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第四章 闇と踊る薄幸の少女
第27話 貝無しクラムチャウダー・ジャガイモのポタージュ・木苺ソース掛けヨーグルト
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――――リディの家
本日の食材。
干し肉・じゃがいも・葉物野菜類・道中で採取した木苺。そしてお馴染みの牛乳・チーズ・ヨーグルト・バター・調味料類。
リディ宅の台所は狭く、私が一人立つのがやっと。
サポートに体の小さなカリンとリディ。
ツキフネが収まる場所はないので、今回は見学だ。
「さて、何を作ろうか? カリンとリディは体が冷えているだろうから、体が温まる野菜たっぷり貝無しクラムチャウダーでも作るか。出汁は貝の代わりに干し肉を使い、味を調えるとしよう。あとはジャガイモのポタージュ。デザートは木苺のソースをかけたヨーグルトで」
「あの~、おじさん。スープ類が二種類入ってるんですが?」
「クラムチャウダーは具沢山なので、今回はスープではなく煮物扱いにしてくれ。では、始めるぞ。水は?」
「こっちの甕の中に入ってます」
そう言って、リディは自分と同じ背丈ほどの甕の上にあった木蓋を取って見せる。中には水が入っているが、半分にも満たない。
「今回の料理分には足りるが明日にでも補充が必要だな。ツキフネ、悪いが明日、井戸の水を汲みに行こうと思う。手伝ってくれるか?」
「もちろんだ。丁度仕事がなくて困っていたところだからな」
彼女は両手を小さく上げて、軽い笑いを見せた。
皆が料理に精を出している中、自分だけが手持ち無沙汰で少々居心地が悪かったようだ。
和やかな雰囲気が室内に漂うが、それをリディが申し訳なさそうな声でかき消した。
「あの~、ごめんなさい。私は村の井戸を使っては駄目なんです……」
「それは……そうか……」
井戸は村のみんなのもの。リディはその輪から外されている。
それに気づいたカリンの表情は曇るが、リディに悟られないように表情を戻して普段はどうしているのかと尋ねた。
「それじゃあ、お水はどうしてるの?」
「森の奥に湧き水がありますから、それを桶に汲んで家まで運んでます」
「……そう。湧き水はおうちから遠いの?」
「はい……」
小さな少女の身体。桶に水を入れて運び、甕を水で満たすためには、どれほどの時間と労力が必要だろうか?
カリンは下唇を噛んで首を左右に振るが、何かを思いついたようで私へ顔を向けた。
「ねぇ、おじさん。私たちは旅の人間だから、頼めば井戸を利用できるかも。そうすれば――」
「やめてください!!」
突然、リディが大声を上げてカリンの提案を拒絶した。
「そんなことをすれば、皆さんに迷惑がかかると思います。村の皆さんはよそ者を嫌ってますから絶対に許可なんてしないでしょうし。それに…………ごめんなさい」
それに……のあとに言葉を続けることなく、代わりに謝罪を付けた。
カリンは『それに』のあとの言葉を考えて、すぐに知る。
どのような理由があれ、旅の者がリディを支えるような真似をすれば、後日嫌がらせをされる。
だからリディは、私たちに村人たちのご機嫌を損ねるような真似をして欲しくなかった。
「ううん、謝るのはわたしの方。勝手なこと言ってごめんなさい」
「いえ、そんな」
「あの、もう一つ考えたんだけど……湧き水を汲みに行く手伝いは大丈夫かな?」
「それは…………井戸さえ使わなければたぶん大丈夫だと思います」
「そっか。それじゃあ、明日は一緒にお水を汲みに行こう」
「いいんですか?」
「もちろんだよ!」
「ありがとうございます! 嬉しいです!!」
リディは言葉に嬉しさを籠めて笑顔を見せる。
どうやら彼女は、カリンにかなり心を開いている様子。
そのカリンもまた、嬉しさを顔に表す。
「ふふふ。さ、そうと決まれば、明日の水汲みのために栄養をたーんと取らないと! えっと、ジャガイモのポタージュを作るんだよね、おじさん?」
「ああ、そうだが、勝手なアレンジを加えようとするんじゃないぞ。この旅の間でわかったが、君とツキフネは隙あらば私の味付けを変えようとするからな」
「ええ~、美味しくしてあげようとしてるだけなのに~」
「余計な世話だ。それよりも準備」
「は~い、芋が炊けるまでにふかした芋を潰す準備を。え~っと?」
カリンはきょろきょろと顔を振る。
「あれ、ポテトマッシャーは? おじさん?」
「あ、荷台に忘れてきたな。なにせ、レシピは食材をここに運んで考えたからな」
「そっか、じゃあ面倒だけど――あ! ちょうどいいの見っけ!」
カリンの瞳に止まったのは、古びた陶器のすり鉢と木製の擂り粉木。
「あれで潰そうっと」
「あ、私が取りますね!」
「ほぇ!? って――」
「「あっ!?」」
すり鉢の近くにいたカリンが手を伸ばそうとしたところに、離れていたリディの手が慌てて間に入り、手たちはぶつかり合い、それはすり鉢と擂り粉木に当たって、二つは地面に落ちる。
すり鉢の方は地面にぶつかりバラバラに砕けてしまった。
リディは割れたすり鉢に手を伸ばす。
「ご、ごめんなさい! 私が余計なことをしようとしたばかりに!!」
「そんなことないよ! それよりも危ないから慌てて触っちゃダメ。ごめん、ツキフネさん。ポテトマッシャーとボウルを持って来てくれる? ここを片付けないといけないから」
「わかった。すぐに持って来よう」
ツキフネが外へ出ていく。
私はちらりと彼女を見て、瞳をカリンとリディへ戻した。
リディは半泣き状態でひたすらに謝罪を繰り返している。
それをカリンが懸命に宥める。
私はリディを見つめ、心の中で呟く言葉に小さな疑問を織り込む。
(心に傷を負った半魔の少女。居場所のない存在。おそらくカリンは……だが……ふむ?)
――深夜
軋む床の上に毛布を敷いて横になるが……狭い。
元々大人三人が横になるのでやっとの広さの一室。
ちょっぴりわがままボディな私と、がっしり体系のツキフネの長身コンビだけで床を占領してしまう。
仕方ないので台所の土間の部分に毛布を重ね置き、高さを調整して、そこに私が半身を投げ出す形で場所を確保して眠ることになった。
静かな寝息が微かに響く暗闇の部屋。
私は半身を起こして大きく息を吐く。
「はぁ~、狭い。そして、腰が痛い」
毛布を重ねて高さを調整したが、そこに体を置くと圧力のせいで毛布が沈み、ちょうど土間と床の境目の部分に置かれている腰に負担がかかる。
「冷えるが、私は外で寝るか。ま、いつも通り野宿ということだな」
誰も起こさぬようにそっと立ち上がろうとするが、床の軋みがそれを許さない。
ギシリという音にピタリと足を止めて、寝ているカリンたちへ顔を振った。
リディはカリンに寄り添い寝息を立てている。
カリンは目を閉じていたが、私の視線を感じ取ると薄く瞳を開けて、小声で話しかけてきた。
「あの、おじさん。話が――」
「駄目だ」
「まだ、何も言ってないじゃん」
「リディを連れて行きたいという話だろ」
「このまま放っておくわけにはいかないでしょ?」
「彼女のような幼子が旅に耐えられると思っているのか? それに、君と私の存在を加味すれば、非常に危険な旅路だ」
「そうだけど。でも、この村に置いていくよりかはずっとマシのはず。ツキフネさんもそう思うよね?」
カリンは背を向けて寝ているツキフネに声をかけた。
彼女はこちらを振り向かずに言葉を返す。
「一人の命を預かるというのは大きな責任を負うことになる。私たちの旅は一歩間違えれば多くを敵に回しかねない旅。カリンはそれからリディを守るという覚悟はあるのか? 責任を持てるのか? 自分の命すら危ういというのに」
「それは……でも、それでも、村にいるよりかは……」
「村の連中は彼女に危害を与えているが、命を奪うつもりはない。ここでならば、少なくとも生きていけるぞ」
「そうとは言えないよ。リディは川で溺れかけたし」
「それは彼女が川に飛び込んだからだ」
「――っ! あれはお母さんの形見を――」
「声を静めろ。リディが目を覚ます」
「あ……」
カリンは慌てて口を閉じて、自分の胸元で寝息を上げるリディを見つめる。
そして、無言のまま優しく頭を撫でた。
ヒューヒューとした隙間風だけが室内に音を生む。
ツキフネは相変わらず背を向けたまま、小さく言葉を漏らす。
「危険な旅路とはいえ、旅の途中でリディを預かってくれる者がいるかもしれないな……ま、決めるのはカリン、お前だ。私は食客のような立場。故に、カリンの気持ちに沿おう」
「ツキフネさん……あとはおじさんだけだね」
「これは困った。多数決では不利か。ここにはいない心優しい貫太郎も君と同意見だろうし」
私はリディを観察するように見つめる。
そして――
「だが、私は反対だ。彼女は置いていくべきだ」
「おじさん!」
「カリン、声」
「あっと。もう、融通が利かないんだから。だったら無理やりにでも連れていく」
「そもそもとして、まずはリディに話を聞いてからが筋だと思うが?」
「それじゃ、リディが望んだら」
「それでも私は反対だ。もし、君がどうしても連れて行くというならば……」
もう一度、リディを見つめ、様子を窺いつつ言葉を振り下ろした。
「私は旅の同行をやめる」
「そんなっ! なんで!?」
「声がでかいと言っているだろう。ともかく私は反対だ。ここには彼女の家があり、母の思い出があり、我慢さえすれば暮らしていける場がある。それを全て捨てさせてまで危険な旅に連れていく理由はない。それが私の考えだ。ということで、この話はおしまい。私は外で寝ることにするよ」
敷いていた毛布と土間に重ねていた毛布を手に取り、家の外へと向かう。
「待って、おじさん。話はまだ――」
私は最後までカリンの話を聞かずに外へと出て行った。
本日の食材。
干し肉・じゃがいも・葉物野菜類・道中で採取した木苺。そしてお馴染みの牛乳・チーズ・ヨーグルト・バター・調味料類。
リディ宅の台所は狭く、私が一人立つのがやっと。
サポートに体の小さなカリンとリディ。
ツキフネが収まる場所はないので、今回は見学だ。
「さて、何を作ろうか? カリンとリディは体が冷えているだろうから、体が温まる野菜たっぷり貝無しクラムチャウダーでも作るか。出汁は貝の代わりに干し肉を使い、味を調えるとしよう。あとはジャガイモのポタージュ。デザートは木苺のソースをかけたヨーグルトで」
「あの~、おじさん。スープ類が二種類入ってるんですが?」
「クラムチャウダーは具沢山なので、今回はスープではなく煮物扱いにしてくれ。では、始めるぞ。水は?」
「こっちの甕の中に入ってます」
そう言って、リディは自分と同じ背丈ほどの甕の上にあった木蓋を取って見せる。中には水が入っているが、半分にも満たない。
「今回の料理分には足りるが明日にでも補充が必要だな。ツキフネ、悪いが明日、井戸の水を汲みに行こうと思う。手伝ってくれるか?」
「もちろんだ。丁度仕事がなくて困っていたところだからな」
彼女は両手を小さく上げて、軽い笑いを見せた。
皆が料理に精を出している中、自分だけが手持ち無沙汰で少々居心地が悪かったようだ。
和やかな雰囲気が室内に漂うが、それをリディが申し訳なさそうな声でかき消した。
「あの~、ごめんなさい。私は村の井戸を使っては駄目なんです……」
「それは……そうか……」
井戸は村のみんなのもの。リディはその輪から外されている。
それに気づいたカリンの表情は曇るが、リディに悟られないように表情を戻して普段はどうしているのかと尋ねた。
「それじゃあ、お水はどうしてるの?」
「森の奥に湧き水がありますから、それを桶に汲んで家まで運んでます」
「……そう。湧き水はおうちから遠いの?」
「はい……」
小さな少女の身体。桶に水を入れて運び、甕を水で満たすためには、どれほどの時間と労力が必要だろうか?
カリンは下唇を噛んで首を左右に振るが、何かを思いついたようで私へ顔を向けた。
「ねぇ、おじさん。私たちは旅の人間だから、頼めば井戸を利用できるかも。そうすれば――」
「やめてください!!」
突然、リディが大声を上げてカリンの提案を拒絶した。
「そんなことをすれば、皆さんに迷惑がかかると思います。村の皆さんはよそ者を嫌ってますから絶対に許可なんてしないでしょうし。それに…………ごめんなさい」
それに……のあとに言葉を続けることなく、代わりに謝罪を付けた。
カリンは『それに』のあとの言葉を考えて、すぐに知る。
どのような理由があれ、旅の者がリディを支えるような真似をすれば、後日嫌がらせをされる。
だからリディは、私たちに村人たちのご機嫌を損ねるような真似をして欲しくなかった。
「ううん、謝るのはわたしの方。勝手なこと言ってごめんなさい」
「いえ、そんな」
「あの、もう一つ考えたんだけど……湧き水を汲みに行く手伝いは大丈夫かな?」
「それは…………井戸さえ使わなければたぶん大丈夫だと思います」
「そっか。それじゃあ、明日は一緒にお水を汲みに行こう」
「いいんですか?」
「もちろんだよ!」
「ありがとうございます! 嬉しいです!!」
リディは言葉に嬉しさを籠めて笑顔を見せる。
どうやら彼女は、カリンにかなり心を開いている様子。
そのカリンもまた、嬉しさを顔に表す。
「ふふふ。さ、そうと決まれば、明日の水汲みのために栄養をたーんと取らないと! えっと、ジャガイモのポタージュを作るんだよね、おじさん?」
「ああ、そうだが、勝手なアレンジを加えようとするんじゃないぞ。この旅の間でわかったが、君とツキフネは隙あらば私の味付けを変えようとするからな」
「ええ~、美味しくしてあげようとしてるだけなのに~」
「余計な世話だ。それよりも準備」
「は~い、芋が炊けるまでにふかした芋を潰す準備を。え~っと?」
カリンはきょろきょろと顔を振る。
「あれ、ポテトマッシャーは? おじさん?」
「あ、荷台に忘れてきたな。なにせ、レシピは食材をここに運んで考えたからな」
「そっか、じゃあ面倒だけど――あ! ちょうどいいの見っけ!」
カリンの瞳に止まったのは、古びた陶器のすり鉢と木製の擂り粉木。
「あれで潰そうっと」
「あ、私が取りますね!」
「ほぇ!? って――」
「「あっ!?」」
すり鉢の近くにいたカリンが手を伸ばそうとしたところに、離れていたリディの手が慌てて間に入り、手たちはぶつかり合い、それはすり鉢と擂り粉木に当たって、二つは地面に落ちる。
すり鉢の方は地面にぶつかりバラバラに砕けてしまった。
リディは割れたすり鉢に手を伸ばす。
「ご、ごめんなさい! 私が余計なことをしようとしたばかりに!!」
「そんなことないよ! それよりも危ないから慌てて触っちゃダメ。ごめん、ツキフネさん。ポテトマッシャーとボウルを持って来てくれる? ここを片付けないといけないから」
「わかった。すぐに持って来よう」
ツキフネが外へ出ていく。
私はちらりと彼女を見て、瞳をカリンとリディへ戻した。
リディは半泣き状態でひたすらに謝罪を繰り返している。
それをカリンが懸命に宥める。
私はリディを見つめ、心の中で呟く言葉に小さな疑問を織り込む。
(心に傷を負った半魔の少女。居場所のない存在。おそらくカリンは……だが……ふむ?)
――深夜
軋む床の上に毛布を敷いて横になるが……狭い。
元々大人三人が横になるのでやっとの広さの一室。
ちょっぴりわがままボディな私と、がっしり体系のツキフネの長身コンビだけで床を占領してしまう。
仕方ないので台所の土間の部分に毛布を重ね置き、高さを調整して、そこに私が半身を投げ出す形で場所を確保して眠ることになった。
静かな寝息が微かに響く暗闇の部屋。
私は半身を起こして大きく息を吐く。
「はぁ~、狭い。そして、腰が痛い」
毛布を重ねて高さを調整したが、そこに体を置くと圧力のせいで毛布が沈み、ちょうど土間と床の境目の部分に置かれている腰に負担がかかる。
「冷えるが、私は外で寝るか。ま、いつも通り野宿ということだな」
誰も起こさぬようにそっと立ち上がろうとするが、床の軋みがそれを許さない。
ギシリという音にピタリと足を止めて、寝ているカリンたちへ顔を振った。
リディはカリンに寄り添い寝息を立てている。
カリンは目を閉じていたが、私の視線を感じ取ると薄く瞳を開けて、小声で話しかけてきた。
「あの、おじさん。話が――」
「駄目だ」
「まだ、何も言ってないじゃん」
「リディを連れて行きたいという話だろ」
「このまま放っておくわけにはいかないでしょ?」
「彼女のような幼子が旅に耐えられると思っているのか? それに、君と私の存在を加味すれば、非常に危険な旅路だ」
「そうだけど。でも、この村に置いていくよりかはずっとマシのはず。ツキフネさんもそう思うよね?」
カリンは背を向けて寝ているツキフネに声をかけた。
彼女はこちらを振り向かずに言葉を返す。
「一人の命を預かるというのは大きな責任を負うことになる。私たちの旅は一歩間違えれば多くを敵に回しかねない旅。カリンはそれからリディを守るという覚悟はあるのか? 責任を持てるのか? 自分の命すら危ういというのに」
「それは……でも、それでも、村にいるよりかは……」
「村の連中は彼女に危害を与えているが、命を奪うつもりはない。ここでならば、少なくとも生きていけるぞ」
「そうとは言えないよ。リディは川で溺れかけたし」
「それは彼女が川に飛び込んだからだ」
「――っ! あれはお母さんの形見を――」
「声を静めろ。リディが目を覚ます」
「あ……」
カリンは慌てて口を閉じて、自分の胸元で寝息を上げるリディを見つめる。
そして、無言のまま優しく頭を撫でた。
ヒューヒューとした隙間風だけが室内に音を生む。
ツキフネは相変わらず背を向けたまま、小さく言葉を漏らす。
「危険な旅路とはいえ、旅の途中でリディを預かってくれる者がいるかもしれないな……ま、決めるのはカリン、お前だ。私は食客のような立場。故に、カリンの気持ちに沿おう」
「ツキフネさん……あとはおじさんだけだね」
「これは困った。多数決では不利か。ここにはいない心優しい貫太郎も君と同意見だろうし」
私はリディを観察するように見つめる。
そして――
「だが、私は反対だ。彼女は置いていくべきだ」
「おじさん!」
「カリン、声」
「あっと。もう、融通が利かないんだから。だったら無理やりにでも連れていく」
「そもそもとして、まずはリディに話を聞いてからが筋だと思うが?」
「それじゃ、リディが望んだら」
「それでも私は反対だ。もし、君がどうしても連れて行くというならば……」
もう一度、リディを見つめ、様子を窺いつつ言葉を振り下ろした。
「私は旅の同行をやめる」
「そんなっ! なんで!?」
「声がでかいと言っているだろう。ともかく私は反対だ。ここには彼女の家があり、母の思い出があり、我慢さえすれば暮らしていける場がある。それを全て捨てさせてまで危険な旅に連れていく理由はない。それが私の考えだ。ということで、この話はおしまい。私は外で寝ることにするよ」
敷いていた毛布と土間に重ねていた毛布を手に取り、家の外へと向かう。
「待って、おじさん。話はまだ――」
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