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第二十五章 歯車は回る。虚ろな道を歩むために
対峙
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――戦場
俺はクラプフェンを前にし、剣を構えて機を窺う。
そして、互いに攻めの初手を探る。
他のみんなはというと、すでに激しい戦いを繰り広げていた。
ケインとセムラさんはノアゼットを挟み込むように攻撃を仕掛けている。
挟み撃ちに合っているはずの彼女は、二人の攻撃をいなしながら笑みを浮かべる。
「フフ、さすがはケインと人狼の長。これほどとはな」
「ノア姉……ここまで腕を上げているとは。同じ筋肉の同門として喜ばしいやら恐ろしいやら」
「パスティス殿と比べ、技も速度も劣らず。だが、力は彼を圧倒している。これは厄介じゃな」
アプフェルとパティはバスクと対峙する。
アプフェルは翠石納まる黒いグローブに稲光を走らせ、パティは白銀の鉄扇に闇を纏わす。
受けてバスクは、女神の黒き魔導杖に冷たき氷の力を伝わせた。
彼は額に汗を浮かべる。
「これは困ったなぁ。共にクラス5程度の力なら容易く操っている。まったく、女神の装具を戴く六龍の立つ瀬がないよ」
パティは扇子の隙間から不敵な笑みを覗かせる。
「ならば、もう一段、魔力を上げてみては?」
アプフェルは両拳を打ち、全身に魔力と気焔を纏う。
「こうなったら、とことん六龍を味わってあげるから!」
闘志高める二人を前にして、バスクは乾いた笑い零すとともに軽い態度を示した。
「はは、クラス6の神なる魔法……もちろん使えるけど、あれの行使のためには時間が必要だし、威力の調整が利かないし、おまけに疲れるんだよなぁ。それに雛鳥たちに行使したとなれば六龍の名が泣くし、教会からはどんなお小言が飛ぶか」
「だから、使うまではないと? それはわたくしたちを侮っているというわけですわね」
「だったら、あんたの限界を引き出させてあげる! そして、それを打ち破る!!」
俺はみんなの姿を瞳に宿して微笑む。
「ふふ、頑張ってんじゃん。それじゃあ、俺も!」
両手で剣を握り締め、クラプフェンを睨む。
それに彼も応える。
「では、速やかに決着をつけるとしましょうか」
クラプフェンは女神の黒き剣を抜く。
「エーヴィヒカイト。あなたを葬る剣の名です」
「エーヴィヒ……たしかドイツ語で永遠を意味する言葉だったかな? 名付けは多分サシオンだよな? ナノマシーネもたしかドイツ語での表現。サシオンの居た火星はドイツ語圏だったのか? それとも何かの慣習?」
この言葉にクラプフェンの眉が小さく跳ねた。
「なるほど、あなたはサシオンさんをよくご存じのようで」
「まぁね。俺もまた、迷い人。サシオンやマヨマヨと同じ存在だから……なっ!」
地を蹴り、影を置き去りし、クラプフェンを切りつける。
彼は柳のようにゆらりと剣撃を交わし、こちらへ剣を一振り。
それは十を超える剣線となり襲いかかってくる。
(ウード!)
(わかってるわ!)
俺とウードの視界は繋がり、クラプフェンが生み出した凶撃を見通した。
剣を使わず、全て躱し切り、ゆったりと構えを取り直す。
クラプフェンは軽く息を飛ばす。
「驚きました。こうも簡単に交わされるとは……異世界の者は何故にこうまで力を持っているのでしょうか?」
「そんなこと知らんよ。俺はたまたまお地蔵様に助けてもらっただけだし。それに普通の人だっているだろ?」
「ええ、そうですね。ですが、力を持つ者は全て、アクタの脅威となります。マヨマヨもあなたも……そしてサシオンさんもっ!」
クラプフェンは剣に魔力を籠めて切り伏せてきた。
俺は地面より氷の壁を産む。
クラプフェンの剣は氷壁を細かな宝石と還す。
キラキラと舞う、無数の氷片。
欠片に映り込む、互いの姿。
欠片は虚ろい、魔力からマフープへと還る。
俺は溶けゆく力に新たな魔法を組み込む。
「ミカ、連弾!」
霧散しようとしていた氷の魔法たちは炎に生まれ変わり、クラプフェンへと襲いかかった。
黄金の魔力の籠る火球の一つ一つがただの火球と違い、重く威力のあるもの。
「クッ!」
クラプフェンはそれら全てを剣で叩き落す。
「心は水面に! 次元よ、断裂せよ!」
そこへ追い打ち。
彼の身ごと空間を切り裂く。
火球に剣を振るっていたクラプフェン。
このタイミングなら断裂から逃れることはできないはず!
だが、クラプフェンはエーヴィヒカイトに魔力を籠める。
そして、断裂した空間ごと切り裂く衝撃波を放った。
「うそっ!?」
辛うじて、それを躱す。
衝撃波は後方で地面にぶつかり、轟音と土煙を上げた。
「あっぶな。あんなの当たったら真っ二つどころじゃないぞっ」
「あれも避けられるとは、なかなか良い目をお持ちです」
「まぁね!」
「ふふ、さらにあの魔法。氷の魔法がマフープへと戻る瞬間に、魔力を重ね、新たな魔法を生み出すとは……恐ろしいまでの制御力」
「空間の使い手は制御力あってこそだからな。ま、魔法を別の魔法に変化させるのは、バスクの魔法がヒントになったんだけどね」
王都からの逃走劇の際、バスクはただの魔法弾に結界の魔法を潜ませていた。
つまり、魔力を巧みに扱うことができれば、そういったことも可能ということ。
それをヒントに、先ほどの魔法を生み出した。
しかし、それだけでは魔法の隠し種は見破られてしまう。
そこでリーベンの城壁の上で俺は考えた。
魔法が霧散し魔力となり、さらにマフープと戻る瞬間に新たな魔法を描いてみようと。
このヒントとなったのは、エクレル先生がトーラスイディオムのマフープを使い、自身の魔力を回復させていたこと。
他者の波長の影が残るマフープと同調できれば、自分の魔力として還元できる。
今回使用した魔力は俺の力。
わざわざ波長を合わせるまでもない。
先生が行ったことよりも断然楽だ。
ただ、俺は先生と違い、自身のマフープを魔力として還元せず、新たな魔法を生み出すきっかけとして使った。
俺の経験と知恵が集約された魔法。
これでクラプフェンは倒せなかったが、少なくとも脅威とは見てもらえたようだ。
その証拠として、クラプフェンは剣に研ぎ澄ます気配を纏う。
彼は構えを解き、剣をだらりと下げた。
それは隙だらけの姿のはず。
しかし、俺とウードの四つの目をもってしても、その隙が存在しない。
確実にレベルの違う相手。
彼は感心したような言葉を漏らす。
「なかなかの腕前。たしかに、時間稼ぎを念頭とした戦いならば、私相手でも多少の時は稼げるでしょう」
「ん?」
「あなたの狙いは、私を足止めしている間に仲間がバスク及びノアゼットを破り、合流することですね?」
そう言って、彼はアプフェルたちを目にした。
「バスクは苦戦をしているようですね。あちらの二人もまた見事なまでの腕前。彼女たちがバスクを打ち破れば、三対一となりますか」
次に、セムラさんたちへ瞳を向ける。
「ですが、あちらはノアゼットが有利のように見えます。果たして、彼らに持ちこたえられますか……」
彼の言うとおり、セムラさんたちは善戦しているものの、かなり押されているように見えた。
もし、ノアゼットが勝利したら、こちらに勝ち目が無くなる。
クラプフェンは笑いを一つ零して、戦場に目を向ける。
「フフ、もしくはブラン軍が先に勝利を収めること。軍として敗れれば、私たちの戦いなど無意味。あなたたちの勝利。だが、その逆であれば……」
言葉の終わりを静かに締めて、彼は戦場を大きく覗き見る……。
俺はクラプフェンを前にし、剣を構えて機を窺う。
そして、互いに攻めの初手を探る。
他のみんなはというと、すでに激しい戦いを繰り広げていた。
ケインとセムラさんはノアゼットを挟み込むように攻撃を仕掛けている。
挟み撃ちに合っているはずの彼女は、二人の攻撃をいなしながら笑みを浮かべる。
「フフ、さすがはケインと人狼の長。これほどとはな」
「ノア姉……ここまで腕を上げているとは。同じ筋肉の同門として喜ばしいやら恐ろしいやら」
「パスティス殿と比べ、技も速度も劣らず。だが、力は彼を圧倒している。これは厄介じゃな」
アプフェルとパティはバスクと対峙する。
アプフェルは翠石納まる黒いグローブに稲光を走らせ、パティは白銀の鉄扇に闇を纏わす。
受けてバスクは、女神の黒き魔導杖に冷たき氷の力を伝わせた。
彼は額に汗を浮かべる。
「これは困ったなぁ。共にクラス5程度の力なら容易く操っている。まったく、女神の装具を戴く六龍の立つ瀬がないよ」
パティは扇子の隙間から不敵な笑みを覗かせる。
「ならば、もう一段、魔力を上げてみては?」
アプフェルは両拳を打ち、全身に魔力と気焔を纏う。
「こうなったら、とことん六龍を味わってあげるから!」
闘志高める二人を前にして、バスクは乾いた笑い零すとともに軽い態度を示した。
「はは、クラス6の神なる魔法……もちろん使えるけど、あれの行使のためには時間が必要だし、威力の調整が利かないし、おまけに疲れるんだよなぁ。それに雛鳥たちに行使したとなれば六龍の名が泣くし、教会からはどんなお小言が飛ぶか」
「だから、使うまではないと? それはわたくしたちを侮っているというわけですわね」
「だったら、あんたの限界を引き出させてあげる! そして、それを打ち破る!!」
俺はみんなの姿を瞳に宿して微笑む。
「ふふ、頑張ってんじゃん。それじゃあ、俺も!」
両手で剣を握り締め、クラプフェンを睨む。
それに彼も応える。
「では、速やかに決着をつけるとしましょうか」
クラプフェンは女神の黒き剣を抜く。
「エーヴィヒカイト。あなたを葬る剣の名です」
「エーヴィヒ……たしかドイツ語で永遠を意味する言葉だったかな? 名付けは多分サシオンだよな? ナノマシーネもたしかドイツ語での表現。サシオンの居た火星はドイツ語圏だったのか? それとも何かの慣習?」
この言葉にクラプフェンの眉が小さく跳ねた。
「なるほど、あなたはサシオンさんをよくご存じのようで」
「まぁね。俺もまた、迷い人。サシオンやマヨマヨと同じ存在だから……なっ!」
地を蹴り、影を置き去りし、クラプフェンを切りつける。
彼は柳のようにゆらりと剣撃を交わし、こちらへ剣を一振り。
それは十を超える剣線となり襲いかかってくる。
(ウード!)
(わかってるわ!)
俺とウードの視界は繋がり、クラプフェンが生み出した凶撃を見通した。
剣を使わず、全て躱し切り、ゆったりと構えを取り直す。
クラプフェンは軽く息を飛ばす。
「驚きました。こうも簡単に交わされるとは……異世界の者は何故にこうまで力を持っているのでしょうか?」
「そんなこと知らんよ。俺はたまたまお地蔵様に助けてもらっただけだし。それに普通の人だっているだろ?」
「ええ、そうですね。ですが、力を持つ者は全て、アクタの脅威となります。マヨマヨもあなたも……そしてサシオンさんもっ!」
クラプフェンは剣に魔力を籠めて切り伏せてきた。
俺は地面より氷の壁を産む。
クラプフェンの剣は氷壁を細かな宝石と還す。
キラキラと舞う、無数の氷片。
欠片に映り込む、互いの姿。
欠片は虚ろい、魔力からマフープへと還る。
俺は溶けゆく力に新たな魔法を組み込む。
「ミカ、連弾!」
霧散しようとしていた氷の魔法たちは炎に生まれ変わり、クラプフェンへと襲いかかった。
黄金の魔力の籠る火球の一つ一つがただの火球と違い、重く威力のあるもの。
「クッ!」
クラプフェンはそれら全てを剣で叩き落す。
「心は水面に! 次元よ、断裂せよ!」
そこへ追い打ち。
彼の身ごと空間を切り裂く。
火球に剣を振るっていたクラプフェン。
このタイミングなら断裂から逃れることはできないはず!
だが、クラプフェンはエーヴィヒカイトに魔力を籠める。
そして、断裂した空間ごと切り裂く衝撃波を放った。
「うそっ!?」
辛うじて、それを躱す。
衝撃波は後方で地面にぶつかり、轟音と土煙を上げた。
「あっぶな。あんなの当たったら真っ二つどころじゃないぞっ」
「あれも避けられるとは、なかなか良い目をお持ちです」
「まぁね!」
「ふふ、さらにあの魔法。氷の魔法がマフープへと戻る瞬間に、魔力を重ね、新たな魔法を生み出すとは……恐ろしいまでの制御力」
「空間の使い手は制御力あってこそだからな。ま、魔法を別の魔法に変化させるのは、バスクの魔法がヒントになったんだけどね」
王都からの逃走劇の際、バスクはただの魔法弾に結界の魔法を潜ませていた。
つまり、魔力を巧みに扱うことができれば、そういったことも可能ということ。
それをヒントに、先ほどの魔法を生み出した。
しかし、それだけでは魔法の隠し種は見破られてしまう。
そこでリーベンの城壁の上で俺は考えた。
魔法が霧散し魔力となり、さらにマフープと戻る瞬間に新たな魔法を描いてみようと。
このヒントとなったのは、エクレル先生がトーラスイディオムのマフープを使い、自身の魔力を回復させていたこと。
他者の波長の影が残るマフープと同調できれば、自分の魔力として還元できる。
今回使用した魔力は俺の力。
わざわざ波長を合わせるまでもない。
先生が行ったことよりも断然楽だ。
ただ、俺は先生と違い、自身のマフープを魔力として還元せず、新たな魔法を生み出すきっかけとして使った。
俺の経験と知恵が集約された魔法。
これでクラプフェンは倒せなかったが、少なくとも脅威とは見てもらえたようだ。
その証拠として、クラプフェンは剣に研ぎ澄ます気配を纏う。
彼は構えを解き、剣をだらりと下げた。
それは隙だらけの姿のはず。
しかし、俺とウードの四つの目をもってしても、その隙が存在しない。
確実にレベルの違う相手。
彼は感心したような言葉を漏らす。
「なかなかの腕前。たしかに、時間稼ぎを念頭とした戦いならば、私相手でも多少の時は稼げるでしょう」
「ん?」
「あなたの狙いは、私を足止めしている間に仲間がバスク及びノアゼットを破り、合流することですね?」
そう言って、彼はアプフェルたちを目にした。
「バスクは苦戦をしているようですね。あちらの二人もまた見事なまでの腕前。彼女たちがバスクを打ち破れば、三対一となりますか」
次に、セムラさんたちへ瞳を向ける。
「ですが、あちらはノアゼットが有利のように見えます。果たして、彼らに持ちこたえられますか……」
彼の言うとおり、セムラさんたちは善戦しているものの、かなり押されているように見えた。
もし、ノアゼットが勝利したら、こちらに勝ち目が無くなる。
クラプフェンは笑いを一つ零して、戦場に目を向ける。
「フフ、もしくはブラン軍が先に勝利を収めること。軍として敗れれば、私たちの戦いなど無意味。あなたたちの勝利。だが、その逆であれば……」
言葉の終わりを静かに締めて、彼は戦場を大きく覗き見る……。
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