三つの異能と魔眼魔術師

えんとま

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第6章 孤独な復習者

刻まれた足跡

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「さつじ・・・!?」



二階堂の言葉に最悪の映像が脳裏に浮かぶ。まさか被害者は…!




その場を飛び出し立入り禁止のテープを今にも越えかねないハルトの肩をがっとつかみ制止させる一条。



「おちつかんか四宮!のぅ二階堂、その殺人事件の被害者についてワシらに教えてくれんか?」




二人の反応に対し二階堂はまったく訳がわかっていない。とりあえず辺りをきょろきょろと見回すと二人にこっそり耳打ちをした。



「ここじゃ目立ちますから、ちょっとついてきてください」





そういうと集まる野次馬をすり抜けて二階堂は二人を少し離れた公園へ連れて行く。幸い近くの人たちはあの現場に群がっているようで、ここには人一人いない。二階堂は二人に公園のベンチに座るよう促すと、その隣に座り説明を求める。





「私はまったく状況がつかめていないのですが、なぜあの場所に?お二人がそんなに動揺しているのも気になるのでですが・・・」





「それは後で話す、まずはさっきの一条の質問の答えが知りたい」





えぇ・・・ほんとはあんまりよくないんですが・・・と今一度あたりに人がいないことを確認すると、二人にこっそりと教える二階堂。





「今回も被害者は魔導省が抱える警護団体、ASOの人間ですよ」




「!?」




被害者はカンナではなかった。ほっとするのもつかの間、すぐその後には驚愕の事実が耳に飛び込んでくる。




ASOとは対魔術組織(Anti Sorcery Organizationアンチソーサリーオーガニゼーション)の頭文字をとった言葉だ。その名のとおり、魔術によって起こる犯罪行為を取り締まるための警護組織で、武器の携帯や武力制圧、当然魔術の使用も国から認可されたいわば魔術界の警察だ。



魔術を使った犯罪に対抗するため体術や話術はもちろんのこと、魔術の熟練度もかなりのものだ。普通に殺そうとして殺せるような相手ではない。



さらにハルトはもうひとつ、二階堂の言葉に気になるものがあった。




「二階堂、ってことはこれが最初じゃないのか?」




二階堂はさらに念を押し内緒ですよといって話を続ける。





「お二人はここ最近話題のニュースを知っていますか?マーテル魔学区ではありませんが、刃物を凶器に殺害事件が連日起きている、あのニュースです」





「もちろんじゃ。魔術ではなく刃物による犯行、それに傷口から素人ではないことがわかっておる。現代の辻斬りだとかでテレビじゃ格好のネタにされとるからのぅ」




(・・・そんなの報道してたのか・・・)





学校にいない間、みっちり訓練に身をささげていたハルトはテレビなど電源すら入れはしていない。たったの3週間で世間から置き去りにされた気分だった。






「これは報道されてない情報なので他言無用でお願いしたいのですが、その事件の被害者はすべて各地区のASOなんです」






うすうす感づいていはいたが面と向かってそういわれるとやはり驚愕してしまう。あのASOを一人にとどまらず何人も切り伏せている人物がいるのだ。そんな芸当をできる人間など限られていることを考えれば、一連の事件の犯人はおそらく同じ一人の人間だと考えてよいだろう。





「なるほどのぉ、ただの殺傷なうえ凶器は普通の刃物じゃ。魔導省が絡む理由がさっぱりわからなかったが、それなら二階堂が現場にいたのも頷ける」





(いや、たぶんそれだけじゃないな)



ハルトは口には出さないが別の予感を感じていた。




魔導省の中でも二階堂は古術、奇跡という魔術以外の異能の存在を知っている数少ない人物だ。




魔術界においてこの異能の力は隠蔽されている。こうして二階堂が現場に出てきているのは、今回の事件を古術師が絡む事件だという可能性を考慮し秘密裏に処理するためではないだろうか。





「今までは他地区で起きていたこの事件ですが、マーテル魔学区で発生したのは今回が初めてです。このあたりに犯人がうろついていてもおかしくはありません。いいですか、お二人とも今日は帰ってください。可能なところまで必ず二人でいることをお勧めします」





二階堂はまだ処理が残っているため現場に戻るといい去っていった。二階堂の言うとおり、近くに殺人鬼がいる可能性がある中でこれ以上カンナを探し回るのも危険だ。二人は言われたとおりこのまま帰路につくことにした。




ただ真っ直ぐ前を向いて歩く二人。互いの顔は見ずとも、互いに同じことを考えているのはわかっていた。






「なかなか大きい話になってきたのう。カンナはおそらく…」






「あぁ、間違い無いよな。事件の始まりとあいつが休学した時期がおおよそ同じなことは調べりゃわかんだろ。多分一人で





おそらく最初の事件のニュースが報道された時点でカンナは何か感じ取ったのだろう。







その凶器と殺され方から、自分の家族を殺した犯人の匂いを。





他地区で行われた犯行の現場を調べるため長期研究休学を使いマーテル魔学区を出た。昨日一条がマーテル魔学区でカンナの姿を捉えたと言うことは、カンナも犯人を追ってここまできたのだ。







「相手は殺人犯、ことは簡単ではない。ワシらも首を突っ込むなら覚悟がいるが…まぁきく必要なぞ無さそうじゃな」






「あぁ。覚悟もクソもない、あいつが一人で戦ってんのをただ眺めてる訳にはいかない」




「警察やASOよりも先に現場を嗅ぎつけておったからのう。任せていては手遅れじゃ、ワシらが動いた方がよいな。もちろん付き合うぞ」





二人はカンナのため、殺人鬼と敵対する覚悟を決める。一条はともかくとして、ハルトはこれまで命を狙われ死闘をくぐり抜けてきたのだ。今更殺人鬼などで立ち止まってなどいられない。





ハルトは途中の道で一条と別れる。姿が見えなくなったことを確認すると、家へ向かう道とは別の方向へと歩き始めた。




ポケットを漁り紙を取り出す。そこに書かれた電話番号に電話をするハルト。




「もしもし…そうだ、四宮だ。今一条と別れた。あそこで集合しよう。…あぁ、昨日の話だな…」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「すいません、事件の処理に追われてしまって…」





謝罪の言葉とともに現れたのは他でもない、さっき現場で会った二階堂だ。




先程公園にて、一条にバレないようにハルトのポケットに電話番号の書いたメモを突っ込んだのも彼女だ。





昨日ハルトを訪ねすれ違った事もあり何かしら用があるのは間違いない。そして一条を前に話ができないなら内容は一つだけ。







「また、古術師が俺を狙いにきてるのか。と言うか例の事件の犯人がまさにその古術師とか?」





「…まだ、断言はできません。ですが可能性は高いんです」





二階堂は部屋に入ってきて席に座る。







「今回の事件、凶器はただの刃物となっていますよね。確かに魔術の痕跡は一切ありませんし、現場に残された手がかりはその刀傷だけですから。でも相手はあのASOです。刃物だけで殺害しているとは考えにくい」






「残る可能性は古術か奇跡、どちらかの力を使っていると言いたい訳ですね」




その場にいたアンリは二人の会話に割って入る。





「当然ながら魔術界で用いる痕跡を見つけるための道具や機材はあくまで魔術のためのもの。古術や奇跡の痕跡が探せるはずありませんからね」






だがふとハルトはある疑問が浮かぶ。





「でも魔導省の上層部は他の異能のことを知ってるんだろ?こう言う時のために調査機材とか持ってないのか?」







「多分、無いですね。事情を知っている人間が限られた中で機器を製造できないからだと思いますが…」














「なるほど、つまり手詰まりな訳だ。なら僕の出番かな?」




「!?」



突然現れた声の主、コンの登場にギョッとする二階堂。




「また急に現れて…なんだその格好」





神出鬼没なところはハルトも慣れた物だが、その格好には驚かざるを得なかった。黒を基調として節々にふりふりとした可愛らしい白のライン。エプロンのようでかつゴシックな雰囲気を醸し出すその服はまさに…






「そう、メイド服さ!」





コンは自慢げに服を誇張して見せる。





「ハルくんたちに命を救われた上に居候させて貰ってるんだ。奉仕は当然の義務だと思ってね」







「見た目から入るのはいいですが、メイドなりのおしとやかさも大事だと思いますよ~」





アンリが突っ込む。






「悔しいことに掃除洗濯料理と、メイド業務に事関しては完璧にこなしちゃうんですよね。実は飯綱ではなく玉藻前の半妖かと疑っていたところですよ」


この姿のコンをクラウスに見せてはいけないなどと冗談をかましているところで、ようやく二階堂が我に帰った。





「…はっ!こ、この方は!?耳!え、本物…尻尾!?」





「この人はけもみみ僕っ娘メイドのコンさんです」




「ちっがーう!・・・いやあってる?ていうかこの子に僕の姿をさらしていいのかい」




アンリの雑な紹介に突っ込みを入れつつ、いまさらながら不安になるコン。





「その疑問は姿を現す前に抱いてくれ。二階堂、こいつは飯綱っていう狐の妖怪の半人半妖だ。コン、二階堂は魔術界の中で古術の存在を知っている。ばれても問題ない」




このまま任せていては会話がカオスの渦に巻き込まれかねないと、最小限の紹介でその場を流したハルト。




「話を戻すぞ。コンのいうってのは?」





どうやらなぜこの場に出てきたのか忘れていたようだ。ハルトの言葉に思い出したように口を開くコン。





「あぁ、そうだった!ハル君たちは古術の痕跡を探せなくて困っているんだろ?なら僕の妖術はうってつけだ。僕の『飯綱心眼いづなしんがん』は気の流れを読んで見通す。痕跡を探すくらい朝飯前だよ」




「朝飯前って言っても、その姿で表に出るつもりか」





ごもっともなハルトの意見にちっちっちと指を振り振りする。




「いやだなぁハル君。君と初対面したときの姿を思い出してごらんよ。今と同じように耳や尻尾が生えていたかい?」






ハルトは最初に会ったときのことを思い出す。確かに耳も尻尾もなければ、髪も黒だった。だがしかし




「あれって転身する前の姿ってわけじゃなかったのか?もしかして」





「そう、あれは変化の術の姿ってだけさ。大体夜あったときハル君の目の前で変化して見せただろう」





そういえばそうだな、と納得する。完全に蚊帳の外でおろおろする二階堂がだんだん可愛そうになってきたアンリが助け舟を出した。














「要約するとこの狐さんが人間の姿になって現場の痕跡を追ってくれます。狐さんはハルトさんの下僕なので何でもいうことを聞いてくれます。遠慮せず連れて行きましょう。ということですよ」

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