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第6章 孤独な復習者
求めて止まぬ異能の力
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(…気持ちが悪いわね)
啖呵を切ってみたものの、モノ言えぬ不気味さにカンナの内心は焦りを覚え始めていた。
この圧倒的優位にも関わらず焦りを感じる理由、それはユウマが何も仕掛けてこないことだ。
身体強化の魔術や固有性質で差を見せつけ、血統魔術まで発動しているにも関わらず未だ刀一本のみ。魔術を使おうとする片鱗すら見えない。
確かに単純な剣の才で言えばユウマの方が上だ。だがそれにしたって才だけで埋まる差では既にない。
そしてもう一つ、素の状態でこちらに対応し血統魔術・壱閃の状態で放つ突きにも防御をして見せた事も気になる。
先ほどからユウマの体から放たれている嫌な気が何か関係しているのだろうか。
ガラガラと音を立て崩れる壁。半分埋まっていたユウマが起き上がってきた。
「壱閃でこの威力、血統魔術も相当鍛えてるな。あの時は参刄までだったがもうちょっと上まで行けるようになったか?」
「…だから何?」
スーッと深く呼吸するユウマ。途端に先ほどまで感じていた『嫌な気配』がドッと溢れ出るのを感じる!
その気にあてられ思わず後ずさるカンナ。冷や汗が額を流れる。
「警告する。それ以上血統魔術を使うな。弐京を使ったら最後、俺は本気でお前を殺す」
消してはったりや冗談などでは無い。この凄みは今の言葉を嘘偽りなく実行するだけの凄みだ。
「警告なんて、家族みんなを殺したあんたが随分と優しいことで」
皮肉まじりに返すカンナ。そうだ、目の前の男は憎き家族の仇。凄まれたくらいで引き身になっている場合では無い。
「お前は殺す理由がない」
その一言はカンナの神経を逆撫でさせた。
「殺す理由がない!?家族を殺して!罪のないASOを何人も殺したあんたが今更理由ですって!?じゃあ父さんを、母さんを…みんなを殺したのに理由があるって言いたいの!!私が納得できるだけの理由を説明できるの‼︎?」
カンナの叫びがこだまする。しばしの沈黙の後、ユウマはゆっくりと口を開く。
「俺が選んだ道とはそういうものだ。あの一家は俺の目指すもののため、捨ておかねばならないものだった。次期当主に選ばれなかったお前が、何も知らず俺を恨むのも仕方ない事だ」
「…意味も訳もわからない言葉を並べてはぐらかさないで。もういいわ、私が馬鹿だった」
取り乱してから一変、再び冷たい殺気を帯びたカンナ。
「警告はしたぞ」
短く言い放つユウマの言葉などもはや聞こえはしない。
「武刃漆門 弐京」
魔力が体内を巡るのと同時に呼吸が楽になるのを感じるカンナ。血統魔術武刃漆門の二つ目・弐京は持久力強化の魔術。心肺系は勿論のこと、筋肉組織や傷の再生能力も少しばかり向上する。
ふぅと小さくため息をこぼすと、再び設楽流一心の構えに入ったカンナに対し刀を構えるユウマ。
「壱閃までなら何とかなるかと思ったがそうもいかず、弐京まで使われては俺も使わざるを得ない。見たら最後、生かしてはおかん。恨むなら自身の力不足を恨むのだな」
ユウマはようやくやる気になったようだ。カンナもここぞとばかりに柄を握る力を強くする。
(弐京のおかげで壱閃を使った状態で技を繰り出すのに心肺的制限がなくなった。でも普通に一心を繰り出してもアイツ相手に意味はない。ならば)
「四重一刀・律の太刀」
カンナの刀が薄白く光る。
血統魔術の使用中ほかの魔術を使用できないとは言っても『固有性質』という例外は存在する。
血統魔術同様に、固有性質も生まれたときから体に刻まれた個々の魔術回路だ。
そもそも固有性質の魔術回路は組み換えができない、普通の回路とは別枠の回路なので、基本の回路に戻した状態でも併用が可能である。
先ほどまで使っていた固有性質による斬撃付与は乱立する斬撃を加える四重一刀・乱の太刀。そして今度は媒介である刀に平行に並ぶ斬撃、律の太刀だ。
これを使い突きを繰り出すとどうなるのか。刀の突く方向へ全4撃の突きが雨の様に突き刺さる、設楽流一心を自身の固有性質でさらに昇華させたオリジナルの技が出来上がる。
「設楽流…」
「屍流…」
ふっとカンナの姿は、音すら置き去りにし消えた。
「篠突き!」
「荊凶椎!」
パァァアン!!!!!
空気の抵抗が破壊される音と互いの技が衝突する凄まじい轟音。
血統魔術による身体強化と固有性質を重ねた設楽流・篠突き。手に持つ刀から感じる感触は人を斬った感触ではない。カンナは今まで感じたこともなかった手ごたえを前に、ふと目を凝らす。
視界は何か白い物体で覆われていた。それも一つではない、何本も地面から生えたそれは折り重なって巨大な防壁と化していた。
ごつごつとして細長く、各所につなぎ目が見える。湾曲し先のとがった枝が不気味に各所に伸びていた。そう、それは…
まごうごとなき人の骨であった。
目の前に広がる骨の壁を認識したとたん、手に残る気味の悪い触感に指先から全身へ悪寒が走る!思わず後ろへ飛びのき距離を取るカンナ。
(地面から…骨!?人の骨なの?あんな魔術は知らない、ユウマの固有性質でもない!あれはいったい…)
「この世は魔術だけじゃない。忌み嫌われ、魔術師たちに隠蔽されてきた秘匿の力。魔術を捨て手に入れた『古術』という力だ」
元魔術師、ユウマの持つ刀が怪しく光る。
「設楽流剣術に死霊術・屍操葬を組合せた屍流剣術、加えて強者の魂を収集した俺にお前が勝てる道理はない」
ずずずっと黒い負のオーラを纏うユウマ。それに呼応するように地面から突き出る鋭利に尖った人骨の数々。
「古術の存在を知った以上、ここから帰しはしない」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…軟弱者どもめ。おぬしらそれでも剣士か?」
そこは凄惨な現場だった。
古ぼけた神社のような建物の前に広がる石畳の庭には何人もの人が転がっている。
誰もかれも切り伏せられ、生々しい傷跡が残る。中には体が変化しているものもいる。おそらく転身した契約者だろう。
突き立てられた剣、刀、暗器。戦場のようなこの場所で、積み上げられた剣士たちの上に堂々と座り込む男もまた、この現場と同じく異質ないでだちだった。
武者の様な格好だがそれは下半身のみ。どういうわけか半裸であり鍛え上げられたその肉体をありありと見せつけている。
決して太すぎず、しなやかなバネを残しながらも極限まで鍛え上げられた筋肉を見れば、ただものではないことは一目瞭然である。
そして最も異質なのはその被り物だ。頭にかぶっているのは武将が身に着けるような兜。角のような装飾がされた黒光りする兜で、本来顔が見えている部分は布で覆い隠され見ることができない。
どう考えても視界を遮られ前が見えない布かけから、地に伏す剣士たちに向け声が響く。
「もっと強者はおらんのか。我が頂きを脅かすような、血沸き肉躍る戦いをさせてくれる者は」
辛うじて意識があったのか、兜の男のすぐ足元で倒れている剣士の一人が肺の空気を絞りだすように言葉を紡ぐ。
「聞いたことがある…元魔術師で…刀を扱う…死霊術の剣士。強者の魂を喰らい、人の丈を外れた力を得たという」
「ほぉ!元魔術師の剣士とは剣を交えたことなどなかったなぁ!」
新しいおもちゃでも見つけたかのような、うれしそうな声が布越しに聞こえてくる。
「その者は今どこにおる?同じ剣士ならお主でも知っておろう?」
最後の力で吐き出した言葉、震える指先が差したその先。
「魔学区だ…魔術師どもの…学園区域!」
第6章 完
啖呵を切ってみたものの、モノ言えぬ不気味さにカンナの内心は焦りを覚え始めていた。
この圧倒的優位にも関わらず焦りを感じる理由、それはユウマが何も仕掛けてこないことだ。
身体強化の魔術や固有性質で差を見せつけ、血統魔術まで発動しているにも関わらず未だ刀一本のみ。魔術を使おうとする片鱗すら見えない。
確かに単純な剣の才で言えばユウマの方が上だ。だがそれにしたって才だけで埋まる差では既にない。
そしてもう一つ、素の状態でこちらに対応し血統魔術・壱閃の状態で放つ突きにも防御をして見せた事も気になる。
先ほどからユウマの体から放たれている嫌な気が何か関係しているのだろうか。
ガラガラと音を立て崩れる壁。半分埋まっていたユウマが起き上がってきた。
「壱閃でこの威力、血統魔術も相当鍛えてるな。あの時は参刄までだったがもうちょっと上まで行けるようになったか?」
「…だから何?」
スーッと深く呼吸するユウマ。途端に先ほどまで感じていた『嫌な気配』がドッと溢れ出るのを感じる!
その気にあてられ思わず後ずさるカンナ。冷や汗が額を流れる。
「警告する。それ以上血統魔術を使うな。弐京を使ったら最後、俺は本気でお前を殺す」
消してはったりや冗談などでは無い。この凄みは今の言葉を嘘偽りなく実行するだけの凄みだ。
「警告なんて、家族みんなを殺したあんたが随分と優しいことで」
皮肉まじりに返すカンナ。そうだ、目の前の男は憎き家族の仇。凄まれたくらいで引き身になっている場合では無い。
「お前は殺す理由がない」
その一言はカンナの神経を逆撫でさせた。
「殺す理由がない!?家族を殺して!罪のないASOを何人も殺したあんたが今更理由ですって!?じゃあ父さんを、母さんを…みんなを殺したのに理由があるって言いたいの!!私が納得できるだけの理由を説明できるの‼︎?」
カンナの叫びがこだまする。しばしの沈黙の後、ユウマはゆっくりと口を開く。
「俺が選んだ道とはそういうものだ。あの一家は俺の目指すもののため、捨ておかねばならないものだった。次期当主に選ばれなかったお前が、何も知らず俺を恨むのも仕方ない事だ」
「…意味も訳もわからない言葉を並べてはぐらかさないで。もういいわ、私が馬鹿だった」
取り乱してから一変、再び冷たい殺気を帯びたカンナ。
「警告はしたぞ」
短く言い放つユウマの言葉などもはや聞こえはしない。
「武刃漆門 弐京」
魔力が体内を巡るのと同時に呼吸が楽になるのを感じるカンナ。血統魔術武刃漆門の二つ目・弐京は持久力強化の魔術。心肺系は勿論のこと、筋肉組織や傷の再生能力も少しばかり向上する。
ふぅと小さくため息をこぼすと、再び設楽流一心の構えに入ったカンナに対し刀を構えるユウマ。
「壱閃までなら何とかなるかと思ったがそうもいかず、弐京まで使われては俺も使わざるを得ない。見たら最後、生かしてはおかん。恨むなら自身の力不足を恨むのだな」
ユウマはようやくやる気になったようだ。カンナもここぞとばかりに柄を握る力を強くする。
(弐京のおかげで壱閃を使った状態で技を繰り出すのに心肺的制限がなくなった。でも普通に一心を繰り出してもアイツ相手に意味はない。ならば)
「四重一刀・律の太刀」
カンナの刀が薄白く光る。
血統魔術の使用中ほかの魔術を使用できないとは言っても『固有性質』という例外は存在する。
血統魔術同様に、固有性質も生まれたときから体に刻まれた個々の魔術回路だ。
そもそも固有性質の魔術回路は組み換えができない、普通の回路とは別枠の回路なので、基本の回路に戻した状態でも併用が可能である。
先ほどまで使っていた固有性質による斬撃付与は乱立する斬撃を加える四重一刀・乱の太刀。そして今度は媒介である刀に平行に並ぶ斬撃、律の太刀だ。
これを使い突きを繰り出すとどうなるのか。刀の突く方向へ全4撃の突きが雨の様に突き刺さる、設楽流一心を自身の固有性質でさらに昇華させたオリジナルの技が出来上がる。
「設楽流…」
「屍流…」
ふっとカンナの姿は、音すら置き去りにし消えた。
「篠突き!」
「荊凶椎!」
パァァアン!!!!!
空気の抵抗が破壊される音と互いの技が衝突する凄まじい轟音。
血統魔術による身体強化と固有性質を重ねた設楽流・篠突き。手に持つ刀から感じる感触は人を斬った感触ではない。カンナは今まで感じたこともなかった手ごたえを前に、ふと目を凝らす。
視界は何か白い物体で覆われていた。それも一つではない、何本も地面から生えたそれは折り重なって巨大な防壁と化していた。
ごつごつとして細長く、各所につなぎ目が見える。湾曲し先のとがった枝が不気味に各所に伸びていた。そう、それは…
まごうごとなき人の骨であった。
目の前に広がる骨の壁を認識したとたん、手に残る気味の悪い触感に指先から全身へ悪寒が走る!思わず後ろへ飛びのき距離を取るカンナ。
(地面から…骨!?人の骨なの?あんな魔術は知らない、ユウマの固有性質でもない!あれはいったい…)
「この世は魔術だけじゃない。忌み嫌われ、魔術師たちに隠蔽されてきた秘匿の力。魔術を捨て手に入れた『古術』という力だ」
元魔術師、ユウマの持つ刀が怪しく光る。
「設楽流剣術に死霊術・屍操葬を組合せた屍流剣術、加えて強者の魂を収集した俺にお前が勝てる道理はない」
ずずずっと黒い負のオーラを纏うユウマ。それに呼応するように地面から突き出る鋭利に尖った人骨の数々。
「古術の存在を知った以上、ここから帰しはしない」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…軟弱者どもめ。おぬしらそれでも剣士か?」
そこは凄惨な現場だった。
古ぼけた神社のような建物の前に広がる石畳の庭には何人もの人が転がっている。
誰もかれも切り伏せられ、生々しい傷跡が残る。中には体が変化しているものもいる。おそらく転身した契約者だろう。
突き立てられた剣、刀、暗器。戦場のようなこの場所で、積み上げられた剣士たちの上に堂々と座り込む男もまた、この現場と同じく異質ないでだちだった。
武者の様な格好だがそれは下半身のみ。どういうわけか半裸であり鍛え上げられたその肉体をありありと見せつけている。
決して太すぎず、しなやかなバネを残しながらも極限まで鍛え上げられた筋肉を見れば、ただものではないことは一目瞭然である。
そして最も異質なのはその被り物だ。頭にかぶっているのは武将が身に着けるような兜。角のような装飾がされた黒光りする兜で、本来顔が見えている部分は布で覆い隠され見ることができない。
どう考えても視界を遮られ前が見えない布かけから、地に伏す剣士たちに向け声が響く。
「もっと強者はおらんのか。我が頂きを脅かすような、血沸き肉躍る戦いをさせてくれる者は」
辛うじて意識があったのか、兜の男のすぐ足元で倒れている剣士の一人が肺の空気を絞りだすように言葉を紡ぐ。
「聞いたことがある…元魔術師で…刀を扱う…死霊術の剣士。強者の魂を喰らい、人の丈を外れた力を得たという」
「ほぉ!元魔術師の剣士とは剣を交えたことなどなかったなぁ!」
新しいおもちゃでも見つけたかのような、うれしそうな声が布越しに聞こえてくる。
「その者は今どこにおる?同じ剣士ならお主でも知っておろう?」
最後の力で吐き出した言葉、震える指先が差したその先。
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第6章 完
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