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第五章 空間の魔法使いヤツハ(仮)
精神と身体の不一致
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――エクレル邸・地下練習場。訓練三日目(回想)
初日は顔見せと基礎トレーニングで終わり、二日目はフォレに武術の基礎を教わった。
三日目はエクレル先生から魔法の使い方を手取り足取り教わる。それはもう、ねっとりと厭らしく……。
「はい、ヤツハちゃん。意識を集中して、両手で何かを包むような形をとって。真ん中には炎を浮かべてごらんなさい」
「わ、わかったから、後ろから手を回して俺の手を握るのやめてよ。やりにくいわっ」
「まぁ、せっかく懇切丁寧に教えてあげてるのにぃ」
「あ~、もう。無駄に胸を押し付けるなって。女の俺にやっても仕方ないじゃん」
「う~ん、無駄ねぇ……でも、ヤツハちゃんからは奇妙な波動を感じるのよねぇ。女の子好きな。もしかして、同性が好きなんじゃないの? 今も顔は赤いけど怒ってる感じじゃないし」
鋭い。たしかに先生の胸の感触は童貞の俺にとって刺激的って、おっとダメダメ。話を戻し、練習に意識を集めよう。
「そんなんどうでもいいから、真面目に教えてよ。だいたい、いきなり魔法ってないいんでしょ? アプフェルから聞いたけど、最初は基礎知識から学ぶと教わったぞ」
「ふふ、アプフェルちゃんね。あの子の尻尾とお耳は可愛いわよねぇ」
「それには同意するけど……頼むから話を脱線させるのはやめようよ。今日はこの後、とある老夫婦宅の掃除と買い出しの仕事が入ってんだから」
「そう、大変ねぇ。仕方ない、真面目にやりましょうか」
「初めからやれよ……」
ジトリと睨みつけるが、エクレル先生はウフフっといたずらっ子のような笑みを浮かべ受け流す。
サダさんもそうだが、セクハラ属性を持つ人は反省という言葉を知らないらしい。
「で、まず何をするんですか? 面倒だけど勉強から?」
「いえ、普通はそうだけど、まずは魔導の体験をしてみる方がいいと私は思うの」
「体験って?」
「まぁ、そこでじっとして御覧なさい」
先生は数歩前に出ると、右手を前に伸ばす。
「天元を焼き尽くす炎、ミカハヤノ」
先生が魔法の名前らしき言葉を唱える。
唱え終えた途端に、巨大な球体の炎が創生された。
周囲の空気は炎から発せられる熱の波に歪んでいる。
俺は恐ろしくも優美な炎の釘付けになる。
(うん?)
じっと見つめる先に、薄い壁のようなものが見える。
先生の前には薄い壁があり、それが炎からの熱を防いでいるようだ。
しかし、壁があっても、肌の表面をチリチリとした熱が照りつける。
もし、壁がなければ、小型の太陽に身を焦がされていたに違いない。
「先生、これって相当すごい魔法じゃない?」
「ええ、一応炎系の最高クラス4の魔法だけど。どう?」
「どうって言われても……」
先生は両手を腰に当てて、自信満々の笑みを零す。
後ろには、嵐渦巻く灼熱の球体が浮かんでいる。
とりあえず、エクレル先生がすごい魔導師ということだけはわかった。
先生が炎に向かい手を振るうと、炎は一瞬にして消え去った。
残余するは、急速に熱を下げていく空気と、鼻につく焦げた匂い。
「じゃあ、ヤツハちゃん。やってみようか」
「いや、できるわけないじゃん、あんなの」
「誰も最初からそこまで求めてませんよ。まずは、簡単な火球から。私がサポートしてあげるから、やってみよう!」
右手を上に掲げて威勢よく言葉を発したかと思ったら、先生は俺の背後に周り、肩を揉み揉みしてくる。
「先生、真面目に……」
「もう、真面目だって。私がヤツハちゃんの体に眠る魔力と同調して力を引き出すから、私の指示通り動いてみなさい」
「はぁ、わかりました」
肩を揉む意味は? と、問いたかったが言っても意味のないこと。
先生に言われた通りに動いていく。
両手を前に持ってきて、何かを包み込むような円の形を取り、目を閉じて円の中心に火球をイメージする。
背後から先生の指示が飛ぶ。
「そうそう、いい感じ。じゃあ、同調率を高めるからね。魔力が発生するときに衝撃が身体に走るけど、驚かないように」
肩に乗っている先生の手の部分から、とても不思議な暖かさを持つ熱が流れ込んでくる。
熱は肩から二の腕、肘、手首、そして手の平へ集い始める。
両手にはピリピリと微弱な電流が走るような感覚が生まれる。
「手の平が熱くなってきたでしょ? では、目を開いて。熱は手の平から離れ、中心に集まる……さぁ、炎を思い描いて」
ぼんやりと白い光が手の平を包み、光は粒子となって円の中心に集まっていく。
光を見ながら、光が炎へと生まれ変わるイメージを描いた。
中心ではパチパチと光が音を立て始めて、小さな火花へと変わっていく。
厳かに、先生の声が響く
「そう。火花は小さな灯に。そして、炎へと生まれ変わる」
先生の言葉に耳を傾けて、火花が炎へと生まれ変わる姿を強くイメージした。
すると、火花は小さな球体へ変わり、すぐさま小さな球体はソフトボールほどの大きさへと変わる。
炎はどんどん成長していき、ついにはドッジボールほどの大きさへと変化した。
「おお、スゲェ。これ、俺がやってんの? これは、感動だなっ」
体の内部に不思議な力が渦巻き、両手はむずがゆく、同時に温かさを感じ、はっきりと俺が生み出した何かを感じていた。
地球では決してあり得ない事象……魔法という奇跡を目にして、胸は高鳴る。
俺は感情を抑えきれず弾む声を上げながら後ろを振り向いた。
「先生っ! これっていい感じだよねっ!」
「ええ、そうね……」
しかし先生は、俺とは対照的に難しい顔を見せている。
先生の両手はすでに俺の肩から離れており、代わりに彼女の右手は彼女自身の顎に置かれていた。
「先生、どうかした?」
「……ヤツハちゃん、炎をもっと大きくできる?」
「え? やってみます」
意識を集中して、体の内部に宿る不思議な力を両手に乗せ、炎へと変換していく。
ドッジボールほどの火球は見る見るうちに大きくなっていき、もはや両手では包み切れない。
両手の円を解き、炎を前に押し出すようにして、さらに火球を大きくしていく。
しかし、大きくなるにつれて、球体の維持が難しくなってきた。
自分の身の丈ほどの大きさになったところで、先生の方を振り向いた。
「こんなもんですけど、どうですか?」
「まだ、余裕があるのね?」
「ええ、まぁ」
「信じられない……初めて魔法を使って、クラス3の入口程度の炎の魔法を操れるなんて。しかも、途中から私のサポートを外したというのに」
先生はまじまじと俺が生み出した炎を見つめている。
様子から見て、結構すごいことのようだ。
「えっと、先生? これからどうします?」
「え? ええ、そうね。炎を消してちょうだい。話したいことがあるから」
「はい……どうやって消すんです、これ?」
「力の供給を断ち、イメージを霧散させて。その際、力が周囲に拡散しないように、静かに消え入るようにね」
「はい。力切って、イメージを止めて、拡散しないように、と」
魔力の供給を断って、イメージを消すと同時に、お湯に溶ける砂糖のように力を周囲に溶け込ましていった。
「ふぅ~、消えた。消すのってかなり気を使うな」
「慣れれば消す方が楽になるわよ。ちょっと変わった能力の持ち主には、拡散する魔力を再び、自分へ還元できる人もいるわ」
「へぇ~、それはエコでいいな」
「そこら辺の話はまた今度。それよりも……何から話せばいいかしら」
「ん? なんか、不味かったところがあったの?」
「いえ、見事な魔法でした。結果から言えば、天才。普通、初めて魔法を使ったときはどんな才能の持ち主でも、小さな火球を生むのがやっとなのに……」
「天才? マジでっ? それはいいなぁ」
俺は腕を組んでうんうんと何度も頷く。
やっぱり異世界に来たんだから、天才という看板がもらえるくらいの魔法を使えなくては。
こちらに来て以来、ドブさらいをしたり、掃除に洗濯に給仕と、異世界らしくないことばっかりしてきたが、ここでようやくそれっぽくなってきた。
だけどエクレル先生は、気分が高揚し鼻息を荒くしている俺に手厳しい指摘をしてくる。
「身に宿す魔力量は初心者とは思えない。でも、制御に不安が残るわね」
「え、まぁ、たしかに大きくなるにつれて、球体を保つのが難しくて……だけど、そこらへんは慣れだよね?」
「ええ、そうなんだけど。あなたの場合、それは難しいかも」
「へ、なんで?」
「魔力の同調がうまくいっていない。わずかだけどズレがあるの」
「ズレ? なにそれ? その前に同調の意味がわからないけど?」
「同調とは精神と体の一致。魔力には流れがあり、体に流れる魔力を精神で操作して、外へ放出する。その際、心と体がしっかり同調していなければならないのだけど、あなたには奇妙なズレがある」
「原因は?」
「わからない。だけど、ヤツハちゃんは記憶喪失だって言ってたわね。おそらく、そのせいなのかも」
「はぁ、なるほど」
先生に悪いが、その見解は間違っている。記憶喪失は真っ赤な嘘なので。
しかし、心と体が同調できていないという部分には、大いに思い当たることがある。
俺は元男。
この体は狭間の世界で誤って作ってしまった女の体。
そのため、うまく同調できていないのだと思う。
俺は先ほどまで、自分が生み出していた火球があった場所に目を移す。
そして瞬きをすると、指先に灯る小さな炎が目に宿った。
――意識は過去から戻り、宿屋の喧騒が耳に入ってくる。
俺は指先で揺らめく炎を吹き消して、指を折り、拳を握り締める。
(惜しい。せっかく天才とまで言われたのに……今朝のことも含め、やはり、男に戻る方法を探す必要があるな)
初日は顔見せと基礎トレーニングで終わり、二日目はフォレに武術の基礎を教わった。
三日目はエクレル先生から魔法の使い方を手取り足取り教わる。それはもう、ねっとりと厭らしく……。
「はい、ヤツハちゃん。意識を集中して、両手で何かを包むような形をとって。真ん中には炎を浮かべてごらんなさい」
「わ、わかったから、後ろから手を回して俺の手を握るのやめてよ。やりにくいわっ」
「まぁ、せっかく懇切丁寧に教えてあげてるのにぃ」
「あ~、もう。無駄に胸を押し付けるなって。女の俺にやっても仕方ないじゃん」
「う~ん、無駄ねぇ……でも、ヤツハちゃんからは奇妙な波動を感じるのよねぇ。女の子好きな。もしかして、同性が好きなんじゃないの? 今も顔は赤いけど怒ってる感じじゃないし」
鋭い。たしかに先生の胸の感触は童貞の俺にとって刺激的って、おっとダメダメ。話を戻し、練習に意識を集めよう。
「そんなんどうでもいいから、真面目に教えてよ。だいたい、いきなり魔法ってないいんでしょ? アプフェルから聞いたけど、最初は基礎知識から学ぶと教わったぞ」
「ふふ、アプフェルちゃんね。あの子の尻尾とお耳は可愛いわよねぇ」
「それには同意するけど……頼むから話を脱線させるのはやめようよ。今日はこの後、とある老夫婦宅の掃除と買い出しの仕事が入ってんだから」
「そう、大変ねぇ。仕方ない、真面目にやりましょうか」
「初めからやれよ……」
ジトリと睨みつけるが、エクレル先生はウフフっといたずらっ子のような笑みを浮かべ受け流す。
サダさんもそうだが、セクハラ属性を持つ人は反省という言葉を知らないらしい。
「で、まず何をするんですか? 面倒だけど勉強から?」
「いえ、普通はそうだけど、まずは魔導の体験をしてみる方がいいと私は思うの」
「体験って?」
「まぁ、そこでじっとして御覧なさい」
先生は数歩前に出ると、右手を前に伸ばす。
「天元を焼き尽くす炎、ミカハヤノ」
先生が魔法の名前らしき言葉を唱える。
唱え終えた途端に、巨大な球体の炎が創生された。
周囲の空気は炎から発せられる熱の波に歪んでいる。
俺は恐ろしくも優美な炎の釘付けになる。
(うん?)
じっと見つめる先に、薄い壁のようなものが見える。
先生の前には薄い壁があり、それが炎からの熱を防いでいるようだ。
しかし、壁があっても、肌の表面をチリチリとした熱が照りつける。
もし、壁がなければ、小型の太陽に身を焦がされていたに違いない。
「先生、これって相当すごい魔法じゃない?」
「ええ、一応炎系の最高クラス4の魔法だけど。どう?」
「どうって言われても……」
先生は両手を腰に当てて、自信満々の笑みを零す。
後ろには、嵐渦巻く灼熱の球体が浮かんでいる。
とりあえず、エクレル先生がすごい魔導師ということだけはわかった。
先生が炎に向かい手を振るうと、炎は一瞬にして消え去った。
残余するは、急速に熱を下げていく空気と、鼻につく焦げた匂い。
「じゃあ、ヤツハちゃん。やってみようか」
「いや、できるわけないじゃん、あんなの」
「誰も最初からそこまで求めてませんよ。まずは、簡単な火球から。私がサポートしてあげるから、やってみよう!」
右手を上に掲げて威勢よく言葉を発したかと思ったら、先生は俺の背後に周り、肩を揉み揉みしてくる。
「先生、真面目に……」
「もう、真面目だって。私がヤツハちゃんの体に眠る魔力と同調して力を引き出すから、私の指示通り動いてみなさい」
「はぁ、わかりました」
肩を揉む意味は? と、問いたかったが言っても意味のないこと。
先生に言われた通りに動いていく。
両手を前に持ってきて、何かを包み込むような円の形を取り、目を閉じて円の中心に火球をイメージする。
背後から先生の指示が飛ぶ。
「そうそう、いい感じ。じゃあ、同調率を高めるからね。魔力が発生するときに衝撃が身体に走るけど、驚かないように」
肩に乗っている先生の手の部分から、とても不思議な暖かさを持つ熱が流れ込んでくる。
熱は肩から二の腕、肘、手首、そして手の平へ集い始める。
両手にはピリピリと微弱な電流が走るような感覚が生まれる。
「手の平が熱くなってきたでしょ? では、目を開いて。熱は手の平から離れ、中心に集まる……さぁ、炎を思い描いて」
ぼんやりと白い光が手の平を包み、光は粒子となって円の中心に集まっていく。
光を見ながら、光が炎へと生まれ変わるイメージを描いた。
中心ではパチパチと光が音を立て始めて、小さな火花へと変わっていく。
厳かに、先生の声が響く
「そう。火花は小さな灯に。そして、炎へと生まれ変わる」
先生の言葉に耳を傾けて、火花が炎へと生まれ変わる姿を強くイメージした。
すると、火花は小さな球体へ変わり、すぐさま小さな球体はソフトボールほどの大きさへと変わる。
炎はどんどん成長していき、ついにはドッジボールほどの大きさへと変化した。
「おお、スゲェ。これ、俺がやってんの? これは、感動だなっ」
体の内部に不思議な力が渦巻き、両手はむずがゆく、同時に温かさを感じ、はっきりと俺が生み出した何かを感じていた。
地球では決してあり得ない事象……魔法という奇跡を目にして、胸は高鳴る。
俺は感情を抑えきれず弾む声を上げながら後ろを振り向いた。
「先生っ! これっていい感じだよねっ!」
「ええ、そうね……」
しかし先生は、俺とは対照的に難しい顔を見せている。
先生の両手はすでに俺の肩から離れており、代わりに彼女の右手は彼女自身の顎に置かれていた。
「先生、どうかした?」
「……ヤツハちゃん、炎をもっと大きくできる?」
「え? やってみます」
意識を集中して、体の内部に宿る不思議な力を両手に乗せ、炎へと変換していく。
ドッジボールほどの火球は見る見るうちに大きくなっていき、もはや両手では包み切れない。
両手の円を解き、炎を前に押し出すようにして、さらに火球を大きくしていく。
しかし、大きくなるにつれて、球体の維持が難しくなってきた。
自分の身の丈ほどの大きさになったところで、先生の方を振り向いた。
「こんなもんですけど、どうですか?」
「まだ、余裕があるのね?」
「ええ、まぁ」
「信じられない……初めて魔法を使って、クラス3の入口程度の炎の魔法を操れるなんて。しかも、途中から私のサポートを外したというのに」
先生はまじまじと俺が生み出した炎を見つめている。
様子から見て、結構すごいことのようだ。
「えっと、先生? これからどうします?」
「え? ええ、そうね。炎を消してちょうだい。話したいことがあるから」
「はい……どうやって消すんです、これ?」
「力の供給を断ち、イメージを霧散させて。その際、力が周囲に拡散しないように、静かに消え入るようにね」
「はい。力切って、イメージを止めて、拡散しないように、と」
魔力の供給を断って、イメージを消すと同時に、お湯に溶ける砂糖のように力を周囲に溶け込ましていった。
「ふぅ~、消えた。消すのってかなり気を使うな」
「慣れれば消す方が楽になるわよ。ちょっと変わった能力の持ち主には、拡散する魔力を再び、自分へ還元できる人もいるわ」
「へぇ~、それはエコでいいな」
「そこら辺の話はまた今度。それよりも……何から話せばいいかしら」
「ん? なんか、不味かったところがあったの?」
「いえ、見事な魔法でした。結果から言えば、天才。普通、初めて魔法を使ったときはどんな才能の持ち主でも、小さな火球を生むのがやっとなのに……」
「天才? マジでっ? それはいいなぁ」
俺は腕を組んでうんうんと何度も頷く。
やっぱり異世界に来たんだから、天才という看板がもらえるくらいの魔法を使えなくては。
こちらに来て以来、ドブさらいをしたり、掃除に洗濯に給仕と、異世界らしくないことばっかりしてきたが、ここでようやくそれっぽくなってきた。
だけどエクレル先生は、気分が高揚し鼻息を荒くしている俺に手厳しい指摘をしてくる。
「身に宿す魔力量は初心者とは思えない。でも、制御に不安が残るわね」
「え、まぁ、たしかに大きくなるにつれて、球体を保つのが難しくて……だけど、そこらへんは慣れだよね?」
「ええ、そうなんだけど。あなたの場合、それは難しいかも」
「へ、なんで?」
「魔力の同調がうまくいっていない。わずかだけどズレがあるの」
「ズレ? なにそれ? その前に同調の意味がわからないけど?」
「同調とは精神と体の一致。魔力には流れがあり、体に流れる魔力を精神で操作して、外へ放出する。その際、心と体がしっかり同調していなければならないのだけど、あなたには奇妙なズレがある」
「原因は?」
「わからない。だけど、ヤツハちゃんは記憶喪失だって言ってたわね。おそらく、そのせいなのかも」
「はぁ、なるほど」
先生に悪いが、その見解は間違っている。記憶喪失は真っ赤な嘘なので。
しかし、心と体が同調できていないという部分には、大いに思い当たることがある。
俺は元男。
この体は狭間の世界で誤って作ってしまった女の体。
そのため、うまく同調できていないのだと思う。
俺は先ほどまで、自分が生み出していた火球があった場所に目を移す。
そして瞬きをすると、指先に灯る小さな炎が目に宿った。
――意識は過去から戻り、宿屋の喧騒が耳に入ってくる。
俺は指先で揺らめく炎を吹き消して、指を折り、拳を握り締める。
(惜しい。せっかく天才とまで言われたのに……今朝のことも含め、やはり、男に戻る方法を探す必要があるな)
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