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第三章 アルリナの影とケントの闇
善人系悪人のケント
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贋作づくりに手を貸してしまった少女、エクア。
彼女を救い出すためには、シアンファミリーをどうにかしなければならない。
もっとも、単純にエクアを救うだけなら、そう難しい話ではないだろう。
私は領主という肩書を持ち、王都にはそれなりの伝手がある。
それらを頼れば、彼女をこの町とはどこか別の町で匿うことも可能だ。
だがそれでは、エクアが売ってしまった絵は戻ってこない。
それどころかこのことが表沙汰になれば、エクアは画家としての道が閉ざされてしまう。
そういったことを加味して行動しなければならない。
そのためにまず私が取った行動は、エクアの安全の確保とアトリエに残る五枚のサレート=ケイキの模倣画の扱いだ。
模倣画をこのまま放置しておくわけにはいかない。また、シアンファミリーはエクアを手放す気はない。
このまま絵画を放置しておけば、勝手に持って行かれる可能性がある。エクアを放置しておけば、最悪、監禁して絵を強制的に描かせるという手段を取られかねない。
そこで、一時的にエクアと絵画を預かってもらうことにした。
その預かってもらう相手は……。
「迷惑をかけるが、なんとか頼まれてくれないか?」
「へい、預かるだけなら……」
私が頼ったのは八百屋の若夫婦だった。
人の目がつきにくい店の裏口で、彼らと会話を重ねる。
これはかなり危険な頼みだ。
だから、深く彼らを巻き込むわけにはいかない。
あくまでも預けるだけに留める。
「もし、エクアがここにいることをシアンファミリーに気づかれたら、彼女も絵も引き渡してくれて構わない」
「よろしいんで?」
「君たちがシアンファミリーに睨まれでもしたら心苦しいからな。何か聞かれたら、領主ケントから有無を言わさず命令された、と答えてくれ」
「は、はぁ」
「だが、店の近くにギウを置いていく。仮に引き渡しても、彼がエクアを守ってくれるから心配無用だ。そうだろ、ギウ」
「ギウギウ」
ギウには八百屋から少し離れた場所で、エクアを見守ってもらうことにした。
万が一、エクアが見つかった場合、シアンファミリーから取り返すために。
私は隣で不安そうに身体をそわそわしているエクアの肩に手を置く。
「不安だろうが、信頼して欲しい。怖い思いをするかもしれないが、決して君を危険な目に遭わせるような真似はしない」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして、私に良くしてくれるんですか?」
それは素直な疑問だろう。
いくら不幸な状況下にあろうと、見ず知らずの少女を助けてやる義理はない。
私が物語に出てくるような正義の味方なら別だが……だが、私は正義の味方ではない。
それならばなぜ、彼女に手を差し伸べるかというと……この物語の先には、私の利となるものを感じ取ったからだ。
しかし、それを今のエクアに正直に伝えれば、彼女は利害のみで行動する大人に不信感を抱くだろう。
だからまだ、彼女の前では正義の味方を演じておこう。
「一人の男として、また大人として、少女に悪事を強要するシアンファミリーを放っておけない。それだけだ」
「ケント様…………ありがとうございます! わ、私、この町に来て初めて、本当の意味で頼れる人に出会えて……あれ、グス、ごめんなさい。泣くなんて変ですよね……?」
エクアは自分の意志ではどうにもできない涙を零し続ける。
海難事故で両親を亡くし、これまでずっと自分だけを頼りとして生きてきた。
小さな体で自分を支えてきた。
相当、無理を押していたに違いない。
だからこそ、救いの手に少し触れただけで感情が溢れ出してしまったのだろう。
そのような少女を、私の利己的な理由で利用しようとしているのは気が引けるが……彼女を救う対価として納得してもらうしかない。
これらのことは、エクアの感情と状況が落ち着き次第、包み隠さず伝えるとしよう。
彼女を救い出すためには、シアンファミリーをどうにかしなければならない。
もっとも、単純にエクアを救うだけなら、そう難しい話ではないだろう。
私は領主という肩書を持ち、王都にはそれなりの伝手がある。
それらを頼れば、彼女をこの町とはどこか別の町で匿うことも可能だ。
だがそれでは、エクアが売ってしまった絵は戻ってこない。
それどころかこのことが表沙汰になれば、エクアは画家としての道が閉ざされてしまう。
そういったことを加味して行動しなければならない。
そのためにまず私が取った行動は、エクアの安全の確保とアトリエに残る五枚のサレート=ケイキの模倣画の扱いだ。
模倣画をこのまま放置しておくわけにはいかない。また、シアンファミリーはエクアを手放す気はない。
このまま絵画を放置しておけば、勝手に持って行かれる可能性がある。エクアを放置しておけば、最悪、監禁して絵を強制的に描かせるという手段を取られかねない。
そこで、一時的にエクアと絵画を預かってもらうことにした。
その預かってもらう相手は……。
「迷惑をかけるが、なんとか頼まれてくれないか?」
「へい、預かるだけなら……」
私が頼ったのは八百屋の若夫婦だった。
人の目がつきにくい店の裏口で、彼らと会話を重ねる。
これはかなり危険な頼みだ。
だから、深く彼らを巻き込むわけにはいかない。
あくまでも預けるだけに留める。
「もし、エクアがここにいることをシアンファミリーに気づかれたら、彼女も絵も引き渡してくれて構わない」
「よろしいんで?」
「君たちがシアンファミリーに睨まれでもしたら心苦しいからな。何か聞かれたら、領主ケントから有無を言わさず命令された、と答えてくれ」
「は、はぁ」
「だが、店の近くにギウを置いていく。仮に引き渡しても、彼がエクアを守ってくれるから心配無用だ。そうだろ、ギウ」
「ギウギウ」
ギウには八百屋から少し離れた場所で、エクアを見守ってもらうことにした。
万が一、エクアが見つかった場合、シアンファミリーから取り返すために。
私は隣で不安そうに身体をそわそわしているエクアの肩に手を置く。
「不安だろうが、信頼して欲しい。怖い思いをするかもしれないが、決して君を危険な目に遭わせるような真似はしない」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして、私に良くしてくれるんですか?」
それは素直な疑問だろう。
いくら不幸な状況下にあろうと、見ず知らずの少女を助けてやる義理はない。
私が物語に出てくるような正義の味方なら別だが……だが、私は正義の味方ではない。
それならばなぜ、彼女に手を差し伸べるかというと……この物語の先には、私の利となるものを感じ取ったからだ。
しかし、それを今のエクアに正直に伝えれば、彼女は利害のみで行動する大人に不信感を抱くだろう。
だからまだ、彼女の前では正義の味方を演じておこう。
「一人の男として、また大人として、少女に悪事を強要するシアンファミリーを放っておけない。それだけだ」
「ケント様…………ありがとうございます! わ、私、この町に来て初めて、本当の意味で頼れる人に出会えて……あれ、グス、ごめんなさい。泣くなんて変ですよね……?」
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相当、無理を押していたに違いない。
だからこそ、救いの手に少し触れただけで感情が溢れ出してしまったのだろう。
そのような少女を、私の利己的な理由で利用しようとしているのは気が引けるが……彼女を救う対価として納得してもらうしかない。
これらのことは、エクアの感情と状況が落ち着き次第、包み隠さず伝えるとしよう。
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