マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第十章 英雄祭

襲撃

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 王都中に響き渡る悲鳴。
 爆発音はなおも鳴り続けている。

 王都の空には無数のマヨマヨたちが飛び交い、街に向けてレーザー光線のようなものを無造作に撃ち続けていた。

(くそっ、いったい何がっ!? ピケ、みんな、無事でいろよ!」

 みんながいるはずの城近くを目指してひた走る。
 その途中で騎士団のスプリたちと出会った。
 彼らは恐慌状態の群衆を前に手も足も出せず、右往左往としている。


「おいっ、お前ら何やってんだ!?」
「えっ!? ヤツハさん」
「早くみんなを安全な場所に誘導しろよっ!」
「しかし、僕たちだけではどう対処していいのか……?」
「なに、腑抜けたこと言ってんだ! お前らは近衛このえ騎士団だろっ。この街を守っている騎士だろ! なら、みんなのために踏ん張れよっ!」

 スプリの両肩をガッシと握りしめ、じっと目を見つめる。
 彼は震えていた瞳を止め、俺をしっかりと見つめ返す。そして、ゆっくりと頷き、覚悟を目に宿す。

「……え、ええ、そうですね。そう、僕たちだって騎士団。サシオン様やフォレ様に頼りっぱなしでは駄目だ。ウィター、フォール! みんなを東門の前に誘導する。安全とは言えないけど、今の状況よりマシだ!」
「わかった、スプリ! フォール、行こう!」
「応っ! 皆さん!! 我々の指示に従って下さい! アステル近衛騎士団が必ず、皆さんを守って見せますっ!」

 スプリたちの呼びかけに、僅かだが人々は反応した。だけど、この程度では誘導なんて無理だ。
 そう感じていたが、三人の声は、近衛騎士団の兵士たちみんなの心に広がりを見せる。

 騎士団のみんなは逃げ惑う民衆を目に映し、己のやるべき使命を思い出す。
 彼らは皆、心に強気意志の炎をたけらせ奮起した!

 近衛騎士団は一丸となって、混乱し、怯える民衆をまとめようとする。
 徐々にではあるが、街の人たちが近衛騎士団の指示に従うようになっていく。

 ここは何とかなりそうだ。

 俺は一度、スプリたちにコクリと頷き、城を目指して走る!


 
 城に近づくたびに混乱の度合いは増していく。
 それも当然だ。
 ここには武闘祭を見ようと大勢の観客が集まっていたのだから。
 俺は人の津波に巻き込まれて、全く自由が利かない。

(駄目だ、ピケを探すどころじゃない! どうすればっ!?)

「ヤツハ! こっちだ!」

 人の群れの向こう側からティラの声が聞こえた。
 掻き乱れる群衆から首を伸ばして、そちらを見る。
 家と家の隙間にある路地の入り口にアレッテさんが立っている。
 その後ろに、ティラとピケの姿があった。


 俺は人の壁をこじ開けて、何とかそこまで辿り着いた。

「ヤツハおねえちゃん!」

 ピケは俺に抱き着こうとしたが見えない壁が邪魔をして、その場でぴょんぴょん跳ねている。
 どうやら、アレッテさんが強固な結界を張っているようだ。
 しかし、かなり無理を押しているようで、彼女の顔には汗が張り付いている。

「アレッテさん?」
「何とかぁ、この路地を~シェルター代わりにできていますぅ。ですがぁ、わずかでも気を緩めると~、マヨマヨの攻撃にぃ、耐えられません。ごめんなさいですぅ」



 彼女の後ろを見るとたくさんの老人と幼い子どもたちがいた。子どもたち泣き声を上げながらお父さんお母さんを呼んでいる。

「これは?」
「はぐれたお子さんや、預かったお子さんですぅ。走って逃げられない人たちを、ここで守っているのですよぉ」
「そうですか。わかりました、そのままみんなを守ってやってください」


 俺は結界に手を当てて、ピケを見つめる。
 ピケは健気にも怯える心を抑え、俺に笑顔を見せてくれた。

「ピケ」
「おねえちゃん」
「よかった、無事で」
「うん、おねえちゃんも」
「他のみんなは?」
「街の人たちを助けに」
「ということは、無事なんだな」
「うん」
「わかった。それじゃ、えっ!?」


 ぞわりとした恐怖が背中の肉を抉った。
 俺はすぐさま後ろを振り返る。
 空には黄色の外套を纏ったマヨマヨ。そいつは右手に銃のようなものを所持して、銃口をこちらへ向けていた。
 
(いけない!)
 俺はとっさに空へ向けて、最高クラス4の火の魔法・ミカハヤノを放った。
――相手は空。
 制御できなくても、誰かを巻き込むことはない!

 魔法の直撃を受けたマヨマヨを中心に巨大な爆発が起きる……だが――。


「そんなっ。う、うそだろ……」
 
 灼熱に燃ゆる空気の層からマヨマヨが無傷で現れる。
 彼は薄い光を見せるバリアのようなものに守れていた。再び彼は、銃口をゆっくりと俺たちに向ける。
 俺はもう一度、魔法を放つべきっ。
 そうであるべきなのに、恐怖が瞼を閉じさせる。

(ああ、目を閉じるな。魔力を込めろよ!)

 意志と心は別離し、瞼は死を讃え、額突ぬかずこうとする。
 瞳に闇のとばりが降りていく……。
 
 生と死の隙間から見えるのは、明確な死を見せつけるマヨマヨ。
 そして……一線の光っ!?
 
 どこからか巨大な光の帯が現れ空を貫き、一瞬にしてマヨマヨを飲み込んでいった。
 光はバリアを薄紙の如く突き破り、マヨマヨの姿は完全に消失する。

 俺は瞼に意志を送り込み、光の帯の出元へ目を向けた。
 
 
 そこには、右手に黒き巨大な砲台を身に着け、炎のように猛々しい真っ赤な髪を振るうノアゼットの姿があった。
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