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第二十三章 決戦前夜
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――会議室
ウードが話したブラウニー軍の行動予測と、その対応方法を論じ、それらが終えて会議室からは人の姿が無くなっていた。
俺とティラ以外を残して……。
ティラは大きな窓から見える運動場を見つめながら、俺に問いかける。
「先ほど、背中に書いた、『うそ』とはなんだ、ヤツハ?」
俺はティラが座っていた椅子に腰を掛けて、顔だけを彼女に向ける。
「別にサシオンの命でティラを助けたわけじゃないってことだよ」
「それだけか?」
ティラはこちらへ振り返り鋭い眼光を見せて、俺の瞳を見つめ、さらには心までも見つめる。
その光に観念して、話せる範囲で俺という存在について話すことにした。
「俺は、マヨマヨと同じ異世界の人間なんだ」
「……そうか」
「あれ、あんまり驚かないね。もしかして気づいてた?」
「いや。だが、異世界人と言われれば、そうだと感じさせる雰囲気はあったからな。それにいくらサシオンと親しかろうとも、一介の民として、アクタの秘匿とされている事情について詳しすぎるのもある」
「そう……」
「おそらく、サシオンもそうなのだろう?」
「うん。ついでに言うと、サシオンは女神コトア直属の騎士様」
「なっ!? そ、それは驚くな」
「そうだろうね。このことを知っているのはジョウハク内ではクラプフェンだけっぽいし」
「母様やブラウニーにも黙っておったのか?」
「なんかいろいろ事情があるらしい。そんなサシオンが処刑という形でアクタから退場したのは、たぶん女神様の命令。詳しい理由はわからないけど」
「ふぅ~、私の知らぬところで様々な事柄が動いているようだ……フッ、本当に私は色々と知らなんだ」
再び、視線を窓へ向ける。
窓からはゼリカ公爵家に通う生徒たちの声が響いてくる。
ティラは視線を一度下に向け、そこからずっと遠くを見つめて語る。
「王としての教育を受けておらぬ私は、アクタの現状を詳しく把握していなかった。リーベンに訪れて、ゼリカ公爵から伝え聞くまでは……」
「公爵は知っているんだ?」
「公爵だけではない。一部の貴族や各種族の長たちは知っておった。王を名乗ろうとしている者が一番ものを知らぬとは、とんだ笑い種だ」
「そ、それは仕方ないことじゃ……」
「そうだな。だが、これからは仕方ないで済まされぬ」
ティラは、俺の目からも窓の外で運動に精を出す生徒たちの姿が見えるように、身体を横にしながらこちらへ視線を投げた。
「私は皆の命を背負っておる。知らないでは済まされぬのだ」
「そう……王様ってのも大変だね」
「どんな理不尽を前にしても、言い訳を口にするわけにはいかぬからな。そう言えば、お主のことはアプフェルたちは知っておるのか?」
「フォレ以外は知らない。みんなには話そう話そうとは思っているけど、なかなかね」
「早く話してやるといい。友に全てを話す必要は無かろうが、やはり隠し事は悲しいからな」
「そうだね。今はマヨマヨ不信があるから……この戦争に決着が付いたら、必ずっ」
「そうか。ならば、勝たねばならぬな。友に真実を告げるために」
「そうだな……あっ、おう~、めんどいことが残ってたぁ」
俺は円卓に顔を伏せて、頭を抱える。
めんどいこと――中身が男であること。
ここまで来ようと、どうしようもなく言い難いこと。
(ま、ティラも友に全てを話す必要はないと言っているし、最悪、墓まで持っていこうっと。ウードからの乗っ取りを避けることができたらだけど)
俺は頭を振って、ティラに顔を向ける。
彼女は心配そうにこちらを見ている。
「何か、不安事でもあるのか?」
「いや、大したことはないよ。さてと、王都奪還のために、少しでも腕を上げるとしようかなぁ」
「ふふ、奪還か。言い得て妙だな。ブラウニーから都を取り戻す。取り戻した暁には……」
「なに? 俺にたんまり謝礼でもくれんの?」
「うん? 相も変わらずだな、お主は。ふふ、地位も褒美も好きなだけくれてやる。だが、私が考えたことは別のことだ」
「それは?」
「ピケのことだ? 無事なんだろう?」
「たぶんね。最後に別れたのは『メプル』だし。トルテさんと一緒だから、おかしなことにはなってないと思う。それに、もしかしたら途中でエクレル先生やクレマと合流してるかもしれないし」
「魔導の天才エクレル=スキーヴァーにコナサの森の長クレマか。大した顔ぶれだ。たしかにこの者たちと一緒ならば、大事はないだろうな。だが……」
ティラは顔に影を差して、下唇を噛む。
その様子が心配になり声を掛ける。
「なに、どうしたの?」
「エクレル=スキーヴァー……のちに知ったが、ヤツハの師だそうだな」
「うん」
「そうか、あのような王都の魔物が師とは難儀な……そのような存在と共にあるピケが心配だ」
ティラはこっそり城から抜け出して遊んでいた時、王都の魔物ことエクレル先生に襲われた。
そのことを思い出したようで、彼女は頬を何度も拭っている。
「ティラは先生のことを?」
「知っている。式典では礼儀を知る凛とした女性であったため、あの魔物と結び付けるのに時間がかかったが……それで、その魔物とピケが一緒なのだろう? 襲われておらぬのか?」
「その辺は大丈夫。先生はピケのお母さんのトルテさんに頭が上がらないらしいから」
「ならばよいが」
よいと言いつつ、襲われたときの心証がよっぽどだったのか、視線を王都の方角へ泳がせている。
(まぁ、突然抱きしめられて頬ずりされたらそうなるか)
俺もティラに釣られ、王都の方角へ視線を向ける。
(トルテさんたちはどうなってるんだろう? それに王都に残っている宿のみんなや東地区の人たちも……)
「大丈夫かな……」
言葉が零れる。
それに反応して、ティラが尋ねてきた。
「どうした?」
「あ、いや、トルテさんやピケもそうだけど、王都に残っている宿の人たちや脱出に手を貸してくれた東地区の人たちが気になってね」
「そう言えば、まだ伝えておらんかったな」
「なに?」
「彼らに何ら咎めはなかったそうだ」
「え、どこ情報? てか、なんで?」
「オランジェット兄様とレーチェ姉様から秘密裡に使いが来た。お二人とフィナンシェ家の長男ザイツが、何とか収めてくれたようだ。戦争前に王都内で事を荒立てぬようにとな」
「そうなんだ」
「残念なことに届いた情報は表面的なものばかりでな、ブラウニーの動向はお二人にもわからぬそうだ」
「遠ざけてるってわけか。親子なのに……」
俺は小さくため息をついて、王族という存在の悲しさを思って首を横に振る。
そうして悲しさを振り払い、代わりに感謝の念を込めて言葉を出した。
「ありがとうございます。オランジェット様、レーチェ様、そしてパティのお兄さん」
ティラはこの感謝の言葉に、寂しげながらも笑顔を見せる。
「ふふ、ヤツハの優しさにお二人の心は救われたであろうな」
「そうかな?」
「そうだとも……ヤツハよ、煩い事が多く、中々このことを伝える機会が無くて、すまなかった」
「いや、ありがとう。伝えてくれて」
「そう言ってくれるか……さて、話もここまでにしておこう」
ティラは話を閉じようとする。
だけどまだ、肝心なことを聞いていない。
「ちょい待ち! 結局、取り戻した暁にはピケと何をするつもりなんだ?」
「何をするというわけでない。ただ、自らの口で正体を明かし、謝っておかねばな、と」
「ああ、そのことか」
ティラは身分を隠して、ピケと友達となった。
このことはピケも気づいているだろうけど、やはり黙っていることがティラの心の重石になっているようだ。
それは俺も同じ……仲間に、友に、秘密を隠しているというのは、どこか騙しているような気がして、後ろめたさを感じてしまう。
だけど、そんな後ろめたさを共有してもますます落ち込んでしまうだけ……。
だから俺は軽い笑いを漏らしながら席を立ち、ティラの肩をぽんと叩く。
「ははは、そん時は俺も一緒に謝るよ。俺もピケに自分のこと話してないわけだしな」
「ピケは怒るであろうな」
「どうだろ? ピケのことだよ、たぶん怒らないと思う」
「ふふ、そうだな……ピケはこんなことで怒ったりはせぬ」
「うん、態度だって変わらないさ。たとえ、ティラが女王であってもね」
「そうだといいが……」
友達とはいえ、宿屋の娘と女王では身分が違い過ぎる。
ティラにはその違いで関係が変わってしまう不安があるみたいだ。
だから、俺はその不安を吹き飛ばすように大きめの声を上げて答えることにした。
「な~に、心配すんな。何にも変わんないって。その証拠だってある」
「証拠だと?」
「俺が変わってない!」
親指で自分を指し、ニカっと笑う。
すると、ティラは愉快そうに声を上げた。
「あははは、そうであったな。何にも変わらん奴が目の前におった……ありがとう、ヤツハ。心を覆っておった霧が晴れた思いだ」
そう言って、ティラは懐から髪飾りを取り出す。
「我ら三人を結び付ける、ガガンガの髪飾り。もちろん、ヤツハも持っておるな?」
「うん」
俺もポケットから髪飾りを取り出す。
「ほら、ちゃんと持ってるさ。忘れるようなことはしない」
「そうだな。だが……ふふ、なかなかこれをつける機会がない」
ティラは寂しそうに微笑む。
立場上、安くてやたら可愛らしい髪飾りをつけられないようだ。
俺たちを包む空気がしんみりとしたものへと変わっていく。
だからこそ、俺は声に希望を籠める。
「よっしゃ、さっさと面倒事は終わらせて、いつでもこの髪飾りが着けられるような場所を持とうな!」
この声に、ティラもまた希望を声に籠める。
「ふふ、そうだな。王都へ戻ったら、また城を抜け出して、こっそりピケに会いに行こう。この髪飾りをつけてな!」
「いいのかよ、女王様?」
「ふふ、ちょっとくらい構わぬだろ。さて、そのためにそろそろ行くとしよう。この後も、仕事がびっしりとつまっておるからな」
「マジか~、身体を壊さないようにね。まだ、ガキなんだから」
「ガキって……ほんっと、口が悪い。ヤツハは少しくらい変わった方が良いかもな」
「じゃあ、言い直すよ。ブラン女王陛下、御身体をご自愛下さい。貴方様はジョウハクに輝く唯一無二の太陽なのですから」
俺は床に片膝をついて、恭しく頭を垂れる
それを見て、ティラは顔を真っ青にする。
「やめぇ、気色の悪いっ! ヤツハがそんな真似をすると空が驚き槍が降るぞ」
「無茶苦茶言うな、お前はっ」
「ふふ、その調子の方がヤツハらしい。さすがに人前では自重してほしいが」
「わかってるよ、それくらい。じゃ、訓練に行きますか」
「うむ、私も行こう」
俺たちは会議室の扉の前で別れ、自分がやるべきことのために前へ進んでいった。
ウードが話したブラウニー軍の行動予測と、その対応方法を論じ、それらが終えて会議室からは人の姿が無くなっていた。
俺とティラ以外を残して……。
ティラは大きな窓から見える運動場を見つめながら、俺に問いかける。
「先ほど、背中に書いた、『うそ』とはなんだ、ヤツハ?」
俺はティラが座っていた椅子に腰を掛けて、顔だけを彼女に向ける。
「別にサシオンの命でティラを助けたわけじゃないってことだよ」
「それだけか?」
ティラはこちらへ振り返り鋭い眼光を見せて、俺の瞳を見つめ、さらには心までも見つめる。
その光に観念して、話せる範囲で俺という存在について話すことにした。
「俺は、マヨマヨと同じ異世界の人間なんだ」
「……そうか」
「あれ、あんまり驚かないね。もしかして気づいてた?」
「いや。だが、異世界人と言われれば、そうだと感じさせる雰囲気はあったからな。それにいくらサシオンと親しかろうとも、一介の民として、アクタの秘匿とされている事情について詳しすぎるのもある」
「そう……」
「おそらく、サシオンもそうなのだろう?」
「うん。ついでに言うと、サシオンは女神コトア直属の騎士様」
「なっ!? そ、それは驚くな」
「そうだろうね。このことを知っているのはジョウハク内ではクラプフェンだけっぽいし」
「母様やブラウニーにも黙っておったのか?」
「なんかいろいろ事情があるらしい。そんなサシオンが処刑という形でアクタから退場したのは、たぶん女神様の命令。詳しい理由はわからないけど」
「ふぅ~、私の知らぬところで様々な事柄が動いているようだ……フッ、本当に私は色々と知らなんだ」
再び、視線を窓へ向ける。
窓からはゼリカ公爵家に通う生徒たちの声が響いてくる。
ティラは視線を一度下に向け、そこからずっと遠くを見つめて語る。
「王としての教育を受けておらぬ私は、アクタの現状を詳しく把握していなかった。リーベンに訪れて、ゼリカ公爵から伝え聞くまでは……」
「公爵は知っているんだ?」
「公爵だけではない。一部の貴族や各種族の長たちは知っておった。王を名乗ろうとしている者が一番ものを知らぬとは、とんだ笑い種だ」
「そ、それは仕方ないことじゃ……」
「そうだな。だが、これからは仕方ないで済まされぬ」
ティラは、俺の目からも窓の外で運動に精を出す生徒たちの姿が見えるように、身体を横にしながらこちらへ視線を投げた。
「私は皆の命を背負っておる。知らないでは済まされぬのだ」
「そう……王様ってのも大変だね」
「どんな理不尽を前にしても、言い訳を口にするわけにはいかぬからな。そう言えば、お主のことはアプフェルたちは知っておるのか?」
「フォレ以外は知らない。みんなには話そう話そうとは思っているけど、なかなかね」
「早く話してやるといい。友に全てを話す必要は無かろうが、やはり隠し事は悲しいからな」
「そうだね。今はマヨマヨ不信があるから……この戦争に決着が付いたら、必ずっ」
「そうか。ならば、勝たねばならぬな。友に真実を告げるために」
「そうだな……あっ、おう~、めんどいことが残ってたぁ」
俺は円卓に顔を伏せて、頭を抱える。
めんどいこと――中身が男であること。
ここまで来ようと、どうしようもなく言い難いこと。
(ま、ティラも友に全てを話す必要はないと言っているし、最悪、墓まで持っていこうっと。ウードからの乗っ取りを避けることができたらだけど)
俺は頭を振って、ティラに顔を向ける。
彼女は心配そうにこちらを見ている。
「何か、不安事でもあるのか?」
「いや、大したことはないよ。さてと、王都奪還のために、少しでも腕を上げるとしようかなぁ」
「ふふ、奪還か。言い得て妙だな。ブラウニーから都を取り戻す。取り戻した暁には……」
「なに? 俺にたんまり謝礼でもくれんの?」
「うん? 相も変わらずだな、お主は。ふふ、地位も褒美も好きなだけくれてやる。だが、私が考えたことは別のことだ」
「それは?」
「ピケのことだ? 無事なんだろう?」
「たぶんね。最後に別れたのは『メプル』だし。トルテさんと一緒だから、おかしなことにはなってないと思う。それに、もしかしたら途中でエクレル先生やクレマと合流してるかもしれないし」
「魔導の天才エクレル=スキーヴァーにコナサの森の長クレマか。大した顔ぶれだ。たしかにこの者たちと一緒ならば、大事はないだろうな。だが……」
ティラは顔に影を差して、下唇を噛む。
その様子が心配になり声を掛ける。
「なに、どうしたの?」
「エクレル=スキーヴァー……のちに知ったが、ヤツハの師だそうだな」
「うん」
「そうか、あのような王都の魔物が師とは難儀な……そのような存在と共にあるピケが心配だ」
ティラはこっそり城から抜け出して遊んでいた時、王都の魔物ことエクレル先生に襲われた。
そのことを思い出したようで、彼女は頬を何度も拭っている。
「ティラは先生のことを?」
「知っている。式典では礼儀を知る凛とした女性であったため、あの魔物と結び付けるのに時間がかかったが……それで、その魔物とピケが一緒なのだろう? 襲われておらぬのか?」
「その辺は大丈夫。先生はピケのお母さんのトルテさんに頭が上がらないらしいから」
「ならばよいが」
よいと言いつつ、襲われたときの心証がよっぽどだったのか、視線を王都の方角へ泳がせている。
(まぁ、突然抱きしめられて頬ずりされたらそうなるか)
俺もティラに釣られ、王都の方角へ視線を向ける。
(トルテさんたちはどうなってるんだろう? それに王都に残っている宿のみんなや東地区の人たちも……)
「大丈夫かな……」
言葉が零れる。
それに反応して、ティラが尋ねてきた。
「どうした?」
「あ、いや、トルテさんやピケもそうだけど、王都に残っている宿の人たちや脱出に手を貸してくれた東地区の人たちが気になってね」
「そう言えば、まだ伝えておらんかったな」
「なに?」
「彼らに何ら咎めはなかったそうだ」
「え、どこ情報? てか、なんで?」
「オランジェット兄様とレーチェ姉様から秘密裡に使いが来た。お二人とフィナンシェ家の長男ザイツが、何とか収めてくれたようだ。戦争前に王都内で事を荒立てぬようにとな」
「そうなんだ」
「残念なことに届いた情報は表面的なものばかりでな、ブラウニーの動向はお二人にもわからぬそうだ」
「遠ざけてるってわけか。親子なのに……」
俺は小さくため息をついて、王族という存在の悲しさを思って首を横に振る。
そうして悲しさを振り払い、代わりに感謝の念を込めて言葉を出した。
「ありがとうございます。オランジェット様、レーチェ様、そしてパティのお兄さん」
ティラはこの感謝の言葉に、寂しげながらも笑顔を見せる。
「ふふ、ヤツハの優しさにお二人の心は救われたであろうな」
「そうかな?」
「そうだとも……ヤツハよ、煩い事が多く、中々このことを伝える機会が無くて、すまなかった」
「いや、ありがとう。伝えてくれて」
「そう言ってくれるか……さて、話もここまでにしておこう」
ティラは話を閉じようとする。
だけどまだ、肝心なことを聞いていない。
「ちょい待ち! 結局、取り戻した暁にはピケと何をするつもりなんだ?」
「何をするというわけでない。ただ、自らの口で正体を明かし、謝っておかねばな、と」
「ああ、そのことか」
ティラは身分を隠して、ピケと友達となった。
このことはピケも気づいているだろうけど、やはり黙っていることがティラの心の重石になっているようだ。
それは俺も同じ……仲間に、友に、秘密を隠しているというのは、どこか騙しているような気がして、後ろめたさを感じてしまう。
だけど、そんな後ろめたさを共有してもますます落ち込んでしまうだけ……。
だから俺は軽い笑いを漏らしながら席を立ち、ティラの肩をぽんと叩く。
「ははは、そん時は俺も一緒に謝るよ。俺もピケに自分のこと話してないわけだしな」
「ピケは怒るであろうな」
「どうだろ? ピケのことだよ、たぶん怒らないと思う」
「ふふ、そうだな……ピケはこんなことで怒ったりはせぬ」
「うん、態度だって変わらないさ。たとえ、ティラが女王であってもね」
「そうだといいが……」
友達とはいえ、宿屋の娘と女王では身分が違い過ぎる。
ティラにはその違いで関係が変わってしまう不安があるみたいだ。
だから、俺はその不安を吹き飛ばすように大きめの声を上げて答えることにした。
「な~に、心配すんな。何にも変わんないって。その証拠だってある」
「証拠だと?」
「俺が変わってない!」
親指で自分を指し、ニカっと笑う。
すると、ティラは愉快そうに声を上げた。
「あははは、そうであったな。何にも変わらん奴が目の前におった……ありがとう、ヤツハ。心を覆っておった霧が晴れた思いだ」
そう言って、ティラは懐から髪飾りを取り出す。
「我ら三人を結び付ける、ガガンガの髪飾り。もちろん、ヤツハも持っておるな?」
「うん」
俺もポケットから髪飾りを取り出す。
「ほら、ちゃんと持ってるさ。忘れるようなことはしない」
「そうだな。だが……ふふ、なかなかこれをつける機会がない」
ティラは寂しそうに微笑む。
立場上、安くてやたら可愛らしい髪飾りをつけられないようだ。
俺たちを包む空気がしんみりとしたものへと変わっていく。
だからこそ、俺は声に希望を籠める。
「よっしゃ、さっさと面倒事は終わらせて、いつでもこの髪飾りが着けられるような場所を持とうな!」
この声に、ティラもまた希望を声に籠める。
「ふふ、そうだな。王都へ戻ったら、また城を抜け出して、こっそりピケに会いに行こう。この髪飾りをつけてな!」
「いいのかよ、女王様?」
「ふふ、ちょっとくらい構わぬだろ。さて、そのためにそろそろ行くとしよう。この後も、仕事がびっしりとつまっておるからな」
「マジか~、身体を壊さないようにね。まだ、ガキなんだから」
「ガキって……ほんっと、口が悪い。ヤツハは少しくらい変わった方が良いかもな」
「じゃあ、言い直すよ。ブラン女王陛下、御身体をご自愛下さい。貴方様はジョウハクに輝く唯一無二の太陽なのですから」
俺は床に片膝をついて、恭しく頭を垂れる
それを見て、ティラは顔を真っ青にする。
「やめぇ、気色の悪いっ! ヤツハがそんな真似をすると空が驚き槍が降るぞ」
「無茶苦茶言うな、お前はっ」
「ふふ、その調子の方がヤツハらしい。さすがに人前では自重してほしいが」
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