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第二十二章 歩む先は深い霧に包まれる
下品な贈り物
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俺は人気のない見晴らしの良い場所を求め、屋敷から町に向かい、表通りを歩いて王都サンオンがある方向の城壁を目指す。
その道中、町の人たちが遠巻きで俺をじろじろと見てくる。
俺は人々が集まっている場所に軽く手を上げて、「どもっ」という感じで挨拶をした。
すると、黄色い声や野太い声が町に広がる。
自分で言うのもなんだが、俺は妙に人気があるらしい。
それは、黒騎士を退けシュラク村を救い、プラリネ女王の忘れ形見であるティラを救ったから……。
俺としては成り行きだったり、友達を救うために必死なだけだったんだけど……冷静に考えると、結構すごいことしているような気もしないでもない。
さらに何の肩書もない庶民の娘というところが、人気を高める大きな要因になっているみたいだ。
つまり、みんなと同じ庶民、同じ立場でありながら、大きな活躍をしているというところが人気の理由らしい。
みんなは俺の名を呼んでいる。
それに手を振り応えながら、思う。
(民衆に人気のある少女……オチがジャンヌダルクだったら嫌だなぁ。火炙りとか絶対嫌だぞ。焼死は一番苦しい死に方って聞いたことあるし)
そう考えると、身体がぶるりと震えた。
町のみんなには悪いけど、俺はここから逃げ出すように少しだけ急ぎ足で城壁へ向かうことにした。
なるべく人目を避け、城壁へ到着。
城壁の内堀には水が満たされているが、一部は城壁へと上がる階段が整備されていて、そこから城壁の上に行くことができる。
階段そばに近づくと、見知った顔が見えた。
「よ、スプリ、フォール、ウィター」
名前を呼ぶと、三人は同時に返事をしてきた。
彼らはサシオンから休暇を貰い、共にリーベンからさらに東にある温泉地に向かったらしい。
その後、フォールとウィターはサシオンの無実を信じ、ティラへ加勢するためにリーベンに戻ってきた。
スプリだけはリーベンに着く前に暗殺騒動が起こり、ここで滞在することにしたそうだ。
因みに、俺たちが亜空間転送魔法でヒョウトウの林にいた頃、スプリは家族と一緒に、その林よりも後方にいたんだと。
一歩間違えば、俺たちと六龍の戦いに巻き込まれた可能性もあったというわけだ。
彼らに加え、近衛騎士団の仲間たちもまた、加勢に来てくれた。
東地区、近衛騎士団『アステル』に所属していた団員のほとんどが、これから起こる戦争に参加するためにリーベンへ集まったのだ……。
俺は彼ら三人を見つめながら、軽くため息をつく。
「はぁ、別に無理に参加しなくてもいいんだぞ」
「いえ、僕たちはサシオン様に大恩ある身。参加しない選択はありません」
「そ、そうです。俺たちが逃げだしたら、近衛騎士団の忠誠心が疑われます」
「自分たちはサシオン様の無実を信じ、それを身をもって証明するために参りました!」
そう、彼らは力強く答える。
その姿はとても頼もしいが……少しだけ意地悪な問いをぶつける。
「サシオンはおそらくこうなることを予測していた。だからこそ、お前たちを王都から離したんだぞ。団員とその家族を守るために。なのに、『戦争』に参加するのか?」
彼らは、サシオンの思いと戦争という言葉に身を凍りつかせる。
だけど、スプリ、フォール、ウィターは心の熱で口元を溶かす。
「サシオン様の思いは承知しております。だけど僕は、僕自身の道を自分で決めます!」
「戦争は恐ろしいです。でも、ここで逃げだせば、俺は自分を許せなくなる!」
「後悔を身に抱いて送る人生なんて意味がありません。だから、自分はここへ来ました!」
三人は熱き言葉を迸る。
でも……彼らは一様に震えている。
それは当然だ。戦争が始まれば、生きて帰れる保証はない!
だからといって、彼らの熱に水を被せようと冷めることはない。
決して消えぬ炎を心に宿した三人。
おそらく、ここにはいない団員達も彼らと同じ炎を心に宿しているのだろう。
俺は説得を諦めて、別の言葉をかける。
それは俺からの、ちょっと下品な贈り物。
「三人って、年いくつだっけ?」
「えっと、僕が二十でフォールとウィターが十九です」
「女は知ってるの?」
「えっ!?」
三人は目をきょろきょろと動かし、挙動不審な態度を見せる。
「知らないんだ?」
「それは、まぁ……」
「やっぱりな。なら」
俺は懐に手を入れる。
すると、三人は何を勘違いしたのか同時に身を乗り出してきた。
「「「ま、まさか、ヤツハさんがっ!?」」」
「はっ!? 調子に乗んなっ!!」
三人の額をぺちぺち叩いていく。
「そうじゃねぇよ。ほれっ」
俺は財布をスプリに投げた。
「これは?」
「戦争間際の町……そういった場所にはそういった商売をする女が集まるだろ。楽しんでこい。中身は結構入ってるから、他の団員の分も賄えるはずだ」
「え、え、え、でもっ」
三人は財布と俺を交互に見ながら、それ以上何も言えずにいる。
俺はなるべく柔らかい口調で話をこう続ける。
「まぁ、女からこういうことされると反応に困るだろうけどさ。俺は別に気にしないから。だから、な」
「だ、だからといって……」
「戦争……下手をすれば、俺も含め、お前らも死ぬことになるかもしれない。そん時になって、女を知らずに死ぬなんて嫌だろ。だから、行っとけ。これはサシオンを信じ、義に応えた俺からの褒美だ」
俺はしっかりと三人を瞳に入れる。
「ブラン様に力を貸してくれて、ありがとう。とても嬉しい。それを礼として形にしたいんだ。下品だけど、そう悪くもない贈り物だろっ」
彼らの肩をポンっと叩き、さっさと横切る。
これ以上の問答を避けるために。
背後にいる三人が顔を赤らめながらも、気持ちを受け入れたことは振り向かずともわかる。
俺はそこから足早に立ち去り、城壁の上に向かうため階段を目指す。
その途中でウードが話しかけてきた。
(妙なことをするのね? なんというか、あなたらしいような、あなたらしくないような、不思議な感じがする)
(だろうな……その件を含め、お前と話がしたい)
城壁へと続く階段の前に立つ兵士に、一人で考え事がしたいと伝え、誰も近づけさせないように頼む。
そうして、階段を上り、城壁の上に立った。
そこからは望むのは、広々とした大平原。
遮蔽物は小さな林くらい。
戦場となるのは林を越えた、やはり平原となるだろう。
俺は周囲の気配を探り、誰もいないことを確認してからウードへ顔を向けた。
その道中、町の人たちが遠巻きで俺をじろじろと見てくる。
俺は人々が集まっている場所に軽く手を上げて、「どもっ」という感じで挨拶をした。
すると、黄色い声や野太い声が町に広がる。
自分で言うのもなんだが、俺は妙に人気があるらしい。
それは、黒騎士を退けシュラク村を救い、プラリネ女王の忘れ形見であるティラを救ったから……。
俺としては成り行きだったり、友達を救うために必死なだけだったんだけど……冷静に考えると、結構すごいことしているような気もしないでもない。
さらに何の肩書もない庶民の娘というところが、人気を高める大きな要因になっているみたいだ。
つまり、みんなと同じ庶民、同じ立場でありながら、大きな活躍をしているというところが人気の理由らしい。
みんなは俺の名を呼んでいる。
それに手を振り応えながら、思う。
(民衆に人気のある少女……オチがジャンヌダルクだったら嫌だなぁ。火炙りとか絶対嫌だぞ。焼死は一番苦しい死に方って聞いたことあるし)
そう考えると、身体がぶるりと震えた。
町のみんなには悪いけど、俺はここから逃げ出すように少しだけ急ぎ足で城壁へ向かうことにした。
なるべく人目を避け、城壁へ到着。
城壁の内堀には水が満たされているが、一部は城壁へと上がる階段が整備されていて、そこから城壁の上に行くことができる。
階段そばに近づくと、見知った顔が見えた。
「よ、スプリ、フォール、ウィター」
名前を呼ぶと、三人は同時に返事をしてきた。
彼らはサシオンから休暇を貰い、共にリーベンからさらに東にある温泉地に向かったらしい。
その後、フォールとウィターはサシオンの無実を信じ、ティラへ加勢するためにリーベンに戻ってきた。
スプリだけはリーベンに着く前に暗殺騒動が起こり、ここで滞在することにしたそうだ。
因みに、俺たちが亜空間転送魔法でヒョウトウの林にいた頃、スプリは家族と一緒に、その林よりも後方にいたんだと。
一歩間違えば、俺たちと六龍の戦いに巻き込まれた可能性もあったというわけだ。
彼らに加え、近衛騎士団の仲間たちもまた、加勢に来てくれた。
東地区、近衛騎士団『アステル』に所属していた団員のほとんどが、これから起こる戦争に参加するためにリーベンへ集まったのだ……。
俺は彼ら三人を見つめながら、軽くため息をつく。
「はぁ、別に無理に参加しなくてもいいんだぞ」
「いえ、僕たちはサシオン様に大恩ある身。参加しない選択はありません」
「そ、そうです。俺たちが逃げだしたら、近衛騎士団の忠誠心が疑われます」
「自分たちはサシオン様の無実を信じ、それを身をもって証明するために参りました!」
そう、彼らは力強く答える。
その姿はとても頼もしいが……少しだけ意地悪な問いをぶつける。
「サシオンはおそらくこうなることを予測していた。だからこそ、お前たちを王都から離したんだぞ。団員とその家族を守るために。なのに、『戦争』に参加するのか?」
彼らは、サシオンの思いと戦争という言葉に身を凍りつかせる。
だけど、スプリ、フォール、ウィターは心の熱で口元を溶かす。
「サシオン様の思いは承知しております。だけど僕は、僕自身の道を自分で決めます!」
「戦争は恐ろしいです。でも、ここで逃げだせば、俺は自分を許せなくなる!」
「後悔を身に抱いて送る人生なんて意味がありません。だから、自分はここへ来ました!」
三人は熱き言葉を迸る。
でも……彼らは一様に震えている。
それは当然だ。戦争が始まれば、生きて帰れる保証はない!
だからといって、彼らの熱に水を被せようと冷めることはない。
決して消えぬ炎を心に宿した三人。
おそらく、ここにはいない団員達も彼らと同じ炎を心に宿しているのだろう。
俺は説得を諦めて、別の言葉をかける。
それは俺からの、ちょっと下品な贈り物。
「三人って、年いくつだっけ?」
「えっと、僕が二十でフォールとウィターが十九です」
「女は知ってるの?」
「えっ!?」
三人は目をきょろきょろと動かし、挙動不審な態度を見せる。
「知らないんだ?」
「それは、まぁ……」
「やっぱりな。なら」
俺は懐に手を入れる。
すると、三人は何を勘違いしたのか同時に身を乗り出してきた。
「「「ま、まさか、ヤツハさんがっ!?」」」
「はっ!? 調子に乗んなっ!!」
三人の額をぺちぺち叩いていく。
「そうじゃねぇよ。ほれっ」
俺は財布をスプリに投げた。
「これは?」
「戦争間際の町……そういった場所にはそういった商売をする女が集まるだろ。楽しんでこい。中身は結構入ってるから、他の団員の分も賄えるはずだ」
「え、え、え、でもっ」
三人は財布と俺を交互に見ながら、それ以上何も言えずにいる。
俺はなるべく柔らかい口調で話をこう続ける。
「まぁ、女からこういうことされると反応に困るだろうけどさ。俺は別に気にしないから。だから、な」
「だ、だからといって……」
「戦争……下手をすれば、俺も含め、お前らも死ぬことになるかもしれない。そん時になって、女を知らずに死ぬなんて嫌だろ。だから、行っとけ。これはサシオンを信じ、義に応えた俺からの褒美だ」
俺はしっかりと三人を瞳に入れる。
「ブラン様に力を貸してくれて、ありがとう。とても嬉しい。それを礼として形にしたいんだ。下品だけど、そう悪くもない贈り物だろっ」
彼らの肩をポンっと叩き、さっさと横切る。
これ以上の問答を避けるために。
背後にいる三人が顔を赤らめながらも、気持ちを受け入れたことは振り向かずともわかる。
俺はそこから足早に立ち去り、城壁の上に向かうため階段を目指す。
その途中でウードが話しかけてきた。
(妙なことをするのね? なんというか、あなたらしいような、あなたらしくないような、不思議な感じがする)
(だろうな……その件を含め、お前と話がしたい)
城壁へと続く階段の前に立つ兵士に、一人で考え事がしたいと伝え、誰も近づけさせないように頼む。
そうして、階段を上り、城壁の上に立った。
そこからは望むのは、広々とした大平原。
遮蔽物は小さな林くらい。
戦場となるのは林を越えた、やはり平原となるだろう。
俺は周囲の気配を探り、誰もいないことを確認してからウードへ顔を向けた。
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