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ことの顛末、新たな関係
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彼女を殺したのは、あの日自転車に乗っていた男だった。ぼくの推測通り、彼はあの地域に複数いる女の子たちの見張り役であり、上りを掠める集金役でありヒモでもあった。彼女との関係は特に深く、二人は半同棲生活を送っていたうえに、共に同じ薬物の中毒者だった。
彼はあのホテルで彼女の首をしめて殺害し、その後逃走した。殺害から半年後、逃亡犯として警察に追われていた彼は、走行中の電車に撥ねられて死亡した。自殺だとされているが、遺書は見つかってない。そしてこの事件は、被疑者死亡という形で捜査が打ち切られた。
こういった経緯を、ぼくは彼女の同級生だった美濃部沙織から聞かされた。沙織は同じ大学の法学部に在籍していて、一年の頃はいくつかの講義を同じ教室で受けていた。ぼくは沙織とはそれまで一度として会話を交わしたことはなく、互いの出身地が近いことも、共通の知り合いがいることすら知らなかった。
大学のカフェテリアでコーヒーを飲んでいるとき、沙織からフルネームで名前を呼ばれた。驚いて話を聞くと、沙織は、彼女が学校を辞めてからも親交のあったただ一人の友人だったのだという。ここ数年は音信不通だったけど、つい最近ニュースで彼女の死を知り、彼女の家族に確認を取ったらしい。
彼女と別れたあの日以来、ぼくは抜け殻のような生活を過ごしていた。テレビも見なければスマホも見ない。そんな生活を半月ほど過ごしていたせいで、ぼくは彼女の死を知ることができなかった。結局ぼくは、徹頭徹尾、彼女の役に立つことはできなかったということだ。
彼女は葬儀も無しに荼毘に付された。司法解剖を受けたのちに、今は母親だけとなった親族に引き渡され、通夜も告別式も執り行わず、火葬場へ送られて灰にされてしまった。
せめて最後に一目会いたかったと沙織は泣いたが、その涙を信じることはできなかった。もし本当に、高校を辞めた後にも彼女と親交があったのなら、沙織こそが彼女を救えるただ一人の友人であったはずだ。だがそうはならず、沙織は彼女から距離を取った。沙織もまた、本気で彼女に救いの手を伸ばそうとはしなかった人間の一人だった。
勿論ぼくは、沙織にそんな指摘をしたりはしない。彼女と知り合いだったのは間違いないのだろうが、沙織もまた、変化した彼女の世界からオフリミットされた人間だったからだ。
沙織は内向的な性格で、大学にも友人と呼べるような存在はいなかった。沙織はカフェテリアでぼくに話しかけて以来、度々ぼくに話しかけてくるようになった。
最初のうちこそ彼女の話題が多かったが、やがて沙織との話は高校、中学時代の共通の友人や、同じ学習塾にいた講師の話などに変わっていった。彼女の死以降、ぼくは事あるごとに彼女への罪悪感に苛まれていたから、彼女との想い出を共有し、同じような罪悪感に囚われている沙織と会話できることは大きな救いとなった。アル中の患者たちがグループセラピーを行うように、沙織と共に過ごすことで、ぼくは少しずつ彼女のいない世界と折り合いをつけていくことを学んだ。
彼女の死後3カ月ほどたった頃、ぼくと沙織は湘南の海に出かけた。春の海を見てみたいと、沙織がそう言ったからだ。その頃になると、ぼくと沙織は彼女という共通の呪縛から解き放たれ、新たな関係を築き上げ始めていた。
彼はあのホテルで彼女の首をしめて殺害し、その後逃走した。殺害から半年後、逃亡犯として警察に追われていた彼は、走行中の電車に撥ねられて死亡した。自殺だとされているが、遺書は見つかってない。そしてこの事件は、被疑者死亡という形で捜査が打ち切られた。
こういった経緯を、ぼくは彼女の同級生だった美濃部沙織から聞かされた。沙織は同じ大学の法学部に在籍していて、一年の頃はいくつかの講義を同じ教室で受けていた。ぼくは沙織とはそれまで一度として会話を交わしたことはなく、互いの出身地が近いことも、共通の知り合いがいることすら知らなかった。
大学のカフェテリアでコーヒーを飲んでいるとき、沙織からフルネームで名前を呼ばれた。驚いて話を聞くと、沙織は、彼女が学校を辞めてからも親交のあったただ一人の友人だったのだという。ここ数年は音信不通だったけど、つい最近ニュースで彼女の死を知り、彼女の家族に確認を取ったらしい。
彼女と別れたあの日以来、ぼくは抜け殻のような生活を過ごしていた。テレビも見なければスマホも見ない。そんな生活を半月ほど過ごしていたせいで、ぼくは彼女の死を知ることができなかった。結局ぼくは、徹頭徹尾、彼女の役に立つことはできなかったということだ。
彼女は葬儀も無しに荼毘に付された。司法解剖を受けたのちに、今は母親だけとなった親族に引き渡され、通夜も告別式も執り行わず、火葬場へ送られて灰にされてしまった。
せめて最後に一目会いたかったと沙織は泣いたが、その涙を信じることはできなかった。もし本当に、高校を辞めた後にも彼女と親交があったのなら、沙織こそが彼女を救えるただ一人の友人であったはずだ。だがそうはならず、沙織は彼女から距離を取った。沙織もまた、本気で彼女に救いの手を伸ばそうとはしなかった人間の一人だった。
勿論ぼくは、沙織にそんな指摘をしたりはしない。彼女と知り合いだったのは間違いないのだろうが、沙織もまた、変化した彼女の世界からオフリミットされた人間だったからだ。
沙織は内向的な性格で、大学にも友人と呼べるような存在はいなかった。沙織はカフェテリアでぼくに話しかけて以来、度々ぼくに話しかけてくるようになった。
最初のうちこそ彼女の話題が多かったが、やがて沙織との話は高校、中学時代の共通の友人や、同じ学習塾にいた講師の話などに変わっていった。彼女の死以降、ぼくは事あるごとに彼女への罪悪感に苛まれていたから、彼女との想い出を共有し、同じような罪悪感に囚われている沙織と会話できることは大きな救いとなった。アル中の患者たちがグループセラピーを行うように、沙織と共に過ごすことで、ぼくは少しずつ彼女のいない世界と折り合いをつけていくことを学んだ。
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