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第七章 囚われ、凌辱される少女……少女?
第58話 仄暗い場所にて
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――――西方地方・最後の町『ひやおろし』より一日の距離
明日にはこの大陸では珍しい、東方文化が華やいでいるという、ひやおろしへと辿り着く。
そこが最後の補給地点。まほろば峡谷への道は私が案内人であっても大変険しい道筋だ。だから、ひやおろしでしっかりと補給して置かなければ。
この隊もかなりの大所帯になったからな。
――夜
夕食を終えて、カリンとツキフネは剣の稽古を始める。
これを夕食前に行い、夕食後も行うのが彼女たちの日課だ。
その甲斐あって、カリンの刀の扱いは向上している。
稽古当初はツキフネにとって手習い程度の稽古だったが、今ではカリンが稽古役として十分に果たせるほどになり、それに合わせてツキフネも大剣の腕前が上がっている。
また、リディもナイフの扱いが向上した。
私の作る栄養バランスの取れた食事と、半分魔族の血が流れているため、栄養さえ与えれば回復も早く、あの痩せこけていたリディの姿はまったくない。
こけていた頬も血色の良い肌になり、骨のような手にはうっすらと筋肉がついている。
今ではナイフを投げるも捌くも自在で一端の戦士としての成長を見せていた。
さらに、ラフィから魔法の手解きを受けている。
これは元々リディが望んでいたもの。
私が使う魔法は旧魔法のため教えなかったが、ラフィが使う魔法は現魔法。
だから、ラフィが教師となり魔法を教える。
リディは魔法使いだった母の血をしっかり受け継いでいるようで、なかなか飲み込みが良い。
特に癒し系の魔法に秀でていると見える。
私もまた、ラフィから現魔法を学ぼうとしたのだが、旧魔法の術式に引きずられてままならない。
簡単な火球の魔法でさえ、手古摺る始末。
元々魔法が得意ではないというのもあり、この調子だと覚え直すのに一年はかかりそうだ。
ラフィの横に立ち、ナイフを手にしているリディの姿を黄金の瞳に宿す。
彼女はナイフに風の魔法を纏わせ、それを正面の木に投げた。
ナイフは正面の木に当たる直前で軌道を変えて、真後ろにある木の中心を射抜く。
これは遮蔽物に隠れた敵を正確に射貫く訓練。
ラフィがパチパチと手を叩く中、私もまたリディに近づき、頭をぽんぽんと叩き褒める。
「纏わせた魔力の風の気配をしっかりと消して、背後に隠れた敵を正確に射抜く。ふふ、リディはさぞかし有能な暗殺者になれるな」
「……え゛?」
「あの、アルラさん、それ褒めているんですか?」
リディが私を見上げたまま体を固め、ラフィが眉を折って睨んでくる。
「なんだ、何かおかしなこと言ったか?」
「言いましたわよ。驚きですよ。どこの世界に十一歳の女の子に対して、暗殺者の才能があるなと褒める人がいますか?」
「魔族では普通だぞ。幼いながらも戦士としての素養が恵まれているのは賞賛すべきことだ。特に相手に気取られることなく命を奪える才、暗殺者としても護衛としても申し分ない」
「でしたら、護衛で褒めてあげてください。あと、命を奪えると言うのは褒め言葉としては不適当ですよ。少なくともこんな幼い子に人間でしたら使いません」
「そうなのか? これでも人間族を理解しようとしているのだが、なかなか難しいものだな」
「はぁ……それよりもアルラさん、あなたの方は体力は戻りましたか?」
「まったくだな。多少持久力はついたが、全盛期から比べたら雀の涙もないだろうな。だが、安心しろ。私は特殊な呼吸法を会得している。いざとなれば、一時的に体力を増強できる……これもまた雀の涙ほどの時間だろうが」
「結局雀の涙ですか? これからは貫太郎さんの荷台に乗る回数を減らす必要がありますわね」
「待て、そんなに乗っていないだろう? これ以上減らされると旅もままならなくなるぞ!」
「乗ってますわよ。リディが乗る回数の倍は乗ってますから。ですので、貫太郎さん、今後はあまり乗せないでくださいね」
「もも~」
「貫太郎! 君は私の味方ではないのか!?」
「も~、ぶもも。もも~」
「何々、味方だからこそ、厳しくしている。これも愛……だと? おのれ~、これはカリンの入れ知恵だな」
「文句を漏らす前に体力をつけましょう。魔王の名が泣きますわよ」
「別に捨てた肩書きが泣いたところでどうでもいいが……君の方こそ大丈夫か? 旅慣れしてない上に、虫が多くて嫌だとか、地面に寝るのは嫌だとか言っていただろう」
「それは初日と二日目の話でしょう。今ではそれもまた旅の醍醐味として受け入れていますよ……虫は嫌ですけど」
「まぁ、虫に刺されるのはあまりよくないからな。次の町では虫除けの用の道具を多めに購入するとしよう」
「それはありがたいですわね。それにあの町の代表であるユウガ様にはグバナイト家の顔が聞きますから、虫除け以外でも物資の補給がしっかりできますわよ」
「ん? だが、君とグバナイト家は……」
「ええ、縁切りされました。ですが、まだ、縁切り状はひやおろしまで届いていないはず。それを利用しなくてどうするんですか?」
「良いのか?」
「良いも何も、今の私は盗賊ですから。利用できるものは利用して、頂けるものは根こそぎ頂きますわ」
「あはは、逞しいな。さて、そろそろ稽古も終わりにして、明日に備えよう。明日の朝にはひやおろしにつく」
そう言って、私は西に続く道を見つめた。
――――アルラが見つめた先にある、西方地方最後の町・ひやおろし
東方大陸の文化が根付いている町。
そのため、建設様式が大きく異なり、木造の家の屋根には瓦が載るという、まるで日本家屋のような家が建ち並ぶ。
その中でひと際大きく、この町をまとめている商家があった。
豪奢な商家……木造でできた大きな門に扉。中に入れば、敷石に灯篭に鯉の泳ぐ池と、いかにもご立派な日本風の屋敷。
しかし、その立派な屋敷とは裏腹に、竹林に隠された離れ屋の地下では、髪が薄く太った中年男が真っ裸で己の腰を激しく振るい、それを幼い少女の下腹部に何度も打ち据えていた。
「この、この、この! 孕め! 孕め! 孕め!」
甘く蕩けた香の煙が立ち籠る部屋で彼は、呪術のような言葉を何度も繰り返し、その言葉を、額に黒色の一本角を持ち、長く真っ白な髪を纏う少女へ浴びせ続ける。
唾液を落とし、喉が枯れることを忘れ、言葉を止まぬ男。それを少女は憐れむかのように真っ赤な瞳でまっすぐと見つめる。
その瞳に男は顔をしかめ、さらに強く腰を打ち据えるが……やがて、唱える呪言の間隔は短いものとなり、彼は激しい一言を漏らして、息を切らす。
「孕め孕め孕め孕め孕め孕めぇぇえぇぇえぇ――うっ、ああ、あ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
少女の下腹部より己が分身を引き抜き、白濁と透明な液体が混ざり合うとろりとしたものを敷布団へ落とす。
彼は切れた息を整えると立ち上がり、少女を鋭く睨む。
「必ず、私の子を孕ませてやる! 明日の夜も抱く。孕むまで抱く。何度も! 何度でも! だが、今日のところはもういい。体を清め、休め。わかったな、ヤエイ……」
そう言い残して、彼はたくさんの札が貼られた木造の牢の扉を開けて、姿を消した。
少女は消えた男の姿へ嘆息を当てて、ゆるりと辺りを見回す。
ここは大量の札が貼り付けられ、呪術により封じられた木造の牢屋。
しかし、牢屋でありながら内部には畳が敷かれ、チリ一つない整然とした和室の姿を見せる。
その整然とした和室とは対照的に、畳の上には先程まで男と激しくまぐわっていた布団が乱雑に敷かれていた。
瞳を上へ向ける。
天井はさほど高くない。壁の高い位置に小さな格子があり、少女が背伸びをすると地面が見えた。
ここは地下……外を望むことのできる窓からは地面が邪魔をして、空は小さく遠い。
またもや嘆息を生み、ヤエイと呼ばれた少女は自身の下腹部から零れ落ちる白濁の液体を手ですくい、それを睨みつけた。
「阿呆が……力任せに腰を振りおって。少しは房事の業を磨かぬか」
少女の姿でありながら老人のような言葉を見せ、彼女は枕元に置いてある半紙で手を拭う。
「孕め、か……貴様のような穢れた魂の持ち主の子種では無理じゃ。ゆい坊よ、おぬしの子はワシの腹に宿らぬよ。あの者も、子の時分は高潔であったのに、人間は年を取ると何故穢れるのかのぉ」
ヤエイは三度大きな嘆息を生み、牢屋奥にある湯殿へ視線を振る。
「立派な風呂があり、三食豪華な食事があり、技術は拙いが夜はそれなりに楽しませてもらっておるが……ゆい坊に捕まって三年ほどかの? そろそろ飽いたので出て行きたいのじゃが……」
木造の牢をちらりと見る。
「符術の封印。ちと厄介だが、何とかなるじゃろう。牢屋内部の方は……」
牢屋内の四隅を見る。そこには、四角錐の形をした青い魔石が天井に取り付けられてある。
「ワシの力を封じる魔石。あれも何とかなる。問題は……」
ヤエイは木造の牢の外へ、血のように真っ赤な瞳を振る。
外は石製の床。左隅には数段ほどの石階段があり、先には扉。
「あの扉が外へ通じとるわけじゃが……二つの封印を突破するのに霊力を使用した後では、最後の扉に掛けられた呪術を突破できるほどの力は残っとらん。これが難題じゃて……」
ヤエイは畳に小さなお尻を置いて両手両足を投げ出す。
「困ったのぅ。誰ぞ、あの扉の封印を解いてくれる者がおらんかのぅ? フフ、そのような者、そう都合良くは現れぬか……」
少女は諦めの声を漏らし、小さな格子窓から幽かに見える夜の空を見つめる。
「やはり、あの時、無理矢理にでもアルラを押し倒しておけばよかったかの? おかげで子を作れず百年。そろそろ子を宿さねば、寿命が尽きると言うのにのぉ、困ったものじゃ。それはさておき、風呂に浸かって、そのあとは死ぬほど寝るとするかの。そうしたらまた、ゆい坊の相手じゃ」
閉じ込められ、無体な扱いを受けているにも拘わらず、言葉の調子はそう困ったものではなく、ヤエイはあくびを交えながら湯殿へ向かうのであった。
明日にはこの大陸では珍しい、東方文化が華やいでいるという、ひやおろしへと辿り着く。
そこが最後の補給地点。まほろば峡谷への道は私が案内人であっても大変険しい道筋だ。だから、ひやおろしでしっかりと補給して置かなければ。
この隊もかなりの大所帯になったからな。
――夜
夕食を終えて、カリンとツキフネは剣の稽古を始める。
これを夕食前に行い、夕食後も行うのが彼女たちの日課だ。
その甲斐あって、カリンの刀の扱いは向上している。
稽古当初はツキフネにとって手習い程度の稽古だったが、今ではカリンが稽古役として十分に果たせるほどになり、それに合わせてツキフネも大剣の腕前が上がっている。
また、リディもナイフの扱いが向上した。
私の作る栄養バランスの取れた食事と、半分魔族の血が流れているため、栄養さえ与えれば回復も早く、あの痩せこけていたリディの姿はまったくない。
こけていた頬も血色の良い肌になり、骨のような手にはうっすらと筋肉がついている。
今ではナイフを投げるも捌くも自在で一端の戦士としての成長を見せていた。
さらに、ラフィから魔法の手解きを受けている。
これは元々リディが望んでいたもの。
私が使う魔法は旧魔法のため教えなかったが、ラフィが使う魔法は現魔法。
だから、ラフィが教師となり魔法を教える。
リディは魔法使いだった母の血をしっかり受け継いでいるようで、なかなか飲み込みが良い。
特に癒し系の魔法に秀でていると見える。
私もまた、ラフィから現魔法を学ぼうとしたのだが、旧魔法の術式に引きずられてままならない。
簡単な火球の魔法でさえ、手古摺る始末。
元々魔法が得意ではないというのもあり、この調子だと覚え直すのに一年はかかりそうだ。
ラフィの横に立ち、ナイフを手にしているリディの姿を黄金の瞳に宿す。
彼女はナイフに風の魔法を纏わせ、それを正面の木に投げた。
ナイフは正面の木に当たる直前で軌道を変えて、真後ろにある木の中心を射抜く。
これは遮蔽物に隠れた敵を正確に射貫く訓練。
ラフィがパチパチと手を叩く中、私もまたリディに近づき、頭をぽんぽんと叩き褒める。
「纏わせた魔力の風の気配をしっかりと消して、背後に隠れた敵を正確に射抜く。ふふ、リディはさぞかし有能な暗殺者になれるな」
「……え゛?」
「あの、アルラさん、それ褒めているんですか?」
リディが私を見上げたまま体を固め、ラフィが眉を折って睨んでくる。
「なんだ、何かおかしなこと言ったか?」
「言いましたわよ。驚きですよ。どこの世界に十一歳の女の子に対して、暗殺者の才能があるなと褒める人がいますか?」
「魔族では普通だぞ。幼いながらも戦士としての素養が恵まれているのは賞賛すべきことだ。特に相手に気取られることなく命を奪える才、暗殺者としても護衛としても申し分ない」
「でしたら、護衛で褒めてあげてください。あと、命を奪えると言うのは褒め言葉としては不適当ですよ。少なくともこんな幼い子に人間でしたら使いません」
「そうなのか? これでも人間族を理解しようとしているのだが、なかなか難しいものだな」
「はぁ……それよりもアルラさん、あなたの方は体力は戻りましたか?」
「まったくだな。多少持久力はついたが、全盛期から比べたら雀の涙もないだろうな。だが、安心しろ。私は特殊な呼吸法を会得している。いざとなれば、一時的に体力を増強できる……これもまた雀の涙ほどの時間だろうが」
「結局雀の涙ですか? これからは貫太郎さんの荷台に乗る回数を減らす必要がありますわね」
「待て、そんなに乗っていないだろう? これ以上減らされると旅もままならなくなるぞ!」
「乗ってますわよ。リディが乗る回数の倍は乗ってますから。ですので、貫太郎さん、今後はあまり乗せないでくださいね」
「もも~」
「貫太郎! 君は私の味方ではないのか!?」
「も~、ぶもも。もも~」
「何々、味方だからこそ、厳しくしている。これも愛……だと? おのれ~、これはカリンの入れ知恵だな」
「文句を漏らす前に体力をつけましょう。魔王の名が泣きますわよ」
「別に捨てた肩書きが泣いたところでどうでもいいが……君の方こそ大丈夫か? 旅慣れしてない上に、虫が多くて嫌だとか、地面に寝るのは嫌だとか言っていただろう」
「それは初日と二日目の話でしょう。今ではそれもまた旅の醍醐味として受け入れていますよ……虫は嫌ですけど」
「まぁ、虫に刺されるのはあまりよくないからな。次の町では虫除けの用の道具を多めに購入するとしよう」
「それはありがたいですわね。それにあの町の代表であるユウガ様にはグバナイト家の顔が聞きますから、虫除け以外でも物資の補給がしっかりできますわよ」
「ん? だが、君とグバナイト家は……」
「ええ、縁切りされました。ですが、まだ、縁切り状はひやおろしまで届いていないはず。それを利用しなくてどうするんですか?」
「良いのか?」
「良いも何も、今の私は盗賊ですから。利用できるものは利用して、頂けるものは根こそぎ頂きますわ」
「あはは、逞しいな。さて、そろそろ稽古も終わりにして、明日に備えよう。明日の朝にはひやおろしにつく」
そう言って、私は西に続く道を見つめた。
――――アルラが見つめた先にある、西方地方最後の町・ひやおろし
東方大陸の文化が根付いている町。
そのため、建設様式が大きく異なり、木造の家の屋根には瓦が載るという、まるで日本家屋のような家が建ち並ぶ。
その中でひと際大きく、この町をまとめている商家があった。
豪奢な商家……木造でできた大きな門に扉。中に入れば、敷石に灯篭に鯉の泳ぐ池と、いかにもご立派な日本風の屋敷。
しかし、その立派な屋敷とは裏腹に、竹林に隠された離れ屋の地下では、髪が薄く太った中年男が真っ裸で己の腰を激しく振るい、それを幼い少女の下腹部に何度も打ち据えていた。
「この、この、この! 孕め! 孕め! 孕め!」
甘く蕩けた香の煙が立ち籠る部屋で彼は、呪術のような言葉を何度も繰り返し、その言葉を、額に黒色の一本角を持ち、長く真っ白な髪を纏う少女へ浴びせ続ける。
唾液を落とし、喉が枯れることを忘れ、言葉を止まぬ男。それを少女は憐れむかのように真っ赤な瞳でまっすぐと見つめる。
その瞳に男は顔をしかめ、さらに強く腰を打ち据えるが……やがて、唱える呪言の間隔は短いものとなり、彼は激しい一言を漏らして、息を切らす。
「孕め孕め孕め孕め孕め孕めぇぇえぇぇえぇ――うっ、ああ、あ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
少女の下腹部より己が分身を引き抜き、白濁と透明な液体が混ざり合うとろりとしたものを敷布団へ落とす。
彼は切れた息を整えると立ち上がり、少女を鋭く睨む。
「必ず、私の子を孕ませてやる! 明日の夜も抱く。孕むまで抱く。何度も! 何度でも! だが、今日のところはもういい。体を清め、休め。わかったな、ヤエイ……」
そう言い残して、彼はたくさんの札が貼られた木造の牢の扉を開けて、姿を消した。
少女は消えた男の姿へ嘆息を当てて、ゆるりと辺りを見回す。
ここは大量の札が貼り付けられ、呪術により封じられた木造の牢屋。
しかし、牢屋でありながら内部には畳が敷かれ、チリ一つない整然とした和室の姿を見せる。
その整然とした和室とは対照的に、畳の上には先程まで男と激しくまぐわっていた布団が乱雑に敷かれていた。
瞳を上へ向ける。
天井はさほど高くない。壁の高い位置に小さな格子があり、少女が背伸びをすると地面が見えた。
ここは地下……外を望むことのできる窓からは地面が邪魔をして、空は小さく遠い。
またもや嘆息を生み、ヤエイと呼ばれた少女は自身の下腹部から零れ落ちる白濁の液体を手ですくい、それを睨みつけた。
「阿呆が……力任せに腰を振りおって。少しは房事の業を磨かぬか」
少女の姿でありながら老人のような言葉を見せ、彼女は枕元に置いてある半紙で手を拭う。
「孕め、か……貴様のような穢れた魂の持ち主の子種では無理じゃ。ゆい坊よ、おぬしの子はワシの腹に宿らぬよ。あの者も、子の時分は高潔であったのに、人間は年を取ると何故穢れるのかのぉ」
ヤエイは三度大きな嘆息を生み、牢屋奥にある湯殿へ視線を振る。
「立派な風呂があり、三食豪華な食事があり、技術は拙いが夜はそれなりに楽しませてもらっておるが……ゆい坊に捕まって三年ほどかの? そろそろ飽いたので出て行きたいのじゃが……」
木造の牢をちらりと見る。
「符術の封印。ちと厄介だが、何とかなるじゃろう。牢屋内部の方は……」
牢屋内の四隅を見る。そこには、四角錐の形をした青い魔石が天井に取り付けられてある。
「ワシの力を封じる魔石。あれも何とかなる。問題は……」
ヤエイは木造の牢の外へ、血のように真っ赤な瞳を振る。
外は石製の床。左隅には数段ほどの石階段があり、先には扉。
「あの扉が外へ通じとるわけじゃが……二つの封印を突破するのに霊力を使用した後では、最後の扉に掛けられた呪術を突破できるほどの力は残っとらん。これが難題じゃて……」
ヤエイは畳に小さなお尻を置いて両手両足を投げ出す。
「困ったのぅ。誰ぞ、あの扉の封印を解いてくれる者がおらんかのぅ? フフ、そのような者、そう都合良くは現れぬか……」
少女は諦めの声を漏らし、小さな格子窓から幽かに見える夜の空を見つめる。
「やはり、あの時、無理矢理にでもアルラを押し倒しておけばよかったかの? おかげで子を作れず百年。そろそろ子を宿さねば、寿命が尽きると言うのにのぉ、困ったものじゃ。それはさておき、風呂に浸かって、そのあとは死ぬほど寝るとするかの。そうしたらまた、ゆい坊の相手じゃ」
閉じ込められ、無体な扱いを受けているにも拘わらず、言葉の調子はそう困ったものではなく、ヤエイはあくびを交えながら湯殿へ向かうのであった。
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