銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
310 / 359
第二十六章 過を改め正へ帰す

罠など何するものぞ

しおりを挟む
 私は意識をヴァンナスの施設に戻し、フィナに状況を問う。

「百のクローンが全員活動を始めるまで、どの程度猶予がある?」
「う~んとね……この調子だとひと月は、えっ!?」
「どうした、フィナ?」
「急に施設の稼働率が上がった。ちょっと、冗談でしょ。この調子だと三日以内に全員が活動を始めちゃう」
「なぜ、突然?」
「わかんない。だけど、呼ばれてる気がする」

「なに?」
「こっちが覗いていることを知ってて、わざと呼び寄せようとしている感じがする」
「……ネオ陛下だろうな」
「え?」

「あの方が行いそうなやり口だ。おそらく、バルドゥルの目覚めを感知して、その脅威が消えたことを訝しがった。そこから、この遺跡が何者かに探索されていると考え、その者にメッセージを送っている。止められるものなら止めてみろ、とね」

「止められるものなら? それってさ、アーガメイトと勇者と関わりの深いあんたが遺跡の探索者だとヴァンナスは思ってるんじゃない?」
「そうだろうな……しかし、三日か。三日ではヴァンナスに行けない」
「それは問題ない」


 フィナはモニターを操り、部屋の端にある転送装置を稼働させた。
「翻訳されたおかげで転送装置を自在に操れるようになった。この転送装置を使えば、王都オバディアの研究施設の結界程度なら貫通して転送が可能。一気に敵の懐に飛び込めるよ」
「そうか、それは良かった」
「よくないっ」

 フィナはこれでもかと眉間に皺を寄せて口を尖らせている。
「フィナ、どうした?」
「どうしたもこうしたもないよ! あんたの親父が転送装置のセキュリティを破れという課題を出してたのにさっ。こんな形で破っちゃって。これだとカンニングしたのとおんなじじゃん!」

「あははは、それでむくれているのか」
「うっさい。それよりもいつ行くの?」
「そうだな、残りの勇者たちが活動する三日以内に……いや、罠があるだろうから、もう少し間を置いて様子を窺った方がいいか」

「私は余り間を空けずに行くべきだと思う」


 彼女の声にエクア・親父・カイン・マスティフ・マフィンの声が続く。
「時間が経てば経つほど厳しくなると思います。だから、私もすぐに行くべきだと思います」
「いつ行っても罠があるなら、罠の存在なんて関係ないでしょうよ。旦那」
「そうですね。それに、相手も急なことで迎え撃つ準備も万端ではないでしょうし」

「うむ、エクアの言うとおり、時が経てば守りが固くなるだろうな。ならば、百よりも十の勇者を相手にする方が幾許いくばくか楽というもの」
「馬鹿は放置するほど調子に乗るものニャ。にゃから、のっけからガツンとやってやるのが鉄則ニャよ」


「みんな……わかった、行こう。だが、さすがに何の準備もなしにとはいくまい。フィナ、二日で遺跡内で使えそうな武器類を準備してくれ」
「おっけ。ただ、武器システムはセキュリティがガチガチで翻訳された状態でも結構厳しい……ま、やってみるけど」

「頼んだ。それとだ、エクア・親父・カイン。三人は一度トーワへ戻り、キサとゴリンに留守にすると伝えてくれ。また、何か必要なものがあれば用意しててくれ」
「はい」
「了解ですぜ、旦那」
「わかりました、ケントさん」

「マスティフ殿とマフィンは一度領地に戻って、ある程度事情を話しておいた方が」
「その必要はなかろう。話せば余計な心配をかける。しばらく留守にするとだけ伝えておく」
「俺もそうするニャ。兵を連れてくるという考えもあるにゃが、今回の作戦の場合、少数精鋭で動きやすい方がいいしニャ」

「そうか。あと一つだけよろしいか?」
「わかっておる。おさが堂々とヴァンナスの懐に忍び込み、その施設の破壊に手を出すというのは明らかな敵対行為。これでは、戦争を吹っ掛けるようなもの」
「そうにゃれば、俺らもトロッカーも終わりニャね……でもそれは、トーワもニャよ」

 
 二人は獲物を捕らえる獰猛な目でギラリと睨む。
 その目に対して、不敵に輝く銀色の目で応えた。


「ふふ、いま、こちらには世界一の錬金術師と古代人の技術があるからな。ヴァンナスもそう易々とこちらに手を出せまい。こちらの持つ技術を見せつけて、彼らが頭を出せないように振舞うさ」


 こう答えると、二人は笑い声と共に言葉を返す。
「がははは、では、トーワとトロッカーとマッキンドーは同盟関係ということだな。ヴァンナスに好き勝手させぬよう死力を尽くそうぞ」
「ヴァンナスだけに美味しい思いをさせる歴史は終わりニャよ。これからは俺たちが美味しい思いをする時代ニャ」

 この二人の笑いに、フィナの声が混じる。
「ってことは、私がすっごい武器を使えるようにしてヴァンナスをビビらせられるようにしないとねぇ。でも、二日か~。一年あれば余裕なんだけど……武器システムにアクセスするのキッツいなぁ。ねぇ、ギウにはわかんないの?」
「ギウ」
「わかんないんだ……なんか、この施設でギウにできることってある?」


 ギウはおっきなお目目の横に指先を当てて唸り声を上げる。
 そこからポンッと手を叩いて、フィナのそばにとあるもの生成した。
「ぎう~……ギウッ! ギウウ、ギウ」
「え、なに? これって……食べ物?」

 フィナの隣に小さなテーブルが生まれて、台の上にはコーヒーとケーキがあった。
 ケーキの上には茶色っぽい実と同じく茶色のカスタードクリームが線上で重なり、上からは白い粉砂糖が降りかかっている。

「もしかして、ギウってこの施設のことあんまり知らない?」
「ギウウ、ギウ」
「食べ物を出せるくらい? そういえば、百合の槍を銛に改装してたけど、武器の改造とか生産とかできないの?」
「ぎうう……」
「百合に怒られる……百合を呼んでシステムを扱わせることは?」

「ギウ、ギウギウ」
「頻繁に呼べるものじゃない。ジョーカーはとっておき? どゆこと?」
「ギウギウギウ」
「とにかく甘いものでも食べて? まぁ、いいけど。それじゃ遠慮なくケーキを……もぐもぐ……なにこれ!? ちょ~美味しいんですけどっ。上に乗ってるのは何かの木の実よね? スカルペルでは見たことないけど」
「ギウ」


 ギウはモニターを呼び出し操り、それをカードのようにフィナへ投げた。
 彼女はモニターを受け取り、中身を読む。
「木の実の名前はマロン。ケーキの名前はモンブラン。名前の由来は地球のアルプス山脈のモンブランで、フランス語で白い山」
「ぎうう~、ギウギウ、ギウ」

「ふむふむ、これはジュベルの好物で、おやつの時間によく出てた。百合たちも食べてたもの……古代人にもおやつの時間なんてあるんだ」
「ギウウ、ギウウ、ギウ」
「主にお菓子を作ってたのはアコスア。アコスアはお菓子作りが得意。百合は鍋料理が得意。ジュベルは麺料理。バルドゥルは丼もの…………なんだろうね、この施設の職員は料理が上手くないと駄目なの? ってか、フードレプリケートがあるのに」

「ギウギウ、ギウギウ」
「料理が得意なのはたまたま。この四人はレプリケートよりも手料理を好む傾向にある。ふ~ん……ねぇ、ギウが出せるのって食べ物だけ?」
「ギウ」
「そっか。それじゃ、ギウには地球の食べ物を紹介してもらうとして、何とか私一人で武器システムを解読しないと」


 フィナはコーヒーを手に取り、甘味かんみに溺れた舌先を清涼なものへと変える。
 そして、私に瞳だけを向けて、微笑む。


「ふふ、美味しいお菓子を届けてくれるメイドさんもいることだし、何とかして見せるね」
「ああ、期待している。これは君だけにしかできないことだからな」
「私だけか……そうね、この世界一の錬金術師、フィナ=ス=テイローにしかできないことっ。さ~ってと、やりますか!」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝
ファンタジー
 稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。  式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。  大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。 ★シリアス:コミカル=2:8

青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織
ファンタジー
2018年の現代に、竜が住み魔王が暮らすファンタジーのような国家があった。その国に暮らす大商人の娘は、トラブルを呼ぶ従兄のおかげで災難続き。ある日地底湖がある洞窟へと誘われて、馬車で出かけた娘が出会ったのは、魔王討伐パーティーの生き残り忍者と、討伐対象の魔王の息子。息子を追って襲い掛かろうとする魔王の手から、逃れるために結んだ契約。それがすべての始まりでした。 異色の三人組パーティーが辿る、100年のロード・ファンタジー。その始まりの物語。 ☆再構成して再登場!☆ *- -*  物語の続きは、  『赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。』にてご覧下さい!  ※この物語は、主人公であるレイミリア・ブラウンシュタイン・コーネリアス・ラ・グランスマイルの主幹に基づいて描かれています。実在する人物・団体・国家などについて不愉快な表現などございましたら文句は直接言ってやってください。その際のご連絡はグランスマイル商家までどうぞ!  ※登場する皆さんへ応援メッセージをお待ちしております!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

神の豆を育てる聖女は王子に豆ごと溺愛される

西根羽南
恋愛
豆原あずきは、豆の聖女として豆愛が深すぎる異世界に招かれた。 「開け豆」の言葉と共に強制睡眠の空豆のベッドや聖なる供物のあんこを呼び、日本に帰るために神の豆を育てる日々。 王子の優しさに淡い好意を抱くが、これは豆への愛なので勘違いしてはいけない。 「アズキの心の豆型の穴、俺に埋めさせてください」 「……これ、凄くいいこと言っているんだろうけど。何か緊張感がなくなるのよね。主に豆のせいで」 異世界で豆に愛される聖女になった女の子と、豆への愛がこじれて上手く伝えられない王子のラブコメ……豆コメディです。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完】こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる

国府知里
恋愛
 ゲーム会社で完徹続きのシステムエンジニア・ナナエ。乙女ゲームを納品した帰り、バスの中で寝落ちしてしまう。目が覚めるとそこは乙女ゲームの世界だった! あろうことか、全攻略キャラの好感度がMAXになるという最強アイテムにバグが発生! 早く起きて社長に報告しないと……!  「ええっ、目覚めるためには、両想いにならないとゲームが終わらない~っ!?」  恋愛経験ゼロのこじらせ女子のナナエにはリアル乙女ゲームは高い壁! 右往左往しながらもゲームキャラクターたちと関わっていく中で、翻弄されながらも自分を見つめ直すナナエ。その都度開かれていく心の扉……。人と深くかかわることが苦手になってしまったナナエの過去。記憶の底に仕舞い込んでいた気持ち。人知れず感じてきた生きづらさ。ゲームの中でひとつずつ解き放たれていく……。 「わたし、今ならやり直せるかもしれない……!」  ~恋愛経験値ゼロレベルのこじらせ女子による乙女ゲームカタルシス&初恋物語~

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...