銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
249 / 359
第二十一章 世界旅行

謝罪

しおりを挟む
 父はフィナに言葉を渡し、彼女から視線を外す。
 その動作に合わせ、部屋に浮かんでいた無数の光が消え去った。
 
「さて、ケントよ」
「はい、何でしょうか?」
「お前のとってはつい先ほどのことであろうが、改めて伝えておく。己に迷い、答えが見つからぬというならば、流動生命体に相談しろ」
「わかりました」
「では、そろそろ私は消えるとしよう」

「消える? それは?」
「複製した人格を消去するということだ」
「そ、そんな! 別に消去などしなくても!」

「ケント……本当の私は心壊れ滅んだのだ。ここに居るのは亡霊。会話することなどあり得ぬ存在。死者は生者の世界から立ち去らねばならぬ。そして生者はそれを受け入れ、死者を送り出さねばならぬ」
「それでもっ。亡霊であっても父さんには……消えて欲しくない……」
「まったく、いつまでも子どもでいるつもりか?」


 父は視線を私から外し、エクアを見つめる。

「エクア=ノバルティ。であるな?」
「は、はい?」
「君の仔細は聞いている。両親を亡くし、罪に巻き込まれても、己を失わず、立っている。心強き少女だ。私よりも遥かにな」
「そんなことっ」
「謙遜するな。君の心の強さは評価に値する。ケントよ。お前よりも幼い少女がまっすぐと歩んでいるのだ。私の息子を名乗るならば、虚勢であっても、前を向けっ。この子に情けないところを見せるな!」
「父さん…………はいっ」


 私は絞り出すように声を弾いた。
 弾いたのは悲しさ。
 もう一度、父と別れなければならないという寂しさ。
 それでも、父の息子として、意地を張り、前を向く。


「さらばです、父さん」
「うむ、それでよい。しかし、私としたことが別れの言葉の順番を間違えたな。人格のコピーにより知力は複写できても、思考力はそうはいかないようだ」
「何かやり残したことが?」
「ああ。私には己を消去する前に謝罪をせねばならぬ男がいる」
「それは?」

 父は執務机の前まで出てきて、無言で手を振る。
 すると、転送装置が起動し、黒い円盤の上に白衣姿のカインが現れた。

「え? あれ、ここは? あ、ケントさんに皆さんも!?」
「カイン? 父さん、これは?」

「カイン=キシロ。台から降りてくれるか? 君と話がしたい」
「あなたは?」
「頼む、降りてくれ」
「なんだかよくわかりませんが、台から降りますね」

 父はカインに台から降りるように促し、自身の前に立たせた。
 そして、罪を告白する。


「私の名はアステ=ゼ=アーガメイト。ドハ研究所の所長を務めていた」
「え? アステ……ですが、事故でお亡くなりに」
「故あって一時的に亡霊として存在している。だが、そのようなことどうでもいいのだ。私は君に謝らなければならぬ。いや、多くに謝らなければならぬのだが、君が代表として受け取ってほしい」

「えっと……?」
「研究所は事故で吹き飛んだのではない。私が意図的に破壊したのだ」
「え!?」
「事故に巻き込まれ、君の大切な家族である姪の命を奪ったのは、この私だ。謝罪で許されるようなことではないとわかっているが、それでも頭を下げることしかできない。カイン=キシロ、すまない」

 
 父は深々と頭を下げる。
 それをカインは全身を震わせて、無言で見つめている。
 震える唇から彼は言葉を漏らす。


「あ、あれはあなたが引き起こしたと? あの事故っ! あなたが意図的に引き起こしたと!?」
「その通りだ」
「では、では、ではっ、エナとリルが命を失ったのはあなたのせいだと!?」
「その通りだ」
「クッ! このっ!!」

 カインは拳を強く握り締めて父を殴りつけた。
 父の体は後ろにあった執務机に激しくぶつかる。
 私は慌てて父のそばに寄ろうとしたが、一睨みされた視線によって足が石のように固まる。
 父は唇から流れ落ちる血を拭う。


「ふむ、亡霊であっても痛みを感じる。よくできている……カイン、すまない」
「謝られてもっ、もう戻ってこない! なぜ、あのような馬鹿な真似を!!」
「己の心の弱さゆえ……」
「あなたの心の弱さのせいで、エナやリル。さらには多くの人々が巻き込まれたと!? あなたのせいで!」
「すまない」
「あなたはそれしか言えないのかっ!!」

 カインは父の胸倉をつかみ、さらに拳を固め振り降ろそうとした。
 だが、視線を逸らすことなく無言でカインを見つめる父の瞳を覗いて、掴んでいた胸倉を解いた。
 彼は脱力するように声を産む。


「あなたをいくら殴っても、意味がない……謝罪をされても、意味がない。それでも、あなたを無茶苦茶にしてやりたいと心が叫んでいる!」

 カインは右手を震わせながら、ゆっくりと掲げ、ぐっと拳を作った。
 その拳を父に向かい振り下ろすが、叩きつけたのは執務机……。


「あなたは僕から大切な人を奪った。だけど、あなたの息子が僕を救ってくれた! 全てを捨て去ろうとしていた僕を再び医者の道へと戻してくれた。あの時ケントさんは、こう言ってくれた!」


――君が真に後悔しているなら、その後悔を誰かに味わわせるな!! だから、動け! カイン=キシロ!!――


「だから、僕はあなたを無茶苦茶にして、同じ後悔を、苦しみを、誰かに味わわせたくない。そして、味わうのが他ならぬ恩人であるケントさんならば、そんなことはできない……」


 カインは父から離れ、自分の体を抱え込むような仕草を見せる。
 爪先は体に食い込み、その痛みをもって感情に蓋をして、私に顔を向ける。
「すみません、ケントさん。感情に呑まれ、お父上を殴ってしまい」
「いや、君の気持ちを思えば当然のことだろう。こちらも今まで父の罪を黙っていた責がある。すまない、カイン」

 カインはゆっくりと抱いていた手を降ろし、無言でこくりとこくりと頷き、私も同じく頷きを返す。
 その様子を見ていた父は一言漏らす。

「良き友人に恵まれたな。私がこれを言葉に表すのはおこがましいが……」
 父は最後にもう一度カインに頭を下げて、私へ顔を向ける。


「さて、次は本当に消えるとしよう。達者でな、ケント」
「はい、未来を良きものであるよう、努力を続けます」
「ああ、努力し学び続けることこそが、人のよ……最後に、ケント。ギウとは仲良くするんだぞ」
「え?」
「フフ」

 父は不思議な送り言葉を残して、口元を綻ばせ、薄くなり、消えていった……。
 誰もいなくなった執務机を前に、皆は空白の視線を向け続ける。
 僅かな時を置いて、カインが辺りを窺うように口を開いた。


「あの~、突然のことで色々わからないまま感情に振り回されてしまいましたが、一体何が起こったんです? トーワに居たはずなのに遺跡に居て、亡くなったはずのアーガメイトさんが居たと思ったら消えてしまって、一体、何が……?」

「ああ~、そうだったなカイン。ちゃんと一から説明しよう」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織
ファンタジー
2018年の現代に、竜が住み魔王が暮らすファンタジーのような国家があった。その国に暮らす大商人の娘は、トラブルを呼ぶ従兄のおかげで災難続き。ある日地底湖がある洞窟へと誘われて、馬車で出かけた娘が出会ったのは、魔王討伐パーティーの生き残り忍者と、討伐対象の魔王の息子。息子を追って襲い掛かろうとする魔王の手から、逃れるために結んだ契約。それがすべての始まりでした。 異色の三人組パーティーが辿る、100年のロード・ファンタジー。その始まりの物語。 ☆再構成して再登場!☆ *- -*  物語の続きは、  『赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。』にてご覧下さい!  ※この物語は、主人公であるレイミリア・ブラウンシュタイン・コーネリアス・ラ・グランスマイルの主幹に基づいて描かれています。実在する人物・団体・国家などについて不愉快な表現などございましたら文句は直接言ってやってください。その際のご連絡はグランスマイル商家までどうぞ!  ※登場する皆さんへ応援メッセージをお待ちしております!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...