銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十五章 故郷無き災いたち

宇宙最高の才

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――場面転換


 四人は暗い部屋に集まり、惑星スカルペルの映像とヨミの太陽の立体映像を囲み見ていた。
 百合が三人に話を始める。

「この星、て~か、この疑似宇宙、ミクロ宇宙を創ったのはサノアって高エネルギー生命体。いわゆる神ってやつだな」

「フンッ、神か。遥か昔、我々も崇めていた時代があったが……何とも原始的な連中よ」
「崇めるスカルペル人はまだ物事を知らねぇだけだからしょうがねぇだろ。それによ、このサノア様ってのは、かなり強力な神みてぇだ。おかげで俺たちも助かったんだから感謝しねぇとな」
「なんだと?」


 神に助けられた――この言葉にバルドゥルは嫌悪を露わとした。
 それは忌み嫌うものに助けられたという嫌悪ではなく、遥か格下の存在から情けを受けた嫌悪……。

 すでに地球人は神と呼ばれる存在を遥かに超えた知恵と力を手にしている。
 そのため、バルドゥルのような態度を見せる者は少なくない。
 百合はどうでもいいようだが……。


「ま、そのサノアの力について話すぜ」


――百合の説明

 創造主サノア――遠見と守護の神。遠見は遥か先の世を見通し、守護はあらゆる厄災から生命を保護するもの。

 
 サノアはその遠見の力で俺たちがやらかすことをずっと過去に知った。
 んで、創造したミクロ宇宙を俺たちの目から隠すことに決めた。
 
 スカルペル人がヨミの太陽と呼ぶ存在――こいつぁ、このミクロ宇宙を守るシールドにして遮蔽装置だ。
 本物の宇宙全体の重力場の変異に対応及び利用して、俺たちの観測からのがれ続けた。
 仮に俺たちのセンサーに反応しても、宇宙におけるごく自然な重力変化にすぎないと思わせ続けたんだ。
 だから、同じ宇宙の存在しながら今までこのミクロ宇宙を発見できなかった。

 さらにだ、こちらの兵器の暴走を予知して、全てを無にする力に耐えるシールドとしての役割も持ってやがる。

――――

「正直、とんでもねぇ神様だ。おそらく、宇宙中で俺たち以上にあの兵器の概念を理解していた存在だろうな。だから、何とか乗り切った」
「馬鹿なっ!?」


 言葉を弾けさせたのはバルドゥル。
 彼は癇癪を起こした子供のように手足をがむしゃらに振り始める。

「神如きが我々のの先を行くだと? 他の神々は我らの知に屈服したというのに!」
「たぶんだけどよ、遠見の力のおかげじゃねぇか。事が起こることを予期して、そこから先の知識を手にした。で、対応策を考えた」

「馬鹿を重ねるな! いかなる存在でも完璧に先を見通すなど不可能だ! 現に、かつての我々と比べ絶大な力を持っていた高エネルギー生命体共は先を予知できず、我々に敗れているではないか!」

「俺にそんなこと言われてもなぁ」


 百合は彼の剣幕に対して肩を竦めて受け流す。
 すると、ジュベルがぼそりと言葉を漏らし、それにバルドゥルは声を荒く返す。

「予知だけじゃない。この神は予測をしたんだ」
「予測っ?」
「遠見でできるだけ先の世を読み取り、靄で閉ざされた未来を人間のように予測で先を見つめた。弱神の中には成長する神がいる。彼らは人のように学び、手にした情報を基に先を予測していく。創造主クラスの存在には珍しいけど、サノアは努力する神なのかも」

「だから馬鹿を重ねるなと言っている! 我々とて必然と偶然を読み取り、先を覗くには膨大な計算が必要。それでも人間はその能力を高めに高め神を凌駕したのだぞ! 我々は素粒子レベルで宇宙全体の揺らぎを計算し、千年先すら覗くことができる。サノアとやらはそれ以上のことをやってのけたと!?」

「だろうな。なにせ俺たちは兵器の暴走の失敗を見通せなかったからな、ハハ」
「茶々を入れるなっ、副所長!!」


 バルドゥルは口惜し気に親指の爪を噛む。

「クッ、生まれながらにして自在に世界を創造し消し去れる存在が努力なぞ……それは我々人の力だぞ。神如きが努力という宇宙で最高の才を持つなどっ!」


 バルドゥルは途中で言葉を消し、奥歯を噛みしめる。
 彼にとって、努力する才は人間の持つ最高の才。
 生まれながらにして絶大な存在である者は努力などせずとも全てを手にする。
 だからこそ、人間は努力によって彼らに近づき、追いつき、追い越した。
 そうだというのに、サノアは創造の力を用い、さらには努力を重ねる神……。


 これにここまで黙っていたアコスアが声を漏らす。

「敵に回したら厄介そうね。努力する創造主クラスの神なんて。向こうから接触はないの、百合?」
「いまんところ音沙汰ねぇな。サノアがどこまで予知……予測か。予測してたか知らねぇけど、宇宙が滅ぶことを知っていた。だけど、滅びを止められるほどの力はない。いや、止める必要性はねぇのか」
「ん、それはどういう意味だい、百合?」

「ジュベル、よく考えろよ。俺たちの宇宙は連邦と火星が支配していた。両方とも強すぎる。サノアがどんなに凄い神でも敵わねぇ。このままじゃ自分の世界が奪われちまう。だけど、そいつらがあるとき突然消えちまったらどうなる?」


「あ、なるほど。宇宙の覇権は黙っててもスカルペル及びサノアが生み出したミクロ宇宙のものになるのか」
「そういうこった。創造主ってのは自分が生み出した命をとことん愛する。だから、このミクロ宇宙に住む者たちに本宇宙の支配者になってほしい。そう考えるもんだ」

「でも、その本宇宙が消えちゃったけど……」

「創ればいいだろ。もうライバルはいない。サノアが力を蓄え、ゆっくりと世界を産み出し続けるか、もしくはこのミクロ宇宙内だけで発展し、そこに存在する生命が世界を産み出す力を手に入れればいい」

「もし、サノアがそう考えていたら、僕たちの存在は邪魔なはず」
「そこなんだよ。接触するなら俺たちが弱っている今の内だ。今、攻撃を仕掛けられたらかなり厳しい。だけど、それを行わない。なんでだろうなぁ?」


「フン、考えられる可能性は三つだな」
 バルドゥルが鼻息を挟み、サノアの思惑を見つめる。

「一つは、我々の兵器の力を乗り越えるのがやっとで、サノアに力が残っていない。二つは、この星の住人に運命を託している。独り立ちを促す神らしい対応だ。最後は、我々を歓迎している、だ」

 百合が眉を折り曲げながら言葉を返す。
「最後のはないだろ」
「クク、ないな。おそらくだが前者の二つの理由が溶け合っているのだろう。力を使い切った。我々が生き残ることを予測できなかった。そのため対応できない。だから、世界の命運を自らが生んだ生命に賭けた」

「なんにせよ、俺たちに対応できる時間ができた。とにかく施設の復旧を済ませて、この星の住民と交流を深めるか、彼らが相応のレベルに上がるまで潜むか考えねぇと」


 そう、百合が唱えると、ジュベルとアコスアは同意と頷くが……バルドゥルは……。
「…………そうだな」
 沈黙を挟んでの同意だった。
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