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第六章 活気に満ちたトーワ

ギウと銃と銀眼と

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 フィナにギウのことについて尋ねると、彼女はこう答えてきた。


「私もそんなに詳しいわけじゃないよ。ただ、さっきのギウが私の知るギウと少し違うってくらい」
「それで構わない。教えてくれ」

「そう? じゃあまずは、さっき見ての通り、桁違いに強い。普通のギウは魔族を一対一で倒せる程度の実力。いわゆる、一流の戦士と呼べるくらいの強さでしかない」

「それでも十分凄いが、ギウはそれ以上と?」
「ええ。私は錬金術師だけど、それでも並みの魔族なら一度に三匹くらい相手にしても勝てる自信がある。でも、正直さっきのギウには勝てないと思う」

「何気に君も凄いが、ギウはそれを超えるというのかっ?」
「うん。それに彼、軍か警備かの正式な訓練を受けた経験があると思う」
「軍の?」

「歩く歩幅が一定で、体幹が訓練によって作られたって感じがするから」
「ギウが、軍に所属? ギウが戦争に参加することはあるのか?」
「聞いたことない。だから不思議」


 フィナはそう言って首をかしげた。私も彼女と同じく奇妙な思いだ。
 特にギウのことを知る私は、彼が昔、軍にいたなど到底信じられない。
 フィナはこの不思議に、さらなる不思議を被せる。

「これも不思議なんだけど、彼からは他のギウにはない、知性を感じる」
「知性?」

「他のギウももちろん、時にそこらの人なんかよりも知的な感じがするけど……なんていうかなぁ、あんたの友人のギウはもっと何か、深い感じがする。これは錬金術師としての勘みたいなものかな」

「そうか……」
「あのギウは、ギウ界の天才とか?」
「ふふ、それは面白いな。だが、天才であろうがなかろうが、私の大切な友人だ」

 
 私はジロリとフィナを睨む。

「うへ、そこに話が戻るの……ん? あんたの目って……」
 フィナは私の銀の瞳を覗き込んでくる。ご丁寧に懐からルーペまで出して。
 私はすぐに視線を切り、顔を下へ背けた。

「やめろ、許可もなく人を調べようとするんじゃない」
「許可を求めてもくれないくせに……その瞳って、人間の瞳じゃないよね? 何らかの人工物? でも、義眼じゃない……もしかして、古代人の技術に関係してる?」

 まさか、瞳を見られただけでここまで深く切り込まれようとは……テイローの名は伊達ではないらしい。
 彼女の見立て通り、たしかにこれは普通の人間の瞳ではない。だからといって、完全な人工物とも言えない。
 人間の瞳に、あるモノが宿っているだけだ。

 これらはヴァンナスの機密事項に関係するので、私は冷たく彼女をあしらう。


「さてな……」
「調べたいなぁ~」
「駄目だ」
「言うと思った。いつか隙を見て調べようっと」
「君というやつは……調べるなら、こちらを調べてもらいたい」

 腰に付けたホルスターから銃を抜き、弾丸を収めるシリンダーを押し出し弾丸を取り出してから、それらを机に並べた。
 フィナはクッキーを貪りながら銃と弾丸を観察する。

「ぼりぼり、そうそれ、気になってたんだよねぇ。腰にぶら下げてる銃」
「食べかすを零すな」
「大丈夫。私、そういうの気にしないから」
「私が気にするんだ。それで、弾丸の製造を依頼したいんだが」

「弾丸ねぇ。でも、これって私たちが作る銃とは形式が違うよね?」
「土産屋の親父曰く、古代人のおもちゃらしい」
「は?」
「古代人のものって話だ」
「古代人が、銃ねぇ……見せてもらってもいい?」
「ああ、構わん。ただし、ナイフのようにいきなり発砲するのはよしてくれよ」
「しないよっ」


 フィナは銃を手に取り、じっくりと観察する。
 次に、弾丸を指先で挟み、持ち上げる。


「見た目は普通の銃っぽいけど、本当に古代人のなの?」
「さぁ? だが、少なくともこれを納めていた器は我々の技術を大きく凌駕するものだった」
「え!? そっちの方も見たい!」
「そのうちにな……話を戻すが、弾丸が六発しかないため、なかなか使いづらい。そこで、弾丸の製造を依頼したいのだが」
「なるほど……はぁ~あ」

 急にフィナはがっくりと頭を落とした。
 どうしたというのだろう?

「フィナ?」
「いえ、ごめんなさい。弾丸如き製造できないなんて、本当に錬金術士じゃないんだぁ、と思っちゃったわけ」
「まだ、疑っていたのか」
「アーガメイトの息子だもん。さすがに錬金術の何かくらい知ってると思うでしょ」
「すまないな、ご期待にとことん添えなくて……で、可能か?」

「それはもちろん。だけど、雷管の製造は面倒だから、そこは魔法石型点火装置に置き換えてもいい? そっちの方が安価だし、簡単に作れるから」
「こちらとしては弾丸が飛びさえすればいい。好きにしてくれ」
「火薬は調合するとして……あとは薬莢と弾頭だけど、これは私より『ワントワーフ』に依頼した方が早いと思う」


 ワントワーフ――鍛冶や金属の扱いに長けた種族。主に山を縄張りとし、大柄な者が多い。だが、少ないながらも草原に住む者もおり、彼らは山に住む者とは違いかなりスマート。
 見た目は犬そっくりで、山に住む者・草原に住む者、双方ともに、どの種族に対しても好意的な種族である。


「ワントワーフか。この半島だと……」
「半島とビュール大陸を仕切る、『ファーレ山脈』の袂に彼らの鉱山があるよ。彼らに依頼するとなったら最低でも百発単位じゃないと無理だけど」

「今後何があるかわからないから練習用も含めて、それくらいは欲しいな。問題は依頼料だが……君とワントワーフ、どの程度支払えばいい?」
「私は別にいらない」
「しかし」

「遺跡の探索許可とケツ持ちをお願いしてるから、それを依頼料にしてあげる」
「探索は許可していない。見るだけだ。それと、女性がケツ持ちなんて言葉を使うな」
「うわ~、男は~、女は~、とかいうタイプ。さすがおっさん」
「二十二っ。男女がどうとかという表現に問題があるならば、言い方を変えよう。男であれ、女であれ、あまり下品な言葉を使うものではない」

「その言葉もおっさんくさいよ」
「うるさい……それでワントワーフの依頼料だが、こちらの台所事情は芳しくなく、できれば安く済ませたいのだが。相場はわかるか?」
「まぁ、それなり~に?」
「その様子だと微妙みたいだな。仕方ない、何とか交渉で頑張ってみるか」


 私は机に置いた銃と弾丸を回収しようとした。
 だが、フィナがそれを止めに入る。

「ちょっと待ってっ」
「どうした?」
「一応、詳しく調べておこうっと思って。古代人の名前が出たのならね~」

 彼女はポシェットから、手のひらサイズのひし形の青水晶を取り出し、ふわりと浮かべる。
 私はその水晶の名を唱える。


「その水晶は、探査や分析、そして記録が可能な道具。真実の瞳ナルフか」
「そ、錬金術士には必須なアイテム。魔力を読んだり、エネルギーを捉えたり、成分を分析したり、ま、色々ね」

 フィナはナルフを使い、弾丸のチェックを始める。
 そして、水晶に映し出される波形をじっと見つめると、彼女は突然、ぞわりと産毛を逆立て、声を詰まらせた。


「こ、これ、中に詰まってるの火薬じゃない……」
「なに?」
「うそ……なに? この馬鹿げたエネルギー量は……ケント、あんたは一度も弾を撃ってないのよね?」
「ああ、そうだが」
「撃たなくてよかったね。撃っていたら、この城くらいなら軽く消滅させてた……」
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