マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第二十四章 秘める心と広がる思い

民の演説

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 広がる光景は、人の海。
 様々な種族が交差する海は黒山の人だかりという表現では表せない。 
 それは太陽の輝きで変化を繰り返す、七彩しちさいの海。

 一歩、足を踏み出す。
 すると、怒号のような響きが会場を貫く。
 その衝撃は一瞬、身体をビクりと跳ねさせた。
 ここまで多くの人が演説をしてきたけど、これほどの盛り上がりはなかった。

 どうやら俺は、想像以上に人気があるらしい。
 緊張がゆっくりと身体を束縛していく。
 そこに聞き覚えのある声が響く。


「ヤツハさ~ん、愛してる~!」
「俺と結婚してくれ~!」
「ヤツハさんとイチャイチャした~い!」

 俺はガクッとこけそうになったがなんとか歯を食い縛り耐える。
(今の声、スプリたちだなっ。あの三馬鹿トリオめ! どさくさに紛れて何言ってんだっ!?)

 睨みつけるように会場を見回すが、三馬鹿の姿がどこにあるのかわからない。
 代わりに瞳に映ったのは……大勢の人の顔。

 みんなは俺の名を呼び、笑顔を浮かべ、手を振っている。
 緊張はいまだある……だけど、みんながくれた声援が瞳から飛び込み、身体の束縛を溶かしていく。

(みんなは俺の声を待ってくれているんだ……なら、俺の思いをちゃんと伝えないとな)

 その思いに、ありきたりな敬語で着飾った言葉なんて不要。
 俺はみんなの気持ちに応え、自分の心にある思いしっかりと伝えるために、ゆっくり言葉を産んだ。

「初めまして、私は……いや、俺はヤツハと言います」

 俺は名前を口にしただけ。
 なのに、民衆の声は暴力じみた叫び声となり、鼓膜を震わせる。
 一瞬、心が浮つく。
 だけど、俺はしっかりと彼らを目に焼きつけ、言葉を編む。


「さて、何を話そうかな? そうだなぁ、初めて俺がブラン様……いや、ティラと出会った時の話をしようか」

 兵士や民衆は皆、一斉に静まり返る。
 突然、何を言っているんだという空気が針のように突き刺さる。

 後ろからはガタっと音が響いた。
 おそらく、ポヴィドル子爵だ。

 でも、俺は全てを無視して、俺が伝えたい思いをみんなに届ける。
「初めてティラと出会ったのはお城だったんだよ。それもお城に続く隠し通路を通ってね。もう、バレたら打ち首もの。それでさ、そのあとがまたひどいんだわっ」

 ティラを姫と知らず、無礼を働き、城から連れ出す。
 護衛もつけず、王都を案内し、アレッテさんに見つかって、大変なことに。

 
「でさ、この話ここで終わらないわけ。ティラのやつ、アレッテさんに我儘を通して、俺の泊まってた宿に遊びに来るんだよ!」

 俺はその時のことを思い出し、時折、笑顔を浮かべる。
 みんなはただ、静かに俺の話に耳を傾けている。

「みんなはさ、もちろん英雄祭のことは知ってるよな? そのお祭りをティラと一緒に回ってね、すっごい面白かった」

 その後、マヨマヨの襲撃が起きる。
 だけど俺は、そのことについて触れず、楽しい思い出だけを語る。


「ティラってさ、食いしん坊で、我儘で……でも、優しくてかわいい女の子なんだよ。そ、普通の女の子。ここに居るみんなと何ら変わらないんだ……だけど……」



 俺は両手の拳を握り締める。
 これから話す言葉に楽しい思い出はない。

「お母さんを殺される。身内であるブラウニーに……ティラもまた、命を奪われかけた。さらには、ジョウハクの誉れである六龍に命を狙われる。普通の女の子がだぞっ、あの六龍に!」

 心の中では怒りと悲しみがのたうち回り、俺の感情を搔き乱す。
 俺は拳で自分の太ももを打ちつけながら語る。

「みんなにも怖い人がいるだろう。それは族長だったり、強い隊長だったり、先生だったり、両親だったり。でもなっ、ティラはあの六龍から命を狙われた! 想像してみてくれ! 友達と遊んだり、お祭りを楽しんでいた幼い少女が、ある日突然、そんな連中から襲われる恐ろしさをっ!!」

 髪を振り乱し、一歩前に足を踏み出す。

「そりゃあ、ティラは王の娘だ。王族だ。みんなより良い生活をしてるし、明日の食事の心配なんてしたこともないだろうよ。でもっ、別れる辛さはみんなと同じ! そこに王も庶民もない。こんなことが許されるのかっ? こんな理不尽が!?」

 俺は王都を睨みつけて、声を荒げる。

「俺は許せない。幼い少女を苦しめる六龍が! ブラウニーが! 最大の味方である身内が裏切り、こともあろうに命を奪おうとする! その醜い姿が! そしてっ!!」

 ありったけの大声でみんなに想いを渡す。

「俺の大切な友を傷つけたことを! 俺は絶対に許せねぇ!! だから、戦う! ここに居る! ティラの隣にいる! この想いは俺の我儘だ。でも、みんなにお願いしたいっ!!」

 
――俺の友達のために力を貸してください!!――


 俺は頭を下げて、訴えた。
 下げながら、さらに訴える。

「これが如何に馬鹿げた願いであることはわかっている! 俺の個人的な理由で戦場に行ってくれ? 命を賭してくれ? ふざけるなと言われても仕方がない。でも、これは俺の本当の気持ち。玉座の争い? 正当な王? ジョウハクの未来? 俺はそんなものになんかまったく興味がねぇ!! 俺が守りたいのは、俺が守りたいのはっ」


――大切な日常だけなんだ!!――


「朝起きて、大切な人に挨拶して、ご飯を食べて、面倒だけど仕事に行って、疲れた体を笑顔で迎えてくれる人を大切にしたいっ! 休みの日に友達と遊んで、笑っていたい。そんな当たり前の日常を取り戻したいんだ! だから、皆さんっ、力を貸してください!!」

 
 自分の思いを全て出し切り、俺は大きく呼吸を乱して、息を切らす。
 会場は静まり返り、寒風の舞う音だけが染み渡る……。

 長い沈黙…………そこにパチリと音が響く。
 その音はまばらに広がり、徐々に重なり大きな音となっていく。
 そして、大歓声とともに、拍手が会場を飲み込んだ!


「ヤツハ様~! 俺はやってやんよっ」
「戦争なんてくそくらえだけどよ、大切なもんを護るためだもんなっ!」
「自分の姉ちゃんや姪っ子を手に掛けるような、ブラウニーが王だなんて、こっちから願い下げだぜ!」

「私たちも大切な日常を護るため頑張るよっ!」
「みんなが笑顔でいられる時がずっと続く、そのためにっ!」
「打倒ブラウニー! あんな奴さっさと追い出して、盛大にお祝いの祭りをやろうねっ」


 会場と町のあちこちから歓声が響く。
 激しく震える空気。
 肌に伝わる、ビリビリとした感触。

 そこには緊張も恐れもなく、ただただ心地良い。

 俺は最後にゆっくりと頭を下げて、とても軽い足取りで後ろを振り返る。
 
 そして…………速攻で目を下に逸らしました。
 ポヴィドル子爵が額に無数の血管を浮かばせて、地獄の獄卒も裸足で逃げ出す、真っ赤な形相していましたので……。
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