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第八章 深まるアクタの謎
欠陥スキル
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王城へと続く隠し通路から地下水路に戻り、地上への出口を探す。
「さてと、帰り道は~っと……帰り道? ん、待てよ。箪笥の世界の能力を使えば、歩いてきた道順を覚えてるんじゃ? うわ~、俺とことん馬鹿だ……」
さらなる馬鹿さ加減に気づいてしまった。
帰るのに、地図も、上に上がるもなかった。歩いてきた道順を思い出せばよかっただけなのに。
しかし、嘆いても仕方ない。早速、意識をあの世界に飛ばそう。
――目を閉じ、開けると箪笥の世界。
プレートに地図と書かれてある引き出しを開けて覗き込む。
「えっと、あった。最初は小川の近くの扉から……」
頭の中に賭博場までの道順が流れ込んでくる。そして、そこからゴブリンを追ってここまでの道順を辿っていく。
「よし、覚えた。めっちゃ道を曲がりまくってたんだな。んじゃ、小川そばの入り口まで戻るか」
意識を現実に戻し、地下水路の風景を目に映す。
「さて、道順を逆に追ってっと、最初は右をまっすぐ行って、次が左で三本目の十字路を右で、T字路を……あれ?」
記憶がぼやけていく。
「くそ、すぐに忘れちゃったよ。曲がり角の数が多すぎてわけわかんね」
もう一度、意識を飛ばし先ほどの引き出しを覗き込む。
「どれどれ……道順は~……ん、あれ? なんか、頭がぼーっとするような~」
「あなたって、本当に間抜けね」
「えっ?」
影の女の声が耳に届き、慌てて引き出しから顔を引っこ抜いた。
「なんだよ、誰が間抜けだ!」
「間抜けでしょ。私が上を指した意味を理解してないんですもの。いえ、それ以前に自分の力を全くというほど把握してない。好奇心旺盛の割には自分に無頓着ね」
「うるせいよ。それじゃあ、お前はこの力のことがわかんのかよ?」
「ええ、少しは。この箪笥、あなたの脳の奥に眠る、鍵を掛けた記憶たちを表している。それを無理やりこじ開ける。それがあなたの能力」
「無理やり?」
「そう、無理やり。脳にどれほどの負荷がかかると思っているの?」
「負荷って、そうなの?」
「人が記憶として認識できる領域には限りがある。だから、人は不要な記憶や、覚える気のない記憶を圧縮し保存している。もし、これらを思い出す必要があるなら、再度同じ情報に触れる、記憶に紐づけをしておく。などの行為が必要。それを行わずに思い出すということは、脳にそれ相応の負担を掛けるということ」
「それって、あんまりよくない行為?」
「あなたの能力、多用すれば、脳が壊れるでしょうね」
「うっそ。じゃあ、この頭がぼーっとする感じは?」
「脳が負荷に耐えられていない証」
「マジか? 使えないなぁ、この能力!」
いや、もちろん、使い方次第では大変便利なのはわかるけど、代償が怖すぎて困る。
これからは気軽に使いにくくなった。
「じゃあさ、道順が覚えられないのって、脳に負担が大きいから?」
「さぁ、私もあなたの能力を全て把握してるわけじゃない。ただ分かるのは、引き出しを開ける行為が、脳に負荷を与えているということだけ。でも」
「でも、なに?」
「道順は単純にあなたの記憶力の問題だと思う。情報過多で覚えられない」
「俺が馬鹿ってこと?」
「あなたは間抜けだけど、馬鹿ではないわ」
「それ、褒めてんのか、貶してんのか?」
「フフ。ヤツハとしてのあなたはこんな奇妙な能力を手に入れた。でも、記憶力は笠鷺燎として普通のまま。普通の人が複雑な道のりを覚えきるというのは、大変難しい。それも風景の変わらぬ道を」
「なるほどね。じゃあ、お前はそれがわかっていたから、ただ上を目指せと?」
「フフ」
影の女は問いには答えず、薄く笑い後ろを振り向く。
そして、闇に溶け込むように姿を虚ろなものとしていく。
彼女は消え去る間際に、アドバイスのようなものを残す。
「現実に戻ったら……そうね、三方一両損だったかしら? そのことについて、思い出してごらんなさい」
「え、どうして、いまさら」
「フフフ、不要な記憶は留まらないってことよ。それじゃ、身体を労わりなさいよ」
影の女は完全に闇へ消えてしまった。
これ以上ここにいても仕方がないので、意識を現実に帰す。
「はぁ~、戻ったか。え~っと、三方一両損ね。たしかぁ~」
大岡裁きの三方一両損のことを思い出す。だが……。
「あれ、おかしい?」
大雑把な内容は覚えているけど、登場人物の名前が思い出せない。
「えっと、一人は金太郎で、もう一人は……誰だっけ?」
金太郎の喧嘩相手を思い出そうとするが、全く持って記憶がかすりもしない。
「忘れた、ってことか? どうでもいい記憶だから、再び引き出しに戻ったのか……なるほど、この能力のことがわかってきた気がする」
――箪笥が鎮座する世界。その引き出しの中の記憶
・俺が触れたことのある記憶が納まっている。ただし、情報の正誤はわからない。
・使用すれば脳に負荷がかかる。
・覚えているのは一時的で、意識していなければ忘れてしまう。
・情報量が俺の記憶力を上回っていると、すべてを覚えられない。
「くそ、本当に使い勝手が悪いな。今度からは頭がぼーっとしてきたら使うのはやめておかないと。たぶん、そこさえ気をつければ大丈夫だろ」
少なくとも、お地蔵様は俺に同情していた。無茶をしないかぎり俺が傷つくような能力を与えないはず。
贅沢を言えば、能力に関する説明書をつけて欲しかったけど……。
俺は軽く両こめかみを揉んで、水路を見上げる。
「結局、上に上がるルートを探さなきゃいけないわけだ。近くの梯子や階段はさすがに駄目だろうなぁ」
城の敷地がどれほど広いのかわからない。
下手をすれば、別の隠し通路を探し当ててしまうかもしれない。
なので、ある程度距離を取った場所から地上へ向かった方がいいだろう。
「んじゃ、さっさと戻りますか」
「さてと、帰り道は~っと……帰り道? ん、待てよ。箪笥の世界の能力を使えば、歩いてきた道順を覚えてるんじゃ? うわ~、俺とことん馬鹿だ……」
さらなる馬鹿さ加減に気づいてしまった。
帰るのに、地図も、上に上がるもなかった。歩いてきた道順を思い出せばよかっただけなのに。
しかし、嘆いても仕方ない。早速、意識をあの世界に飛ばそう。
――目を閉じ、開けると箪笥の世界。
プレートに地図と書かれてある引き出しを開けて覗き込む。
「えっと、あった。最初は小川の近くの扉から……」
頭の中に賭博場までの道順が流れ込んでくる。そして、そこからゴブリンを追ってここまでの道順を辿っていく。
「よし、覚えた。めっちゃ道を曲がりまくってたんだな。んじゃ、小川そばの入り口まで戻るか」
意識を現実に戻し、地下水路の風景を目に映す。
「さて、道順を逆に追ってっと、最初は右をまっすぐ行って、次が左で三本目の十字路を右で、T字路を……あれ?」
記憶がぼやけていく。
「くそ、すぐに忘れちゃったよ。曲がり角の数が多すぎてわけわかんね」
もう一度、意識を飛ばし先ほどの引き出しを覗き込む。
「どれどれ……道順は~……ん、あれ? なんか、頭がぼーっとするような~」
「あなたって、本当に間抜けね」
「えっ?」
影の女の声が耳に届き、慌てて引き出しから顔を引っこ抜いた。
「なんだよ、誰が間抜けだ!」
「間抜けでしょ。私が上を指した意味を理解してないんですもの。いえ、それ以前に自分の力を全くというほど把握してない。好奇心旺盛の割には自分に無頓着ね」
「うるせいよ。それじゃあ、お前はこの力のことがわかんのかよ?」
「ええ、少しは。この箪笥、あなたの脳の奥に眠る、鍵を掛けた記憶たちを表している。それを無理やりこじ開ける。それがあなたの能力」
「無理やり?」
「そう、無理やり。脳にどれほどの負荷がかかると思っているの?」
「負荷って、そうなの?」
「人が記憶として認識できる領域には限りがある。だから、人は不要な記憶や、覚える気のない記憶を圧縮し保存している。もし、これらを思い出す必要があるなら、再度同じ情報に触れる、記憶に紐づけをしておく。などの行為が必要。それを行わずに思い出すということは、脳にそれ相応の負担を掛けるということ」
「それって、あんまりよくない行為?」
「あなたの能力、多用すれば、脳が壊れるでしょうね」
「うっそ。じゃあ、この頭がぼーっとする感じは?」
「脳が負荷に耐えられていない証」
「マジか? 使えないなぁ、この能力!」
いや、もちろん、使い方次第では大変便利なのはわかるけど、代償が怖すぎて困る。
これからは気軽に使いにくくなった。
「じゃあさ、道順が覚えられないのって、脳に負担が大きいから?」
「さぁ、私もあなたの能力を全て把握してるわけじゃない。ただ分かるのは、引き出しを開ける行為が、脳に負荷を与えているということだけ。でも」
「でも、なに?」
「道順は単純にあなたの記憶力の問題だと思う。情報過多で覚えられない」
「俺が馬鹿ってこと?」
「あなたは間抜けだけど、馬鹿ではないわ」
「それ、褒めてんのか、貶してんのか?」
「フフ。ヤツハとしてのあなたはこんな奇妙な能力を手に入れた。でも、記憶力は笠鷺燎として普通のまま。普通の人が複雑な道のりを覚えきるというのは、大変難しい。それも風景の変わらぬ道を」
「なるほどね。じゃあ、お前はそれがわかっていたから、ただ上を目指せと?」
「フフ」
影の女は問いには答えず、薄く笑い後ろを振り向く。
そして、闇に溶け込むように姿を虚ろなものとしていく。
彼女は消え去る間際に、アドバイスのようなものを残す。
「現実に戻ったら……そうね、三方一両損だったかしら? そのことについて、思い出してごらんなさい」
「え、どうして、いまさら」
「フフフ、不要な記憶は留まらないってことよ。それじゃ、身体を労わりなさいよ」
影の女は完全に闇へ消えてしまった。
これ以上ここにいても仕方がないので、意識を現実に帰す。
「はぁ~、戻ったか。え~っと、三方一両損ね。たしかぁ~」
大岡裁きの三方一両損のことを思い出す。だが……。
「あれ、おかしい?」
大雑把な内容は覚えているけど、登場人物の名前が思い出せない。
「えっと、一人は金太郎で、もう一人は……誰だっけ?」
金太郎の喧嘩相手を思い出そうとするが、全く持って記憶がかすりもしない。
「忘れた、ってことか? どうでもいい記憶だから、再び引き出しに戻ったのか……なるほど、この能力のことがわかってきた気がする」
――箪笥が鎮座する世界。その引き出しの中の記憶
・俺が触れたことのある記憶が納まっている。ただし、情報の正誤はわからない。
・使用すれば脳に負荷がかかる。
・覚えているのは一時的で、意識していなければ忘れてしまう。
・情報量が俺の記憶力を上回っていると、すべてを覚えられない。
「くそ、本当に使い勝手が悪いな。今度からは頭がぼーっとしてきたら使うのはやめておかないと。たぶん、そこさえ気をつければ大丈夫だろ」
少なくとも、お地蔵様は俺に同情していた。無茶をしないかぎり俺が傷つくような能力を与えないはず。
贅沢を言えば、能力に関する説明書をつけて欲しかったけど……。
俺は軽く両こめかみを揉んで、水路を見上げる。
「結局、上に上がるルートを探さなきゃいけないわけだ。近くの梯子や階段はさすがに駄目だろうなぁ」
城の敷地がどれほど広いのかわからない。
下手をすれば、別の隠し通路を探し当ててしまうかもしれない。
なので、ある程度距離を取った場所から地上へ向かった方がいいだろう。
「んじゃ、さっさと戻りますか」
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