59 / 85
第七章 囚われ、凌辱される少女……少女?
第59話 東方の色濃き町・ひやおろし
しおりを挟む
――――東方文化が根付く町・ひやおろし
ここはグレーラ大陸から遠く離れた東方大陸の色が濃くある町。
木造の住宅や土壁でできた建造物の屋根には、粘土を焼いて作られた瓦という屋根葺きが幾重にも重ね並べられている。
衣装も一風変わったもので、上は木綿でできた小袖と言われる足首まで届く薄手のロングコートのようなものを纏い、前がはだけぬように腰の帯で留めているものが一般的。
ただし、靴は私たちが履いてるものと同じで革製の物。
東方文化では足袋だか雪駄だか草履だかと、そういったよくわからないものを履くらしいが……こちらにそれを作るための材料がなかったのか? それとも革製の靴の方が便利だったのかはわからないが、皆、革靴を履いている。
リディは初めて触れる東方文化を貫太郎の背の上から興味深げに見回していた。
「不思議なところですね。あの、赤い門みたいなものはなんでしょうか?」
「あれは鳥居だな。あの先には神社という神を祀る場所がある。まぁ、教会の入り口のようなものだ」
「私たちと同じ神様であるカーディ様を祀っているんですよね?」
「ああ、当然だ。創造神カーディは種族関係なく共通の神だからな。だが、東方文化は創造神カーディが地上に遣わした精霊や聖人と呼ばれる存在も神に準ずるものとして祀るため、神社の種類は多いと聞く」
「聖人? つまり人間なのに神様と同じように祀られているんですか? なんだか面白いですね。あれ? あそこにあるのはカリンさんが愛用している刀じゃありませんか?」
リディが武器屋らしき店を指差す。
そこには大量の刀や槍や弓が置かれ、中には東方由来の槍である薙刀と言われるものも置いてあった。
カリンとツキフネは足を止めて、店へ近づいていく。
「うわ~、刀がいっぱい。新しく新調しようかなぁ?」
「下手に新調しない方がいいぞ。得物は手慣れたものの方がいい……が、この大太刀という剣には惹かれるな」
「うわ、長い刀。こんなのもあるんだ。だけど私じゃ大きすぎて持てないかな。それにツキフネさんの言うとおり、安易に新調するのも良くなさそうだし」
このように店先で二人が会話を行っていると、店奥から店主らしき老人が出てきた。
「何か入用かね?」
「あ、いえ、そうじゃないんです。私も刀を使っているんでこちらの刀が興味深く見入ってしまって」
「ほ~、刀を。その腰に提げているのが…………まさかそれは、祇鴻伽舊禮!?」
「ほぇ、どうしたんですか、おじいちゃん? もしかして、この刀、業物?」
「それはもう、業物も業物。じゃがの~」
「何か問題でも?」
「そいつは、持ち主の魂を喰らう呪われた刀として有名な一刀なんじゃよ」
「え……えええ~!?」
「そいつは一度持ち主を選ぶと、主の魂を喰らい尽くすまで離れないと言われていてな。本来ならば値打ちもののはずなんじゃが、手放す頃には持ち主は精魂尽き果てており、まともな思考も宿せず、次の持ち主にタダ同然で譲ることになるそうだ。そうやって、ぐるぐると持ち主を渡り歩き、魂を喰らっておるとか」
「思い返してみれば、売ってくれた商人の人、やる気がないうえにげっそりしてたような……どうしよう、ツキフネさん!?」
「ただの迷信だろう。現にカリンに何ら影響は出ていないではないか」
「そうだけど……だったら、あの商人さんは? もしかして、気が付いてないだけで、わたし魂を食べられてる?」
店主に刀の逸話を教えられ、恐れを隠せないカリン。
その様子を見ていた貫太郎とリディが私に声をかけてくる。
「もっもも?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、問題ない。彼女から刀を借りた時に私が呪いを解いているからな」
「も?」
「え?」
「彼女には話してなかったが……」
カリンは刀をどう扱っていいのかわからず、店先で体をわたわたと動かし、それをツキフネが大丈夫だと諭している。
「まぁ、面白いから黙っていよう」
「もも~……」
「ひどい……」
「そんなことよりも、ラフィはどこに行ったんだ?」
私はきょろきょろと首を振る。するとラフィは、符術を扱う店先の前で符と呼ばれる呪いの印が描かれた紙をじっと観察していた。
「これが東方大陸の魔導体系……予め紙に魔法を封じ、魔力で起動する道具。その時の使用魔力を符に描かれた印の力と乗算して威力を増すと言いますが……なるほど、面白い魔道具ですね。多少でも魔力を扱える者ならば、強力な武器となるようで」
「ラフィも店に囚われたのか……まったく、彼女たちは」
「クスッ、そうですね。でも、その気持ちわかります。私も貫太郎さんの背に乗っていなかったら色々お店を覗いていると思いますし」
「たしかに、ここには珍しいものが多いからな」
「それにしても、本当に不思議です。東方大陸から離れたグレーラ大陸のさらに深い西の場所に異文化が根付いているなんて……夢想的な雰囲気で、本当に、不思議……」
リディは店先にぶら下がる提灯や、夏の足音を感じさせる風鈴と呼ばれるガラス製のベルを見つめ、その情緒的な雰囲気に酔っているようだ。
ふわりと吹いた風が舌(※風鈴についている重りの部分)を揺らし、風鈴の音が耳に沁みる心地良さに素直に従い、彼女は言葉を漏らす。
「どうして、こんな遠く離れた場所で東方文化が華やいでいるんでしょうか?」
「それはだな、遥か昔、この大陸の人間族が東方に攻め入って、戦利品として東方人を奴隷として持ち帰ったからだ。時が経ち、市民権を得た東方人の末裔がここに集まり、故郷を思ってこの町を作ったそうだ」
「あ、そうなんですか? 夢想的な雰囲気でいいなと思っていましたが、そこには悲しい歴史が隠れているんですね」
「東方文化に浸っていたところ申し訳ないな」
「いえ、表面だけではなく、内側も知ることができて良かったです」
「ふふ、そうか。ではそろそろ、皆を呼び集め、ラフィの顔が通ると言う、この町の代表ユウガに会いに行くとしよう」
ここはグレーラ大陸から遠く離れた東方大陸の色が濃くある町。
木造の住宅や土壁でできた建造物の屋根には、粘土を焼いて作られた瓦という屋根葺きが幾重にも重ね並べられている。
衣装も一風変わったもので、上は木綿でできた小袖と言われる足首まで届く薄手のロングコートのようなものを纏い、前がはだけぬように腰の帯で留めているものが一般的。
ただし、靴は私たちが履いてるものと同じで革製の物。
東方文化では足袋だか雪駄だか草履だかと、そういったよくわからないものを履くらしいが……こちらにそれを作るための材料がなかったのか? それとも革製の靴の方が便利だったのかはわからないが、皆、革靴を履いている。
リディは初めて触れる東方文化を貫太郎の背の上から興味深げに見回していた。
「不思議なところですね。あの、赤い門みたいなものはなんでしょうか?」
「あれは鳥居だな。あの先には神社という神を祀る場所がある。まぁ、教会の入り口のようなものだ」
「私たちと同じ神様であるカーディ様を祀っているんですよね?」
「ああ、当然だ。創造神カーディは種族関係なく共通の神だからな。だが、東方文化は創造神カーディが地上に遣わした精霊や聖人と呼ばれる存在も神に準ずるものとして祀るため、神社の種類は多いと聞く」
「聖人? つまり人間なのに神様と同じように祀られているんですか? なんだか面白いですね。あれ? あそこにあるのはカリンさんが愛用している刀じゃありませんか?」
リディが武器屋らしき店を指差す。
そこには大量の刀や槍や弓が置かれ、中には東方由来の槍である薙刀と言われるものも置いてあった。
カリンとツキフネは足を止めて、店へ近づいていく。
「うわ~、刀がいっぱい。新しく新調しようかなぁ?」
「下手に新調しない方がいいぞ。得物は手慣れたものの方がいい……が、この大太刀という剣には惹かれるな」
「うわ、長い刀。こんなのもあるんだ。だけど私じゃ大きすぎて持てないかな。それにツキフネさんの言うとおり、安易に新調するのも良くなさそうだし」
このように店先で二人が会話を行っていると、店奥から店主らしき老人が出てきた。
「何か入用かね?」
「あ、いえ、そうじゃないんです。私も刀を使っているんでこちらの刀が興味深く見入ってしまって」
「ほ~、刀を。その腰に提げているのが…………まさかそれは、祇鴻伽舊禮!?」
「ほぇ、どうしたんですか、おじいちゃん? もしかして、この刀、業物?」
「それはもう、業物も業物。じゃがの~」
「何か問題でも?」
「そいつは、持ち主の魂を喰らう呪われた刀として有名な一刀なんじゃよ」
「え……えええ~!?」
「そいつは一度持ち主を選ぶと、主の魂を喰らい尽くすまで離れないと言われていてな。本来ならば値打ちもののはずなんじゃが、手放す頃には持ち主は精魂尽き果てており、まともな思考も宿せず、次の持ち主にタダ同然で譲ることになるそうだ。そうやって、ぐるぐると持ち主を渡り歩き、魂を喰らっておるとか」
「思い返してみれば、売ってくれた商人の人、やる気がないうえにげっそりしてたような……どうしよう、ツキフネさん!?」
「ただの迷信だろう。現にカリンに何ら影響は出ていないではないか」
「そうだけど……だったら、あの商人さんは? もしかして、気が付いてないだけで、わたし魂を食べられてる?」
店主に刀の逸話を教えられ、恐れを隠せないカリン。
その様子を見ていた貫太郎とリディが私に声をかけてくる。
「もっもも?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、問題ない。彼女から刀を借りた時に私が呪いを解いているからな」
「も?」
「え?」
「彼女には話してなかったが……」
カリンは刀をどう扱っていいのかわからず、店先で体をわたわたと動かし、それをツキフネが大丈夫だと諭している。
「まぁ、面白いから黙っていよう」
「もも~……」
「ひどい……」
「そんなことよりも、ラフィはどこに行ったんだ?」
私はきょろきょろと首を振る。するとラフィは、符術を扱う店先の前で符と呼ばれる呪いの印が描かれた紙をじっと観察していた。
「これが東方大陸の魔導体系……予め紙に魔法を封じ、魔力で起動する道具。その時の使用魔力を符に描かれた印の力と乗算して威力を増すと言いますが……なるほど、面白い魔道具ですね。多少でも魔力を扱える者ならば、強力な武器となるようで」
「ラフィも店に囚われたのか……まったく、彼女たちは」
「クスッ、そうですね。でも、その気持ちわかります。私も貫太郎さんの背に乗っていなかったら色々お店を覗いていると思いますし」
「たしかに、ここには珍しいものが多いからな」
「それにしても、本当に不思議です。東方大陸から離れたグレーラ大陸のさらに深い西の場所に異文化が根付いているなんて……夢想的な雰囲気で、本当に、不思議……」
リディは店先にぶら下がる提灯や、夏の足音を感じさせる風鈴と呼ばれるガラス製のベルを見つめ、その情緒的な雰囲気に酔っているようだ。
ふわりと吹いた風が舌(※風鈴についている重りの部分)を揺らし、風鈴の音が耳に沁みる心地良さに素直に従い、彼女は言葉を漏らす。
「どうして、こんな遠く離れた場所で東方文化が華やいでいるんでしょうか?」
「それはだな、遥か昔、この大陸の人間族が東方に攻め入って、戦利品として東方人を奴隷として持ち帰ったからだ。時が経ち、市民権を得た東方人の末裔がここに集まり、故郷を思ってこの町を作ったそうだ」
「あ、そうなんですか? 夢想的な雰囲気でいいなと思っていましたが、そこには悲しい歴史が隠れているんですね」
「東方文化に浸っていたところ申し訳ないな」
「いえ、表面だけではなく、内側も知ることができて良かったです」
「ふふ、そうか。ではそろそろ、皆を呼び集め、ラフィの顔が通ると言う、この町の代表ユウガに会いに行くとしよう」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

ニトナラ《ニート、奈落に挑む》
teikao
ファンタジー
冒険者達が集まる街、サンライズシティ。その近くにある巨大なダンジョンに冒険者は挑んでいく。
一説では「あの世」と言われ、全てを吸い込むはずのブラックホールから放たれた「人間の負の感情」が、地球に落下し誕生した大穴…通称【奈落】
そこにあるのは、
人智を遥かに超える秘宝
全てを断ち切るほどの武器
どんな病さえ治す秘薬
そして、
冒険者達を阻む数多のモンスター
負の感情の化身である【奈落六大将】
人々は命すら賭けて、それぞれの夢を追いかけて奈落に挑む。
私、作者のteikaoがカクヨムで執筆していた「ニート、奈落を旅して生計を立てる」の設定・ストーリーを再編した完全版になります。手に取っていただけたら幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
AI artが好きなのでたくさん載せて行きます!また、BlueskyでもAIイラストを載せて行きます。そちらもアカウント名はteikaoですので、興味のある方は是非ご覧ください(^^)
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる