86 / 286
第十一章 アクタ
マヨマヨの正体
しおりを挟む
「サシオン、マヨマヨとはなんだ?」
「マヨマヨ――正しくは、迷い迷いて迷いざるを得ない旅人。彼らも我らと同じ、別世界の存在だ」
「……俺たちと、何が違う?」
「彼らは自分の世界に戻ることを強く望んでいる。とても、強くなっ」
サシオンは語尾に力を入れ、強調する。
故郷に対する帰還への思いが尋常ではないということか。
そして、それは同時に。
「あいつらの望郷の念が、今回の襲撃に関係して?」
「ああ、彼らは王都の地下に眠るコトアの殺害を目指して襲ってきた」
「そういや、王都の地下には女神様がいるんだっけ?」
「ん、ご存じなのか?」
「え……うん、ちょっとね」
「驚いた。まさか、一部の人間しか知らぬ情報を得ていようとは。フフ、ヤツハ殿はやはり油断ならぬ御仁だな」
「ふふ、買いかぶりすぎだよ」
はい、まさしく買いかぶりすぎ。
ティラがぽろっと口を滑らしただけだし。
そんなことサシオンに話したら、ティラが怒られそうなので黙っておいてやろう。
「ま、それはともかく、サシオンって妙に地下水路に神経を使ってたよね。やっぱり、それって女神の存在のことで?」
「気づいていたか。そのとおりだ」
「なるほどねぇ。話を戻すけど、なんでマヨマヨは女神様を襲おうと?」
「アクタの結界を壊し、故郷へ帰るためだ」
「結界?」
「この世界は情報の断片を積み上げて作った歪な世界。それゆえに非常にもろい。そのためコトアはアクタを結界で覆い守っている。ただ、情報を集める彼女の特質上、結界があれど、外からの侵入は容易であるが」
「外からは? ってことは中からは?」
「脱出は困難だ。さらに困ったことに、アクタに情報が蓄積するにつれて、あちらこちらに綻びが出てきた。現在、コトアは綻びの修復のため、王都の地下で情報の安定に注力している。非常に無防備な状態だ」
「基本、一方通行。そして、女神様は弱っている。だから、マヨマヨはこの機会に女神を殺し、結界を壊して自分の世界へ戻ろうと……一部開放とかできないの?」
「やれないこともない。しかし、エネルギーの制御が難しい。僅かでも制御を間違えれば、どれだけの情報が無に消えるかわからない」
「それって、突然誰かが消えるってこと?」
「人だけではない。山や湖。村や国。下手をすれば大陸丸ごと消える可能性もある」
「それは厳しいなぁ。でも、襲ってきたマヨマヨはそれも構わずに……」
「たとえアクタが消えてなくなろうと、故郷へ戻れるなら構わないということだろう」
「無茶苦茶だな。いくら、帰りたいからって、世界を犠牲にするなんて……」
「以前はそこまではなかった。彼らは世界を旅し、アクタに舞い込む情報を集め、そこから帰還の可能性を探っていた。誰も傷つけることなく帰る方法を」
世界を旅する――この言葉に、以前アプフェルから聞いた話を思い出す。
「マヨマヨたちはよく遺跡とかに出没するってアプフェルから聞いたけど、もしかして?」
「遺跡……つまりは、様々な宇宙から舞い込んだ情報。そこに眠る知識を駆使し、アクタの壁を安全に開こうとしていた。だが、一部の強硬派が……」
「強硬派? そいつらが王都を襲ってきた連中か……ということは、逆に穏健派の存在も?」
「今までのように、時間を掛けて帰還の可能性を模索している者たちもいる。そして、今回の襲撃はその穏健派から情報を貰い、準備をしていた」
「それで、そうそうたるメンバーが城に集まっていたんだ」
「王を守るというよりも女神コトアを守るためにな」
「はぁ~、なるほど」
やっぱり、サシオンらは襲撃を知っていた。
襲撃を知っていて、民の守りを捨て、城……その地下に眠るコトアに重きを置いた。
(コトアがやられたら世界消えるわけだし、仕方ないと言えば仕方ないけど、でも……)
「サシオン。襲撃を知っていたなら、街の防備はもうちょっと対処の方法があっただろ?」
「それについては面目ない。しかし、人手が足りぬ。マヨマヨと呼ばれる彼らは強大。アクタの住人では相手にならぬのだ」
「そんなに? たしかにノアゼットと戦ってたマヨマヨは、俺なんかじゃ到底相手にならないくらい強かったけど。でも、アクタにだって凄い魔導士がいるよね。何とか対抗できないの?」
「彼らは様々な世界からやってきている。故に、科学も魔法の知識もアクタ人を上回っている。身体機能もまた、アクタ人を遥かに超える」
「そうなの……そんなの相手によく守りきれたね」
「何れ、強硬派が痺れを切らし、この日が訪れることは予測していた。そのために女神の黒き装具を造っておいたのだ」
「女神の黒き装具は女神様の贈り物だって聞いたけど? 造っておいたって?」
「私がこの日のために造った、対迷い人の兵器だ。それを女神の名を借り、六龍へ提供した」
「サシオンがっ!? あんた、何もんだよっ!?」
「私は現在、アクタに住まう異世界の者たちの中で、最も技術の進んだ宇宙からやってきた人間だ。だから、彼らに対抗できる肉体・武器・技術・魔法を提供できる」
「そういや、俺とは違う他の宇宙っぽい話をしてたな……ちょっと待ってくれ、情報を整理したい」
「ああ、いくらでも待とう」
サシオンは腕を組み、深く椅子に腰を掛けた。
俺は今まで聞いた情報をまとめていく。
1・この世界は他の世界の情報を積み上げて作った、ツギハギだらけの世界。だから、日本などのアクタとは違う文化の痕跡がある。
時間の流れはアクタに住まう者たちの意識を頼り、共有できる流れを生んでいる。
2・アクタは歪な世界であるため、非常にもろい。なので、コトアが世界を結界で覆い守っている。結界に穴が開けば、アクタの情報は無に消える。
また、現在コトアは世界の修復のため無防備な状態。
3・マヨマヨは、故郷への帰還を渇望する存在。一部のマヨマヨは女神を殺して、結界を破壊しようとしている。しかし、結界を破壊されるとアクタは滅びる。
4・女神の黒き装具。アクタ人ではマヨマヨに対抗できないため、サシオンが対マヨマヨ兵器として造ったもの。
長々とした話を簡単にまとめ終え、女神の装具の続きを尋ねる。
「マヨマヨ――正しくは、迷い迷いて迷いざるを得ない旅人。彼らも我らと同じ、別世界の存在だ」
「……俺たちと、何が違う?」
「彼らは自分の世界に戻ることを強く望んでいる。とても、強くなっ」
サシオンは語尾に力を入れ、強調する。
故郷に対する帰還への思いが尋常ではないということか。
そして、それは同時に。
「あいつらの望郷の念が、今回の襲撃に関係して?」
「ああ、彼らは王都の地下に眠るコトアの殺害を目指して襲ってきた」
「そういや、王都の地下には女神様がいるんだっけ?」
「ん、ご存じなのか?」
「え……うん、ちょっとね」
「驚いた。まさか、一部の人間しか知らぬ情報を得ていようとは。フフ、ヤツハ殿はやはり油断ならぬ御仁だな」
「ふふ、買いかぶりすぎだよ」
はい、まさしく買いかぶりすぎ。
ティラがぽろっと口を滑らしただけだし。
そんなことサシオンに話したら、ティラが怒られそうなので黙っておいてやろう。
「ま、それはともかく、サシオンって妙に地下水路に神経を使ってたよね。やっぱり、それって女神の存在のことで?」
「気づいていたか。そのとおりだ」
「なるほどねぇ。話を戻すけど、なんでマヨマヨは女神様を襲おうと?」
「アクタの結界を壊し、故郷へ帰るためだ」
「結界?」
「この世界は情報の断片を積み上げて作った歪な世界。それゆえに非常にもろい。そのためコトアはアクタを結界で覆い守っている。ただ、情報を集める彼女の特質上、結界があれど、外からの侵入は容易であるが」
「外からは? ってことは中からは?」
「脱出は困難だ。さらに困ったことに、アクタに情報が蓄積するにつれて、あちらこちらに綻びが出てきた。現在、コトアは綻びの修復のため、王都の地下で情報の安定に注力している。非常に無防備な状態だ」
「基本、一方通行。そして、女神様は弱っている。だから、マヨマヨはこの機会に女神を殺し、結界を壊して自分の世界へ戻ろうと……一部開放とかできないの?」
「やれないこともない。しかし、エネルギーの制御が難しい。僅かでも制御を間違えれば、どれだけの情報が無に消えるかわからない」
「それって、突然誰かが消えるってこと?」
「人だけではない。山や湖。村や国。下手をすれば大陸丸ごと消える可能性もある」
「それは厳しいなぁ。でも、襲ってきたマヨマヨはそれも構わずに……」
「たとえアクタが消えてなくなろうと、故郷へ戻れるなら構わないということだろう」
「無茶苦茶だな。いくら、帰りたいからって、世界を犠牲にするなんて……」
「以前はそこまではなかった。彼らは世界を旅し、アクタに舞い込む情報を集め、そこから帰還の可能性を探っていた。誰も傷つけることなく帰る方法を」
世界を旅する――この言葉に、以前アプフェルから聞いた話を思い出す。
「マヨマヨたちはよく遺跡とかに出没するってアプフェルから聞いたけど、もしかして?」
「遺跡……つまりは、様々な宇宙から舞い込んだ情報。そこに眠る知識を駆使し、アクタの壁を安全に開こうとしていた。だが、一部の強硬派が……」
「強硬派? そいつらが王都を襲ってきた連中か……ということは、逆に穏健派の存在も?」
「今までのように、時間を掛けて帰還の可能性を模索している者たちもいる。そして、今回の襲撃はその穏健派から情報を貰い、準備をしていた」
「それで、そうそうたるメンバーが城に集まっていたんだ」
「王を守るというよりも女神コトアを守るためにな」
「はぁ~、なるほど」
やっぱり、サシオンらは襲撃を知っていた。
襲撃を知っていて、民の守りを捨て、城……その地下に眠るコトアに重きを置いた。
(コトアがやられたら世界消えるわけだし、仕方ないと言えば仕方ないけど、でも……)
「サシオン。襲撃を知っていたなら、街の防備はもうちょっと対処の方法があっただろ?」
「それについては面目ない。しかし、人手が足りぬ。マヨマヨと呼ばれる彼らは強大。アクタの住人では相手にならぬのだ」
「そんなに? たしかにノアゼットと戦ってたマヨマヨは、俺なんかじゃ到底相手にならないくらい強かったけど。でも、アクタにだって凄い魔導士がいるよね。何とか対抗できないの?」
「彼らは様々な世界からやってきている。故に、科学も魔法の知識もアクタ人を上回っている。身体機能もまた、アクタ人を遥かに超える」
「そうなの……そんなの相手によく守りきれたね」
「何れ、強硬派が痺れを切らし、この日が訪れることは予測していた。そのために女神の黒き装具を造っておいたのだ」
「女神の黒き装具は女神様の贈り物だって聞いたけど? 造っておいたって?」
「私がこの日のために造った、対迷い人の兵器だ。それを女神の名を借り、六龍へ提供した」
「サシオンがっ!? あんた、何もんだよっ!?」
「私は現在、アクタに住まう異世界の者たちの中で、最も技術の進んだ宇宙からやってきた人間だ。だから、彼らに対抗できる肉体・武器・技術・魔法を提供できる」
「そういや、俺とは違う他の宇宙っぽい話をしてたな……ちょっと待ってくれ、情報を整理したい」
「ああ、いくらでも待とう」
サシオンは腕を組み、深く椅子に腰を掛けた。
俺は今まで聞いた情報をまとめていく。
1・この世界は他の世界の情報を積み上げて作った、ツギハギだらけの世界。だから、日本などのアクタとは違う文化の痕跡がある。
時間の流れはアクタに住まう者たちの意識を頼り、共有できる流れを生んでいる。
2・アクタは歪な世界であるため、非常にもろい。なので、コトアが世界を結界で覆い守っている。結界に穴が開けば、アクタの情報は無に消える。
また、現在コトアは世界の修復のため無防備な状態。
3・マヨマヨは、故郷への帰還を渇望する存在。一部のマヨマヨは女神を殺して、結界を破壊しようとしている。しかし、結界を破壊されるとアクタは滅びる。
4・女神の黒き装具。アクタ人ではマヨマヨに対抗できないため、サシオンが対マヨマヨ兵器として造ったもの。
長々とした話を簡単にまとめ終え、女神の装具の続きを尋ねる。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる