251 / 359
第二十二章 銀眼は彼に応え扉を開く
きっかけを求めて
しおりを挟む
――トーワ城
奇跡の大地騒動はフィナの実験によるものとし、結局は失敗に終わったする。
それでも一部の範囲は浄化することができ、そこに小さな畑を作ることができたとして噂を広めた。
これで何とかヴァンナスとアグリスの目を誤魔化せたことを祈るばかりだ。
もし、誤魔化せなかったら……今のところ、何の策も浮かばない。特にヴァンナスに対しては……。
悟られれば、正直に遺跡の発掘を行ったと報告することになるだろう。
その時は協力者として、是が非でも探索チームにフィナを入れてもらえるように頼むつもりだ。
現在、彼女以上にトーワの遺跡に詳しい者はいない。ヴァンナスも難色を示すことはないはず。
だが最後には、アーガメイト一族の中でも王家寄りの者たちが彼女を排除しようとする。
悩ましいところだが、その時が来ないとどうなるかわからない。
今は予想される出来事をいくつも描きシミュレートするのが精一杯だ。
そのシミュレートの中にフィナが恐ろしく不穏なものを混ぜ込む。
『ヴァンナスが私から遺跡を奪うつもりなら、テイローの名で実践派を集めて戦争でも何でもやってやる!』と。
そのようなことにならぬよう、色々と方策を考えておかねば……ああ、胃が痛い。
さて、それら寿命を縮めかねない悩みはひとまず脇に置くとして、浄化機構とは別の遺跡の力。転送装置について話そう。
父の手によって遺跡の転送装置は、トーワ・アルリナ・トロッカー・マッキンドー・アグリスへと繋がった。
転送されるポイントは目立たぬ場所に設定されており、さらに訪れた先には転送装置が存在する。
これは遺跡に存在する一つの転送装置の次元を揺らし、複数に分化しているらしい。
技術の具体的な内容ついては、私ではわからない。
だがこれにより、私たちは遺跡を含めた主だった場所へ自在に行き来できるようになった。
トーワの転送ポイントはトーワ城二階の使用されていない部屋。
この部屋で起動用の指輪を使うと遺跡に繋がる転送装置が現れる仕組みとなっている。
指輪はマスティフ・マフィンを含めたトーワの主要メンバー全員に渡してあるが、頻繁に使用すれば誰かの目につく可能性が高まるので使用は必要最低限に留めるつもりだ。
――トーワ・執務室
「はぁ」
話は変わり、いま私は一人執務室で、別世界の二人のフィナと父から受け取った言葉について考えていた。
それは、仲間に自分の正体を明かすこと。
彼らの言葉の中で、父のアドバイス――イラと相談しろ。
彼女は虚ろな私という存在を確固として築き上げる人物を知っているらしい。
その方を紹介してもらうために、しばらくの間一人で城を離れることに決めた。
また、ゴリンはノイファンとの契約が終わり、彼や大工たちの直接雇用が可能になった。
そこで信頼できる彼にも私たちが得た情報を共有してもらおうと考えた。
さらには、キサやグーフィスにも……グーフィスは多少不安だが、フィナが強く秘密を守れと言えば彼は墓の下まで秘密を持っていくことだろう。
執務室にギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・ゴリン・キサ・グーフィスに集まってもらい、ゴリンたちへ私たちが行っている遺跡発掘について伝える。
三人は驚きと好奇心に体をソワソワしたり言葉を弾いたりしている。
彼らを遺跡に案内する役目はフィナたちに任せて、私はしばしトーワを留守にすると皆に伝えた。
「私個人の問題で、しばらく城を留守にする。フィナ、領主代行を頼む」
「わ、私が!? 親父やカインの方がよくない?」
「私がいない間に不測の事態が発生した場合、最も対処の幅が広いのは君だ。だから、君に預けたい。ただし、親父たちの意見にしっかり耳を傾けてくれよ」
「はぁ、御守役付きの領主代行ってわけね。微妙に納得できないけど、わかった。それで、あんたはどこに何しに行くの?」
「私用だ。内容は帰ってきてから話す。その時は、全てを話すことができればいいのだが……」
父でさえ、私に自信を与えることはできなかった。いくら父の紹介とはいえ、イラに相談し、彼女から紹介されるであろう人物に私の心は開けるのだろうか?
だが、いつまでもこれを先延ばしにしていても仕方がない。
いずれは皆に話したいという気持ちは確かに存在する。
謎の人物にはあまり期待しないが、これがきっかけとなり、皆に話せる勇気を持てることを切に願う。
皆は言葉重く呟いた私に声を掛けづらいようで、戸惑った様子を見せている。
「すまない、みんな。これはあくまで私個人の問題で、トーワに何かあるわけではない。だから、あまり気にしないでくれ」
そう、言葉を伝えた。
すると、全員が互いに視線を交わし合い、エクアがとても優し気な声を漏らす。
「トーワの心配をしているわけじゃありませんよ。皆さん、ケント様を心配しているんです」
「え?」
「何か事情がおありなんでしょうけど、本当に困っているようでしたら私たちに相談してくださいね。精一杯、お助けしますから」
エクアは右手を胸に当てて、私を見つめる。
後ろに佇む仲間たちも同様に、私を暖かな瞳で見ていた。
「みんな、ありがとう。私は良き友人に恵まれた」
だからこそ、伝えるべき――私の正体――でも、臆病な私にはきっかけが必要。
そのきっかけを求めて、トーワを一時離れる。
奇跡の大地騒動はフィナの実験によるものとし、結局は失敗に終わったする。
それでも一部の範囲は浄化することができ、そこに小さな畑を作ることができたとして噂を広めた。
これで何とかヴァンナスとアグリスの目を誤魔化せたことを祈るばかりだ。
もし、誤魔化せなかったら……今のところ、何の策も浮かばない。特にヴァンナスに対しては……。
悟られれば、正直に遺跡の発掘を行ったと報告することになるだろう。
その時は協力者として、是が非でも探索チームにフィナを入れてもらえるように頼むつもりだ。
現在、彼女以上にトーワの遺跡に詳しい者はいない。ヴァンナスも難色を示すことはないはず。
だが最後には、アーガメイト一族の中でも王家寄りの者たちが彼女を排除しようとする。
悩ましいところだが、その時が来ないとどうなるかわからない。
今は予想される出来事をいくつも描きシミュレートするのが精一杯だ。
そのシミュレートの中にフィナが恐ろしく不穏なものを混ぜ込む。
『ヴァンナスが私から遺跡を奪うつもりなら、テイローの名で実践派を集めて戦争でも何でもやってやる!』と。
そのようなことにならぬよう、色々と方策を考えておかねば……ああ、胃が痛い。
さて、それら寿命を縮めかねない悩みはひとまず脇に置くとして、浄化機構とは別の遺跡の力。転送装置について話そう。
父の手によって遺跡の転送装置は、トーワ・アルリナ・トロッカー・マッキンドー・アグリスへと繋がった。
転送されるポイントは目立たぬ場所に設定されており、さらに訪れた先には転送装置が存在する。
これは遺跡に存在する一つの転送装置の次元を揺らし、複数に分化しているらしい。
技術の具体的な内容ついては、私ではわからない。
だがこれにより、私たちは遺跡を含めた主だった場所へ自在に行き来できるようになった。
トーワの転送ポイントはトーワ城二階の使用されていない部屋。
この部屋で起動用の指輪を使うと遺跡に繋がる転送装置が現れる仕組みとなっている。
指輪はマスティフ・マフィンを含めたトーワの主要メンバー全員に渡してあるが、頻繁に使用すれば誰かの目につく可能性が高まるので使用は必要最低限に留めるつもりだ。
――トーワ・執務室
「はぁ」
話は変わり、いま私は一人執務室で、別世界の二人のフィナと父から受け取った言葉について考えていた。
それは、仲間に自分の正体を明かすこと。
彼らの言葉の中で、父のアドバイス――イラと相談しろ。
彼女は虚ろな私という存在を確固として築き上げる人物を知っているらしい。
その方を紹介してもらうために、しばらくの間一人で城を離れることに決めた。
また、ゴリンはノイファンとの契約が終わり、彼や大工たちの直接雇用が可能になった。
そこで信頼できる彼にも私たちが得た情報を共有してもらおうと考えた。
さらには、キサやグーフィスにも……グーフィスは多少不安だが、フィナが強く秘密を守れと言えば彼は墓の下まで秘密を持っていくことだろう。
執務室にギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・ゴリン・キサ・グーフィスに集まってもらい、ゴリンたちへ私たちが行っている遺跡発掘について伝える。
三人は驚きと好奇心に体をソワソワしたり言葉を弾いたりしている。
彼らを遺跡に案内する役目はフィナたちに任せて、私はしばしトーワを留守にすると皆に伝えた。
「私個人の問題で、しばらく城を留守にする。フィナ、領主代行を頼む」
「わ、私が!? 親父やカインの方がよくない?」
「私がいない間に不測の事態が発生した場合、最も対処の幅が広いのは君だ。だから、君に預けたい。ただし、親父たちの意見にしっかり耳を傾けてくれよ」
「はぁ、御守役付きの領主代行ってわけね。微妙に納得できないけど、わかった。それで、あんたはどこに何しに行くの?」
「私用だ。内容は帰ってきてから話す。その時は、全てを話すことができればいいのだが……」
父でさえ、私に自信を与えることはできなかった。いくら父の紹介とはいえ、イラに相談し、彼女から紹介されるであろう人物に私の心は開けるのだろうか?
だが、いつまでもこれを先延ばしにしていても仕方がない。
いずれは皆に話したいという気持ちは確かに存在する。
謎の人物にはあまり期待しないが、これがきっかけとなり、皆に話せる勇気を持てることを切に願う。
皆は言葉重く呟いた私に声を掛けづらいようで、戸惑った様子を見せている。
「すまない、みんな。これはあくまで私個人の問題で、トーワに何かあるわけではない。だから、あまり気にしないでくれ」
そう、言葉を伝えた。
すると、全員が互いに視線を交わし合い、エクアがとても優し気な声を漏らす。
「トーワの心配をしているわけじゃありませんよ。皆さん、ケント様を心配しているんです」
「え?」
「何か事情がおありなんでしょうけど、本当に困っているようでしたら私たちに相談してくださいね。精一杯、お助けしますから」
エクアは右手を胸に当てて、私を見つめる。
後ろに佇む仲間たちも同様に、私を暖かな瞳で見ていた。
「みんな、ありがとう。私は良き友人に恵まれた」
だからこそ、伝えるべき――私の正体――でも、臆病な私にはきっかけが必要。
そのきっかけを求めて、トーワを一時離れる。
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。


公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる