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第二十八章 笠鷺燎として
激変
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おっさんは言葉を吐き捨てながら、キシトル帝国の滅亡を口にした。
俺はというと、その言葉の意味が飲み込めず、たどたどしい言葉が漏れるだけ。
「ちょ、はい、いや、え……なんで?」
「なんでって……あんちゃんこそ、なんで知らねぇんだよっ?」
「それは……」
一体、何が起こっているんだろうか?
このアクタはおそらく、シオンシャ大平原での戦争以降の世界。
あの戦争後、キシトル帝国が滅びた?
どうやらアクタで大きな出来事が起きているみたいだ。
俺はおっさんに詳しく話を聞くことにした。
「あのなおっさん。妙なことを言うけど、聞いてくれるか?」
「え? ああ、構わんぜ。あと、いい加減、おっさんはやめろ。俺のこたぁ、バーグさんって呼んでくれ」
「そういや、自己紹介もまだだっけ? 俺は笠鷺燎。それと、そっちもあんちゃんはやめてくれ。年上からあんちゃん呼ばわりされるのはなんかやだし。でだ――」
「かさざき、かざさぎ、うん?」
「え? 違う違う。か・さ・さ・ぎ。かささぎだ」
「かざざき?」
「あのな……わかった、燎って呼んでくれ」
「わかった、リョウな」
「ああ、よろしくな。バーグのおっさん。それでだ」
「だから、おっさんはやめろって。あんちゃんよ」
「ああ、悪いって、そっちもあんちゃんはやめろっ。ってか、話が進まねえよっ!!」
この後、しょうもない問答をしばらく繰り返し、一度、話を仕切り直すことにした。
「え~と、とにかく俺は事情があって、しばらくこの土地を離れていたんだ。だから、詳しい事情がわからない。俺が知ってるのはシオンシャ大平原でブラン軍とブラウニー軍が激突したところまでなんだ。その後、何が起こったのか教えてほしい。おっさん!」
「ああ、構わんぜ。あんちゃん!」
互いに歯を剥き出しながら不本意な呼称で呼び合う。
なんで、こんなしょうもないことをやってるんだろう……それはともかく、ようやくおっさんから、あの戦争から今に至るまでの説明を受けることができた。
現在、アクタは真冬のシオンシャ大平原の戦争が終えて、次の夏を迎えたところらしい。
その平原での戦争終結の間際、大勢のマヨマヨが現れる。
しかし、ヤツハはマヨマヨを従えさせた。
バーグのおっさんはこう話す。
「詳しくはわかんねぇが、ヤツハって少女がマヨマヨが欲しているモノを与えることができるそうだ。もっとも、これは風の便り程度だが……あ、そうだ、あんちゃんはマヨマヨについて知らないか?」
「いや、知ってる。異界の人間で元の世界に帰りたがっているって」
「へぇ~、マヨマヨの正体は一般人に知られてないのに、よく知ってんなぁ」
おっさんの口調は軽いが、目には不審が宿る。
しかし、それは当然か。
マヨマヨの正体はある一定の身分にしか知られていない。
(待てよ、ということは、このおっさんも)
「あんたこそ、よくマヨマヨのこと知ってるな? 見た目はしがないおっさんだけど、意外と良い身分?」
「誰がしがねぇおっさんだ。まぁ、なんだ……俺が何もんか、あんちゃんは何も知らなそうだから話してもいいけど、ま、全部説明してからの方がいいか」
どうやらこのおっさん、なかなかの身分らしい。
あとで話すつもりみたいだけど、正直興味ない……。
おっさんは一度咳払いをして、話を元に戻す。
「ごほん。じゃあ、あんちゃんが色々知っている前提で話を進めるが、ヤツハって子は世界を守護している女神コトアの結界に穴を開けることができるらしい」
「それは……そうか、亜空間魔法?」
「ほんっとによく知ってんなぁ。その魔法は空間魔法使いといえど、ほいほい多用できねぇ。だけどヤツハは、それを自在に操るだけの魔力を持っているらしいぜ」
「それでも、あくまで結界に穴を開けるだけで、マヨマヨたちが自分の世界に帰るのは難しいんじゃ?」
「それはマヨマヨたちの技術を借りるらしい。つまり、ヤツハが入り口を開けて、マヨマヨが帰り道を作るって寸法さ」
「なるほど。で、マヨマヨは入り口を開けることのできるヤツハに従っていると?」
「そうなる。マヨマヨたちは王都サンオンで世界を渡る橋の研究をしているらしいが……それだけなら良かったんだけどよ」
「何かまずいことでも?」
「それはっ!」
バーグのおっさんは一瞬、ぐわりと目を開き、憎悪と怒りの表情を見せた。
だが、すぐに収めて、話を続ける。
「……ヤツハは、マヨマヨを従え、周辺国へ侵攻した!」
「はっ!?」
「マヨマヨの持つ技術力や魔導の知識は俺たちを圧倒していた。大国ソルガムは僅かひと月で落ち、俺たちキシトル帝国は少しは粘ったが、結局三か月程度で負けちまった。しかもこれを、同時にだぞ!」
「え?」
「ジョウハクはソルガムとキシトル帝国へ同時に戦争を仕掛け、あっさり勝っちまったんだ。俺の住んでいた街は、何もかも破壊尽くされた。くそっ!」
自分の故郷が滅ぼされた悔しさが溢れ出したのだろう。
おっさんは地面を削るように蹴り上げる。
「あの日、俺は帝都を取り囲むマヨマヨを見た。馬鹿げた数だった」
「ちょっと待て。穏健派がいるだろ。そんなことをすれば、アクタへの介入を嫌っているあいつらが止めに入るんじゃ?」
「穏健派もヤツハに降った!」
「なっ!?」
「故郷へ帰る道筋を見つけたマヨマヨたちはみんなヤツハについちまったよ。元々、アクタに染まらず、故郷へ帰りたくて仕方ない連中だ。目の前に故郷という餌をぶら下げられて、自分らが決めたルールをすっ飛ばしちまったたんだろうよ!」
「マジかよ。じゃあ、誰にも対抗できないじゃん」
「ああ、だから、俺たちは負けた。いや、マヨマヨだけなら何とかなったかもな」
「え、そうなの? キシトル帝国ってそんなに強いの?」
「正面切ってジョウハクとやり合うだけの力は持っていたからな。それにマヨマヨに対する備えだってあった……だがな、マヨマヨに加え、黒騎士殿に匹敵する連中から襲われたら、とてもじゃないが敵わねぇ!!」
「はいっ!? 黒騎士に匹敵? どういうこと!?」
「そいつは……そうだな、順番に話していこう。あの戦争後、王都サンオンで起きたことも含めてな」
俺はというと、その言葉の意味が飲み込めず、たどたどしい言葉が漏れるだけ。
「ちょ、はい、いや、え……なんで?」
「なんでって……あんちゃんこそ、なんで知らねぇんだよっ?」
「それは……」
一体、何が起こっているんだろうか?
このアクタはおそらく、シオンシャ大平原での戦争以降の世界。
あの戦争後、キシトル帝国が滅びた?
どうやらアクタで大きな出来事が起きているみたいだ。
俺はおっさんに詳しく話を聞くことにした。
「あのなおっさん。妙なことを言うけど、聞いてくれるか?」
「え? ああ、構わんぜ。あと、いい加減、おっさんはやめろ。俺のこたぁ、バーグさんって呼んでくれ」
「そういや、自己紹介もまだだっけ? 俺は笠鷺燎。それと、そっちもあんちゃんはやめてくれ。年上からあんちゃん呼ばわりされるのはなんかやだし。でだ――」
「かさざき、かざさぎ、うん?」
「え? 違う違う。か・さ・さ・ぎ。かささぎだ」
「かざざき?」
「あのな……わかった、燎って呼んでくれ」
「わかった、リョウな」
「ああ、よろしくな。バーグのおっさん。それでだ」
「だから、おっさんはやめろって。あんちゃんよ」
「ああ、悪いって、そっちもあんちゃんはやめろっ。ってか、話が進まねえよっ!!」
この後、しょうもない問答をしばらく繰り返し、一度、話を仕切り直すことにした。
「え~と、とにかく俺は事情があって、しばらくこの土地を離れていたんだ。だから、詳しい事情がわからない。俺が知ってるのはシオンシャ大平原でブラン軍とブラウニー軍が激突したところまでなんだ。その後、何が起こったのか教えてほしい。おっさん!」
「ああ、構わんぜ。あんちゃん!」
互いに歯を剥き出しながら不本意な呼称で呼び合う。
なんで、こんなしょうもないことをやってるんだろう……それはともかく、ようやくおっさんから、あの戦争から今に至るまでの説明を受けることができた。
現在、アクタは真冬のシオンシャ大平原の戦争が終えて、次の夏を迎えたところらしい。
その平原での戦争終結の間際、大勢のマヨマヨが現れる。
しかし、ヤツハはマヨマヨを従えさせた。
バーグのおっさんはこう話す。
「詳しくはわかんねぇが、ヤツハって少女がマヨマヨが欲しているモノを与えることができるそうだ。もっとも、これは風の便り程度だが……あ、そうだ、あんちゃんはマヨマヨについて知らないか?」
「いや、知ってる。異界の人間で元の世界に帰りたがっているって」
「へぇ~、マヨマヨの正体は一般人に知られてないのに、よく知ってんなぁ」
おっさんの口調は軽いが、目には不審が宿る。
しかし、それは当然か。
マヨマヨの正体はある一定の身分にしか知られていない。
(待てよ、ということは、このおっさんも)
「あんたこそ、よくマヨマヨのこと知ってるな? 見た目はしがないおっさんだけど、意外と良い身分?」
「誰がしがねぇおっさんだ。まぁ、なんだ……俺が何もんか、あんちゃんは何も知らなそうだから話してもいいけど、ま、全部説明してからの方がいいか」
どうやらこのおっさん、なかなかの身分らしい。
あとで話すつもりみたいだけど、正直興味ない……。
おっさんは一度咳払いをして、話を元に戻す。
「ごほん。じゃあ、あんちゃんが色々知っている前提で話を進めるが、ヤツハって子は世界を守護している女神コトアの結界に穴を開けることができるらしい」
「それは……そうか、亜空間魔法?」
「ほんっとによく知ってんなぁ。その魔法は空間魔法使いといえど、ほいほい多用できねぇ。だけどヤツハは、それを自在に操るだけの魔力を持っているらしいぜ」
「それでも、あくまで結界に穴を開けるだけで、マヨマヨたちが自分の世界に帰るのは難しいんじゃ?」
「それはマヨマヨたちの技術を借りるらしい。つまり、ヤツハが入り口を開けて、マヨマヨが帰り道を作るって寸法さ」
「なるほど。で、マヨマヨは入り口を開けることのできるヤツハに従っていると?」
「そうなる。マヨマヨたちは王都サンオンで世界を渡る橋の研究をしているらしいが……それだけなら良かったんだけどよ」
「何かまずいことでも?」
「それはっ!」
バーグのおっさんは一瞬、ぐわりと目を開き、憎悪と怒りの表情を見せた。
だが、すぐに収めて、話を続ける。
「……ヤツハは、マヨマヨを従え、周辺国へ侵攻した!」
「はっ!?」
「マヨマヨの持つ技術力や魔導の知識は俺たちを圧倒していた。大国ソルガムは僅かひと月で落ち、俺たちキシトル帝国は少しは粘ったが、結局三か月程度で負けちまった。しかもこれを、同時にだぞ!」
「え?」
「ジョウハクはソルガムとキシトル帝国へ同時に戦争を仕掛け、あっさり勝っちまったんだ。俺の住んでいた街は、何もかも破壊尽くされた。くそっ!」
自分の故郷が滅ぼされた悔しさが溢れ出したのだろう。
おっさんは地面を削るように蹴り上げる。
「あの日、俺は帝都を取り囲むマヨマヨを見た。馬鹿げた数だった」
「ちょっと待て。穏健派がいるだろ。そんなことをすれば、アクタへの介入を嫌っているあいつらが止めに入るんじゃ?」
「穏健派もヤツハに降った!」
「なっ!?」
「故郷へ帰る道筋を見つけたマヨマヨたちはみんなヤツハについちまったよ。元々、アクタに染まらず、故郷へ帰りたくて仕方ない連中だ。目の前に故郷という餌をぶら下げられて、自分らが決めたルールをすっ飛ばしちまったたんだろうよ!」
「マジかよ。じゃあ、誰にも対抗できないじゃん」
「ああ、だから、俺たちは負けた。いや、マヨマヨだけなら何とかなったかもな」
「え、そうなの? キシトル帝国ってそんなに強いの?」
「正面切ってジョウハクとやり合うだけの力は持っていたからな。それにマヨマヨに対する備えだってあった……だがな、マヨマヨに加え、黒騎士殿に匹敵する連中から襲われたら、とてもじゃないが敵わねぇ!!」
「はいっ!? 黒騎士に匹敵? どういうこと!?」
「そいつは……そうだな、順番に話していこう。あの戦争後、王都サンオンで起きたことも含めてな」
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