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第七章 遺跡に繋がるもの
ヴァンナスの闇
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その後、ワントワーフに銃弾製造の依頼を頼みに行く道すがらに遺跡を確認する、ということで話は落ち着いた。
フィナは壁に書かれた数式と設計図をメモに書き写している。
私が何も語らないから、独力でこれが何か突き止めるつもりだ。
彼女が父と同じレベルの実力者ならば、いつかは突き止めてしまうだろう。
その時になったら、さすがに全てを打ち明けるしかあるまい。いや、その時が来ても、打ち明ける覚悟が私にあるだろうか?
私個人の問題だけならば打ち明けることも可能なのだが。いや、それでも…………私にそんな勇気はないだろうな。
フィナはメモを取り終えると壁を見つめて、文字に触れた。
「チョークで書かれてる? それじゃあ……」
視線を石床に向けて、顔を振っている。
「あ、あった。チョークみっけ。ちょっと湿気ってる」
「これを書いた人物のものか?」
「たぶんね。見た目はチョークでも、もしかしたらケントの銃みたいにとんでもアイテムかもしれないから、一応、取っておこうっと」
そう言って、彼女は湿気ったチョークが崩れ落ちないように優しく布袋に入れて、それをポシェットへ収めた。
そして、もう一度壁に目を向けて、次に天井を見上げる。
そこで彼女はとんでもないことを口にした。
「一応、壁はそのままにしておいた方がいいかな。天井には穴を開けなくちゃ」
「あ、穴? 何故、穴を?」
「換気よ換気。ここを研究所代わりにするんだったら、換気システムが必要でしょ」
「それはそうだが、穴を開けるのか? 天井に?」
「開けるよ、天井に」
「それはさすがに危険だからやめてもらいたいのだが……」
「大丈夫大丈夫。フィルターを何重にもして、ヤバい薬品や細菌が外に漏れないようにしとくから」
「いや、そういうことでは、って、それも十分に問題だが、この上は一階の床だぞ。歩く邪魔になるし、それに何より、穴を開けて、万が一地下が崩れたら……」
「それくらいの強度計算くらいできるよ。換気口には蓋をするなりパイプで外まで引っ張るなりするし。あら、邪魔になるのはたしかね。ま、我慢して」
「あのな……」
「あれよ、お城を快適にリフォームするだけだから」
「君にとってなっ。ああ、私の城が妙なことに……」
大切な城に思わぬ改良が施されることになり頭を抱えると、隣にいたエクアが私を心配する声を上げた。
「大丈夫ですか、ケント様?」
「まぁ、なんとか。フィナの協力を得るためには必要なことだし、割り切るしかないか。二人とも、一旦、戻ろう」
「そうね、換気口のない部屋は息が詰まるもの」
と言って、フィナはチラリと天井を見て、ニンマリとした笑顔を私に見せる。
「なんてイヤミを」
「ふっふ~、よく愛嬌があるって言われるのよ」
「会話がかみ合ってないぞっ。はぁ、戻ろう」
「私はさっきの……えっと」
「ゴリンか?」
「そうそう、あの大工の人。あの人と話してくるね」
「なら、ついでに風呂釜の調子も見て来てくれ、修理屋さん」
「はいは~い、その程度のイヤミじゃ私にはノーダメージ」
「フンッ、そうか」
鼻息を飛ばして、出口に足を向ける。
すると、隣にいるエクアが申し訳なさそうな声を出してきた。
「あ、あの、話を戻すつもりじゃありませんけど、ちょっと気になることが」
「ん、どうした?」
「三百年前にヴァンナスに召喚された勇者は異世界の人・地球人。それじゃあ、今の勇者さんたちは?」
「それは……」
「彼らの末裔よ」
と、フィナが言葉を挟む。
そこからヴァンナスを扱き下ろしつつ説明を始めた。
「ヴァンナスは地球人を召喚した。でも、専門的な知識はない。で、役立たずと思ったら、勇者の才能を秘めていた。その力は魔族と対抗するため役立ったけど、同時に脅威。そこで、ヴァンナスは彼らを籠絡していったの」
――フィナの説明(個人の感情込み)
ヴァンナスはほんっと最悪でさ。
召喚した五人の地球人の少年少女を別々の戦場に送り込んでバラバラにしたの。
そして、彼らの相棒に美男美女をあてがい、虜にしていった。
やがて、勇者と美男美女の間に子どもができて、彼らは家族を守るためにヴァンナスに忠誠を誓う。
勇者がいくら強くても、この世界で生きていくには協力者が必要だったからね。
家族を守るために国家を敵に回すことなんてできない。
そうやって、ヴァンナスは勇者たちに見えない鎖を付けた。
「勇者の一人一人が当時のヴァンナス王並、もしくはそれ以上の力を持っていたから彼らが怖かったの。それで、愛を利用して、逆らえないようにした。ね、ヴァンナスって最悪でしょ、エクア」
「ええ~っと……」
エクアはちらりと私を見る。
私は何も答えずに、ため息だけを返した。
エクアは私の気持ちを察し、話題を変えようと少し話をずらす。
「あ、あの、勇者さんってとてもお強いのに、ヴァンナス王はそれと同じくらい強かったんですか?」
「召喚士って希少なだけあって、世界トップレベルの強さを持ってるからね。当時のヴァンナスは小国だったんだけど、その王の力だけで周辺国の侵略から逃れられていたようなもんだし」
「はぁ、凄いお人なんですね。召喚の力も凄いです」
「凄いんだけど、なかなか力が子孫に遺伝しないのが難点なのよ。それで、王だけでは国を守るのが手一杯。でも、勇者を召喚できて対外戦争に打って出られるようになり、ヴァンナスは今の巨大国家になったわけ」
「はぁ~、なるほど~」
「だけど、その過程がまたひどくてさ~」
フィナは手をひらひらと動かし、まるで近所のおばさまのような井戸端会議感覚でヴァンナスのゴシップを口にしていく。
私は立場上、非常に窮屈な思いだ。
そんなことお構いなしに、フィナは饒舌に語る。
フィナは壁に書かれた数式と設計図をメモに書き写している。
私が何も語らないから、独力でこれが何か突き止めるつもりだ。
彼女が父と同じレベルの実力者ならば、いつかは突き止めてしまうだろう。
その時になったら、さすがに全てを打ち明けるしかあるまい。いや、その時が来ても、打ち明ける覚悟が私にあるだろうか?
私個人の問題だけならば打ち明けることも可能なのだが。いや、それでも…………私にそんな勇気はないだろうな。
フィナはメモを取り終えると壁を見つめて、文字に触れた。
「チョークで書かれてる? それじゃあ……」
視線を石床に向けて、顔を振っている。
「あ、あった。チョークみっけ。ちょっと湿気ってる」
「これを書いた人物のものか?」
「たぶんね。見た目はチョークでも、もしかしたらケントの銃みたいにとんでもアイテムかもしれないから、一応、取っておこうっと」
そう言って、彼女は湿気ったチョークが崩れ落ちないように優しく布袋に入れて、それをポシェットへ収めた。
そして、もう一度壁に目を向けて、次に天井を見上げる。
そこで彼女はとんでもないことを口にした。
「一応、壁はそのままにしておいた方がいいかな。天井には穴を開けなくちゃ」
「あ、穴? 何故、穴を?」
「換気よ換気。ここを研究所代わりにするんだったら、換気システムが必要でしょ」
「それはそうだが、穴を開けるのか? 天井に?」
「開けるよ、天井に」
「それはさすがに危険だからやめてもらいたいのだが……」
「大丈夫大丈夫。フィルターを何重にもして、ヤバい薬品や細菌が外に漏れないようにしとくから」
「いや、そういうことでは、って、それも十分に問題だが、この上は一階の床だぞ。歩く邪魔になるし、それに何より、穴を開けて、万が一地下が崩れたら……」
「それくらいの強度計算くらいできるよ。換気口には蓋をするなりパイプで外まで引っ張るなりするし。あら、邪魔になるのはたしかね。ま、我慢して」
「あのな……」
「あれよ、お城を快適にリフォームするだけだから」
「君にとってなっ。ああ、私の城が妙なことに……」
大切な城に思わぬ改良が施されることになり頭を抱えると、隣にいたエクアが私を心配する声を上げた。
「大丈夫ですか、ケント様?」
「まぁ、なんとか。フィナの協力を得るためには必要なことだし、割り切るしかないか。二人とも、一旦、戻ろう」
「そうね、換気口のない部屋は息が詰まるもの」
と言って、フィナはチラリと天井を見て、ニンマリとした笑顔を私に見せる。
「なんてイヤミを」
「ふっふ~、よく愛嬌があるって言われるのよ」
「会話がかみ合ってないぞっ。はぁ、戻ろう」
「私はさっきの……えっと」
「ゴリンか?」
「そうそう、あの大工の人。あの人と話してくるね」
「なら、ついでに風呂釜の調子も見て来てくれ、修理屋さん」
「はいは~い、その程度のイヤミじゃ私にはノーダメージ」
「フンッ、そうか」
鼻息を飛ばして、出口に足を向ける。
すると、隣にいるエクアが申し訳なさそうな声を出してきた。
「あ、あの、話を戻すつもりじゃありませんけど、ちょっと気になることが」
「ん、どうした?」
「三百年前にヴァンナスに召喚された勇者は異世界の人・地球人。それじゃあ、今の勇者さんたちは?」
「それは……」
「彼らの末裔よ」
と、フィナが言葉を挟む。
そこからヴァンナスを扱き下ろしつつ説明を始めた。
「ヴァンナスは地球人を召喚した。でも、専門的な知識はない。で、役立たずと思ったら、勇者の才能を秘めていた。その力は魔族と対抗するため役立ったけど、同時に脅威。そこで、ヴァンナスは彼らを籠絡していったの」
――フィナの説明(個人の感情込み)
ヴァンナスはほんっと最悪でさ。
召喚した五人の地球人の少年少女を別々の戦場に送り込んでバラバラにしたの。
そして、彼らの相棒に美男美女をあてがい、虜にしていった。
やがて、勇者と美男美女の間に子どもができて、彼らは家族を守るためにヴァンナスに忠誠を誓う。
勇者がいくら強くても、この世界で生きていくには協力者が必要だったからね。
家族を守るために国家を敵に回すことなんてできない。
そうやって、ヴァンナスは勇者たちに見えない鎖を付けた。
「勇者の一人一人が当時のヴァンナス王並、もしくはそれ以上の力を持っていたから彼らが怖かったの。それで、愛を利用して、逆らえないようにした。ね、ヴァンナスって最悪でしょ、エクア」
「ええ~っと……」
エクアはちらりと私を見る。
私は何も答えずに、ため息だけを返した。
エクアは私の気持ちを察し、話題を変えようと少し話をずらす。
「あ、あの、勇者さんってとてもお強いのに、ヴァンナス王はそれと同じくらい強かったんですか?」
「召喚士って希少なだけあって、世界トップレベルの強さを持ってるからね。当時のヴァンナスは小国だったんだけど、その王の力だけで周辺国の侵略から逃れられていたようなもんだし」
「はぁ、凄いお人なんですね。召喚の力も凄いです」
「凄いんだけど、なかなか力が子孫に遺伝しないのが難点なのよ。それで、王だけでは国を守るのが手一杯。でも、勇者を召喚できて対外戦争に打って出られるようになり、ヴァンナスは今の巨大国家になったわけ」
「はぁ~、なるほど~」
「だけど、その過程がまたひどくてさ~」
フィナは手をひらひらと動かし、まるで近所のおばさまのような井戸端会議感覚でヴァンナスのゴシップを口にしていく。
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