銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
215 / 359
第十九章 暗闘

レイと仲間たち

しおりを挟む
 私たちは内緒話を打ち切り、皆に体を向ける。


「ああ、悪かった。紹介しよう。彼が今回の調停を仕切る、レイ=タイラーだ」
「初めまして、レイ=タイラーです。兄さんがいつもお世話になっております」

 彼が丁寧に挨拶をすると、まずはフィナが飛び込んできた。

「レイって、あの勇者のレイよねっ? 遠目でしか見たことがないから、ローブを着てるといまいちわかんない」
「そうかい? 自分でいうのも変だけど、正真正銘のあの勇者レイ。それで君はフィナさんだね。錬金術士の。アイリから聞いてるよ」
「げ、何を?」
「うふふ、色々」
「絶対ろくでもないこと言ってんな、あんにゃろめ~」

 
 フィナは床を蹴り上げて強く踏む。
 その様子を見て、レイはさらに笑い声を強くした。

「あははは、想像通りの人だ。それとだけど……」
 彼はフィナへ耳打ちをする。
「君がテイローであることは内緒にしておくからね」
「ありがとう、気を使ってくれて。あの、話しを戻すけど、想像通りって?」

「アイリから、とても強く、賑やかな人って聞いてたから」
「強くの評価は許そう。賑やかってのはなんかなぁ~。アイリめっ! ……そのアイリだけど、今は?」
「ガデリで魔族退治の真っ最中。飛行艇ハルステッドの艦長『レイア=タッツ』から魔導通信が届いて戦況を聞いたけど、なかなかうまくいっているみたいだね」
「そうなんだ……ん?」


 フィナは、私の顔が歪んでいることに気づいた。
「どうしたの、ケント?」
「別に……」


 はてなマークを浮かべるフィナ。
 私はそれに答えず無視するが、レイが余計なことをフィナに吹き込む。
「あはは、兄さんはレイア艦長が苦手だからね」
「あ~、それで……で、なんで苦手なの?」

 フィナは好奇心を丸出しにして、両目を無駄に輝かせながら尋ねてくる。
 それを私がどうかわそうかと悩んでいると、またもやレイが余計なことを吹き込む。

「レイアさんはアイリびいきなんだけど、そのアイリが兄さんに懐いていることが気に食わなくて、よく兄さんをからかうんだよ」
「ああ、そういうこと。でも、ケントなら簡単にかわせそうだけど?」
「いや~、あの人は濃い人だからね。ネオ陛下を引かせるくらいに」

「ええっ!? あのすっとこどっこいの陛下を?」
「すっとこどっこいはちょっと……まぁ、彼女はせいにいい加減というか開放的というか、美少年美少女が大好きで、それに兄さんが巻き込まれたことがあるんだ」
「レイっ!」

 私はこれ以上の話を許さず、続きを遮った。
 それでもフィナは続きを尋ねようとしていたが、銀眼にありったけの殺意を乗せて黙らせてやった。
 私は、ひとまずの安堵と疲れの混じる息を吐く。
「はぁ、以前、ハルステッドが訪れた時はアイリが代表として降りたおかげで会わずに済んだのだが、こんなところであの人の話題が上がるなんて……」


 と、私がトホホ声を出していると、エクアが恐る恐る言葉を差し入れてきた。


「あ、あの、お話し中すみません。レイ様、よろしいでしょうか?」
「うん、君は?」
「エクアと申します。今はケント様の下でお手伝いをさせていただいております」
「そうなんだ。しっかりそうに見えて、兄さんの面倒は意外と大変だろうけどよろしく頼むよ」
「はい!」

 この会話に私はうなだれるように声を漏らす。

「君たちは私をなんだと思っているのだ? それでエクア。レイに何かを尋ねようとしていたのでは?」
「はい。あのレイ様、ガデリは無事なのでしょうか? 私はガデリ出身でして、そのことが気がかりでして」
「ああ、そういうことか。さっき言った通り、うまくいっているみたいだよ。ガデリの戦士たちと、その戦士を纏めているガデリの召喚一族と協力してかなり抑え込んだって。被害はゼロとはいかないけど、多くの人々が救われた」

「そ、そうですか。よかったぁ~」
「討伐もある程度終えたから、あと少しでレイアさんとアイリが率いるハルステッドはヴァンナスへ帰投するはず。その際、トーワに寄ってガデリの詳細な状況を届けるように言っておくよ」
「そ、そんなことまで。ありがとうございます!」

「レイアが来るのか……」


 エクアのお礼の響きに、私の声がもの悲し気に交わる。
 すると、僅かに生まれた話の空白を見計らって、横からカインとノイファンが飛び込んできた。
 どうやら二人はレイのファンのようで、緊張に声を上擦らせている。


「あのっ、私はケント様の下で医者をしているカインです。できれば、握手とサインを!」
「私はアルリナの代表、ノイファン。ヴァンナスが勇者であり最強と誉れ讃えられるレイ様に拝謁できて恐悦至極……私にも握手とサインを」

「はは、お安い御用です。カインさん、ノイファン様」
 レイは受け取った色紙にサインをしながら言葉を続ける。
 
「ノイファン様には話し合いの場を提供して頂いた礼と挨拶を真っ先に行わなければなりませんのに、私事を優先してしまい申し訳ございません」
「そ、そんなこと、まったく気にしておりません! レイ様にこのような片田舎であるアルリナに来て頂いただけでも十分に光栄なこと。いや~、素晴らしい。まさか、あの勇者レイを生きているうちに拝めることができようとはっ」


 ノイファンはレイのサインを両手で抱え込み舞い上がっている。カインも同様。
 彼らにこんな一面があろうとは……。

 
 次にレイは親父に顔を向ける。
 そして、彼は淡々と言葉を出し、受けた親父は緊張に顔を強張こわばらせている。

「黒眼鏡の男……あなたが渦中のカリスですね。アグリスからの上奏とトーワからの弁明の書類に記されていました」
「ええ、その通りです」
「アグリスの状況とカリスの立場。お気持ちは理解できますが、調停の際に感情を交えることはありません」
「もちろん、重々承知しております」
「これは調停官としてあるまじき言葉ですが、ケント様の立場を危うくさせた行い。私としては、これを大きく問題視しております」
「うっ」


 レイに睨まれた親父は短い悲鳴を最後に、無言のまま大量の冷や汗を額に産む。
 いま彼は、レイから放たれる凍てついた瞳に心から熱を奪われているに違いない。
 私はレイの馬鹿な行いを止める。


「レイ、調停官として中立であり、感情を交えることはないのだろう」
「……はぁ、そうだね。兄さんを利用しようとした男。だけど、兄さんはそれを受け入れている。私がどうこう言うことじゃないか」

 レイは瞳から冷たさを消して、穏やかな風を纏う。
 そして、親父にこう言葉を渡した。


「あまり兄さんに無茶をさせるようなことはしないでほしい」
「もちろんです。今後、そのようなことは絶対に! いえ、それ以上にケント様に尽くし、深く信頼し、礼と謝罪を返したい!!」

 彼の熱い思いと鬼気迫る表情。
 レイはそれを認め無言で頷き、仲間たちも納得の顔を見せる。
 だが、私だけは親父の決意に対して、僅かに顔を歪ませていた。
 
 その顔に誰も気づくことなく、レイはマスティフとマフィンに顔を向ける。


「ワントワーフのおさ・マスティフ様。キャビットのおさ・マフィン様。今日はよろしくお願いします」
「うむ、よろしくと行きたいが、今回ばかりはケント殿に騙された経緯がある故に、諸手を挙げて味方するというわけにはいかんな」
「俺もニャ。いや、俺の方は騙した上に領地を勝手に通過した不義理もあるニャっ。こいつを見過ごせばキャビットの沽券に関わることニャ。いくら勇者の知り合いであろうとも、俺たちは俺たちの立場を通させてもらうニャよ」

 二人の言葉に、レイはこちらをちらりと見る。
 私は無言で頷く。
 彼は二人に視線を戻し、淡白な声を返した。


「それは仕方のないことでしょう。どうぞ、おさとして、種族としての立場をお取りください」


 彼は軽く二人に会釈を済まして、次に、私にとって最高の友であるギウへ身体を向ける。そして、蒼と黒の模様が交わり流れるような曲線を描く背中と、光のない真っ黒な目玉を見て、一言落とす。


「美しい……」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...