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第十一章 世界とトーワと失恋
集う仲間たち
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――古城トーワ
アイリと別れて一日後、古城トーワへ戻ってきた。
そのトーワの防壁入口前で、見知った顔が私たちを出迎えてくれた。
「ケントさん、お久しぶりです」
「カイン! いつ頃ここへ? もう、トロッカー鉱山の治療はいいのか?」
「はい、昨日ここへ。鉱山の方は、私の想像以上にワントワーフの方々の治癒力が高くて、おかげさまでお払い箱ですよ、あはは」
いかにも医者らしい白衣を纏うカインは、目元まで下りた深緑の前髪を揺らし、がっしりとした肩幅を持ちながらも太ましい腹に手を置いて、とても心地良い笑い声を上げる。
トロッカー鉱山で初めて出会ったときは陰気な雰囲気を纏っていた男。
だが今は、それらは消え去り、軽快な男がいる。
おそらくこれこそが、彼本来の姿なのだろう。
その彼にフィナが話しかけている。
「ねぇ、カインって王都出身なんだよね?」
「ええ、そうだけど。それがどうしたんだい?」
「医療用ナルフは持ってないよね? トロッカーでも使ってなかったみたいだし」
「あれは王都でもごく僅かしかない貴重品だからね」
「ふふん、やっぱりね。今度暇を見て私が作ってあげるから、医療知識のアドバイス貰える? 私、そっちの方面は明るくないけど、アドバイスさえくれれば何とかできると思うし」
「あはは、さすがは錬金術士だね。あらゆる分野を修める学問だけはある」
錬金術士(師)とは魔導・工業・医術といった様々な知識を体得した知識集団。
ただし、全ての知識を極めているわけではなく、自分が得意とする分野以外では専門職たちに劣る。だが、錬金術士でも専門に特化すれば、同分野を上回る者もいる。
フィナは魔導知識を母体と置いた空間と時間を専門とする錬金術師。
カインにアドバイスを求めているところを見ると、医療知識に関しては表層を知っている程度なんだろう。
その彼女は嬉々としてカインに言葉を返している。
「それじゃ、医療用ナルフの製作を考えないとっ。結構時間がかかると思うけどいい?」
「もちろんだよ」
「あとさカイン、薬には詳しいの?」
「ええ、薬学も必須科目でしたので」
「いいじゃんいいじゃん。あとで新薬の調合とかして遊ばない? 特に病気関係のやつ。外傷関係なら簡単に治せるんだけど。病気はねぇ」
「い、いや、薬は遊び道具じゃないんだけど。ケントさん、この子は……」
「ああ、まともじゃない」
「まともじゃないってどういうことよ!」
ぷんすかと目に見えてわかる蒸気を頭から上げるフィナ。
私たちは軽く笑い声を上げる。
それに対してますますご立腹のフィナだったが、カインは彼女を宥め、さらに別の人物が城に訪れていると伝えてきた。
「まぁまぁ、フィナ君。あとですね、ケントさん。お城にケントさんのお知り合いの方が訪れてますよ」
「知り合い?」
「その方はつい先ほど訪れたばかりで、今はゴリンさんと一階の大広間で話されているはずです」
「わかった、すぐに向かおう。とりあえず、みんなも」
みんなはこくりと頷き、そろって城の一階大広間に向かった。
――トーワ城一階・大広間
正面玄関から広間へ入ると、ゴリンと一人の男の姿があった。
私はその男を呼ぶ。
「誰かと思えば、親父さんだったか」
「おや、旦那。お戻りになりましたか、へへ」
両腰にナイフを装備し、黒眼鏡の掛けたいかつい顔の親父があご下の無精ひげを撫でながら胡散臭い笑顔を見せる。
彼の名前は……なんだっけ?
ま、親父のことは親父か親父さんでいいだろ。
「親父さんが戻ってきたということは、何か面白い情報を持ち帰ってきたということか?」
「ほとんどが周辺地域の基本的な情報ですがね。もちろん、面白そうな話もありますぜ」
といって、彼はちらりとカインを見た。
「どうした、親父さん?」
「いや~、俺のいない間にワントワーフと交流を持つとは、実に喜ばしいじゃないですか! さらに、医者を持ち帰ってくるなんざ、さすがは旦那だ」
「その様子だと、カインが必要な話か?」
「まま、それは後程。それよりか、そちらのお嬢ちゃんは?」
親父はフィナに顔を向ける。
そのフィナはというと、あからさまに親父を『こいつ、うさんくせ~』という表情で見ていた。
「そうだな、皆のことを簡単に紹介をしておこう」
――
王都の政争に敗れ、トーワに左遷された私のこと。
トーワの海岸でギウという友に出会ったこと。
アルリナの出来事に関わったエクアのこと。そして親父のこと。
城の修繕にやってきたゴリンのこと。
錬金術師として、私たちに協力することになったフィナのこと。
トロッカー鉱山の事故をきっかけに、医者としての自分を取り戻したカインのこと。
それらの話が終えて、各自仕事や用意された部屋に戻っていく。
新しくやってきたカインはあらかじめ用意しておいた診療室へ向かう。
この診療室は、私からフィナを挟んでゴリンに頼んでいたものだ。
私たちがアルリナに行っている間に用意されたものであるため、私もどのような部屋なのか知らない。
だから、私も診療室を見せてもらうことに。
診療室には簡素なベッドが三床。
床は淡い緑で、壁は白。カーテンもまた厚手の白色だった。
薬品棚や机が設けられてはいたが、あまり道具は揃っていない。
そこで薬品はフィナが錬金術で生み、調合が難しそうな薬品はアルリナで購入し徐々に整えていくことにした。
道具もまたフィナが。足りない分はトロッカー鉱山のマスティフに依頼を出そうと思う。
診療室を後にして、私と親父だけで執務室に戻る。
その執務室で、親父が持ち帰ってきた情報に耳を傾けることにした。
アイリと別れて一日後、古城トーワへ戻ってきた。
そのトーワの防壁入口前で、見知った顔が私たちを出迎えてくれた。
「ケントさん、お久しぶりです」
「カイン! いつ頃ここへ? もう、トロッカー鉱山の治療はいいのか?」
「はい、昨日ここへ。鉱山の方は、私の想像以上にワントワーフの方々の治癒力が高くて、おかげさまでお払い箱ですよ、あはは」
いかにも医者らしい白衣を纏うカインは、目元まで下りた深緑の前髪を揺らし、がっしりとした肩幅を持ちながらも太ましい腹に手を置いて、とても心地良い笑い声を上げる。
トロッカー鉱山で初めて出会ったときは陰気な雰囲気を纏っていた男。
だが今は、それらは消え去り、軽快な男がいる。
おそらくこれこそが、彼本来の姿なのだろう。
その彼にフィナが話しかけている。
「ねぇ、カインって王都出身なんだよね?」
「ええ、そうだけど。それがどうしたんだい?」
「医療用ナルフは持ってないよね? トロッカーでも使ってなかったみたいだし」
「あれは王都でもごく僅かしかない貴重品だからね」
「ふふん、やっぱりね。今度暇を見て私が作ってあげるから、医療知識のアドバイス貰える? 私、そっちの方面は明るくないけど、アドバイスさえくれれば何とかできると思うし」
「あはは、さすがは錬金術士だね。あらゆる分野を修める学問だけはある」
錬金術士(師)とは魔導・工業・医術といった様々な知識を体得した知識集団。
ただし、全ての知識を極めているわけではなく、自分が得意とする分野以外では専門職たちに劣る。だが、錬金術士でも専門に特化すれば、同分野を上回る者もいる。
フィナは魔導知識を母体と置いた空間と時間を専門とする錬金術師。
カインにアドバイスを求めているところを見ると、医療知識に関しては表層を知っている程度なんだろう。
その彼女は嬉々としてカインに言葉を返している。
「それじゃ、医療用ナルフの製作を考えないとっ。結構時間がかかると思うけどいい?」
「もちろんだよ」
「あとさカイン、薬には詳しいの?」
「ええ、薬学も必須科目でしたので」
「いいじゃんいいじゃん。あとで新薬の調合とかして遊ばない? 特に病気関係のやつ。外傷関係なら簡単に治せるんだけど。病気はねぇ」
「い、いや、薬は遊び道具じゃないんだけど。ケントさん、この子は……」
「ああ、まともじゃない」
「まともじゃないってどういうことよ!」
ぷんすかと目に見えてわかる蒸気を頭から上げるフィナ。
私たちは軽く笑い声を上げる。
それに対してますますご立腹のフィナだったが、カインは彼女を宥め、さらに別の人物が城に訪れていると伝えてきた。
「まぁまぁ、フィナ君。あとですね、ケントさん。お城にケントさんのお知り合いの方が訪れてますよ」
「知り合い?」
「その方はつい先ほど訪れたばかりで、今はゴリンさんと一階の大広間で話されているはずです」
「わかった、すぐに向かおう。とりあえず、みんなも」
みんなはこくりと頷き、そろって城の一階大広間に向かった。
――トーワ城一階・大広間
正面玄関から広間へ入ると、ゴリンと一人の男の姿があった。
私はその男を呼ぶ。
「誰かと思えば、親父さんだったか」
「おや、旦那。お戻りになりましたか、へへ」
両腰にナイフを装備し、黒眼鏡の掛けたいかつい顔の親父があご下の無精ひげを撫でながら胡散臭い笑顔を見せる。
彼の名前は……なんだっけ?
ま、親父のことは親父か親父さんでいいだろ。
「親父さんが戻ってきたということは、何か面白い情報を持ち帰ってきたということか?」
「ほとんどが周辺地域の基本的な情報ですがね。もちろん、面白そうな話もありますぜ」
といって、彼はちらりとカインを見た。
「どうした、親父さん?」
「いや~、俺のいない間にワントワーフと交流を持つとは、実に喜ばしいじゃないですか! さらに、医者を持ち帰ってくるなんざ、さすがは旦那だ」
「その様子だと、カインが必要な話か?」
「まま、それは後程。それよりか、そちらのお嬢ちゃんは?」
親父はフィナに顔を向ける。
そのフィナはというと、あからさまに親父を『こいつ、うさんくせ~』という表情で見ていた。
「そうだな、皆のことを簡単に紹介をしておこう」
――
王都の政争に敗れ、トーワに左遷された私のこと。
トーワの海岸でギウという友に出会ったこと。
アルリナの出来事に関わったエクアのこと。そして親父のこと。
城の修繕にやってきたゴリンのこと。
錬金術師として、私たちに協力することになったフィナのこと。
トロッカー鉱山の事故をきっかけに、医者としての自分を取り戻したカインのこと。
それらの話が終えて、各自仕事や用意された部屋に戻っていく。
新しくやってきたカインはあらかじめ用意しておいた診療室へ向かう。
この診療室は、私からフィナを挟んでゴリンに頼んでいたものだ。
私たちがアルリナに行っている間に用意されたものであるため、私もどのような部屋なのか知らない。
だから、私も診療室を見せてもらうことに。
診療室には簡素なベッドが三床。
床は淡い緑で、壁は白。カーテンもまた厚手の白色だった。
薬品棚や机が設けられてはいたが、あまり道具は揃っていない。
そこで薬品はフィナが錬金術で生み、調合が難しそうな薬品はアルリナで購入し徐々に整えていくことにした。
道具もまたフィナが。足りない分はトロッカー鉱山のマスティフに依頼を出そうと思う。
診療室を後にして、私と親父だけで執務室に戻る。
その執務室で、親父が持ち帰ってきた情報に耳を傾けることにした。
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