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第3章 魔導省
『世界演算』
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(さて、大見得を切ったはいいが…)
ハルトは思考を巡らせる。これぞ魔術戦での真骨頂、いかに早く相手が『軸』とする魔術を見極め対策するかで戦闘の優劣が決まってくる。さらに言えば固有性質は詠唱も発動単語もないためその難易度はぐっと増すのだ。
(ここは分析力の勝負。一方相手は固有性質を俺が使えないことを知っている。これは一方的な挑戦だな)
先ほどの固有性質を使用した状況を考える。一見すると違和感はないが、ハルトには一つ気になっていることがあった。
(二階堂は防壁を攻撃に対し斜めに展開していた。つまり防壁自身の強化や攻撃に対して作用する力ではなく斜めにすることで受けきることがわかるそんな能力のはずだ)
ハルトが出した答え、それは何らかの事象に対し『分析』を行うものだと仮定した。
「ᛋᛏᚱᛖᚾᚷᛏᚺᛖᚾᛁᚾᚷ ᛏᚺᛖ ᛒᛟᛞᚣ」
「ᛋᛟᚾᛏᚨᚷ ᚲᛟᚢᚲᚨ」
自身の強化魔術を使うと、ハルトは二階堂の懐目がけて飛び込んだ!
「近接戦で確かめようと?甘い考えです!」
「!?」
ハルトが放つパンチは何ら強化を付与していない二階堂の腕捌きにいなされてしまう。
「魔導省で武術の施しを受けている私に素人の貴方が近接戦など、10年早いです!」
そのまま腕をからめとられると…
「おおぉおおお!!」
掛け声と共に小柄な二階堂がハルトの体を浮かせて見せた!
ダァァン!!
「ガハッ!!」
ハルトの背中が床に叩きつけられる。肺に残った空気は押し上げられ、無理やり吐き出された。
しかしいつまでも寝転がっている場合ではない。追い討ちをかけるように二階堂はマウントをとりに来る。
転げるように逃げるハルト。身体強化をしているおかげでその場を逃れた上距離まで離すことができた。
(こっちの行動に対してのカウンター、のはずだが…何だこの違和感。仕掛けるより先に動いてなかったか?)
「ならこれならどうだ、ᚠᛚᚨᚱᛖ ᛒᛟᛗ!」
(なんだと!)
ボッという重い破裂音と共にボウリングの玉サイズの火球が出現し破裂する。
広がる熱波と火炎。しかしその火は虚しく宙に掻き消えるだけだった。
その光景にハルトは驚きを隠せない。
なぜなら二階堂は魔術が発動し火球が出現するよりも先に回避行動を行なったのだ。
「まだだ!畳み掛けろ!」
ハルトは二階堂の周りに複数の火球を放つ。
それでも二階堂は発動する前に出現箇所を視認して見せると、すべての火球をかわし切ってしまった!
その上、ただ攻撃を打たせるほど二階堂は甘くない。
ショートカットを投げつけ反撃するが、今度はハルトのいるところではなく明後日の方向へと飛んでいった。
気にせず突っ込むハルト。硬質化した拳に力を込め相手が女性にも関わらず思い切り殴りつけた!
が、やはり紙一重でかわされてしまう。
逆の拳で二撃目を放とうと、何度やろうと全然当たる気配がない。
(反射で避けているなんてレベルではない!身体強化して速度も上がっているというのに、パンチを打つと同時に動いている…)
二階堂は放たれたハルトの拳を今度は大振りに避けると同時に蹴りをかます。
武術の心得があると言っても強化していない普通の蹴りだ。ハルトは少しバランスを崩しはしたがダメージはなかった。
「そこ、危ないですよ」
ゴン
鈍痛がハルトの後頭部にじわりと滲む。
思わずくらっと倒れそうになるのを堪えてすぐさま距離を開ける。
「さっき投げたショートカット…。読みのレベルが常軌を逸してる。未来予知と言っても過言じゃないな」
(しかし未来時間に干渉する魔術など存在しない)
(それにただの予知では中級魔術を防いだ理由にならない…そして必ずこちらのアクションに対し不自然なまでに視認を行なっていること。もう1つ試すか)
思考を巡らせるハルトだが、鈍痛がそれを妨害する。
先ほどから頭がクラクラして考えが鈍る。時たま地面が自分に迫ってくる感覚に襲われながら何とか倒れまいと踏ん張り、最後の検証に入る。
「ずいぶんグロッキーですね?倒れてしまった方が楽ですよ」
余裕を見せてくる二階堂。
指につけた指輪が魔術反応で鈍く光る。
「ᛁᚲᛖ ᛒᚱᚨᛁᛞ」
空中で凍結しながら現れたのは氷が作る小刀だ。それを二本両手に持ち、二階堂はとどめを差しにくる!
(いまだ!)
「ᚱᛟᚲᚲ ᚲᚱᚨᛏᛖ!」
二階堂の攻撃範囲がハルトに干渉するよりも早く、ハルトの発動単語が炸裂する。
びくっと体を急停止し、地面に警戒しながらすぐその場を飛び退く二階堂。
…が、何も起こらない。
ハッとする二階堂。
自分が嵌められたことに気づいた時には、ハルトに全て見通されていた。
「…やっぱり…な。わかったぜ、お前の力の正体…」
ようやく全ての点が繋がり線となった。ハルトは自身の推理を二階堂へとぶつける。
「未来予知とも取れる行動…だが予知できるなら今のハッタリ魔術が発動しないことも…わかったはず。なぜわからなかったか…?ロッククリエイトは地面から発動する魔術…そう、お前の視覚外だ」
その言葉に二階堂の表情が曇る。
「そして斜めに展開した盾。あれはあの角度だと雹の力を受け流せたから」
後頭部の鈍痛は波のように周期的に襲ってくる。ハルトの頬に汗が伝う。
「攻撃に対する恐ろしいまでの反応、機械のように正確な受け流し。あれは細かな情報から導き出した結果に基づいた行為!そう、視覚に入る情報を数値化し演算する能力…だろ?」
ここでハルトの世界が動転する。
より一層苦い顔をする二階堂の表情にニッしながら…その場に倒れ込むハルト。
「その顔が…正解だと言ってる…してやったり…だ…」
ハルトはそのまま意識を失ってしまった。
「…」
倒れたハルトを苦虫を噛み潰したような顔で見下ろす。
「…あれだけ短い時間で見破られるとは」
二階堂は悔しさに拳を強く握りしめる。
「正確には私の固有性質、『世界演算』は五感からくる全ての情報を数値化し演算する魔術。ですがそれだと脳がオーバーヒートしてしまうので視覚に絞っていたのです」
意識を失ったハルトに対し呟くようにいう二階堂。
「と言っても、わかったところで倒れてしまっては意味がありません。結果が全て、これで上にに貴方を始末するよう進言できる」
そういうと倒れたハルトをそのままに、出口へ向かう二階堂。
望み通りの結果となったはずなのに、その表情は浮かない。二階堂の胸の内に残ったのは他でもない敗北感だった。
「待ちなさい。貴方、それはないんじゃなくて?」
突如として二階堂の目の前に出現した少女。思わずぎょっとして数歩後ずさる二階堂。
二階堂はその少女を知っていた。
「…ヴァルミリア・サーベルブラッド・アンチェスター。何故四宮ハルトの影に?」
(鮮血の奇術師、神に仕える狂犬…四宮ハルトの護衛はアンリのはずだが)
二階堂は自分より一回りも小さい可憐な少女に対し体を緊張させる。
彼女は知っているのだ。この少女が小さな体に詰め込んでいるのはどこまでも深い闇、底知れぬ恐怖であると。
こんな怪物を従える教会も神もどうかしている、と悪態を心で吐きながらまた数歩距離を取る。
「私がここにいるのは偶然、たまたまよ。そんなことよりも気になるのは貴方の行為」
相変わらずのサイズの大きな修道服をするする引きずりながら、二階堂へと近づいていく。
「なんでそんなにハルトさんを殺すことに固執しているのか知らないけど、自分で決めたルールさえねじ曲げてしまうのはどうなのかしら?」
「自分で決めたルール…?」
二階堂は聞き返す。
「そう、貴方は戦いの中でハルトさんを見極め自分を納得させると決めた。なのに貴方ったら敗北したにも関わらず恥じらいもなしにルールをねじ伏せるなんて!」
クスクスと笑うヴァルミリアに対し、二階堂は激昂する。
「敗北ですって!この状況を見なさい、彼は地に伏せ私は立っている!これをどう敗北と「黙りなさい」」
ヴァルミリアに制止されびくっと体を跳ねさせる二階堂。
「自分で分かってるくせに説明させるなんてどこまで恥知らずなのかしら?魔眼で吸収出来ない魔術戦においてハルトさんの魔眼による魔力量圧迫は圧倒的不利、その上固有性質も使えない」
ヴァルミリアは自分より一回りも大きい二階堂の目をじっと見上げる。少女らしいつぶらな瞳に光はなく、奥底から滲み出ている怒りの色に二階堂は目を離せずにいた。
「それなのに貴方は固有性質まで使わされて挙句見破られる始末、これを敗北と言わずしてなんと言えばいいのかしら」
ぐっと歯を噛み締める二階堂。言われずとも分かっていた。
認めたくないだけで、その魔術戦のセンスと分析力は並以上、納得するには十分だった。
しかし結果だけ見れば地に伏せたハルトを見下ろしているのは自分なのだ。
「分かりました、ではこうしましょう」
慎重に言葉を選びながら提案する二階堂。
「言われたことは正しいですが結果は違う。結局のところ内容はどうあれ敗れればそこで終わり、魔眼を持ち去られてしまいます。私如きに倒れていては安心ができません」
「しかし伸び代はあります。彼の魔術の扱い方は普通ではない。それは今ではマイナスですが、扱いを学び活かせばゼロどころか飛躍的にプラスになるでしょう」
二階堂はヴァルミリアの顔の前に指を三本立てる。
「三週間です。この期間で強くなれなければ、私は魔導省の上層部に四宮ハルトを生かす価値なしと進言します」
「…その期間に設定した理由は?」
二階堂の言葉に聞き返すヴァルミリア。
「マーテル魔学区の近くで再び不審な動きがあるとの通達を受けました。今はまだ準備段階だと思いますが、おそらく四宮ハルトを狙う古術師です。早くて3週間後仕掛けてくると見ています」
ふぅ、とため息をつくヴァルミリア。
(実際、襲撃前にハルトさんには力をつけてもらいたいものね)
「いいわ、そこを落とし所にしましょう」
出口と二階堂の間で立ち塞がっていたヴァルミリアはまたするすると服を引きずりながらその場を退いて道を開ける。
「…用は済んだみたいですね。では私は失礼します」
吐き捨てるようにいうと、二階堂はその場を後にする。
「ッフフ、可愛らしいじゃない。プライドが邪魔をして自分の意志さえ認められない、だだをこねてわがままをいう子供のよう。ちょっと気に入ったわ」
ヴァルミリアは未だ気絶したままのハルトに視線を移す。
「まぁ、そろそろ時期よね。アンリちゃんとも相談しなきゃ」
ハルトは思考を巡らせる。これぞ魔術戦での真骨頂、いかに早く相手が『軸』とする魔術を見極め対策するかで戦闘の優劣が決まってくる。さらに言えば固有性質は詠唱も発動単語もないためその難易度はぐっと増すのだ。
(ここは分析力の勝負。一方相手は固有性質を俺が使えないことを知っている。これは一方的な挑戦だな)
先ほどの固有性質を使用した状況を考える。一見すると違和感はないが、ハルトには一つ気になっていることがあった。
(二階堂は防壁を攻撃に対し斜めに展開していた。つまり防壁自身の強化や攻撃に対して作用する力ではなく斜めにすることで受けきることがわかるそんな能力のはずだ)
ハルトが出した答え、それは何らかの事象に対し『分析』を行うものだと仮定した。
「ᛋᛏᚱᛖᚾᚷᛏᚺᛖᚾᛁᚾᚷ ᛏᚺᛖ ᛒᛟᛞᚣ」
「ᛋᛟᚾᛏᚨᚷ ᚲᛟᚢᚲᚨ」
自身の強化魔術を使うと、ハルトは二階堂の懐目がけて飛び込んだ!
「近接戦で確かめようと?甘い考えです!」
「!?」
ハルトが放つパンチは何ら強化を付与していない二階堂の腕捌きにいなされてしまう。
「魔導省で武術の施しを受けている私に素人の貴方が近接戦など、10年早いです!」
そのまま腕をからめとられると…
「おおぉおおお!!」
掛け声と共に小柄な二階堂がハルトの体を浮かせて見せた!
ダァァン!!
「ガハッ!!」
ハルトの背中が床に叩きつけられる。肺に残った空気は押し上げられ、無理やり吐き出された。
しかしいつまでも寝転がっている場合ではない。追い討ちをかけるように二階堂はマウントをとりに来る。
転げるように逃げるハルト。身体強化をしているおかげでその場を逃れた上距離まで離すことができた。
(こっちの行動に対してのカウンター、のはずだが…何だこの違和感。仕掛けるより先に動いてなかったか?)
「ならこれならどうだ、ᚠᛚᚨᚱᛖ ᛒᛟᛗ!」
(なんだと!)
ボッという重い破裂音と共にボウリングの玉サイズの火球が出現し破裂する。
広がる熱波と火炎。しかしその火は虚しく宙に掻き消えるだけだった。
その光景にハルトは驚きを隠せない。
なぜなら二階堂は魔術が発動し火球が出現するよりも先に回避行動を行なったのだ。
「まだだ!畳み掛けろ!」
ハルトは二階堂の周りに複数の火球を放つ。
それでも二階堂は発動する前に出現箇所を視認して見せると、すべての火球をかわし切ってしまった!
その上、ただ攻撃を打たせるほど二階堂は甘くない。
ショートカットを投げつけ反撃するが、今度はハルトのいるところではなく明後日の方向へと飛んでいった。
気にせず突っ込むハルト。硬質化した拳に力を込め相手が女性にも関わらず思い切り殴りつけた!
が、やはり紙一重でかわされてしまう。
逆の拳で二撃目を放とうと、何度やろうと全然当たる気配がない。
(反射で避けているなんてレベルではない!身体強化して速度も上がっているというのに、パンチを打つと同時に動いている…)
二階堂は放たれたハルトの拳を今度は大振りに避けると同時に蹴りをかます。
武術の心得があると言っても強化していない普通の蹴りだ。ハルトは少しバランスを崩しはしたがダメージはなかった。
「そこ、危ないですよ」
ゴン
鈍痛がハルトの後頭部にじわりと滲む。
思わずくらっと倒れそうになるのを堪えてすぐさま距離を開ける。
「さっき投げたショートカット…。読みのレベルが常軌を逸してる。未来予知と言っても過言じゃないな」
(しかし未来時間に干渉する魔術など存在しない)
(それにただの予知では中級魔術を防いだ理由にならない…そして必ずこちらのアクションに対し不自然なまでに視認を行なっていること。もう1つ試すか)
思考を巡らせるハルトだが、鈍痛がそれを妨害する。
先ほどから頭がクラクラして考えが鈍る。時たま地面が自分に迫ってくる感覚に襲われながら何とか倒れまいと踏ん張り、最後の検証に入る。
「ずいぶんグロッキーですね?倒れてしまった方が楽ですよ」
余裕を見せてくる二階堂。
指につけた指輪が魔術反応で鈍く光る。
「ᛁᚲᛖ ᛒᚱᚨᛁᛞ」
空中で凍結しながら現れたのは氷が作る小刀だ。それを二本両手に持ち、二階堂はとどめを差しにくる!
(いまだ!)
「ᚱᛟᚲᚲ ᚲᚱᚨᛏᛖ!」
二階堂の攻撃範囲がハルトに干渉するよりも早く、ハルトの発動単語が炸裂する。
びくっと体を急停止し、地面に警戒しながらすぐその場を飛び退く二階堂。
…が、何も起こらない。
ハッとする二階堂。
自分が嵌められたことに気づいた時には、ハルトに全て見通されていた。
「…やっぱり…な。わかったぜ、お前の力の正体…」
ようやく全ての点が繋がり線となった。ハルトは自身の推理を二階堂へとぶつける。
「未来予知とも取れる行動…だが予知できるなら今のハッタリ魔術が発動しないことも…わかったはず。なぜわからなかったか…?ロッククリエイトは地面から発動する魔術…そう、お前の視覚外だ」
その言葉に二階堂の表情が曇る。
「そして斜めに展開した盾。あれはあの角度だと雹の力を受け流せたから」
後頭部の鈍痛は波のように周期的に襲ってくる。ハルトの頬に汗が伝う。
「攻撃に対する恐ろしいまでの反応、機械のように正確な受け流し。あれは細かな情報から導き出した結果に基づいた行為!そう、視覚に入る情報を数値化し演算する能力…だろ?」
ここでハルトの世界が動転する。
より一層苦い顔をする二階堂の表情にニッしながら…その場に倒れ込むハルト。
「その顔が…正解だと言ってる…してやったり…だ…」
ハルトはそのまま意識を失ってしまった。
「…」
倒れたハルトを苦虫を噛み潰したような顔で見下ろす。
「…あれだけ短い時間で見破られるとは」
二階堂は悔しさに拳を強く握りしめる。
「正確には私の固有性質、『世界演算』は五感からくる全ての情報を数値化し演算する魔術。ですがそれだと脳がオーバーヒートしてしまうので視覚に絞っていたのです」
意識を失ったハルトに対し呟くようにいう二階堂。
「と言っても、わかったところで倒れてしまっては意味がありません。結果が全て、これで上にに貴方を始末するよう進言できる」
そういうと倒れたハルトをそのままに、出口へ向かう二階堂。
望み通りの結果となったはずなのに、その表情は浮かない。二階堂の胸の内に残ったのは他でもない敗北感だった。
「待ちなさい。貴方、それはないんじゃなくて?」
突如として二階堂の目の前に出現した少女。思わずぎょっとして数歩後ずさる二階堂。
二階堂はその少女を知っていた。
「…ヴァルミリア・サーベルブラッド・アンチェスター。何故四宮ハルトの影に?」
(鮮血の奇術師、神に仕える狂犬…四宮ハルトの護衛はアンリのはずだが)
二階堂は自分より一回りも小さい可憐な少女に対し体を緊張させる。
彼女は知っているのだ。この少女が小さな体に詰め込んでいるのはどこまでも深い闇、底知れぬ恐怖であると。
こんな怪物を従える教会も神もどうかしている、と悪態を心で吐きながらまた数歩距離を取る。
「私がここにいるのは偶然、たまたまよ。そんなことよりも気になるのは貴方の行為」
相変わらずのサイズの大きな修道服をするする引きずりながら、二階堂へと近づいていく。
「なんでそんなにハルトさんを殺すことに固執しているのか知らないけど、自分で決めたルールさえねじ曲げてしまうのはどうなのかしら?」
「自分で決めたルール…?」
二階堂は聞き返す。
「そう、貴方は戦いの中でハルトさんを見極め自分を納得させると決めた。なのに貴方ったら敗北したにも関わらず恥じらいもなしにルールをねじ伏せるなんて!」
クスクスと笑うヴァルミリアに対し、二階堂は激昂する。
「敗北ですって!この状況を見なさい、彼は地に伏せ私は立っている!これをどう敗北と「黙りなさい」」
ヴァルミリアに制止されびくっと体を跳ねさせる二階堂。
「自分で分かってるくせに説明させるなんてどこまで恥知らずなのかしら?魔眼で吸収出来ない魔術戦においてハルトさんの魔眼による魔力量圧迫は圧倒的不利、その上固有性質も使えない」
ヴァルミリアは自分より一回りも大きい二階堂の目をじっと見上げる。少女らしいつぶらな瞳に光はなく、奥底から滲み出ている怒りの色に二階堂は目を離せずにいた。
「それなのに貴方は固有性質まで使わされて挙句見破られる始末、これを敗北と言わずしてなんと言えばいいのかしら」
ぐっと歯を噛み締める二階堂。言われずとも分かっていた。
認めたくないだけで、その魔術戦のセンスと分析力は並以上、納得するには十分だった。
しかし結果だけ見れば地に伏せたハルトを見下ろしているのは自分なのだ。
「分かりました、ではこうしましょう」
慎重に言葉を選びながら提案する二階堂。
「言われたことは正しいですが結果は違う。結局のところ内容はどうあれ敗れればそこで終わり、魔眼を持ち去られてしまいます。私如きに倒れていては安心ができません」
「しかし伸び代はあります。彼の魔術の扱い方は普通ではない。それは今ではマイナスですが、扱いを学び活かせばゼロどころか飛躍的にプラスになるでしょう」
二階堂はヴァルミリアの顔の前に指を三本立てる。
「三週間です。この期間で強くなれなければ、私は魔導省の上層部に四宮ハルトを生かす価値なしと進言します」
「…その期間に設定した理由は?」
二階堂の言葉に聞き返すヴァルミリア。
「マーテル魔学区の近くで再び不審な動きがあるとの通達を受けました。今はまだ準備段階だと思いますが、おそらく四宮ハルトを狙う古術師です。早くて3週間後仕掛けてくると見ています」
ふぅ、とため息をつくヴァルミリア。
(実際、襲撃前にハルトさんには力をつけてもらいたいものね)
「いいわ、そこを落とし所にしましょう」
出口と二階堂の間で立ち塞がっていたヴァルミリアはまたするすると服を引きずりながらその場を退いて道を開ける。
「…用は済んだみたいですね。では私は失礼します」
吐き捨てるようにいうと、二階堂はその場を後にする。
「ッフフ、可愛らしいじゃない。プライドが邪魔をして自分の意志さえ認められない、だだをこねてわがままをいう子供のよう。ちょっと気に入ったわ」
ヴァルミリアは未だ気絶したままのハルトに視線を移す。
「まぁ、そろそろ時期よね。アンリちゃんとも相談しなきゃ」
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