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第七章 囚われ、凌辱される少女……少女?
第62話 誤解だ!
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――――客間
私たちは湯を堪能に、部屋へ戻って来ていた。
私には別室が用意されてあるが、食事は皆と共にすることになっている。
出された食事は山菜と鶏肉をメインにしたもの。
漆黒の膳の上には豊富な種類の料理たちが、細かな小鉢に装われている。
この中に刺身はない。それは海が遠いためだ。
川魚の刺身は用意できるようだが、その風味は人を選ぶため料理人は避けたのだろう。
豪勢な食事に舌鼓を打ち、最後に小豆の餡が入った最中と緑茶で締めて、私は封印区画を探ることにした。
「では、君たちは休むといい。と言っても、状況によってはすぐに出立するかもしれないが……」
「知り合いかもしれない女性を助けに行くんだね、おじさん?」
「助けを求められればな。そうなると、ユウガは黙っていない。ツキフネ、皆を頼む。私は貫太郎の様子を覗いてから、封印が施されている場所へ向かう」
「了解だ。お前であれば心配ないだろうが、気をつけろ」
「ふふ、気遣いありがとう」
――厩舎
貫太郎が休んでいる厩舎へ向かう。
厩舎には馬預と思われる男性が立っていた。
貫太郎はグレーラ大陸に於いて、人間族の最大国家クラムエンシェントの王であるガスクロン国王からの賜りものの牛という設定なので、ユウガは見張り番を置いたようだ。
彼にユウガのことを尋ねる。
「ご苦労」
「あ、これは学者様。これも役目ですので」
「ユウガ様は仕事がお忙しいようで、まだお帰りにはなっていないのかな?」
「えっと、そうですね、はい」
問いに対して、躊躇う返し――帰って来ているが居場所は言えない、と言ったところか。
そうなると、今、ユウガは私の知り合いであろう彼女と一緒にいる可能性が高い。そして、こんな反応を見せる家の者は閉じ込められている女性がいることを承知しているというわけだ。
少しだけ意地悪な問いをする。
「ほ~、これほど夜が深いというのに、まだお仕事を……いや、もしや仕事ではなく、ユウガ様にはご執心な女性でも?」
「え!? いえいえいえ、そのような話はまったくありませんよ! ユウガ様はお勤めでございます!」
「ありがとう、わかりやすくて」
「はい?」
「いや、何でもない。物資の方は?」
「そちらでしたら厩舎裏に置いた荷車の方に積み込み終えています。明日、皆さまにご確認をと考えてまして」
「そうでしたか、世話になりますな」
「いえいえ」
「それと少々かんた……御牛様の様子を覗いても?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
厩舎に入り、まずは周りを観察する。
厩舎独特の飼料と馬と馬糞の匂いが交わり残るが、新しい藁の匂いの方が上回り、あまり気にならない。
ユウガはしっかりと厩舎を清め、貫太郎が快適に過ごせる環境を整えたようだ。
飼料の方も野菜や果物を中心にしたものでかなり栄養価が高そうに見える。
師匠直伝、私のアレンジ配合飼料よりは劣るだろうが。
私は貫太郎と二人っきりになりたいと馬預の男へ頼む。
男が厩舎から出たところで、貫太郎の額を優しく撫でながら話しかける。
彼女はとても深いまつげが被さる瞼を閉じて、心地良さそうに声を生む。
「も~」
「フフフ……貫太郎、どうやら今夜はゆっくり休めそうにはないんだ」
「ぶも?」
「この屋敷に知り合いが閉じ込められているようでな、おそらく彼女を助けることになるだろう」
「も!? もももも!!」
「ふふ、そうだな。いつでも脱出できる用意をしておかないと。そういうことで、またあとで」
「もも~」
私はベルベットのようなさらりとした牛毛を何度も撫でて、去りがたい思いを残しつつも手を離す。
そして、手のひらを自分の胸まで持って来て、手に残る柔らかく温かな感触を胸の中に封じてから厩舎を後にしようとしたのだが……瞳が貫太郎の巨大な胸に止まる。
「フフ、私たちの中では君が一番の巨乳だな」
「もっ? ももももも~」
貫太郎から思いっきり後ずさりをされてしまった。
私は慌てて誤解だと訴える。
「ち、違うぞ。これは別にセクハラとかではなく、たまたま風呂でそういう話題が出てだな」
「ぶも、ぶもも……」
「違う違う! 私から彼女たちにそんな話題を振ったわけではない! 頼むから私を信じてくれぇえぇぇ!」
――――ユウガの屋敷・その一角の竹林
貫太郎からあらぬ誤解を受けて、馬預の男からは牛に頭を下げ続ける男と怪訝な表情を見せられと、散々な思いを抱きながら厩舎を離れ、封印区画を探して屋敷の隅へ。
そこには竹林があった。
その内部から封印の呪力を感じる。
周囲には人の気配はなく、暗に人を遠ざけているような雰囲気を醸す。
念のため辺りの気配を探りつつ、竹林の中へ入る。
しばらく歩くと、小さな木造の離れ屋が見えた。
離れ屋に近づくたびに甘く蕩けた匂いが濃くなり鼻を突く。匂いの種類は催淫薬の類い。
影響を受けぬよう浄化の魔法を自分に掛けて、小屋を探り、裏側にあった地下へと続く階段を降りる。
階段を下りた先には、封印の力が宿る符が何十枚も貼られた鉄製の扉。
施された封印は強力ながらも、現在の私の魔法でも対処可能。
封を破り、中へ入る……。
私たちは湯を堪能に、部屋へ戻って来ていた。
私には別室が用意されてあるが、食事は皆と共にすることになっている。
出された食事は山菜と鶏肉をメインにしたもの。
漆黒の膳の上には豊富な種類の料理たちが、細かな小鉢に装われている。
この中に刺身はない。それは海が遠いためだ。
川魚の刺身は用意できるようだが、その風味は人を選ぶため料理人は避けたのだろう。
豪勢な食事に舌鼓を打ち、最後に小豆の餡が入った最中と緑茶で締めて、私は封印区画を探ることにした。
「では、君たちは休むといい。と言っても、状況によってはすぐに出立するかもしれないが……」
「知り合いかもしれない女性を助けに行くんだね、おじさん?」
「助けを求められればな。そうなると、ユウガは黙っていない。ツキフネ、皆を頼む。私は貫太郎の様子を覗いてから、封印が施されている場所へ向かう」
「了解だ。お前であれば心配ないだろうが、気をつけろ」
「ふふ、気遣いありがとう」
――厩舎
貫太郎が休んでいる厩舎へ向かう。
厩舎には馬預と思われる男性が立っていた。
貫太郎はグレーラ大陸に於いて、人間族の最大国家クラムエンシェントの王であるガスクロン国王からの賜りものの牛という設定なので、ユウガは見張り番を置いたようだ。
彼にユウガのことを尋ねる。
「ご苦労」
「あ、これは学者様。これも役目ですので」
「ユウガ様は仕事がお忙しいようで、まだお帰りにはなっていないのかな?」
「えっと、そうですね、はい」
問いに対して、躊躇う返し――帰って来ているが居場所は言えない、と言ったところか。
そうなると、今、ユウガは私の知り合いであろう彼女と一緒にいる可能性が高い。そして、こんな反応を見せる家の者は閉じ込められている女性がいることを承知しているというわけだ。
少しだけ意地悪な問いをする。
「ほ~、これほど夜が深いというのに、まだお仕事を……いや、もしや仕事ではなく、ユウガ様にはご執心な女性でも?」
「え!? いえいえいえ、そのような話はまったくありませんよ! ユウガ様はお勤めでございます!」
「ありがとう、わかりやすくて」
「はい?」
「いや、何でもない。物資の方は?」
「そちらでしたら厩舎裏に置いた荷車の方に積み込み終えています。明日、皆さまにご確認をと考えてまして」
「そうでしたか、世話になりますな」
「いえいえ」
「それと少々かんた……御牛様の様子を覗いても?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
厩舎に入り、まずは周りを観察する。
厩舎独特の飼料と馬と馬糞の匂いが交わり残るが、新しい藁の匂いの方が上回り、あまり気にならない。
ユウガはしっかりと厩舎を清め、貫太郎が快適に過ごせる環境を整えたようだ。
飼料の方も野菜や果物を中心にしたものでかなり栄養価が高そうに見える。
師匠直伝、私のアレンジ配合飼料よりは劣るだろうが。
私は貫太郎と二人っきりになりたいと馬預の男へ頼む。
男が厩舎から出たところで、貫太郎の額を優しく撫でながら話しかける。
彼女はとても深いまつげが被さる瞼を閉じて、心地良さそうに声を生む。
「も~」
「フフフ……貫太郎、どうやら今夜はゆっくり休めそうにはないんだ」
「ぶも?」
「この屋敷に知り合いが閉じ込められているようでな、おそらく彼女を助けることになるだろう」
「も!? もももも!!」
「ふふ、そうだな。いつでも脱出できる用意をしておかないと。そういうことで、またあとで」
「もも~」
私はベルベットのようなさらりとした牛毛を何度も撫でて、去りがたい思いを残しつつも手を離す。
そして、手のひらを自分の胸まで持って来て、手に残る柔らかく温かな感触を胸の中に封じてから厩舎を後にしようとしたのだが……瞳が貫太郎の巨大な胸に止まる。
「フフ、私たちの中では君が一番の巨乳だな」
「もっ? ももももも~」
貫太郎から思いっきり後ずさりをされてしまった。
私は慌てて誤解だと訴える。
「ち、違うぞ。これは別にセクハラとかではなく、たまたま風呂でそういう話題が出てだな」
「ぶも、ぶもも……」
「違う違う! 私から彼女たちにそんな話題を振ったわけではない! 頼むから私を信じてくれぇえぇぇ!」
――――ユウガの屋敷・その一角の竹林
貫太郎からあらぬ誤解を受けて、馬預の男からは牛に頭を下げ続ける男と怪訝な表情を見せられと、散々な思いを抱きながら厩舎を離れ、封印区画を探して屋敷の隅へ。
そこには竹林があった。
その内部から封印の呪力を感じる。
周囲には人の気配はなく、暗に人を遠ざけているような雰囲気を醸す。
念のため辺りの気配を探りつつ、竹林の中へ入る。
しばらく歩くと、小さな木造の離れ屋が見えた。
離れ屋に近づくたびに甘く蕩けた匂いが濃くなり鼻を突く。匂いの種類は催淫薬の類い。
影響を受けぬよう浄化の魔法を自分に掛けて、小屋を探り、裏側にあった地下へと続く階段を降りる。
階段を下りた先には、封印の力が宿る符が何十枚も貼られた鉄製の扉。
施された封印は強力ながらも、現在の私の魔法でも対処可能。
封を破り、中へ入る……。
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