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第七章 遺跡に繋がるもの
フィナの専門分野
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遺跡を後にし、一日挟んでファーレ山脈へ向かう。
その途中、結界を前にしてフィナが口にした、時間と空間が専門という言葉について尋ねて見た。
「フィナは時間と空間が専門と言っていたが、具体的にはどのような?」
「空間に関する研究においては魔導士でなくとも自由に行き来できる転送技術の確立と、空間の箱を作ることを目指してる」
「転送はわかるが、箱とは?」
「荷物置き場みたいなもんかな。空間を捻じ曲げて、ある閉じられた空間の奥行きを増すの。そうすれば、大量の物資を手軽に運べるようになるしね。私のポシェットにはその技術が使われていて結構な量が積み込める」
「とんでもない技術だなっ。理論派ではまだ、机上の空論の域を出ていない話だぞ」
「あんたたちは科学的アプローチを主軸に置く錬金術だもんね。でも、私たちは魔術的アプローチの錬金術。元々魔法には転送魔法や召喚術という、空間に干渉する魔法があるから、それを叩き台にしてる」
「理論派にも魔導の研究分野はあるが疎かにしがちだからな。水をあけられた部分もあるか。それでは時間の方は?」
「これは実践派の錬金術士。さらにおばあちゃんからも反対されてんだけどさ。私、因果律を覆したいと考えてんのよ」
エクアは聞き慣れぬ言葉に、はてなマークをぴょこりと浮かべている。
そのはてなに私が答える。
「いんがりつ?」
「どのような事象にも、何らかの原因の結果として生起するのであり、原因のない事象は存在しないという考え方だ。要は、原因がなくては結果が生じないという意味」
「はぁ、わかるようなわからないような」
「彼女の場合、時間をそれに当てはめているということから、フィナは過去に起きた出来事に干渉し、未来を変えたいと考えている、といったところか」
「それって、大変なことなんじゃ……? 過去に干渉して未来が変わったら、今の世界の形が変わるってことですよね?」
「まぁ、そうなるな。フィナ、君は何をするつもりだ? 何か取り返したい過去、変えたい過去でもあるのか?」
「ないよ」
「ないのか……それじゃ、何故、世界を変えるようなことをしようと? 神の真似事でもするつもりか?」
「そんな気ないよ。ただ、おばあちゃんの理論だと、二人が想像するほど簡単には未来は変えられないんだって。それを否定したいだけ」
――フィナは時間についての講釈を始める。
おばあちゃんの理論だと、私が過去を変えて現在に戻ってきても、その現在は今までと変わらないらしいの。
過去を変えた時点で、世界が分岐して別の世界が生まれるんだって。
これを並行世界っていうんだけど、どんだけ過去に干渉しても、自分がいた世界から別の世界には移れないみたいなの。
例えるなら、私が路傍に咲く花を摘んだ世界がある。
私は過去に戻り、花を摘むのを阻止した。
そして現在に戻ってきたら摘まれていない花が存在するはずなのに、あるのは摘まれた花。
阻止した時点で世界が分岐し、私は分岐した世界に行くことができない。
どう足掻いても、花の摘まれた世界に戻ってきてしまうの。
「それって、悔しいじゃん。せっかく過ちをやり直せる可能性があるのに、過ちを正した世界には行けないなんて。だから、それを可能にする方法がないかなぁって、考えてんの」
「夢のような話だが、もし可能になれば、君は世界を自由に書き換えられるというわけか」
「まぁね。する気はないけど」
「そう願うよ。一人の気分次第で世界の塗り替えが可能なんて空恐ろしい」
「あくまでも、新たな理論を立ち上げたいだけだから。実際、できるかどうかは別問題だし」
「理論すら生み出すのも危険だと思うが……?」
「うわ、おばあちゃんみたいなこと言ってる。研究者ってのはどんな時でも危険を恐れず突っ走らないと。もう、年寄り臭いんだから。ねぇ、エクア?」
「いえ、私もどうかと思いますけど……」
「うそ? はぁ~あ、やっぱり研究者って孤独なのね……」
何をどう思ったら同意を得られると考えていたのか知らないが、フィナはかなり落ち込んだ様子を見せている。
私とエクアは互いに言葉を掛け合う。
「しばらくは私の下に置いていた方がよさそうだ」
「フィナさんを変えられますか?」
「自信はないが、少しでも彼女の中で倫理というものが育つように努力しよう」
「あのさ、二人とも。聞こえてるって。まったく、臆病なんだから。しかも、言うに事欠いて倫理って。ケントもいっぱしの研究者なんでしょ? そんなもんゴミ箱にポイしなさいよ」
もう辟易といった様子で言葉を漏らすフィナ。
挫折を知らぬ十六歳の少女は、今のところ無敵らしい。
その途中、結界を前にしてフィナが口にした、時間と空間が専門という言葉について尋ねて見た。
「フィナは時間と空間が専門と言っていたが、具体的にはどのような?」
「空間に関する研究においては魔導士でなくとも自由に行き来できる転送技術の確立と、空間の箱を作ることを目指してる」
「転送はわかるが、箱とは?」
「荷物置き場みたいなもんかな。空間を捻じ曲げて、ある閉じられた空間の奥行きを増すの。そうすれば、大量の物資を手軽に運べるようになるしね。私のポシェットにはその技術が使われていて結構な量が積み込める」
「とんでもない技術だなっ。理論派ではまだ、机上の空論の域を出ていない話だぞ」
「あんたたちは科学的アプローチを主軸に置く錬金術だもんね。でも、私たちは魔術的アプローチの錬金術。元々魔法には転送魔法や召喚術という、空間に干渉する魔法があるから、それを叩き台にしてる」
「理論派にも魔導の研究分野はあるが疎かにしがちだからな。水をあけられた部分もあるか。それでは時間の方は?」
「これは実践派の錬金術士。さらにおばあちゃんからも反対されてんだけどさ。私、因果律を覆したいと考えてんのよ」
エクアは聞き慣れぬ言葉に、はてなマークをぴょこりと浮かべている。
そのはてなに私が答える。
「いんがりつ?」
「どのような事象にも、何らかの原因の結果として生起するのであり、原因のない事象は存在しないという考え方だ。要は、原因がなくては結果が生じないという意味」
「はぁ、わかるようなわからないような」
「彼女の場合、時間をそれに当てはめているということから、フィナは過去に起きた出来事に干渉し、未来を変えたいと考えている、といったところか」
「それって、大変なことなんじゃ……? 過去に干渉して未来が変わったら、今の世界の形が変わるってことですよね?」
「まぁ、そうなるな。フィナ、君は何をするつもりだ? 何か取り返したい過去、変えたい過去でもあるのか?」
「ないよ」
「ないのか……それじゃ、何故、世界を変えるようなことをしようと? 神の真似事でもするつもりか?」
「そんな気ないよ。ただ、おばあちゃんの理論だと、二人が想像するほど簡単には未来は変えられないんだって。それを否定したいだけ」
――フィナは時間についての講釈を始める。
おばあちゃんの理論だと、私が過去を変えて現在に戻ってきても、その現在は今までと変わらないらしいの。
過去を変えた時点で、世界が分岐して別の世界が生まれるんだって。
これを並行世界っていうんだけど、どんだけ過去に干渉しても、自分がいた世界から別の世界には移れないみたいなの。
例えるなら、私が路傍に咲く花を摘んだ世界がある。
私は過去に戻り、花を摘むのを阻止した。
そして現在に戻ってきたら摘まれていない花が存在するはずなのに、あるのは摘まれた花。
阻止した時点で世界が分岐し、私は分岐した世界に行くことができない。
どう足掻いても、花の摘まれた世界に戻ってきてしまうの。
「それって、悔しいじゃん。せっかく過ちをやり直せる可能性があるのに、過ちを正した世界には行けないなんて。だから、それを可能にする方法がないかなぁって、考えてんの」
「夢のような話だが、もし可能になれば、君は世界を自由に書き換えられるというわけか」
「まぁね。する気はないけど」
「そう願うよ。一人の気分次第で世界の塗り替えが可能なんて空恐ろしい」
「あくまでも、新たな理論を立ち上げたいだけだから。実際、できるかどうかは別問題だし」
「理論すら生み出すのも危険だと思うが……?」
「うわ、おばあちゃんみたいなこと言ってる。研究者ってのはどんな時でも危険を恐れず突っ走らないと。もう、年寄り臭いんだから。ねぇ、エクア?」
「いえ、私もどうかと思いますけど……」
「うそ? はぁ~あ、やっぱり研究者って孤独なのね……」
何をどう思ったら同意を得られると考えていたのか知らないが、フィナはかなり落ち込んだ様子を見せている。
私とエクアは互いに言葉を掛け合う。
「しばらくは私の下に置いていた方がよさそうだ」
「フィナさんを変えられますか?」
「自信はないが、少しでも彼女の中で倫理というものが育つように努力しよう」
「あのさ、二人とも。聞こえてるって。まったく、臆病なんだから。しかも、言うに事欠いて倫理って。ケントもいっぱしの研究者なんでしょ? そんなもんゴミ箱にポイしなさいよ」
もう辟易といった様子で言葉を漏らすフィナ。
挫折を知らぬ十六歳の少女は、今のところ無敵らしい。
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