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第七章 囚われ、凌辱される少女……少女?
第67話 教会騎士シュルマは影を踏む
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――――アルラたちが出立し、二日後・東方文化が根付く西方最後の町『ひやおろし』
異端廓清専門である星天騎士団団長・教会騎士シュルマはカリンたちを追って、ひやおろしへ訪れていた。
彼女はひやおろしの代表を務めるユウガの邸宅へ訪れ、畳が並ぶ広間で膝折り、ユウガにカリンたち一行について問うが、彼の返事は要領を得ない。
「もう一度、お尋ねします。牛を引き連れた集団、太めの男と冒険者風の女に幼い少女。そして、賞金稼ぎのツキフネとスラーシュの領主の三女ラフィリアがここへ訪れたのですね」
「そうだ、ヤエイを失った……」
「そのヤエイなる者を連れ去ったのですか?」
「ああ、ヤエイ、ヤエイや。どうして!? 私はこんなにもお前のことを愛しているのに!! お前から受けた傷すら愛しいというのに! どうして、どうして、どうしてだ!?」
彼はヤエイによって握り潰された左手に右手を添えて、爪を立て掻き毟る。
怒りと恍惚と愛おしさが交わる複雑な表情を見せて、がりがりと、がりがりと皮膚を破り、肉が捲り上がり、血が滴り落ちようとも掻き毟るのを止めない。
それを女中たちがやめさせようとするが、彼は癇癪を起こし、畳の上でのたうち回る。
「ああああああ!! 何故だ、ヤエイ!! 約束したではないか!? 私の妻になると!? 私は約束通り懸命に働き、財を成して、お前を迎えに来たというのに!!」
ユウガは半狂乱状態となり、もはや話などできる状況ではない。
シュルマは使用人を呼び、ユウガを下がらせた。
広々とした畳の間に一人残るシュルマは、出された緑茶を啜る。
「ふ~、使用人の話では彼らが訪れて以降、乱心したと聞いていましたが、それでも落ち着いているときはまともだと言っていました……タイミングが悪かったようですね。これではまともに話を聞けない。それにしても――」
彼女はスンスンと鼻を鳴らす。
「催淫薬の香りが屋敷内に満ちている。屋敷の隅には封印の力の痕跡。そしてヤエイという名前。名の響きからナディラ族? ユウガ、あなたはナディラ族を閉じ込めて弄んでいたようですね。ですが、彼女たちは高潔な魂を求める種族。ユウガの魂は受け入れられなかった。そんなところでしょう」
茶を盆の上に戻し、嘆息も漏らす。
「ま、当然でしょうね。おそらく、この催淫薬はご禁制の品。財を成したと言っていましたが、それは薄汚れた商売によってのもの。これではナディラ族に受け入れられるはずもない」
そう言葉を置いて、開かれた障子の向こうにある中庭を見つめる。
「東方式の庭。豪勢ですねぇ。さぞかしあくどく儲けていたのでしょう……だから、受け入れられず、ナディラ族を閉じ込め、それを影の民の少女が救った? 旅の途中で何かしらの救いの手を差し伸べる影の民。その者が向かうは西。ここより先は呪われた大地。さらに先にあるのは、まほろば峡谷……そこが目的地?」
シュルマは音もなく立ち上がり、西へ顔を向けた。
「旅立ったのは二日前。私の足でしたら、一両日中に追いつくことができます。捕え、何を企んでいるか吐かせるとしましょう。内容いかんによっては……」
異端廓清専門である星天騎士団団長・教会騎士シュルマはカリンたちを追って、ひやおろしへ訪れていた。
彼女はひやおろしの代表を務めるユウガの邸宅へ訪れ、畳が並ぶ広間で膝折り、ユウガにカリンたち一行について問うが、彼の返事は要領を得ない。
「もう一度、お尋ねします。牛を引き連れた集団、太めの男と冒険者風の女に幼い少女。そして、賞金稼ぎのツキフネとスラーシュの領主の三女ラフィリアがここへ訪れたのですね」
「そうだ、ヤエイを失った……」
「そのヤエイなる者を連れ去ったのですか?」
「ああ、ヤエイ、ヤエイや。どうして!? 私はこんなにもお前のことを愛しているのに!! お前から受けた傷すら愛しいというのに! どうして、どうして、どうしてだ!?」
彼はヤエイによって握り潰された左手に右手を添えて、爪を立て掻き毟る。
怒りと恍惚と愛おしさが交わる複雑な表情を見せて、がりがりと、がりがりと皮膚を破り、肉が捲り上がり、血が滴り落ちようとも掻き毟るのを止めない。
それを女中たちがやめさせようとするが、彼は癇癪を起こし、畳の上でのたうち回る。
「ああああああ!! 何故だ、ヤエイ!! 約束したではないか!? 私の妻になると!? 私は約束通り懸命に働き、財を成して、お前を迎えに来たというのに!!」
ユウガは半狂乱状態となり、もはや話などできる状況ではない。
シュルマは使用人を呼び、ユウガを下がらせた。
広々とした畳の間に一人残るシュルマは、出された緑茶を啜る。
「ふ~、使用人の話では彼らが訪れて以降、乱心したと聞いていましたが、それでも落ち着いているときはまともだと言っていました……タイミングが悪かったようですね。これではまともに話を聞けない。それにしても――」
彼女はスンスンと鼻を鳴らす。
「催淫薬の香りが屋敷内に満ちている。屋敷の隅には封印の力の痕跡。そしてヤエイという名前。名の響きからナディラ族? ユウガ、あなたはナディラ族を閉じ込めて弄んでいたようですね。ですが、彼女たちは高潔な魂を求める種族。ユウガの魂は受け入れられなかった。そんなところでしょう」
茶を盆の上に戻し、嘆息も漏らす。
「ま、当然でしょうね。おそらく、この催淫薬はご禁制の品。財を成したと言っていましたが、それは薄汚れた商売によってのもの。これではナディラ族に受け入れられるはずもない」
そう言葉を置いて、開かれた障子の向こうにある中庭を見つめる。
「東方式の庭。豪勢ですねぇ。さぞかしあくどく儲けていたのでしょう……だから、受け入れられず、ナディラ族を閉じ込め、それを影の民の少女が救った? 旅の途中で何かしらの救いの手を差し伸べる影の民。その者が向かうは西。ここより先は呪われた大地。さらに先にあるのは、まほろば峡谷……そこが目的地?」
シュルマは音もなく立ち上がり、西へ顔を向けた。
「旅立ったのは二日前。私の足でしたら、一両日中に追いつくことができます。捕え、何を企んでいるか吐かせるとしましょう。内容いかんによっては……」
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