銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
106 / 359
第十章 喧騒と潮騒の中で 

一つの愛の終わりは?

しおりを挟む
――食堂・カウンター

 
 グーフィスは酒に溺れ、足のつま先から毛髪の先端にまで酒の香りを溶け込ましている。
 彼は顔面をアルコールと涙と唾液と鼻水に塗れさせ、この世を呪っていた。

「クソッたれ。この世に愛なんてねぇんだ! 彼女と過ごした時間はなんだったんだよぅ~……」

 そこへ、この世を消し飛ばす地獄の申し子フィナが現れた。
 彼女は男の椅子を思いっきり蹴飛ばして声で殴りつける。

「やかましいわっ!」
「だっ!?」

 グーフィスは椅子から床に転げ落ち、手に持っていた酒を頭から被って短髪の茶色髪を濡らす。
 彼を慰めていた男たちはあまりの出来事に体を固め、周りにいた客や店員は驚きに言葉を失った。
 喧騒で賑わっていた食堂に訪れる沈黙。
 潮騒だけが揺れる店内で、フィナは男を見下すように声を発した。


「話を聞いたけど、恋人を奪われたって?」
「そ、そうだけど、てめぇは一体?」
「私のことなんてどうでもいいのよ。問題はあんたよ、あんた。寝取った男をぶん殴ってないの?」
「そ、そんなことできねぇよ」
「はぁ、なんで?」

 フィナはちらりと男の腕を見た。
 彼は海の男らしく、逞しさを感じさせる顔つきとよく日に焼けたとてもがっしりとした腕を持っている。
 そこからは弱々しさなど微塵も感じない。

「力はありそうじゃない。それとも、相手の男の方が強いの?」
「いや全然。あいつがりがりだし」
「だったら、殴ればいいじゃない。そいつはあんたを馬鹿にしたのよ。女はあんたを裏切ったのよ。妊娠してるみたいだから女は仕方ないとしても、男は殴れるでしょ?」

「そんなことしたら、あいつが大怪我するじゃねぇか……」
「したっていいじゃない。それだけのことをしたんだから」
「そうはいかねぇよっ。これから赤ちゃんが生まれてくるんだぜ。稼ぎ頭が怪我したら大変だろ!」

「なんでそんなことまで考えちゃうのよ。ムカつかないの?」
「ムカつくさっ。ムカつくけど、何もできねぇんだよ!」
「何もできない結果、酒に逃げたってわけ? 負け犬じゃないっ!」
「うるせぇな、このクソガキ! 関係ねぇのに横から口を挟みやがって!」


 男は勢いよく立ち上がろうとした。
 だが、立ち上がるよりも早くフィナは彼を蹴り飛ばして床へと戻す。

「あだっ!」
「あんたはその関係ない私たちに迷惑かけてんのよ。せっかくの昼食が台無しじゃない」

 フィナは横たわる男の頭の近くに、ドンッと足を降ろす。

「あんたさ」
「ひっ、なんですか?」
「たぶん、優しい人の部類に入るんだろうけどさ。今の姿でいいの?」
「はい?」
「裏切られたショックで酒? あんたを裏切った女はどう思う? あ~、やっぱりあんたなんかと一緒にならなくてよかった~、って思うでしょうね」
「…………」

「寝取った男も殴れない。恋人も殴れない。だったらせめて、二人が羨むような恋人を見つけるなり生き方を見つけるなりしなさいよ。酒に逃げて愚痴を振り撒くなんて、最悪中の最悪。わかった!」
「は、はい……」
「まったく。もう、大人なんだから、恥ずかしい生き方はやめてよね」


 フィナは軽く手を振って、ケントたちのもとへと戻っていった。
 鬼から解放されたグーフィスは周りの男たちに助け起こされている。

「おい、大丈夫か、グーフィス?」
「ああ、そんなに強く蹴られてはねぇからな……」
「災難だったな。しかし、とんでもなく気の強い女だ」
「ああ、そう、だな……」

 グーフィスは男たちの声に曖昧な返事をして、フィナの後姿をじっと見つめている。
「どうした、グーフィス?」
「あの、あの人は一体?」

 この声に、カウンターにいた店員が答えてきた。

「あの方はケント様のお連れの方で、フィナって呼ばれてたよ」
「フィナ……フィナさんかぁ……素敵な名前だ」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織
ファンタジー
2018年の現代に、竜が住み魔王が暮らすファンタジーのような国家があった。その国に暮らす大商人の娘は、トラブルを呼ぶ従兄のおかげで災難続き。ある日地底湖がある洞窟へと誘われて、馬車で出かけた娘が出会ったのは、魔王討伐パーティーの生き残り忍者と、討伐対象の魔王の息子。息子を追って襲い掛かろうとする魔王の手から、逃れるために結んだ契約。それがすべての始まりでした。 異色の三人組パーティーが辿る、100年のロード・ファンタジー。その始まりの物語。 ☆再構成して再登場!☆ *- -*  物語の続きは、  『赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。』にてご覧下さい!  ※この物語は、主人公であるレイミリア・ブラウンシュタイン・コーネリアス・ラ・グランスマイルの主幹に基づいて描かれています。実在する人物・団体・国家などについて不愉快な表現などございましたら文句は直接言ってやってください。その際のご連絡はグランスマイル商家までどうぞ!  ※登場する皆さんへ応援メッセージをお待ちしております!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...