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第九章 危機と頼れる友たち

曖昧にはできない

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 ゴリンと共に城へ向かう。
 その道中、彼はこう説明してきた。


「あっしらもキサ坊と同じで今は城を出ていやす。他の連中から特別扱いされていると思われるのもなんで」
「そうか。城が寂しくなるな」
「城内はそうでも、トーワは賑やいでやすよ」
「そうだな、それは君のおかげだ」
「へへ、ケント様のために城だけではなく、防壁の方も何とかしたくてノイファン様に手紙を送ったんでさぁ」


 ゴリンは照れ臭そうに鉢巻をポリっと掻く。
 これらは全て善意で、私のためにしてくれた行い。
 だがっ。


 城の二階に上がり、人気ひとけのないことを確認して、私は怒気を乗せてゴリンに話しかけた。

「ゴリン、私に一言もなく勝手なことをされては困るっ」
「え!? ですが、あっしはケント様のことを思って……」

「わかっている。それはわかっているともっ。だがな、私に相談もなくノイファン殿に相談されては、この城の主が私かノイファン殿かわからなくなるだろう!」
「あ……それは……」

「君が善意で行ってくれたというのは百も承知だ。だが、今後は真っ先に相談してもらいたい!」

「も、申し訳ございやせん。あっしとしたことが、こんな当たり前のことに気づかずに……あの、ケント様、あっしは」
「わかっている。君の親切心はありがたい。感謝もしている。今回のことをこれ以上問題にする気はない。これから気をつけてくれればいい」

「本当に申し訳ございやせん……」
「わかってくれたなら結構。下がってくれ」
「す、すみやせん。失礼しやす」


 ゴリンは自分の行いを誇らしげに語っていた時とは打って変わり、肩をがくりと落とし、おぼつかない足取りで階段を降りて行く。

 二階に一人残る私は、ざらざらとした布で心を包まれるような不快感を味わっていた。
 その私の背後から、声が響く。


「大変ねぇ~、領主様は」
「まったくだ。親切心に釘を刺さなければならないとは。しかし、こういったことを曖昧して放置しておけば、後々大きな問題として跳ね返ってくる」
「そうね。誰が主なのか? 命令系統ははっきりしておかないと」
「ああ、そうだ……ところで、どうしてこんなところに居るんだ? 馬を中庭に連れて行ったのではないか、フィナ?」
「てへっ」

 後ろを振り返ると、ベロをちょろりと出したフィナが立っていた。
 彼女は二階の東南に当たる部分を指差す。

「あっち側に入り口があったから、来ちゃった」
「入り口じゃない。穴だ穴。たしか、中庭から近かったな」
 中庭から少し進み横にずれた場所には、三階の部分が完全に崩れ落ち、二階は壁がなく床だけが残っている場所がある。


 フィナは蒼玉そうぎょく色の艶やかな髪を指先でくるくると撒きながら話を続ける。
「なんだか、神妙な面持ちでゴリンと城に入っていくあんたの姿を見かけたから、気になって後をつけちゃった」
「まったく、君は……崩れているとはいえ、二階だぞ。どうやって?」
「鞭を使って、おりゃ、くいっ、トォッ! って感じで」

「さっぱりわからんが、なんかわかった……ギウは?」
「お城の見回り。様子が変化したから念のため確認しに行ったみたい」
「さすがだな。で、君は覗きか?」
「覗きって言うな。あんたには不似合いな雰囲気だったから、ちょっと見に来ただけ」

「もしかして、心配してくれたのか?」
「そうだと言ったら?」
 フィナはニヤリとした笑み見せる。
 それに対して私は、身を竦めるような態度をとった。


「ゾっとするな」
「このやろっ。ふふふ、あんまり気にしちゃダメよ。あんたは必要なことを伝えただけなんだから」
「わかっている。だが、これは私の責任でもある」
「どうして?」
「ゴリンたちが訪れてからというもの、彼らとの関係が心地良く、距離を詰め過ぎた。それが今回の結果を招いてしまったようだ。貴族と庶民。溝はない方がいいと思っていたが、埋め方を間違えてしまった」


 ゴリンは私を英雄と言ってくれた。同時に、親しみ深いとも言ってくれた。
 彼にとって、私は身近な存在となり、そんな私のために何かをしたいと思ってくれたのだろう。
 だが、そのせいで、然るべき姿にヒビが入りかけた……。

「はぁ~」

 私は大きくため息を吐く。
 すると、フィナが軽く息を漏らし、片手でちょいちょいと指先を動かす。

「ねえ、ちょっとツラ貸してくれる?」
「うん? ああ、構わないが……君は時々言葉が乱暴だな」
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