マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

文字の大きさ
179 / 286
第二十章 震天駭地

協力者

しおりを挟む
 俺とティラは転送の流れに乗り、あの隠し通路に移動するはずだった。
 しかし、途中で壁のようなものにぶつかり、二人して地面に転がる。


「がっ? いたっ」
「いたた、なんだ一体? 何が起こった、ヤツハ?」
「何か知らんけど、透明な壁みたいなもんが、ってここは?」

 手に触れるのは土の感触。
 そして、俺たちを囲むように花々が咲いている。
 空は突き抜けるような青に染まり、大地は地平線の彼方へとどこまでも続く。

「ここって……」
「城の隠し庭園だな」
「あ、やっぱり。なんで、こんなところに?」

 転送用に付けた目印は庭園より少し先にある隠し通路。
 俺は立ち上がり、隠し通路がある場所に向かって魔力を籠めた手で探る。
 すると、靄っとした空気の層が手に触れた。
 それは微かに魔力を帯びている。


「ああ、これのせいで転送が阻害されて壁にぶつかったんだ。初めて来たときは感じなかったけど、この空気には魔力が含まれてたんだな」
「ヤツハ」

 不意に、後ろにいるティラに呼ばれた。

「ん、どうした?」
「助けに来てくれて、ありがとう」
「いや、友達だから当然のことだよ。気にすんな」
「フフ、友か……しかしだなっ」

 ティラは急に言葉を跳ね、こめかみに青筋を浮かべて詰め寄ってきた。

「ヤツハよ、お主は私を人質代わりに使ったであろう!? クラプフェンが手を出しにくいように!」
「え……気づいてたの……?」
「もちろんだ。友と呼ぶ癖に、とんでもないことをしてくれるなっ!」
「いや、だってさ、あの緑髪の兄さんから逃げるには他に方法がなくて。誤魔化したとはいえ、閃光魔法に気づかれる可能性があったし……」
「まったく、滅茶苦茶な奴め…………だが、ヤツハが来てくれて、私は本当に……」

 ティラは瞳に涙を浮かべず、声に嬉し涙を籠める。
 
「感謝する、ヤツハ。友というのは、本当に良いものだ」
「ああ、そうだな。さ、とにかく、ここから逃げなきゃっ」
「逃げるか……この琥珀城は私の居城だというのにな……」

 
 ティラは視線を空に向ける。
 その先にあるのはおそらく礼拝所……そして、そこに眠る母。
 微かに揺れる瞳を浮かべるティラへ、俺は謝罪の言葉をかける。

「ティラ、すまない。プラリネ様を連れて行けなくて」
「フッ、それは仕方ないこと」
「ティラ……」
「なに、幸いこの数日間に母様とはたくさん会話をし、別れも告げられた。国を追われる身としては十分すぎる幸せ……」

 ティラは涙一つ流さず、母を見つめる。
 そして、顔を空から降ろし、俺に向けた。

「行こう、ヤツハ。追手が来る前に」
「ああ、そうだな」

 

 俺たちは隠し通路へ向かおうとした。
 しかし、その隠し通路から声が響いてくる。

「どこに~、行かれるおつもりですか~? ブランさ~ん」

 思わず気の抜けてしまいそうになる、間延びした声。この声は……。

「アレッテ?」
 
 ティラが声の主の名を呼ぶ。
 すると、花畑広がる画像が揺らぎ、隠し通路からアレッテさんと二人の男女が姿を現した。

 ティラは二人の男女を目にして、その名を口にする。

「オランジェット兄さまにレーチェ姉さま」
「だ、誰だよ、この二人は?」
「え? ヤツハ。王の時といい、お主は本当にジョウハクの民か? 次期、双子の王であられる方を知らぬとは」
「あ~、そうなんだ。あんまり、そっち方面に興味なくて。そっか、この人たちが……てっ!?」

 俺は驚き、すぐに剣柄に手を置く。

「じゃあ、二人はブラウニーのっ!」


 俺は二人を観察する。
 二人とも金髪で美男美女。
 オランジェットは少し長めの髪でブラウニーと同じクセッ毛。瞳も同じく、狼の目のようにブラウンとイエローの混じる色。
 そして、橙色を基調とした法衣を纏っている。

 レーチェは直毛の長い髪を持ち、花の形をしたバレッタを右サイドに着けている。
 瞳の色はティラやプラリネ女王と同じ、緑豊かな森林を彷彿とさせるもの。
 服装は多様なフリルの付いた空色のドレス。

 
 俺はアレッテさんを睨みつける。
「一体、これはどういうことです? てか、どうして隠し通路からっ?」
「落ち着いて~、ヤツハちゃん。私たちは敵じゃないわ~」
「……本当に?」

 先ほどまでティラの命を奪おうとしてた男の息子と娘が前にいる。
 俺はそう簡単に警戒心を拭えず、剣柄に掛ける手に力が入る。
 だが、ティラは俺の手を押さえ、止めに入った。

「大丈夫だ、ヤツハ。二人はそのような方々ではない」
「ほんと? まぁ、ティラが言うなら……」
 
 俺は剣から手を放す。
 もちろん、神経は尖らせたまま。
 
 ティラは俺の横に立ち、三人に話しかける。

「どうして、このような場所に?」


 三人は互いに目配せをして、アレッテさんが前に出た。

「プラリネ様から~万が一のことがあった場合ぃ、あなたを救い出すように命を受けてましたぁ。私たち三人、別々にねぇ」

「母様が……?」

「ええ~、だから私は~、事前に聞いていた隠し通路を使い~、こちらに向かいましたぁ。そして、城内を移動している途中で~、オランジェット様とレーチェ様に出会ったのですよ~。でも、ブラン殿下の救出の動きは~、すでに行われているようでしたのでぇ」

 アレッテさんは視線を俺に向ける。
 彼女は俺の動きを把握していたみたいだ。

「そういうわけで~、私たちは脱出路を確保するために~、ここへ戻ってきたのです~」
 
「そうか、母様は全てを予期して……」
 ティラの瞳の端に涙が浮かぶ。
 だが、すぐに指で涙を吹き飛ばし、三人に向き直る。


「それで、どうするつもりか? 脱出路を確保したというからには、私たちを逃がす算段でも?」
 この問いにオランジェットが答える。
「さすがに表立ってお前を逃がしてやれない。だが、東門にいる兵士たちには私の息のかかった者たちがいる。そこから脱出するがいい」
「東門?」

 続いて、レーチェが言葉を繋げる。

「王都よりずっと先にある東国『リーベン』。あそこにはプラリネ様を支持する者たちがつどっている。そこにお行きなさい」

「母様を支持する者たちがっ? それはどういうことです?」

「プラリネ様は今日という日が来ることを予測して、支持者がすぐに東へつどえるよう策を打っていました。ティラ、あなたに未来を託すために……」
「母様が、私に……」

 
 ティラは礼拝所を見上げた。
 プラリネ女王は自分の身に危険が及んだ場合のことを考えて、手を打っていた。
 おそらくだけど、アレッテさんやオランジェットたち以外の人たちにもティラの救出を託していたのだと思う。
 だから、あの隠し通路にメッセージを残した。

「そっか、あのメッセージは俺が来ることを予測して残したわけじゃないんだ」
「そうですね~。でも、ヤツハちゃんは全部聞き終える前に~、ブランさんを助けに行っちゃいましたけど~」

「え、アレッテさん。もしかして、いたの?」
「いましたよ~。もう~、いくら焦っているからといって~、周りに気を配らないのはいただけませんね~」

「それは、そうですね。すみません……あの、それで、続きのメッセージって?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...