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第三章 アルリナの影とケントの闇
走れ若者
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ギウにエクアの守護を頼み、私は一人、ムキ=シアンに関する情報を集める。
その途中で、以前、釣りを指導してもらった老翁に出会った。
早速、老翁にムキ=シアンについて尋ねると、老翁はこう答えた。
「父親も酷かったが、息子は輪をかけて酷い。少なくとも父親は借金のカタに子どもを売り飛ばしたりはしなかったからの。ま、父親も暴利で金を貸し、返せない者には見せしめに家を燃やしたりしてたがな」
「なるほど、程度に差はあれど悪党というわけか……」
「そうじゃな」
「しかし、彼らは表の取引もしているでしょう?」
「もちろんじゃ。しかし、取引で少しでも自分らが不利と見ると、暴力を持ち出すが……」
「まったく、ヤクザな連中だ。そう言えば、八百屋の若夫婦も買い叩かれることがあると言っていたな」
「八百屋だけではないぞ。ムキの屋敷の出入り業者はみんな愚痴をこぼしておる」
「出入り業者?」
「ムキ=シアンはアルリナの高台に屋敷を構えておるんじゃが、ほれ、ここからも見えるじゃろ」
老翁が高台を指差す。
そこには遠くからでもはっきりわかる豪邸が建っていた。
屋敷は金ぴかで、白と青で映えるアルリナの町にはとても不似合い。かなりの悪趣味だ。
「あの屋敷には八百屋・肉屋・工務店と、いろんな業者が出入りしておる」
「たしか、若夫婦との世間話で、裏口から通されていると聞いた覚えがあるな……ムキ=シアンは相当恨みを買っているから、やはり警備も厳重なのでしょうね?」
「そうさねぇ~、表玄関も屋敷の敷地内も警備だらけだと聞いとるの。じゃが、裏口はそうでもないと」
「ほぉ~、それはまた何故?」
「頻繁に業者が出入りするから、身分の照会が面倒だそうだ。それに出入りする者は全部、身分照会済みの者たちばかりだからの。だから見張りは二、三人いる程度じゃと」
「それはそれは……おっと、そろそろ行かねば。ありがとう老翁、世間話に付き合ってくれて」
「いやいや、こちらこそこんなジジイの相手をしてくれてありがとうよ。しかもそれが領主様ときたら、嬉しいやら申し訳ないやら」
「おや、いつから私のことを?」
「釣りの仕方を教えて、すぐにな。元々町では古城トーワに新しい領主がやってきたというのは噂になっとるし、その方が銀の瞳を持っているという話を聞いて、ピンときた」
「隠すつもりはなかったのだが、申し訳ありません」
「いやいやいや、領主様から頭を下げられたら困ってしまうよ。それにしても、こう言っては失礼だが、随分と腰の低い領主様ですな。王都では貴族だったでしょうに」
「貴族もピンキリでして……」
「ふぉっふぉっふぉ、面白い方じゃ。じゃが……」
老翁は笑いを鎮め、代わりに厳かな声を上げつつ、真っ白な眉をピクリと跳ねた。
「ケント様が何をお考えになっておるのかはわかりませんが、火中の栗を拾うような真似はせん方がいいと思います」
「そうですか。忠告、痛み入ります」
私は老翁の言葉を重々しく受け取り、頭を下げた。
その姿に老翁は少し困ったような声を上げる。
「殊勝な態度じゃが……まったく、若い奴はジジイの言うことを聞こうとせん。それが若さというものじゃろうが。止まる気がないのなら、全力で駆け抜けるのも手じゃろ」
「あはは、申し訳ありません」
「ふぉふぉ。この町の者たちはシアンファミリーをよく思っとらん連中ばかりじゃ。ケント様が何かを尋ねれば喜んで教えてくれるじゃろう。じゃが、それは期待とはかけ離れたものじゃよ」
「重々承知しております。私は新参者。町には迷惑を掛けないように努めるつもりです。ですが、同時に、可能性を示せると思っていますので」
シアンファミリーが支配する港町アルリナ。
誰も彼らに逆らえない。この状況に皆は辟易している。
そこに逆らう者が現れた。
町の皆は期待はしてないが、何かが変わってほしいという思いはあるはずだ。
問題は、その思いを商人ギルドも持っているかどうか……今回の問題は、シアンファミリーと相対している、商人ギルドの心の内に掛かっている。
私は老翁に一礼をして、次なる情報を求め、立ち去った。
その途中で、以前、釣りを指導してもらった老翁に出会った。
早速、老翁にムキ=シアンについて尋ねると、老翁はこう答えた。
「父親も酷かったが、息子は輪をかけて酷い。少なくとも父親は借金のカタに子どもを売り飛ばしたりはしなかったからの。ま、父親も暴利で金を貸し、返せない者には見せしめに家を燃やしたりしてたがな」
「なるほど、程度に差はあれど悪党というわけか……」
「そうじゃな」
「しかし、彼らは表の取引もしているでしょう?」
「もちろんじゃ。しかし、取引で少しでも自分らが不利と見ると、暴力を持ち出すが……」
「まったく、ヤクザな連中だ。そう言えば、八百屋の若夫婦も買い叩かれることがあると言っていたな」
「八百屋だけではないぞ。ムキの屋敷の出入り業者はみんな愚痴をこぼしておる」
「出入り業者?」
「ムキ=シアンはアルリナの高台に屋敷を構えておるんじゃが、ほれ、ここからも見えるじゃろ」
老翁が高台を指差す。
そこには遠くからでもはっきりわかる豪邸が建っていた。
屋敷は金ぴかで、白と青で映えるアルリナの町にはとても不似合い。かなりの悪趣味だ。
「あの屋敷には八百屋・肉屋・工務店と、いろんな業者が出入りしておる」
「たしか、若夫婦との世間話で、裏口から通されていると聞いた覚えがあるな……ムキ=シアンは相当恨みを買っているから、やはり警備も厳重なのでしょうね?」
「そうさねぇ~、表玄関も屋敷の敷地内も警備だらけだと聞いとるの。じゃが、裏口はそうでもないと」
「ほぉ~、それはまた何故?」
「頻繁に業者が出入りするから、身分の照会が面倒だそうだ。それに出入りする者は全部、身分照会済みの者たちばかりだからの。だから見張りは二、三人いる程度じゃと」
「それはそれは……おっと、そろそろ行かねば。ありがとう老翁、世間話に付き合ってくれて」
「いやいや、こちらこそこんなジジイの相手をしてくれてありがとうよ。しかもそれが領主様ときたら、嬉しいやら申し訳ないやら」
「おや、いつから私のことを?」
「釣りの仕方を教えて、すぐにな。元々町では古城トーワに新しい領主がやってきたというのは噂になっとるし、その方が銀の瞳を持っているという話を聞いて、ピンときた」
「隠すつもりはなかったのだが、申し訳ありません」
「いやいやいや、領主様から頭を下げられたら困ってしまうよ。それにしても、こう言っては失礼だが、随分と腰の低い領主様ですな。王都では貴族だったでしょうに」
「貴族もピンキリでして……」
「ふぉっふぉっふぉ、面白い方じゃ。じゃが……」
老翁は笑いを鎮め、代わりに厳かな声を上げつつ、真っ白な眉をピクリと跳ねた。
「ケント様が何をお考えになっておるのかはわかりませんが、火中の栗を拾うような真似はせん方がいいと思います」
「そうですか。忠告、痛み入ります」
私は老翁の言葉を重々しく受け取り、頭を下げた。
その姿に老翁は少し困ったような声を上げる。
「殊勝な態度じゃが……まったく、若い奴はジジイの言うことを聞こうとせん。それが若さというものじゃろうが。止まる気がないのなら、全力で駆け抜けるのも手じゃろ」
「あはは、申し訳ありません」
「ふぉふぉ。この町の者たちはシアンファミリーをよく思っとらん連中ばかりじゃ。ケント様が何かを尋ねれば喜んで教えてくれるじゃろう。じゃが、それは期待とはかけ離れたものじゃよ」
「重々承知しております。私は新参者。町には迷惑を掛けないように努めるつもりです。ですが、同時に、可能性を示せると思っていますので」
シアンファミリーが支配する港町アルリナ。
誰も彼らに逆らえない。この状況に皆は辟易している。
そこに逆らう者が現れた。
町の皆は期待はしてないが、何かが変わってほしいという思いはあるはずだ。
問題は、その思いを商人ギルドも持っているかどうか……今回の問題は、シアンファミリーと相対している、商人ギルドの心の内に掛かっている。
私は老翁に一礼をして、次なる情報を求め、立ち去った。
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