銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
35 / 359
第三章 アルリナの影とケントの闇

策謀と大義

しおりを挟む
 馬を引き、ギウと共にエクアを連れて、急ぎ東門へ向かう。
 その途中でエクアが声に怯えを乗せながら尋ねてきた。


「な、なんだか、大変なことになっている気がするんですが、大丈夫なんですか?」
「たしかに大変なことになっているし、そう大丈夫でもない」
「ええ!?」
「だが、必要なことでね」
「必要?」

「争いごとには大義名分というものが必要だ。先程のは、その大義を得るための挑発」

「えっと、よくわかりませんけど、シアンファミリーの人たちと争うんですよね? あちらは五百人もの傭兵がいますよ。ここまで助けていただいてなんですが、これ以上ケント様にご迷惑をおかけするわけには……」

 声を落とし、大変申し訳なさそうに体を縮めるエクア――そんな彼女の頭をそっと撫でる。

「はは、安心してくれ。何も君を助けるためだけに動いたわけではない。今後のアルリナとの関係を良いものとするため……それに実を言うと、私とギウの都合のためでもあるんだ」
「ギウギウ?」

 前を歩いてたギウは立ち止まり、はてなマークを瞳に宿して振り向いた……目は相変わらず無表情だが、私にはなんとなくわかる。


「ほら、城の内部をもう少し華やいだものにしたいという話だ。今回の件を上手く治められれば、快適な部屋が手に入る」
「ギウ~?」

 ギウは腕を組んで、身体を斜めに傾ける。
 まだ、私が企んでいる中身に気づいていないようだ。

「ま、それらのことはあとでな。今は急いでトーワに戻らなければ」
「ギウ?」
「どうしてですか?」

「早晩、シアンファミリーが攻めてくるからだ」
「え!?」
「ギウッ!?」

「そう驚くことでもあるまい。ムキ=シアンとは会ったこともないが、町の評判だけでも彼の性格は透けて見える」


 私は二人に対して、簡単に今後の展開となぜそうなるかを説明する。
 まず、ムキ=シアンの性格。
 プライドが高く、面子にこだわり、器が小さい。
 そのような男が公衆の面前で罵倒した存在を許すわけがない。
 
 さらに、あの場で私は、『領主の私に手出しはできない』と発言した。
 いくら肩書だけの領主相手とはいえ、一応、ヴァンナス国から領地を預かった人物。
 ヴァンナスからの采配を仰ぐことなく事を構えるなど得策ではない。

 だが、事を構えなければ民衆は『アルリナで我が物顔に振舞っていても、領主様には手出しできないんだ』と囁くようになる。
 実際にその様なことを囁かなくとも、ムキ=シアンが勝手にそう思い込む。自身のプライドが生み出した虚構のあざけりを気にする。


 彼はこう思うだろう。
 相手が何者であろうと舐められてたまるものか、と。

 これに加え、彼が私を襲うことのできる条件が揃っている。
 一つはアルリナの町を牛耳っていること。
 もう一つは、私に部下はなく、古城トーワで孤立していること。

 つまり、相手が領主であろうと、誰の目も届かないところで事に及べば、どうとても取り繕うことができる。


 これを聞いて、エクアは顔を青褪める。
「そ、それじゃ、シアンファミリーは目撃者がいない場所で、ケント様を亡き者にするために!」
「そうだ。そして、君を連れ去るだろうな」
「……あ」

 エクアの美しい新緑の瞳から光が消え、震えが体全身を包む。
 それはわかっているからだ。
 ムキ=シアンに囚われれば、一生屋敷に閉じ込められ、贋作づくりを強要されることを。
 そして、やがては……。


「安心しろ。そうはならない」
 私は声に最上の優しさを乗せて言葉を出した。
 しかし、エクアから怯えを拭いきれない。

「で、でも、相手は五百人の傭兵を雇っているんですよ。そんな人たちに攻められたら!」
「五百人全てを繰り出すことはないだろう。彼らはこちらの戦力にギウの存在を加味して判断しているだろうが……それでも、せいぜい二十~三十といったところか」

「たとえ数十でも、とてもお二人では! もしかして、ケント様とギウさんはとてもお強いんですか?」
「いや、私はそれほどでもないな。並の戦士相手なら適当にあしらうことはできるが」
「それじゃ、ギウさんは?」

 エクアはギウに顔を向ける。
 するとギウは、銛の先をじっと見つめ、堂々と胸を張った。

「ギウ!」


 その自信に溢れる返事にエクアは安堵した表情を見せる。 
 このエクアの様子から、私の言葉よりもギウの存在の方が評価が高いようだ……ちょっと悲しい。
 ま、それはともかく、今回はその評価の高いギウの力を借りる気はない。

「ふふ、傭兵数十人を相手にするかもしれないのに凄い自信だな」
「ギウギウッ」
「実に頼もしいかぎりだが、さすがに君の力を借りるわけにはいかない」
「ギウ?」

「この件は私が売った喧嘩。君の手を血で汚したくはない。今回は私が何とかしてみせるよ」
「ギウギウ、ギウ?」
「うん、何か策があるのか? まぁな。それについては多少手を借りることになるが、互いに血が流れるようなことがないように努めたい……流れるのは、一人で十分だ」

 私は終わりを結ぶ言葉から熱を消し去り、とても冷たい表情を見せた。
 この様子に、ギウとエクアは不安そうな声を上げる。


「ぎ~う?」
「ケント、様?」
「ああ、すまない。つい、感情が表に出てしまったようだ。それでは古城トーワに戻り、傭兵を待ち受ける準備をしよう」
「あ、あのっ」

「どうした、エクア?」
「ケント様がお一人になると危ないのでしたら、むしろ町中まちなかの目立つ場所にいた方が?」
「いや、町はシアンファミリーのテリトリー。外よりも危険だ。それに、トーワに攻めて来てもらわないと困るのだ」
「え?」
 

 私は銀の瞳をエクアから外して、ムキ=シアンの屋敷がある高台を見つめる。

「彼が賢ければ、攻めてくるような真似はしないだろう。だが、面子にこだわるのならば……ムキ=シアンは破滅する」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...