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第二十五章 歯車は回る。虚ろな道を歩むために
訪れる絶望
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俺は先生とクレマとティラの姿を瞳に映す。
三人は何かを話している様子。
すると、先生が転送魔法を発動して姿を消した。
気配は一瞬だけ空に現れるがすぐに消え、俺の隣に二人は立つ。
「エクレル先生、クレマ……」
「ヤツハちゃん、助太刀に来たわよ」
「姉御、強敵の独り占めはずるいぜ!」
「ありがとう、二人とも」
「姉御、トルテさんとピケさんから伝言だ!」
「わかった、聞かせてくれ」
「それじゃ、」
『力一杯頑張りな。あんたにはまだ、任せたい仕事がたんまりあるんだからね』
『みんなで一緒に旅行に行くんだから、早く帰ってきてね』
「だってよっ」
「ふふ、そうか。それじゃ、頑張らないとな!」
「ああ、姉御やトルテさんたちの思いを叶えるためにも、あたいもやるぜっ!」
クレマは見た目が凶悪な釘バットをくるりと回転させた。
釘は白色に輝く。
俺はその釘に視線を注ぎつつ声を震わせる。
「ま、まさかと思うけど、その釘、オリハルコンじゃないよね?」
「お、よくわかったな。誇名紗の森の最奥にあるユグドラシルの大樹から木を削り出してよ、そこにオリハルコンを打ちつけたんだ。ククッ、地上最強の釘バットの爆誕だぜっ」
「そ、そうなんだ……」
ユグドラシルというと、地球のお話では世界を体現する木とか何とかだったような気がするけど……同じもんなら、なんてひどいことを……。
おそらく、彼女が手にする釘バットは最強であり、値の付けられない価値のあるもの。
俺は胃が痛くなるのを避けて、先生に視線を移す。
先生は少し気分が悪そうな表情をしていた。
「先生、大丈夫?」
「ここまで来るのに無茶したからね。でも、足手まといにならない程度には戦えるわよ」
そう言って、クラプフェンへ顔を向ける。
彼は先生とクレマを前にして、表情を険しく変化させた。
「まさかの援軍。戦場は我が方がやや不利。いえ、兵は多くとも士気の高さからかなりの劣勢か。戦場とは何が起こるかわからないから怖い。そして……」
クラプフェンは静かに魔力を高める。
それは死の気配……。
先生とクレマはその圧に触れて、緊張に産毛を震えさせる。
クラプフェンは二人に語りかける。
「エクレル。マヨマヨ襲撃の際、あなたの力を目にして、敵には回したくないと考えていましたが……何の因果でしょうか」
「六龍筆頭であるクラプフェン様からそのような言葉を戴くとは……本来ならば感慨の深きものでありましょうが、ここに於いては何も感ずるものはありません」
先生は魔導杖を構え、魔力を籠める。
だが、クラプフェンは気にする様子もなくクレマに顔を向けた。
「クレマ=ノッケルン。王都の膝元に広がる森の長でありながら、ジョウハクを敵に回すというわけですか?」
「姉御の敵はあたいと誇名紗の森の獲瑠怖たちの敵だ。それに、人間至上主義者のブラウニーはイケ好かねぇ」
彼女は真っ直ぐと釘バットをクラプフェンに向ける。
「そうですか……」
彼は短い一言を最後に口を閉じ、剣を構えた。
そこから生み出される気迫に、クレマは珍しく弱音を吐く。
「ば、化け物かよ、こいつは? これが六龍……」
先生もまた、声を震わせ恐怖を身に宿す。
「クラプフェン様の力と技の恐ろしさを知っているけど、こうして目の前に立たれると震えが止まらないわね」
俺は恐れと警戒を四肢に満たす二人に対して、少し高揚気味の声をかけた。
そこには、二人が来てくれた安心感と、少しだけ解けた緊張感があった。
「でしょっ? 俺ずっと一人でこいつを相手にしてたんだから、たまったもんじゃないよ」
「一人でっ?」
「マジかよっ?」
「だって、ほら、みんなはノアゼットとバスクの相手で忙しいし」
ちらりとみんなに視線を投げる。
ケインはノアゼットに岩石のような拳を振るう。
対するノアゼットはガントレットに力を籠めて拳を迎え撃つ。
互いの拳はぶつかり、周囲に衝撃波を産む。
それだけの衝撃を受けながらも、ケインの拳は砕けたりはしない。
それどころか、僅かだがノアゼットの足元をふらつかせた。
すかさずそこへセムラさんが飛び込み、左蹴りをノアゼットの頭めがけて振るう。
彼女は頭を伏せて躱す。
だが、躱したはずの左蹴りは軌道を変えて、踵が脳天に迫る。
躱し切れないと判断したノアゼットは、首を逸らし踵を肩で受けて、セムラさんの足を掴んだ。
そして、女神の黒きガントレットで彼の腹を打ち抜こうとした。
そこにケインが間に入り、両手で彼女の拳を受け止める。
そこから力任せにノアゼットを後方へ吹き飛ばした。
三人は構えを取り、戦いを仕切り直す。
一方、アプフェルとパティはクラス5の雷と闇の魔法を同時にバスクへぶつけていた。
バスクも同じくクラス5の雷と闇の魔法をぶつけて相殺する。
大魔法の激震に呑み込まれる大気の合間を縫って、アプフェルが駆け出し、雷撃を纏った拳をバスクが纏う結界に突き刺した。
凄烈な拳は結界の一部を破損させる。
その隙間を狙って、パティは火・水・風の三種の魔法を叩きこむ。
だが、バスクは地面より土の壁を産み、それらの魔法を遮断する。
アプフェルとパティは並び立ち、バスクを睨みつけた。
彼女たちは双方ともに大きく肩で息をしている。
対するバスクもまた、疲れの色を見せていた。
みんなは想像以上に善戦している。
だけど、こちらに手を貸す余力はなさそうだ。
俺は先生とクレマの肩に手を置く。
「二人とも、期待してる。正直、俺一人じゃどうにもならないから……」
二人は肩に置かれた手に手を重ね置く。
「師匠として、愛弟子の期待は裏切れないわね」
「妹分として、姉御の期待は裏切れねぇ。裏切っちまったらアカネさんにぶん殴られちまうからなっ」
エクレル先生は魔導杖を構え、空間の力を宿らせる。
クレマは釘バッドに風の精霊シルフの力を纏わせる。
俺は身の内から黄金の風を産み、魔力を極限まで高める。
クラプフェンは俺たち三人を前にして、表情より色を消した。
透き通るような青の瞳は淀み、深淵を覗かせる。
ここから、六龍筆頭の真の実力を目の当たりにすることになる……はずだった。
「クッ!?」
クラプフェンは突如、俺たちと全く別方向へ剣を振るい、衝撃波を地に這わせた!
衝撃波の向かう先から、同じく衝撃波がこちらへ向かってくる。
二つの衝撃波はぶつかり合い、巨大な振盪を戦場に走らせる。
その爆音は戦場に舞う剣を止めるのには十分すぎるものだった。
皆は目の前の敵を忘れ、視線を砂塵渦巻く場に向ける……。
「強者たちが集う場……戦いを求めていた者として、これほど最期に相応しい場はあるまい……」
砂塵の中に影が生まれる。
影の中にあるのは二つの朱き瞳。
血に溺れる朱き光は、深淵に染まる昏き闇の鎧を纏う。
それは絶望にして死神……。
俺はアレを知っている。
恐怖を魂に刻んでいる。
誰もが無言で影を見つめる中で、俺は影の名を呼んだ。
「黒騎士……」
三人は何かを話している様子。
すると、先生が転送魔法を発動して姿を消した。
気配は一瞬だけ空に現れるがすぐに消え、俺の隣に二人は立つ。
「エクレル先生、クレマ……」
「ヤツハちゃん、助太刀に来たわよ」
「姉御、強敵の独り占めはずるいぜ!」
「ありがとう、二人とも」
「姉御、トルテさんとピケさんから伝言だ!」
「わかった、聞かせてくれ」
「それじゃ、」
『力一杯頑張りな。あんたにはまだ、任せたい仕事がたんまりあるんだからね』
『みんなで一緒に旅行に行くんだから、早く帰ってきてね』
「だってよっ」
「ふふ、そうか。それじゃ、頑張らないとな!」
「ああ、姉御やトルテさんたちの思いを叶えるためにも、あたいもやるぜっ!」
クレマは見た目が凶悪な釘バットをくるりと回転させた。
釘は白色に輝く。
俺はその釘に視線を注ぎつつ声を震わせる。
「ま、まさかと思うけど、その釘、オリハルコンじゃないよね?」
「お、よくわかったな。誇名紗の森の最奥にあるユグドラシルの大樹から木を削り出してよ、そこにオリハルコンを打ちつけたんだ。ククッ、地上最強の釘バットの爆誕だぜっ」
「そ、そうなんだ……」
ユグドラシルというと、地球のお話では世界を体現する木とか何とかだったような気がするけど……同じもんなら、なんてひどいことを……。
おそらく、彼女が手にする釘バットは最強であり、値の付けられない価値のあるもの。
俺は胃が痛くなるのを避けて、先生に視線を移す。
先生は少し気分が悪そうな表情をしていた。
「先生、大丈夫?」
「ここまで来るのに無茶したからね。でも、足手まといにならない程度には戦えるわよ」
そう言って、クラプフェンへ顔を向ける。
彼は先生とクレマを前にして、表情を険しく変化させた。
「まさかの援軍。戦場は我が方がやや不利。いえ、兵は多くとも士気の高さからかなりの劣勢か。戦場とは何が起こるかわからないから怖い。そして……」
クラプフェンは静かに魔力を高める。
それは死の気配……。
先生とクレマはその圧に触れて、緊張に産毛を震えさせる。
クラプフェンは二人に語りかける。
「エクレル。マヨマヨ襲撃の際、あなたの力を目にして、敵には回したくないと考えていましたが……何の因果でしょうか」
「六龍筆頭であるクラプフェン様からそのような言葉を戴くとは……本来ならば感慨の深きものでありましょうが、ここに於いては何も感ずるものはありません」
先生は魔導杖を構え、魔力を籠める。
だが、クラプフェンは気にする様子もなくクレマに顔を向けた。
「クレマ=ノッケルン。王都の膝元に広がる森の長でありながら、ジョウハクを敵に回すというわけですか?」
「姉御の敵はあたいと誇名紗の森の獲瑠怖たちの敵だ。それに、人間至上主義者のブラウニーはイケ好かねぇ」
彼女は真っ直ぐと釘バットをクラプフェンに向ける。
「そうですか……」
彼は短い一言を最後に口を閉じ、剣を構えた。
そこから生み出される気迫に、クレマは珍しく弱音を吐く。
「ば、化け物かよ、こいつは? これが六龍……」
先生もまた、声を震わせ恐怖を身に宿す。
「クラプフェン様の力と技の恐ろしさを知っているけど、こうして目の前に立たれると震えが止まらないわね」
俺は恐れと警戒を四肢に満たす二人に対して、少し高揚気味の声をかけた。
そこには、二人が来てくれた安心感と、少しだけ解けた緊張感があった。
「でしょっ? 俺ずっと一人でこいつを相手にしてたんだから、たまったもんじゃないよ」
「一人でっ?」
「マジかよっ?」
「だって、ほら、みんなはノアゼットとバスクの相手で忙しいし」
ちらりとみんなに視線を投げる。
ケインはノアゼットに岩石のような拳を振るう。
対するノアゼットはガントレットに力を籠めて拳を迎え撃つ。
互いの拳はぶつかり、周囲に衝撃波を産む。
それだけの衝撃を受けながらも、ケインの拳は砕けたりはしない。
それどころか、僅かだがノアゼットの足元をふらつかせた。
すかさずそこへセムラさんが飛び込み、左蹴りをノアゼットの頭めがけて振るう。
彼女は頭を伏せて躱す。
だが、躱したはずの左蹴りは軌道を変えて、踵が脳天に迫る。
躱し切れないと判断したノアゼットは、首を逸らし踵を肩で受けて、セムラさんの足を掴んだ。
そして、女神の黒きガントレットで彼の腹を打ち抜こうとした。
そこにケインが間に入り、両手で彼女の拳を受け止める。
そこから力任せにノアゼットを後方へ吹き飛ばした。
三人は構えを取り、戦いを仕切り直す。
一方、アプフェルとパティはクラス5の雷と闇の魔法を同時にバスクへぶつけていた。
バスクも同じくクラス5の雷と闇の魔法をぶつけて相殺する。
大魔法の激震に呑み込まれる大気の合間を縫って、アプフェルが駆け出し、雷撃を纏った拳をバスクが纏う結界に突き刺した。
凄烈な拳は結界の一部を破損させる。
その隙間を狙って、パティは火・水・風の三種の魔法を叩きこむ。
だが、バスクは地面より土の壁を産み、それらの魔法を遮断する。
アプフェルとパティは並び立ち、バスクを睨みつけた。
彼女たちは双方ともに大きく肩で息をしている。
対するバスクもまた、疲れの色を見せていた。
みんなは想像以上に善戦している。
だけど、こちらに手を貸す余力はなさそうだ。
俺は先生とクレマの肩に手を置く。
「二人とも、期待してる。正直、俺一人じゃどうにもならないから……」
二人は肩に置かれた手に手を重ね置く。
「師匠として、愛弟子の期待は裏切れないわね」
「妹分として、姉御の期待は裏切れねぇ。裏切っちまったらアカネさんにぶん殴られちまうからなっ」
エクレル先生は魔導杖を構え、空間の力を宿らせる。
クレマは釘バッドに風の精霊シルフの力を纏わせる。
俺は身の内から黄金の風を産み、魔力を極限まで高める。
クラプフェンは俺たち三人を前にして、表情より色を消した。
透き通るような青の瞳は淀み、深淵を覗かせる。
ここから、六龍筆頭の真の実力を目の当たりにすることになる……はずだった。
「クッ!?」
クラプフェンは突如、俺たちと全く別方向へ剣を振るい、衝撃波を地に這わせた!
衝撃波の向かう先から、同じく衝撃波がこちらへ向かってくる。
二つの衝撃波はぶつかり合い、巨大な振盪を戦場に走らせる。
その爆音は戦場に舞う剣を止めるのには十分すぎるものだった。
皆は目の前の敵を忘れ、視線を砂塵渦巻く場に向ける……。
「強者たちが集う場……戦いを求めていた者として、これほど最期に相応しい場はあるまい……」
砂塵の中に影が生まれる。
影の中にあるのは二つの朱き瞳。
血に溺れる朱き光は、深淵に染まる昏き闇の鎧を纏う。
それは絶望にして死神……。
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