牛と旅する魔王と少女~魔王は少女を王にするために楽しく旅をします~

雪野湯

文字の大きさ
上 下
41 / 85
第五章 貴族の天才魔法使い少女

第41話 とてもお暇な才色兼備の魔法使い

しおりを挟む
――魔導都市スラーシュ


 人口十万を超える西方最大の都市。
 主要な道は全て石製の道路で整備され、メインストリートの両脇には背の高い建物や木造やレンガを組み上げた住宅にコンクリートの家などが建ち並ぶ。

 建物の色は大地や植物などの自然物に近い、茶色や緑色系りょくしょくけいが中心。
 大勢の人々が行き交う道には露店が溢れ、馬車の轟きにも負けぬ威勢の良い声が飛び交う。
 
 賑やかなメインストリートを北に進むと、強大な建築物。
 そこは魔導学園グラントグレン。

 有能な魔法使いの卵たちが通う学園。
 また、魔法使いのみならず、勉学に秀でた者たちも多く通う。


 その学園の中で最も優秀な魔法使いの生徒であり、生徒会長という職責を担い、また、魔導都市スラーシュの領主の三女であるラフィリア=シアン=グバナイトはとても暇をしていた。

 輝く金の長い髪に、絹のようにきめ細やかな白い肌。
 蠱惑的な紫の瞳を揺らし、十七歳とは思えぬすらりと伸びた長い足と豊満な肉体は多くの男たちの視線を虜にする。

 友人も多く、彼女が多様なフリルとラメが散りばめられた赤いドレスを纏い道を歩いていると、すぐにあちらこちらから声が届く。

「ラフィリア様、今日はどちらへお出かけなのです?」
「ラフィリアお姉様、ご一緒にお昼をしませんか?」
「ラフィリア様、術式についてわからないことがあるのですが?」


 と、誰もが慕い、頼る、魔導の天才ラフィリア=シアン=グバナイト。
 彼女は友人たちへ軽い挨拶を交わして、誘いを巧みに躱していく。
「皆さん、今日は少々予定が入っていますの。申し訳ありません。では、ごきげんよう」

 頭脳明晰。容姿端麗。友人から慕われる領主の娘。
 非の打ち所がない女性。
 だけど、彼女はこの満ち足りた生活に暇をしていた。


 屋敷へ戻り、自室の巨大ベッドに飛び込むように倒れ込む。
「あ~~~~~、もう、嫌! 毎日毎日毎日、同じことの繰り返し。学園で学んで、つまらない友人を相手にして、社交界に出て愛想笑い。つまんないつまんない」

 ラフィリアは手足をバタバタと振り回し、仰向けになり、細やかな意匠が施された天井を見つめる。
「はぁ、隕石でも降ってこないかしら? そうしたら、こんなつまらない生活に少しは刺激が生まれるのに……このままだと、わたくしの人生、クソですわ!」


 彼女は貴族の娘。
 たとえ優秀であっても、やがては政略結婚の道具として、政治力の強化、経済力の向上、家格の上昇のために使われるだけ。

 うつぶせになり、音が漏れ出ぬよう顔を枕へ押し付けて叫ぶ。
「あばばばばばば、はぁ~。見知らぬ男性と結婚して、子どもを作る? それがわたくしの幸せ? 冗談じゃない!! わたくしは魔法使いとして生きたい! 勇者ティンダルの仲間であった賢者ローラー=ミルのように!!」

 かばりと起き上がり、彼女はベッドの上に立つ。
「そう、わたくしは冒険がしたい! こんなつまらない変化のない毎日を捨てて! でも、どうすればいいのか……いっそのこと家出でもしようかしら? だけど、外のことはあまり詳しくないし……ダメダメ! そんな消極的じゃダメ。よし、決めた! こんなつまらない生活をもう捨てて――」


――モ~――


「モ~? モ~? 何ですの? モ~って? 今の声は? 窓の方から?」
 ラフィリアはガラス窓へ近づき、遠くにある塀の向こう側の道を見た。
 するとそこには、一匹の牛。
 荷車を曳く牛がいた。

「え、どうして貴族街に牛が? グラスグラスっと」
 引き出しから双眼鏡を取り出して、牛をよく見る。
 背には小さな女の子。
 牛の左横には太った男。右横には大剣を背負うオーガリアンに赤い軽装鎧を着た冒険者らしい少女。

「な、何ですの、あの珍妙な集団は? 大道芸人には見えませんし……大変、大変興味深いですわね」
 彼女は双眼鏡を机に置いて、屋敷内の気配を探る。
「帰宅したばかりですが、学園に用事があると言えば問題ないでしょう。あんな珍妙な集団、ただ見ているだけではつまらない。これは是非とも接触を図ってみないと。フフフフフ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。 その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。 コラボ作品はコチラとなっております。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...