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第十五章 絶望の先にあるもの
覚悟と矜持
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――シュラク村
村の入り口に広がる広場では、痛みと疲れに足震えるフォレを残して、皆は地面に横たわっていた。
パティは優美なドレスを土に塗れさせながらも、指先にある扇子を手に取ろうとするが、思い届かず。
アマンは薄れゆく意識を必死に保とうと、己の身体に爪立てる。
額から血流れ落つアプフェルは、魔道杖を握り締め、僅かに残る魔力を回復魔法へ還元しフォレに掛けた。
「フォレ、様……」
フォレは回復魔法を受けるが、疲れ切った足の震えは収まらない。
それでも、彼は剣で己を支える。
だが、立っているのがやっとで、もはや戦いなど不可能であった。
黒騎士は離れた場所より、剣を振るう。
それにより起きた風圧でフォレの身体は容易く吹き飛ばされた。
為す術なし……バーグは口端を捻じ曲げながら鼻から息を漏らす。
「ふ~、ここまでか。黒騎士殿が手加減したとはいえ、粘った方だな」
「どうなりますかね、あの子たちは?」
「黒騎士殿は敵を讃え、殺す。そういうお方だ」
「あんだけ頑張ったんだから、見逃せばいいのに……」
「ガキだけど、一応敵だぞ。それにあのフォレはサシオンの子飼い。だから、黒騎士殿は彼らを必ず殺す。もしかしたら、サシオンが弔い合戦に出る可能性があるからな」
「出られると、迷惑なんすけどね。黒騎士殿と匹敵するんでしょ、サシオンは?」
「らしいな……どちらもバケモンだわ。ま、そんなバケモン相手によくやった。こちらも仲間をやられたとはいえ、彼らを丁重に弔ってやろう」
バーグは吹き飛ばされてもなお、上半身を起こし、黒騎士を睨みつけているフォレを瞳に入れた。
彼の口端は、なぜか笑っている。
それは彼だけじゃない。周りの仲間たちもだ。
「あいつら……そうか、仲間を一人逃がしてやれたことだけで満足しているのか。なんて連中だ。まだ、若いってのに。いや、若いからこそ純粋で……それに比べて、俺たちは……」
「隊長……」
「いや、何、柄にもなく感慨に。見届けよう、彼らの最期を」
バーグは愛惜を振り切り、視線をフォレたちに投げた。
そこにあり得ない光景が飛び込む!
「なっ!? 馬鹿なことをっ。皆の思いを踏みにじるのか、嬢ちゃんよ!」
彼の言葉を受けて、部下も視線を先に向ける。
そこにいたのは、ヤツハ。
ヤツハは馬から降り、皆の元へと歩いていく。
その姿を見た黒騎士は彼女を侮蔑する。
「愚かな娘よ。仲間が繋ぎし命を、意味もなく捨てに来るとは……」
黒騎士の動きに気づいたフォレが、痛みの走る体を無理に動かし、後ろを振り向く。
「あ……そ、そんな、どうして……?」
フォレの言葉はか細くも広がり、アプフェル、パティ、アマンもヤツハの姿を瞳に宿した。
アプフェルは顔がぐしゃぐしゃになるまで強く目を瞑る。
「馬鹿っ、なんで……」
パティは扇子に伸ばそうとした手で土を握り締める。
「せめて、あなただけでも……と」
アマンは瞳より光を消して、虚ろにヤツハを見る。
「もう、何もないですね……」
ヤツハは傷つき倒れる仲間たちを一度視界に収め、無言で通り過ぎ、腰につけていた剣を抜いた。
フォレは声で彼女の背中に鉤爪を掛ける。
「ヤツハさん! 駄目だ! 今すぐっ」
「フォレ、みんな……お前たちが俺を逃がしてくれたことには感謝する。でもさ、ダメなんだよ」
「ヤツハさん?」
「お前たちがいない世界に意味はない。みんながいてこそ、俺の知る日常。俺が生きる意味のある場所なんだ」
ヤツハは背中を見せたまま、皆へ語る。
フォレはさらに深く爪を立て、ヤツハの背中を掴み引きずろうとした。
だけど……彼女の声に宿る思いは鉄の意志。背中に爪を立てるなど無意味。
フォレは地面を殴り、頭をがくりと落とす。
そして、肩を震えさせる。
アマンは力なく先を見つめ、パティは土に塗れようとも自身の顔を地面に押し付けた。
アプフェルは小さく、呟く。
「ほんと、ばか、なんだから」
彼女の言葉はヤツハの心に届く。
ヤツハは最後の微笑みを宿す――そして、顔に悪鬼を乗せて、黒騎士の心を眼光のみで貫いた!
「よくもやってくれたなっ、クソ野郎!! 落とし前はぜってぇつけてやるからなっ!!」
「ほぅ、意気は良し。だがっ、その思い届くかっ!」
黒騎士は剣を振るった。
それは彼にとって児戯に等しき行為。
ヤツハは己の剣にて、それを受け止め、力を流そうとした。
だが、受け止めることも受け流すこともできず、剣は折れ、ヤツハは地面に打ちつけられる。
「グフッ!」
ヤツハは地面より黒騎士を見上げる。
天を穢す黒き気炎を立ち昇らし続ける騎士。
それは死神にして絶望。
影がヤツハを覆う。
迫る、死。
恐怖はヤツハを冷たく包む。
だがっ、ヤツハは歯を食いしばる。
怯える足を見て、殴りつける。だが、足の震えは収まらない。
殴りつけた手もまた震えている。
彼女の心は恐怖に屈していた。それは事実だ。
それでも、仲間への思いは色褪せることない。
その思いが、ヤツハに力を与える。
地面を手で押し、膝を立て、黒騎士を睨みつける。
か弱くも強気意志を見せつける姿に、黒騎士は笑う。
「フフ、良い。愚か者の矜持か。良かろう。その清廉たる思い、我が刃の血となり肉となり、共にあろうぞ」
彼はヤツハの思いを介錯するか如く、剣を大きく掲げた。
ヤツハの手足は震え、顔は恐怖に彩られている。
だが、瞳だけは眩い光を残したまま。
黒騎士は彼女の光を闇で蹂躙するべく、剣を振り下ろした。
――サセナイッ!――
剣が、硬い何かにぶつかる音が轟いた。
黒騎士の剣圧によって、嵐のような土煙が舞い、誰の目にも何が起こっているのかわからない。
その砂塵の隙間から、ヤツハは前に立つ人物の姿を目にしていた。
彼は青い襤褸を身に纏う存在――マヨマヨ。
名は近藤。
笠鷺燎のクラスメイト。
彼がヤツハと黒騎士の間に入り、光り輝く壁を生み出していた。
村の入り口に広がる広場では、痛みと疲れに足震えるフォレを残して、皆は地面に横たわっていた。
パティは優美なドレスを土に塗れさせながらも、指先にある扇子を手に取ろうとするが、思い届かず。
アマンは薄れゆく意識を必死に保とうと、己の身体に爪立てる。
額から血流れ落つアプフェルは、魔道杖を握り締め、僅かに残る魔力を回復魔法へ還元しフォレに掛けた。
「フォレ、様……」
フォレは回復魔法を受けるが、疲れ切った足の震えは収まらない。
それでも、彼は剣で己を支える。
だが、立っているのがやっとで、もはや戦いなど不可能であった。
黒騎士は離れた場所より、剣を振るう。
それにより起きた風圧でフォレの身体は容易く吹き飛ばされた。
為す術なし……バーグは口端を捻じ曲げながら鼻から息を漏らす。
「ふ~、ここまでか。黒騎士殿が手加減したとはいえ、粘った方だな」
「どうなりますかね、あの子たちは?」
「黒騎士殿は敵を讃え、殺す。そういうお方だ」
「あんだけ頑張ったんだから、見逃せばいいのに……」
「ガキだけど、一応敵だぞ。それにあのフォレはサシオンの子飼い。だから、黒騎士殿は彼らを必ず殺す。もしかしたら、サシオンが弔い合戦に出る可能性があるからな」
「出られると、迷惑なんすけどね。黒騎士殿と匹敵するんでしょ、サシオンは?」
「らしいな……どちらもバケモンだわ。ま、そんなバケモン相手によくやった。こちらも仲間をやられたとはいえ、彼らを丁重に弔ってやろう」
バーグは吹き飛ばされてもなお、上半身を起こし、黒騎士を睨みつけているフォレを瞳に入れた。
彼の口端は、なぜか笑っている。
それは彼だけじゃない。周りの仲間たちもだ。
「あいつら……そうか、仲間を一人逃がしてやれたことだけで満足しているのか。なんて連中だ。まだ、若いってのに。いや、若いからこそ純粋で……それに比べて、俺たちは……」
「隊長……」
「いや、何、柄にもなく感慨に。見届けよう、彼らの最期を」
バーグは愛惜を振り切り、視線をフォレたちに投げた。
そこにあり得ない光景が飛び込む!
「なっ!? 馬鹿なことをっ。皆の思いを踏みにじるのか、嬢ちゃんよ!」
彼の言葉を受けて、部下も視線を先に向ける。
そこにいたのは、ヤツハ。
ヤツハは馬から降り、皆の元へと歩いていく。
その姿を見た黒騎士は彼女を侮蔑する。
「愚かな娘よ。仲間が繋ぎし命を、意味もなく捨てに来るとは……」
黒騎士の動きに気づいたフォレが、痛みの走る体を無理に動かし、後ろを振り向く。
「あ……そ、そんな、どうして……?」
フォレの言葉はか細くも広がり、アプフェル、パティ、アマンもヤツハの姿を瞳に宿した。
アプフェルは顔がぐしゃぐしゃになるまで強く目を瞑る。
「馬鹿っ、なんで……」
パティは扇子に伸ばそうとした手で土を握り締める。
「せめて、あなただけでも……と」
アマンは瞳より光を消して、虚ろにヤツハを見る。
「もう、何もないですね……」
ヤツハは傷つき倒れる仲間たちを一度視界に収め、無言で通り過ぎ、腰につけていた剣を抜いた。
フォレは声で彼女の背中に鉤爪を掛ける。
「ヤツハさん! 駄目だ! 今すぐっ」
「フォレ、みんな……お前たちが俺を逃がしてくれたことには感謝する。でもさ、ダメなんだよ」
「ヤツハさん?」
「お前たちがいない世界に意味はない。みんながいてこそ、俺の知る日常。俺が生きる意味のある場所なんだ」
ヤツハは背中を見せたまま、皆へ語る。
フォレはさらに深く爪を立て、ヤツハの背中を掴み引きずろうとした。
だけど……彼女の声に宿る思いは鉄の意志。背中に爪を立てるなど無意味。
フォレは地面を殴り、頭をがくりと落とす。
そして、肩を震えさせる。
アマンは力なく先を見つめ、パティは土に塗れようとも自身の顔を地面に押し付けた。
アプフェルは小さく、呟く。
「ほんと、ばか、なんだから」
彼女の言葉はヤツハの心に届く。
ヤツハは最後の微笑みを宿す――そして、顔に悪鬼を乗せて、黒騎士の心を眼光のみで貫いた!
「よくもやってくれたなっ、クソ野郎!! 落とし前はぜってぇつけてやるからなっ!!」
「ほぅ、意気は良し。だがっ、その思い届くかっ!」
黒騎士は剣を振るった。
それは彼にとって児戯に等しき行為。
ヤツハは己の剣にて、それを受け止め、力を流そうとした。
だが、受け止めることも受け流すこともできず、剣は折れ、ヤツハは地面に打ちつけられる。
「グフッ!」
ヤツハは地面より黒騎士を見上げる。
天を穢す黒き気炎を立ち昇らし続ける騎士。
それは死神にして絶望。
影がヤツハを覆う。
迫る、死。
恐怖はヤツハを冷たく包む。
だがっ、ヤツハは歯を食いしばる。
怯える足を見て、殴りつける。だが、足の震えは収まらない。
殴りつけた手もまた震えている。
彼女の心は恐怖に屈していた。それは事実だ。
それでも、仲間への思いは色褪せることない。
その思いが、ヤツハに力を与える。
地面を手で押し、膝を立て、黒騎士を睨みつける。
か弱くも強気意志を見せつける姿に、黒騎士は笑う。
「フフ、良い。愚か者の矜持か。良かろう。その清廉たる思い、我が刃の血となり肉となり、共にあろうぞ」
彼はヤツハの思いを介錯するか如く、剣を大きく掲げた。
ヤツハの手足は震え、顔は恐怖に彩られている。
だが、瞳だけは眩い光を残したまま。
黒騎士は彼女の光を闇で蹂躙するべく、剣を振り下ろした。
――サセナイッ!――
剣が、硬い何かにぶつかる音が轟いた。
黒騎士の剣圧によって、嵐のような土煙が舞い、誰の目にも何が起こっているのかわからない。
その砂塵の隙間から、ヤツハは前に立つ人物の姿を目にしていた。
彼は青い襤褸を身に纏う存在――マヨマヨ。
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