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第十一章 アクタ
奇妙なエルフたち、らしい……
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サシオンは俺たち全員の姿が目に入るように広く視界を取りながら、次なる議題を口にした。
「早速だが、便利屋ヤツハ御一行に仕事を依頼したい」
「内容は?」
「プラリネ女王陛下は復興を第一として掲げた。そうである以上、一刻も早く復興を成し遂げなければならぬ。しかし、材木不足が深刻で状況は芳しくない。そこで、コナサの森に住むエルフたちの助力を得たいと考えている」
「コナサの森!? サシオン様、本気ですか!?」
フォレが大声を上げて身を乗り出す。
他のみんなも同様に、驚いた様子を見せている。
アマンが真っ黒な猫耳の片方を折りつつ、サシオンへ意見を上げる。
「王都の周りにはコナサの森以外にも、多数のエルフの住む森があります。彼らから材木を提供してもらうわけにはいけないのですか?」
「すでに提供して頂いている。そこはパティスリー殿の方が詳しいだろう」
「ええ、フィナンシェ家が中心となり、エルフの皆様方から大量の材木の買い付けを行っております。ですが、それでも復興には足らないと父が嘆いておりました」
サシオンはパティの話を受けて頷き、みんなに視線を返す。
「そういう事情があり、なんとしても王都傍にある最大の森。コナサの森のエルフたちから助力を得たいのだ」
サシオンは眉間に皺を寄せる。それが伝播したかのようにフォレもまた眉間に皺を寄せる。
「サシオン様。一年前に一度、我らも任を負い、彼らと交易ができないかと奮闘しましたが失敗に終わりました。それをヤツハさんに任せるおつもりですか?」
「たしかに、我々では会話すらおぼつかなかった。しかし、ヤツハ殿ならば、彼らと会話が可能やも知れぬ」
「む、無理ですよ。あのような意味不明な言語を操る方々と……」
みんなの反応を見る限り、コナサの森のエルフとやらは相当偏屈っぽい。
まぁ、エルフってやつはプライド高くて、人間を見下しているのが相場だけど……でも、他の森に住むエルフとは交流ができているみたいだから、コナサの森のエルフは偏屈も偏屈ってところか?
サシオンでさえ、会話すらできなかったみたいだし……。
ただ謎なのは、なぜ俺なら会話が可能だとサシオンは思ったのか?
俺の隣ではアプフェルが会話を聞きつつ、みんなとは違う態度を取っている。
首を捻りながら何かを考えているようだ。
「どうした、アプフェル?」
「いや、私もあの森のエルフが、エルフの中でもとんでもない変わり者だと知ってるけど、案外ヤツハとなら、うまくいくんじゃないかなって」
「それ、どういう意味? 俺が変わり者だってこと? その前に、コナサの森のエルフってどんな奴なの? 他のエルフとどう違うの?」
「そうねぇ、普通のエルフは少々高慢ちきなところはあるけど、道理を通せば話は聞いてくれるし、交流は難しくない。でも、あそこのエルフは何言ってるかわかんないのよねぇ」
「なに、違う言語ってこと?」
「違う違う。本当に、何を言っているのかわかんないの」
「余計にわけわからん」
「こればっかりは会ってみないと。でも、あんたなら何とかなりそうって感じがする」
「根拠は?」
「根拠は、センスが変だから」
「はっ、どういう意味だよっ?」
俺は息を荒く吐き飛ばし、アプフェルに詰め寄ろうとした。
しかしそこに、パティまでもアプフェルに同調してくる。
「たしかに、アプフェルさんの指摘通りですわね。ヤツハさんの感性ならば、コナサの森のエルフの珍妙な感覚についていけるかもしれませんわ」
「パティ、お前まで……サシオン、もっと具体的な情報をくれ。なんで、俺がセンスなしみたいに言われなきゃいけないんだよ!」
「そうか、やはりか」
「おいっ?」
「おっと、済まぬ」
サシオンは謝罪も漏らし、誤魔化すように一度軽い咳を挟んでから会話を続けた。
ものすご~く納得できないけど、話の腰を折ることになるのでツッコまないでおいてやろう。
「こほん。コナサの森のエルフは従来から他種族との交流を避けていた。だが、数十年前のある日、それに輪をかけて理解しがたい存在となってしまった」
「数十年前? 何が起こったの?」
「何者かが、彼らに奇妙な感性を与えた。私には理解が及ばぬものをな。だが、ヤツハ殿は近いものをお持ちかもな」
サシオンは僅かに韻を踏んで答えた。
『何者かが』……これはおそらく、俺たちと同じ異世界人。
そして、『私には』と『近いもの』……つまり、これは二十八世紀の人間よりも、二十一世紀の俺なら理解できるのではないか、という意味。
まとめると、二十一世紀前後の地球人がエルフの森に何かを伝えた。
そのせいで、他者との交流が不可能になった。
何が起こったかわかったけど、何が起こっているのかはさっぱり。
サシオンにとって理解不能というならば、他のみんなにも聞いても無駄だろうし……これは実際に会ってみるしかない。
アプフェルとパティの俺なら可能かも、という言い分は気になるところだけど……。
「よくわかんないけど、とりあえずコナサの森とやらに行ってみるよ」
「うむ、頼んだぞ。彼らから材木の提供がうまくいけば、復興は進み、さらには危機に対して、交流不可能と思えたコナサのエルフとの交易を復活させたと、女王陛下の名声も上がろうぞ」
「ああ、そんな意味もあるのね。俺も穏健派のプラリネ女王を応援したいし、頑張りますか」
サシオンの依頼を受けることにし、二日後、みんなでコナサの森に向かうという話で終えた。
各々、大広間から出ていく。
しかしサシオンは、俺と話したいことがあると言って呼び止めてきた。そんなわけでみんなが立ち去った後も、俺は大広間に残ることになった。
「早速だが、便利屋ヤツハ御一行に仕事を依頼したい」
「内容は?」
「プラリネ女王陛下は復興を第一として掲げた。そうである以上、一刻も早く復興を成し遂げなければならぬ。しかし、材木不足が深刻で状況は芳しくない。そこで、コナサの森に住むエルフたちの助力を得たいと考えている」
「コナサの森!? サシオン様、本気ですか!?」
フォレが大声を上げて身を乗り出す。
他のみんなも同様に、驚いた様子を見せている。
アマンが真っ黒な猫耳の片方を折りつつ、サシオンへ意見を上げる。
「王都の周りにはコナサの森以外にも、多数のエルフの住む森があります。彼らから材木を提供してもらうわけにはいけないのですか?」
「すでに提供して頂いている。そこはパティスリー殿の方が詳しいだろう」
「ええ、フィナンシェ家が中心となり、エルフの皆様方から大量の材木の買い付けを行っております。ですが、それでも復興には足らないと父が嘆いておりました」
サシオンはパティの話を受けて頷き、みんなに視線を返す。
「そういう事情があり、なんとしても王都傍にある最大の森。コナサの森のエルフたちから助力を得たいのだ」
サシオンは眉間に皺を寄せる。それが伝播したかのようにフォレもまた眉間に皺を寄せる。
「サシオン様。一年前に一度、我らも任を負い、彼らと交易ができないかと奮闘しましたが失敗に終わりました。それをヤツハさんに任せるおつもりですか?」
「たしかに、我々では会話すらおぼつかなかった。しかし、ヤツハ殿ならば、彼らと会話が可能やも知れぬ」
「む、無理ですよ。あのような意味不明な言語を操る方々と……」
みんなの反応を見る限り、コナサの森のエルフとやらは相当偏屈っぽい。
まぁ、エルフってやつはプライド高くて、人間を見下しているのが相場だけど……でも、他の森に住むエルフとは交流ができているみたいだから、コナサの森のエルフは偏屈も偏屈ってところか?
サシオンでさえ、会話すらできなかったみたいだし……。
ただ謎なのは、なぜ俺なら会話が可能だとサシオンは思ったのか?
俺の隣ではアプフェルが会話を聞きつつ、みんなとは違う態度を取っている。
首を捻りながら何かを考えているようだ。
「どうした、アプフェル?」
「いや、私もあの森のエルフが、エルフの中でもとんでもない変わり者だと知ってるけど、案外ヤツハとなら、うまくいくんじゃないかなって」
「それ、どういう意味? 俺が変わり者だってこと? その前に、コナサの森のエルフってどんな奴なの? 他のエルフとどう違うの?」
「そうねぇ、普通のエルフは少々高慢ちきなところはあるけど、道理を通せば話は聞いてくれるし、交流は難しくない。でも、あそこのエルフは何言ってるかわかんないのよねぇ」
「なに、違う言語ってこと?」
「違う違う。本当に、何を言っているのかわかんないの」
「余計にわけわからん」
「こればっかりは会ってみないと。でも、あんたなら何とかなりそうって感じがする」
「根拠は?」
「根拠は、センスが変だから」
「はっ、どういう意味だよっ?」
俺は息を荒く吐き飛ばし、アプフェルに詰め寄ろうとした。
しかしそこに、パティまでもアプフェルに同調してくる。
「たしかに、アプフェルさんの指摘通りですわね。ヤツハさんの感性ならば、コナサの森のエルフの珍妙な感覚についていけるかもしれませんわ」
「パティ、お前まで……サシオン、もっと具体的な情報をくれ。なんで、俺がセンスなしみたいに言われなきゃいけないんだよ!」
「そうか、やはりか」
「おいっ?」
「おっと、済まぬ」
サシオンは謝罪も漏らし、誤魔化すように一度軽い咳を挟んでから会話を続けた。
ものすご~く納得できないけど、話の腰を折ることになるのでツッコまないでおいてやろう。
「こほん。コナサの森のエルフは従来から他種族との交流を避けていた。だが、数十年前のある日、それに輪をかけて理解しがたい存在となってしまった」
「数十年前? 何が起こったの?」
「何者かが、彼らに奇妙な感性を与えた。私には理解が及ばぬものをな。だが、ヤツハ殿は近いものをお持ちかもな」
サシオンは僅かに韻を踏んで答えた。
『何者かが』……これはおそらく、俺たちと同じ異世界人。
そして、『私には』と『近いもの』……つまり、これは二十八世紀の人間よりも、二十一世紀の俺なら理解できるのではないか、という意味。
まとめると、二十一世紀前後の地球人がエルフの森に何かを伝えた。
そのせいで、他者との交流が不可能になった。
何が起こったかわかったけど、何が起こっているのかはさっぱり。
サシオンにとって理解不能というならば、他のみんなにも聞いても無駄だろうし……これは実際に会ってみるしかない。
アプフェルとパティの俺なら可能かも、という言い分は気になるところだけど……。
「よくわかんないけど、とりあえずコナサの森とやらに行ってみるよ」
「うむ、頼んだぞ。彼らから材木の提供がうまくいけば、復興は進み、さらには危機に対して、交流不可能と思えたコナサのエルフとの交易を復活させたと、女王陛下の名声も上がろうぞ」
「ああ、そんな意味もあるのね。俺も穏健派のプラリネ女王を応援したいし、頑張りますか」
サシオンの依頼を受けることにし、二日後、みんなでコナサの森に向かうという話で終えた。
各々、大広間から出ていく。
しかしサシオンは、俺と話したいことがあると言って呼び止めてきた。そんなわけでみんなが立ち去った後も、俺は大広間に残ることになった。
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