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番外編 最良だったはずの世界
番外編3 良き世界?
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ケントたちはニャントワンキルの魔女王ミーニャに従うマフィンに連れられ、彼らの代表と会うことになった。
これに小柄な戦士は不満顔を見せている。
錬金術で造られた転送石を使い、ビュール大陸の内部にある森へ。
そこに彼らの本拠地があるそうだ。
森の中を歩む道中、マフィンたちから端的に説明を聞く。
ここはケントのいた時代よりも二十年ほど未来。
この世界でもケントはアグリスの王となっているが、多くの種族民族と敵対していると。
マフィンもその一人。
今はこれだけを聞いて、詳しい事情は彼らの代表から聞くとなった。
無言で歩く中、ケントの懐に収まっていた青い真実の瞳が小さく振動する。
これはフィナが通信用にケントに渡しているナルフ。
彼は他の誰にも気づかれぬように、ナルフを握り締め、囁くように言葉を漏らす。
「フィナか?」
「小声? なるほど、普通に話せない状況なのね」
「そういうことだ。細かな事情は話せないが、現在別の世界にいる」
「みたいね。それはこっちのセンサーでもわかってる。何とかあんたを取り戻す方法を探ってるけど、何かが干渉して簡単にはいかない」
「ミーニャの話では、この世界は空間の干渉波で雁字搦めらしいからな」
「ミーニャ?」
「侵入者だ」
「そう、仲良くやってるみたいね。とりあえず、敵じゃないと思っていい?」
「ああ」
ケントは周囲へ視線を振る。
小柄な戦士が訝し気に彼を見ている。
「悪いが、そろそろ通信切る」
「いえ、回線は開いたままにしてて。そっちの状況が知りたいから」
「わかった」
彼は体を掻くふりをして、ナルフを懐へ戻した。
――本拠地へ到着
といっても、そこには何もなく、森の中の開けた場所。
ケントの隣にいるミーニャは小さく語る。
「空間の位相をずらして建物を隠しているようニャ」
「マフィンは君を魔女王として認めたが、他の者には警戒されているということか」
正面へ顔向ける。
正面の空間が歪み、ケントはとても懐かしい兄妹の姿を銀眼に映した。
「レイ? アイリ?」
彼らはケントの知っている姿よりも年を取り、また服装も勇者時代とは違い、簡素な戦士服を纏っているだけ。
さらに彼らの周りにはギウたち……。
「これは……驚いた。この世界では君たちが生き残っているのか? 良い世界だ……」
この言葉に、レイとアイリは冷たい視線を見せて、ケントの心を切り裂く。
「マフィンからの通信で事情はある程度知っている。別の世界から来たケントだと」
「生き残っている? ってことは、あんたの世界では私たちを殺したの?」
言葉の一文字一文字に殺気が宿る。
ケントは眉を顰め、言葉を返す。
「どうやら、君たちとまで敵対しているようだな。はぁ~、世界は違えど、久しぶりに会えた弟と妹にそのような目を見せられるとは……」
彼はギウへ視線を振る。
「ギウたちの中に私の知るギウは?」
この問いに、レイたちの後方から声が届く。
「いない。二年前の戦いでギウも百合も亡くなったから」
濃いサファイア色の長い髪を風に揺らし、同じくサファイヤのように輝く瞳に僅かばかりの紫を溶け込ませ、目尻に細かな皺を見せる女性。
ケントの知る世界の彼女とは違い、赤ではなく青いコートを纏い、肩から腰に掛けては魔力の宿る試験型属性爆弾を装備し、腰元には黄金の魔法石輝く鞭。
ケントは彼女の名を呼ぶ。
「なるほど、代表は君か。フィナ」
彼女はケントの声に答えを返さず、小柄な戦士へ視線を振る。
彼はフィナヘ報告を上げる。
「怪しげな空間変動を調べに行ったら、こいつらがいた。別の世界から来たとかほざいてやがる。んで、そこの猫娘はキャビットのご先祖、ニャントワンキルの魔女王だそうだ」
報告を受けて、フィナは半透明のメビウスの形をしたナルフを浮かべ、それを見つめる。
「たしかにケントの次元係数が私たちの世界と違う。そちらのお嬢ちゃんは……イラと同じで正体がわからない」
彼女のこの一言にマフィンが声を上げる。
「ミーニャ様は間違いなくニャントワンキルの魔女王ニャ! 敵ではにゃいニャ!」
「はぁ、それがどんな存在なのかいまいちわかんないけど、マフィンがそういうなら信じましょ」
この言葉に反対する声が彼女の後ろから聞こえてきた。
「おいおい、決戦前だってのにいいのかよ、フィナの嬢ちゃんよ?」
「うむ、万が一ということもある。徹底的に調べておくべきでは?」
「よければ、僕が調べましょうか? それこそ徹底的に!」
声の主たちは、親父・マスティフ・カイン。
フィナは彼らにこう言葉を返す。
「その必要はない。危険じゃないことはわかるから。それよりも親父。いい加減、嬢ちゃん呼ばわりは止めなさいって言ってるでしょ。もう、私は四十を越えてるんだから」
「へへ、すまねぇな。なかなか、癖が抜けなくてよ」
そう言って、彼は白髪混じりの頭を掻く。
その隣に立つカインはフィナヘ強い言葉をぶつける。
「相手がどの世界の誰であろうとケントには違いない。僕は調べるべきだと思う」
「その必要はないと言ってるでしょ」
「チッ!」
彼は舌打ちをして、ケントを睨む。
これにケントは大きくため息をつく。
「どうやら私は、こちらのカインから随分と嫌われているようだ。フィナ、私の世界とどれほど齟齬があるのか確認したい。正直、色々戸惑いがあってな。それにこちらの事情もしっかりと伝えたい」
「わかった。そうしましょ」
これに小柄な戦士は不満顔を見せている。
錬金術で造られた転送石を使い、ビュール大陸の内部にある森へ。
そこに彼らの本拠地があるそうだ。
森の中を歩む道中、マフィンたちから端的に説明を聞く。
ここはケントのいた時代よりも二十年ほど未来。
この世界でもケントはアグリスの王となっているが、多くの種族民族と敵対していると。
マフィンもその一人。
今はこれだけを聞いて、詳しい事情は彼らの代表から聞くとなった。
無言で歩く中、ケントの懐に収まっていた青い真実の瞳が小さく振動する。
これはフィナが通信用にケントに渡しているナルフ。
彼は他の誰にも気づかれぬように、ナルフを握り締め、囁くように言葉を漏らす。
「フィナか?」
「小声? なるほど、普通に話せない状況なのね」
「そういうことだ。細かな事情は話せないが、現在別の世界にいる」
「みたいね。それはこっちのセンサーでもわかってる。何とかあんたを取り戻す方法を探ってるけど、何かが干渉して簡単にはいかない」
「ミーニャの話では、この世界は空間の干渉波で雁字搦めらしいからな」
「ミーニャ?」
「侵入者だ」
「そう、仲良くやってるみたいね。とりあえず、敵じゃないと思っていい?」
「ああ」
ケントは周囲へ視線を振る。
小柄な戦士が訝し気に彼を見ている。
「悪いが、そろそろ通信切る」
「いえ、回線は開いたままにしてて。そっちの状況が知りたいから」
「わかった」
彼は体を掻くふりをして、ナルフを懐へ戻した。
――本拠地へ到着
といっても、そこには何もなく、森の中の開けた場所。
ケントの隣にいるミーニャは小さく語る。
「空間の位相をずらして建物を隠しているようニャ」
「マフィンは君を魔女王として認めたが、他の者には警戒されているということか」
正面へ顔向ける。
正面の空間が歪み、ケントはとても懐かしい兄妹の姿を銀眼に映した。
「レイ? アイリ?」
彼らはケントの知っている姿よりも年を取り、また服装も勇者時代とは違い、簡素な戦士服を纏っているだけ。
さらに彼らの周りにはギウたち……。
「これは……驚いた。この世界では君たちが生き残っているのか? 良い世界だ……」
この言葉に、レイとアイリは冷たい視線を見せて、ケントの心を切り裂く。
「マフィンからの通信で事情はある程度知っている。別の世界から来たケントだと」
「生き残っている? ってことは、あんたの世界では私たちを殺したの?」
言葉の一文字一文字に殺気が宿る。
ケントは眉を顰め、言葉を返す。
「どうやら、君たちとまで敵対しているようだな。はぁ~、世界は違えど、久しぶりに会えた弟と妹にそのような目を見せられるとは……」
彼はギウへ視線を振る。
「ギウたちの中に私の知るギウは?」
この問いに、レイたちの後方から声が届く。
「いない。二年前の戦いでギウも百合も亡くなったから」
濃いサファイア色の長い髪を風に揺らし、同じくサファイヤのように輝く瞳に僅かばかりの紫を溶け込ませ、目尻に細かな皺を見せる女性。
ケントの知る世界の彼女とは違い、赤ではなく青いコートを纏い、肩から腰に掛けては魔力の宿る試験型属性爆弾を装備し、腰元には黄金の魔法石輝く鞭。
ケントは彼女の名を呼ぶ。
「なるほど、代表は君か。フィナ」
彼女はケントの声に答えを返さず、小柄な戦士へ視線を振る。
彼はフィナヘ報告を上げる。
「怪しげな空間変動を調べに行ったら、こいつらがいた。別の世界から来たとかほざいてやがる。んで、そこの猫娘はキャビットのご先祖、ニャントワンキルの魔女王だそうだ」
報告を受けて、フィナは半透明のメビウスの形をしたナルフを浮かべ、それを見つめる。
「たしかにケントの次元係数が私たちの世界と違う。そちらのお嬢ちゃんは……イラと同じで正体がわからない」
彼女のこの一言にマフィンが声を上げる。
「ミーニャ様は間違いなくニャントワンキルの魔女王ニャ! 敵ではにゃいニャ!」
「はぁ、それがどんな存在なのかいまいちわかんないけど、マフィンがそういうなら信じましょ」
この言葉に反対する声が彼女の後ろから聞こえてきた。
「おいおい、決戦前だってのにいいのかよ、フィナの嬢ちゃんよ?」
「うむ、万が一ということもある。徹底的に調べておくべきでは?」
「よければ、僕が調べましょうか? それこそ徹底的に!」
声の主たちは、親父・マスティフ・カイン。
フィナは彼らにこう言葉を返す。
「その必要はない。危険じゃないことはわかるから。それよりも親父。いい加減、嬢ちゃん呼ばわりは止めなさいって言ってるでしょ。もう、私は四十を越えてるんだから」
「へへ、すまねぇな。なかなか、癖が抜けなくてよ」
そう言って、彼は白髪混じりの頭を掻く。
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「その必要はないと言ってるでしょ」
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「どうやら私は、こちらのカインから随分と嫌われているようだ。フィナ、私の世界とどれほど齟齬があるのか確認したい。正直、色々戸惑いがあってな。それにこちらの事情もしっかりと伝えたい」
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