 僅か二つの目は、魔力荒れ狂う嵐の中のなぎを見つけ、指先は嵐を潜り抜ける。


――そして、雷球に触れた。

 その瞬間、雷球は霧散し、全てはマフープに還元される。


 神なる魔法――頂きの魔法――絶対の魔法。
 

 それがただ一本の指先で消失してしまった。
 アプフェルはもちろんのこと、この場にいる全ての存在が驚きに声を失う。
 キラキラと舞い落ちる、マフープの欠片たち。
 そこにはアプフェルの波長を感じる。

 
 俺は瞬時にその波長へ自分の波長を重ねた。
 そこからすぐさま後ろへ飛び退き、バーグのおっさんの肩を掴み、一瞬にして彼の魔力とも同調する。
 そしてっ!

「心は水面みなもに! おっさんっ、跳ぶぞ!」
「と、とぶ!?」

 おっさんへ声を返すことなく、俺は転送魔法を使い、この場から消え去った……。


 

 景色が歪み、元に戻ると見知らぬ森にいた。
 バーグのおっさんは何が起こったのかわからず、周りをきょろきょろと見回している。
 俺はというと、今、自分の身に起こったことを噛み締めていた。

(俺はアプフェルの魔法を消失させ、そのマフープを魔力に還元し、自分の中に取り入れることができた……自然回復はできなくても、誰かの意志を介せば、魔力を身に取り込むことができるんだ!!)

 俺はバーグのおっさんへ感情のままに声を叩きつけた。

「おっさんっ! ありったけの魔導士を紹介してほしい! ヤツハを倒すために!!」




――シュラク村


 転送により、笠鷺たちは消え去った。
 神なる魔法の消失と合わせ、魔導兵たちには動揺が駆け巡る。
 その彼らへ、アプフェルは声を荒げた。

「静まりなさいっ!」
「ですがっ、今のはっ」
「魔力が小さく油断しましたが、おそらくあの者は、制御力が並々ならぬ存在なのでしょう」
「では、すぐにこのことをヤツハ様へ報告を」
「報告は直接私がします。皆さんは他言無用でお願いします」
「ど、どうしてですか、将軍?」

「これは大変危険な情報と判断しました。おそらく、ヤツハ様は秘匿情報として扱うでしょう。あなたたちは口と目と耳を塞いでおいてください。でなければ、どのような処断が下るか……」
「は、はっ。わかりました!」
「では、先に帰投してください。私は念のため、周囲を見回ってからにします」
「了解しました。では、失礼いたします」

 彼らは胸に置いた星型のバッジに手を置く。
 すると、光のカーテンが降りて、たちまちのうちに彼らは消え去ってしまった。


 一人、燃え落ちたシュラク村に残るアプフェルは呟く。

「ついに笠鷺燎かささぎりょうが現れた。あの時の約束通り全力の魔法を放ったけど……正直、冷や冷やしちゃった。でも、あの時の言葉通りに……信じてるよ、笠鷺燎。みんなを救ってくれることを。膝を抱えて泣いていた私を救ってくれた時のように……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...