271 / 359
第二十三章 ケント=ハドリー
兄と弟の年齢
しおりを挟む
「ごほん、あの、いいかな? アステ様の真意はもうわからない。だから今はわからないことよりも、私と兄さんの説明を続けた方がいいんじゃないかな?」
「……ああ、レイの言うとおりだ。えっと、どこまで話したか?」
「私たちが地球人の末裔のクローンで、体内に強化と滅びのナノマシンを宿していることと、兄さんがホムンクルスで強化のナノマシンのみを宿しているところまでだよ」
「そうだったな。では、話を続けよう」
私は今から十二年ほど前に実験体としてドハ研究所で目覚めた。
素体年齢は十歳。
私は生まれながらにして十歳だったわけだ。
ここでフィナが声を上げて、エクアもそれに続く。
「それじゃ、あんたって実年齢は十二歳なのっ?」
「え、私と同じ年齢?」
「まぁ、生まれてから世界で過ごした時間はエクアと変わらないか。私の活動期間は十二年。内三年は研究所の世界しか知らない。世界の広さを知った時間は九年ほどだ」
「そうだったんですか」
「ただ、私の場合、普通の少年少女と違い、予め基本的な知識を得た状態で活動を開始したので、知識もそうだが精神面も見た目相応だったと思う。だから、今の私を十二歳の少年として扱うのはおかしな話になる」
と、説明するが、フィナは大人の振舞いを見せ続けてきた私の姿に納得のできない様子で、腕組みをしながら斜め見でジトリと睨みつけてきた。
「それでも私より年下なのは間違いないじゃん。まったく、大人ぶって説教とかしてたくせに……今度から私のことをお姉ちゃんって呼びなさいよ」
「……呼ばれたいのか? フィナお姉ちゃん」
私は眉を折りながらそう呼ぶ。彼女は全身をぶるりと振るわせて、前言を撤回した。
「あ、ごめん、気持ち悪いからやめて」
「だろう……少なくとも私はこの十二年間、君以上に大人たちに触れて、歪んだ組織や政界を経験しているので、もはや少年の欠片なんてどこにも残っていないと思うぞ」
「子ども時代がほとんどないなんて、なんか寂しい話ね」
「私は特に寂しいと感じることはないが……ついでだ、レイやアイリが私を兄と呼ぶ理由にも触れておこう。レイ」
レイに顔を向ける。彼は軽く微笑んで理由を披露し、それをフィナが受け取る。
「私たちの方が先に創られたけど、兄さんの方が活動年数が長いから兄さんと呼ぶようになったんだ」
「なるほどね。だからアイリが二十五歳なのに二十二のケントを兄呼びしたわけだ。二人とも、活動期間は?」
「私を含め、勇者と呼ばれる七人はみんな九年ほど。肉体年齢は初期設定により差異があるけど。私は十五、アイリは十六だった。それで、九年経ったので、それぞれ二十四に二十五というわけだよ」
「そういうわけか……」
フィナは顎の下に手を置いてこくりと頷き、私へ視線を振る。
話の続きを求めているようだ。
彼女の催促に応え、さらに話は深く沈んでいく。
「では、一気に勇者であるレイたちがポットから出て、父がドハ研究所を破壊するまで話を進めよう」
――ケントが目覚めてから……。
ともかく、私は目覚めた。
目覚めたばかりの私はアステ=ゼ=アーガメイトを見て、脳に宿る知識からすぐに彼が私の創造主だと気づき、挨拶を交わした。
「初めまして、アステ=ゼ=アーガメイト様」
「ふむ、知識のインストールはうまくいったようだ。素体番号θ、今後お前は……そうだな、ケント=ハドリーとでも名乗るがいい」
こうして、私は父によって名を授けられた。
この実験の成功に、父もその部下である研究員たちも大いに喜んだ。
だが、すぐにそれは落胆に染まる。
なぜならば、私に宿った強化のナノマシンがあまりにも微弱なものだったからだ。
この時点で父は私に興味をなくし、私はしばらく他の研究員の下で経過観察を受けることになる。
ある時、たまたま父と研究員の会話が耳に入った。
「アレに名を授けたのは尚早だったか……未熟だったばかりに……」
この声を聞いて、私は役立たずとして処分されるのではないかと怯えた。
そこで私は自分の有用性を証明しようと、ドハ研究所のことを学ぶことにした。
その時に知ったのが、私には近しい存在がいること――それはクローンである勇者たちの存在だ。
私とは違い無から生まれたわけではないが、彼らもまた普通とは違う存在。スカルペル人とは違い体内にナノマシンを宿している。
私は彼らに惹かれた。
そして思った。もし、彼らを安全に目覚めさせることができれば、自分の有用性を認めてもらい、処分されずに済むのではないのだろうか?
私は彼らの命を奪おうとしている滅びのナノマシンのことだけを学び、それに必要な知識だけを吸収していく。
錬金や魔導に関する知識はさっぱりなのに、どういうわけかナノマシンに関する知識とは相性がよく、水を吸うスポンジのように知識が脳漿に宿っていった。
そうして生み出した数式を誇らしげに父へ見せた時のことは、今もはっきりと覚えている。
「アステ様、この数式を使えば滅びのナノマシンよりも早くレスターを吸着できて起動させずに済み、活性化を阻害できます」
「見せてみろ……ふむ、これはお前ひとりで考えたのか?」
「はいっ」
「……なるほど。見事だ……これはスカルペルの知識ではないな」
「え?」
「気にするな」
この会話――あの時は疑問だったが、今思えば、あの時からセアたちがいる情報世界とリンクしていたのかもしれない。
彼らが持つ知恵を無意識に借り、私は滅びのナノマシンを回避する数式を産み出した。
父はそれに気づいていたのかも……。
だがここで、フィナが私の考えを否定する。
「それはないと思う。何かしらに気づいたのかもしれなけど、たぶん、あんたが生み出した数式はセアたちの知識とは無関係」
「……ああ、レイの言うとおりだ。えっと、どこまで話したか?」
「私たちが地球人の末裔のクローンで、体内に強化と滅びのナノマシンを宿していることと、兄さんがホムンクルスで強化のナノマシンのみを宿しているところまでだよ」
「そうだったな。では、話を続けよう」
私は今から十二年ほど前に実験体としてドハ研究所で目覚めた。
素体年齢は十歳。
私は生まれながらにして十歳だったわけだ。
ここでフィナが声を上げて、エクアもそれに続く。
「それじゃ、あんたって実年齢は十二歳なのっ?」
「え、私と同じ年齢?」
「まぁ、生まれてから世界で過ごした時間はエクアと変わらないか。私の活動期間は十二年。内三年は研究所の世界しか知らない。世界の広さを知った時間は九年ほどだ」
「そうだったんですか」
「ただ、私の場合、普通の少年少女と違い、予め基本的な知識を得た状態で活動を開始したので、知識もそうだが精神面も見た目相応だったと思う。だから、今の私を十二歳の少年として扱うのはおかしな話になる」
と、説明するが、フィナは大人の振舞いを見せ続けてきた私の姿に納得のできない様子で、腕組みをしながら斜め見でジトリと睨みつけてきた。
「それでも私より年下なのは間違いないじゃん。まったく、大人ぶって説教とかしてたくせに……今度から私のことをお姉ちゃんって呼びなさいよ」
「……呼ばれたいのか? フィナお姉ちゃん」
私は眉を折りながらそう呼ぶ。彼女は全身をぶるりと振るわせて、前言を撤回した。
「あ、ごめん、気持ち悪いからやめて」
「だろう……少なくとも私はこの十二年間、君以上に大人たちに触れて、歪んだ組織や政界を経験しているので、もはや少年の欠片なんてどこにも残っていないと思うぞ」
「子ども時代がほとんどないなんて、なんか寂しい話ね」
「私は特に寂しいと感じることはないが……ついでだ、レイやアイリが私を兄と呼ぶ理由にも触れておこう。レイ」
レイに顔を向ける。彼は軽く微笑んで理由を披露し、それをフィナが受け取る。
「私たちの方が先に創られたけど、兄さんの方が活動年数が長いから兄さんと呼ぶようになったんだ」
「なるほどね。だからアイリが二十五歳なのに二十二のケントを兄呼びしたわけだ。二人とも、活動期間は?」
「私を含め、勇者と呼ばれる七人はみんな九年ほど。肉体年齢は初期設定により差異があるけど。私は十五、アイリは十六だった。それで、九年経ったので、それぞれ二十四に二十五というわけだよ」
「そういうわけか……」
フィナは顎の下に手を置いてこくりと頷き、私へ視線を振る。
話の続きを求めているようだ。
彼女の催促に応え、さらに話は深く沈んでいく。
「では、一気に勇者であるレイたちがポットから出て、父がドハ研究所を破壊するまで話を進めよう」
――ケントが目覚めてから……。
ともかく、私は目覚めた。
目覚めたばかりの私はアステ=ゼ=アーガメイトを見て、脳に宿る知識からすぐに彼が私の創造主だと気づき、挨拶を交わした。
「初めまして、アステ=ゼ=アーガメイト様」
「ふむ、知識のインストールはうまくいったようだ。素体番号θ、今後お前は……そうだな、ケント=ハドリーとでも名乗るがいい」
こうして、私は父によって名を授けられた。
この実験の成功に、父もその部下である研究員たちも大いに喜んだ。
だが、すぐにそれは落胆に染まる。
なぜならば、私に宿った強化のナノマシンがあまりにも微弱なものだったからだ。
この時点で父は私に興味をなくし、私はしばらく他の研究員の下で経過観察を受けることになる。
ある時、たまたま父と研究員の会話が耳に入った。
「アレに名を授けたのは尚早だったか……未熟だったばかりに……」
この声を聞いて、私は役立たずとして処分されるのではないかと怯えた。
そこで私は自分の有用性を証明しようと、ドハ研究所のことを学ぶことにした。
その時に知ったのが、私には近しい存在がいること――それはクローンである勇者たちの存在だ。
私とは違い無から生まれたわけではないが、彼らもまた普通とは違う存在。スカルペル人とは違い体内にナノマシンを宿している。
私は彼らに惹かれた。
そして思った。もし、彼らを安全に目覚めさせることができれば、自分の有用性を認めてもらい、処分されずに済むのではないのだろうか?
私は彼らの命を奪おうとしている滅びのナノマシンのことだけを学び、それに必要な知識だけを吸収していく。
錬金や魔導に関する知識はさっぱりなのに、どういうわけかナノマシンに関する知識とは相性がよく、水を吸うスポンジのように知識が脳漿に宿っていった。
そうして生み出した数式を誇らしげに父へ見せた時のことは、今もはっきりと覚えている。
「アステ様、この数式を使えば滅びのナノマシンよりも早くレスターを吸着できて起動させずに済み、活性化を阻害できます」
「見せてみろ……ふむ、これはお前ひとりで考えたのか?」
「はいっ」
「……なるほど。見事だ……これはスカルペルの知識ではないな」
「え?」
「気にするな」
この会話――あの時は疑問だったが、今思えば、あの時からセアたちがいる情報世界とリンクしていたのかもしれない。
彼らが持つ知恵を無意識に借り、私は滅びのナノマシンを回避する数式を産み出した。
父はそれに気づいていたのかも……。
だがここで、フィナが私の考えを否定する。
「それはないと思う。何かしらに気づいたのかもしれなけど、たぶん、あんたが生み出した数式はセアたちの知識とは無関係」
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる