銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
97 / 359
第九章 危機と頼れる友たち

旧街道

しおりを挟む
 旧街道――半島を縦断するマッキンドーの森と汚染された荒れ地の間にある街道。


 この街道はトーワ城から北へ真っ直ぐと伸び、途中からマッキンドーの森を通って、アグリスへと繋がる。
 だが、現在は使われることがないため人影は一切見えず、背の低い雑草たちだけが賑わっている。
 
 街道の西側は森。
 東側には汚染された荒れ地があるが、トーワ城と同じく街道には汚染の影響は見えず緑に溢れていた。
 馬に跨るフィナは手のひらサイズの真実の瞳ナルフを取り出して、街道と荒れ地の境界線を観察している。


「ここも防壁のところと同じ。この街道を境界に見えない壁がある」
「これも遺跡の力か……上手い具合に街道を境界にしてくれているな」
「う~ん、そうでもないかも。街道は少し荒れ地の影響を受けてる」
「そうなのか?」

「うん、街道の全体から見て東寄りの部分10%ってところ。もし、長い時間をかけて浄化しているなら、あと数年か十数年かで街道から影響はなくなるかも」
「気の長い話だ」
「遺跡の探索が可能になったら、浄化機構に触れることができるかもよ。そうしたら、むふ」


 フィナはニンマリとした笑顔をこちらへ見せてくる。
 この笑いは、あんたも興味あるでしょ。浄化したいでしょ。だから、協力するよね。の笑顔だ。

「まぁ、興味はある。だが、入念な下調べをしてからな。それでは、街道をチェックしながらトーワへ帰るとするか。エクア、しっかりフィナにつかまっておくんだぞ」
「はい」

 エクアはフィナの背中にぴったりくっつくような体勢をとる。
 その様子に何故かご満悦のフィナ。


「ふふ~ん、いいねぇ。この小動物感。守りがいがある」
「おや、人に頼られるのは好きなのか?」
「頼ってくる人によるかな。エクアは可愛いから大丈夫。あんたは微妙」
「ふっ、それは光栄だ。さて、行こう」


 鼻から軽く息を飛ばし、馬の手綱を打つ。
 フィナはさらりと嫌味をかわされたことにム~っと不満顔を見せながら後ろからついてきた。

 街道を観察しつつ馬の足を運ぶ。
 整備されていない街道は背の低い草によって埋め尽くされているが、草は薄っすらと道の形を浮かべていた。
 道には、倒木や岩などなく、今でも道として機能できている。

 時折、背の高い草もあるようなので、草が車輪に絡まる可能性のある馬車を使った移動は難しそうだ。
 だが、徒歩や馬での移動ならばそれほど問題ではない。

 私は風に揺れる黄色の花に目を向けながら声を出す。それにエクアが言葉を返してきた。


「思ったよりも道として使えそうだな」
「そうですね。でも、今後ワントワーフの皆さんと交流を深めるなら、整備は必要になるかもしれませんよ」
「そうだな。大きな荷物を運ぶとなれば、荷馬車が必要。荒れ地を縦断するという手もあるが、あっちはあっちでヒビ割れた大地が車輪を掴む。それに、空気も悪いしな」


 私たちが会話を行っている間、フィナは会話に参加することなくナルフを傍に浮かべ、それを覗き込んでいる。
 ひし形の青水晶の形をしたナルフは荒れ地の状態を走査スキャンし、データとして表面に波形を浮かべているようだ。


「とりあえず、何も問題はなさそ。つまんないね」
「またそれか。君はなんで厄介事を好むんだ? それと、ながら乗馬はやめろ。危ないぞ」
「大丈夫よ、走ってるわけじゃないし。それに、厄介事イベントは旅にとって大事なエッセンスでしょ?」
「トロッカー鉱山で起きた事故のようなエッセンスが欲しいのか、君は?」

「ああいうのじゃなくて、血沸き肉躍る感じ。私の戦士の血が、こうカ~っと沸騰するような」
「君は錬金術師だろ?」
「そうだけど、学問と戦士の才能があるなら、両方生かしたいみたいな?」
「はぁ、あまり調子に乗っていると、いずれ痛い目に遭うぞ」

「残念、今のところそんな目に遭ったことないし。ま、魔族を三匹同時に相手できる私をどうこうできる奴なんて滅多にいないからね」


「…………三匹ではなく、七匹ならどうだ?」
「七匹? あ~、山脈を越えてきた奴ら? さすがに~、その数はきついかも。あんたたちを守りながらなら絶望的だね」
「そうか……だが、ここは踏ん張ってもらいたい……」
「え?」

 
 フィナがナルフから視線を切り、前へ向ける。


「ぐぐぐがぁぁあ」
「げっげげごごごぉぉ」

 それらは喉奥から唾液を巻き上げるような呻き声を響かせる。
 全身を毛に覆われる者。蜥蜴トカゲのように滑らかな皮膚を見せる者。
 顔もまた、獣の顔を持つ者。爬虫類のような顔を持つ者。

 服の原型が全くない襤褸ぼろを纏う者に、服すら纏っていない者。
 そのような異形の存在が唾液をぽたりぽたりと落とし、私たちの前に立ちはだかる。
 私は声を振るわせ、異形の名を呼んだ。


「魔族……」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝
ファンタジー
 稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。  式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。  大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。 ★シリアス:コミカル=2:8

処理中です...