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第1章 闇喰らいの無能魔術師
無能魔道士のレッテル
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-マーテル魔法学教育機関区域-
通称「魔学区」は、国が作った最新の魔法教育形態を整えた学園区域である。
綺麗に舗装された道路や立ち並ぶビル、公共の交通機関はどれも最先端で、その全てがこの魔学区に住む学生達に対し優遇制度を設けている。
魔学区には名だたる名門魔法学校が複数あり、そこに通う学生達が勉学に集中できるようにとありとあらゆる場面で補助を惜しまない国の方針によるものだ。
そのため魔学区に住むほとんどは学生で構成されている。
そんな名門校に通う彼ら学生はこの状況に甘えることなどするはずもなく、日々己の魔導を磨くため勉学に励む、いわゆるエリート魔道士なのだ。
夕暮れ時、学校が終わり帰宅を始める学生達の中で、がっくりと肩を落とし見るからに気落ちしている学生がいる。手には何やら一枚の紙があり、トボトボと歩く様はその周囲にまで負のオーラを振りまかんとするほどだ。しかし周りの生徒は慣れた様子で、その生徒のことなどまるで気にしていない。
帰宅途中の周りと同じ学校に通っているであろうその少年の手に握られている紙に書かれているのは、何やら成績通知表のようだった。
様々な評価項目が並べられているが、それらを大きく二つに区切って「魔学」と「魔技」の文字の隣に点数が書いてある。魔学のとなりには50/50の文字。そして魔技の隣には・・・
魔技 2/50
固有性質:「不 明」
少年はこの二つの文字に目線を往復させるたび、深くため息をついている。そして氏名の欄には「四宮 ハルト」の文字があった。
かきあげた前髪に170センチ前後のすらっとした体形、勉強というよりは運動のほうが得意そうな印象を受ける少年改め、四宮ハルトはこのマーテル魔学区に並び立つ名門校の一つ、国立ネガル魔道高等専門学校の学生だ。
ハルトの通う学校に限らず、魔学区に建つ学校に入学した学生は学校側が執り行う潜在魔術能力測定と呼ばれる入学前の魔術に関する能力を測定することが義務付けられており、自身の能力を把握したうえで特徴を捉え能力を伸ばすことを意識づけることを目的としたテストが行われる。
1年定期で行われる身体測定のようなもので、ハルトの手に握られている紙きれはまさにその測定の結果であった。
何度見返したところで結果は変わっておらず、知識こそあるものの魔術の技能についてはほぼ無いに等しいことがありありとそこには書かれていた。
(夢にまで見た魔学区の学校に入学できたのに…というかなんで入学できたんだ…)
再びため息をつこうとするハルトの背中に、しびれるような衝撃が走る。
勢いに押され前につんのめるハルト。背中に残る衝撃は人の手のひらほどの余韻を残している。こんなことをする人物をハルトは1人しか知らない。
「いってぇ!…柑奈ぁ、なにすんだお前!」
振り向いた先にはハルトと同じ制服に身をつつむ一人の少女が立っていた。夕焼けに照らされる美しい肩まで伸びた銀の髪、凛とした目に健康的な体つき。一見すると神秘的な少女だが、その雰囲気とは裏腹に意地悪な笑みをいっぱいに広げていた。
「すごいじゃん!目を合わせなくってもあたしだってわかるんだ」
くっくっくといたずらに笑う柑奈。
「こんなことすんのはお前しかいないだろうが!ったくいきなり背中をはたきやがって…」
「あら、あんたの背中が叩いてほしそうなくらいどんよりしてたからじゃん。感謝してよね!」
(なんで俺ははたかれた上に感謝まで求められているんだ)
もっともすぎる突込みが頭をよぎるハルト。柑奈はというと早速ハルトの持っている通知表に目をつけた。
隙を見て手に握られている通知表を盗み見る。
「げっ、魔学はいいとして魔技が2点って…裏口入学は犯罪よ?」
勝手に人の通知表を見ておいて、なんたる言い草か。
今一番言われたくないことを一番言われたくないやつに言われショックを通り越して軽く怒りを覚えるハルト。
「そんなもんしてねぇ!言いたいことはわかるが俺だってなんで入学できたんだかわかんねぇよ!」
(くそ!さんざん言いやがってこの残念美少女が!)
文句を言ってやりたいところだがこの通知表が魔導士のセンスが皆無であることを告げているのは事実であり、心の中でしか言い返せない己の無力さに自己嫌悪したくなってきた。
そんなハルトに追い討ちをかけるように、柑奈は言葉を続ける。
「それに、やっぱり固有性質は不明なのね。無いわけじゃないけどわかんないって…魔学区の最新技術でもわからないとかあんた何者?」
ハルトは強く拳を握りしめ、悔しさをあらわにする。
「…そんなん…俺が一番知りてぇよ」
ー固有性質ー
遥か昔に発見された魔術という力は、長い歴史の中で進化を遂げていた。様々な技術や方式が生み出されては、その上位互換が研究され、今や人々の生活を支えるまでに大きなものへと変貌を遂げている。
国は法律のほかに魔術のための法律を作成し、それをまとめ取り締まる組織まで設立しているほどだ。
そして長きにわたる魔術の浸食は、生活のみならず人体にまで影響し始めていた。最もその影響を受けた者たちはより進化した魔術師、「新世代」と呼ばれている。
おおよそ今の20代より下の者たちにはほとんどその特徴が表れており、基礎能力の高さはさることながら固有性質と呼ばれる個性的な魔術の能力を発現させている。
特殊な魔術を即座に使用したり、常時発動している魔術を持っていたりと、人それぞれに一つ飛びぬけた個性があるのだ。
魔学区の学校では自分の固有性質を把握し一番その性質を伸ばすための授業を専門的に行うことができる唯一の学校であるのだが、ハルトの固有性質は存在こそ把握できるもののその実態は謎に包まれていた。そうなるとこの魔学区で学ぶ意味からしてわからなくなるのは当然である。
他人に言われるまでもなく、そのことを誰よりも知っているのは他ならないハルト自身だ。魔学区が揃える最新設備によるテストなら、いよいよ自分の固有性質が明らかになるものだと期待していた分、柑奈の言葉により一層気落ちするハルト。そんなハルトの様子をみて、さすがに柑奈も言い過ぎたと反省の色を見せる。
「ま、まぁ不明ってことはなんかすごい能力があるかもってことだしさ!人一人がもつ魔術容量ってみんな同じだから、きっと固有性質が容量をとってるせいで魔術の能力も低いだけじゃ…」
これ以上の言葉は今のハルトにはただ辛いだけだ。
「もういいよ。今日は帰る」
柑奈の言葉を遮り、視線を落としてハルトは背を向けその場を離れていく。
呼び止めようとした柑奈の手は途中まで伸びたものの、空をつかんでそのままゆっくりと降ろされた。
「…私のバカ」
こんなはずではなかった。素直になれない自分に怒りを覚えながら、離れるハルトを見送り自分もその場を離れる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『あれ、あいつじゃね?魔学はトップクラスだけど魔技はからしきだってやつ』
『そのうえ固有性質もわかんないんだろ?今時無性質のやつも珍しいよな』
『あいつ、なんで魔学区に来たんだろう』
『かわいそう、私なら耐えられないわ』
学生がごった返す雑踏の中、ひそかに聞こえる小話に聞こえないふりをしてその場を走り抜けるハルト。
(うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!どいつもこいつも嘲笑、同情、そればっかりだ!ここなら、この魔学区ならこいつらを黙らせる魔術師になれると思ったのに…クソっ!!)
昔から魔術の才能に目覚めなかったハルトがここまで魔術師の道に固執するのは、幼いころに約束した亡き父の言葉のためだった。
せめて自分にできることをと地道に勉強を積み上げて何とかここまで来たが、ハルトはもう限界だった。
向けられる嘲笑や同情の視線を避け走り抜けた先は、人の気配などないひっそりとした路地だった。
(ははっ、輝かしい学園都市なんかより、俺はこっちがお似合いだってか)
自嘲気味に笑うハルト。
次の瞬間、人の影などないはずの路地に再び視線を感じる。
(なんだ、あいつら魔学区の学生じゃない。これは…監視の視線か!?)
視線を感じる先にバッとふりかえるハルトだが、やはりそこには誰もいなかった。
(気のせい…か)
向き直るハルト。
「いや、あっていますよ。驚きました、勘がいいんですね」
刹那、誰もいなかった背後から女性の声がハルトに呼びかける。驚いたハルトはビクッと肩を跳ね上げ反射的に再び背後へ向き直る。
狭い路地の向こうから射す夕陽が煌々と照らしているその女性…いや、女子というべきだろうか。その女子の格好にハルトは言葉を失った。
まるで修道服のような服を身にまとい、手には分厚い本を持っている。これはいわゆるシスターという奴だろうか。
背はハルトよりも低く160センチあるかないか、そのフードからは流れるようなきれいな金髪が伸びている。逆光で顔は見えにくいが、まるで見透かすようなきれいな瞳だけははっきりと見えていた。
シスターは手に持った本を開き、中から一枚の用紙を取り出しハルトと見比べる。
「うん、あっている。四宮ハルトさん、ですね?」
「……」
いきなり現実離れした登場をしてきた現実離れした服装の少女に、ハルトは答えることもできず目を開いて驚くだけだった。そんなハルトなど目もくれず、勝手に話を進めるシスター。
「ふむ、沈黙はイエスととらえます。申し遅れましたが、私はウィングベル教会日本支部マーテル区を担当するアンリ・マユ・アステラ・バーミティアと申します。本来中立である我々教会が直接あなたの前に姿を現したのは、事態が急変したためです。今からいうことをよく聞いてください」
「あんた…何言ってんだ?」
突然の状況に頓珍漢なことを口走る目の前のシスターにただただ困惑するしかない。初めて会った少女にかける言葉のチョイスとしては不適切だが、この状況で『何言ってんだ?』以外の言葉を口にするやつなどこの世界中どこにだっていないだろう。そんな頭のおかしい少女は次の瞬間、衝撃の言葉を口にする。
「特異点四宮ハルト、あなたの命はある勢力に狙われています」
通称「魔学区」は、国が作った最新の魔法教育形態を整えた学園区域である。
綺麗に舗装された道路や立ち並ぶビル、公共の交通機関はどれも最先端で、その全てがこの魔学区に住む学生達に対し優遇制度を設けている。
魔学区には名だたる名門魔法学校が複数あり、そこに通う学生達が勉学に集中できるようにとありとあらゆる場面で補助を惜しまない国の方針によるものだ。
そのため魔学区に住むほとんどは学生で構成されている。
そんな名門校に通う彼ら学生はこの状況に甘えることなどするはずもなく、日々己の魔導を磨くため勉学に励む、いわゆるエリート魔道士なのだ。
夕暮れ時、学校が終わり帰宅を始める学生達の中で、がっくりと肩を落とし見るからに気落ちしている学生がいる。手には何やら一枚の紙があり、トボトボと歩く様はその周囲にまで負のオーラを振りまかんとするほどだ。しかし周りの生徒は慣れた様子で、その生徒のことなどまるで気にしていない。
帰宅途中の周りと同じ学校に通っているであろうその少年の手に握られている紙に書かれているのは、何やら成績通知表のようだった。
様々な評価項目が並べられているが、それらを大きく二つに区切って「魔学」と「魔技」の文字の隣に点数が書いてある。魔学のとなりには50/50の文字。そして魔技の隣には・・・
魔技 2/50
固有性質:「不 明」
少年はこの二つの文字に目線を往復させるたび、深くため息をついている。そして氏名の欄には「四宮 ハルト」の文字があった。
かきあげた前髪に170センチ前後のすらっとした体形、勉強というよりは運動のほうが得意そうな印象を受ける少年改め、四宮ハルトはこのマーテル魔学区に並び立つ名門校の一つ、国立ネガル魔道高等専門学校の学生だ。
ハルトの通う学校に限らず、魔学区に建つ学校に入学した学生は学校側が執り行う潜在魔術能力測定と呼ばれる入学前の魔術に関する能力を測定することが義務付けられており、自身の能力を把握したうえで特徴を捉え能力を伸ばすことを意識づけることを目的としたテストが行われる。
1年定期で行われる身体測定のようなもので、ハルトの手に握られている紙きれはまさにその測定の結果であった。
何度見返したところで結果は変わっておらず、知識こそあるものの魔術の技能についてはほぼ無いに等しいことがありありとそこには書かれていた。
(夢にまで見た魔学区の学校に入学できたのに…というかなんで入学できたんだ…)
再びため息をつこうとするハルトの背中に、しびれるような衝撃が走る。
勢いに押され前につんのめるハルト。背中に残る衝撃は人の手のひらほどの余韻を残している。こんなことをする人物をハルトは1人しか知らない。
「いってぇ!…柑奈ぁ、なにすんだお前!」
振り向いた先にはハルトと同じ制服に身をつつむ一人の少女が立っていた。夕焼けに照らされる美しい肩まで伸びた銀の髪、凛とした目に健康的な体つき。一見すると神秘的な少女だが、その雰囲気とは裏腹に意地悪な笑みをいっぱいに広げていた。
「すごいじゃん!目を合わせなくってもあたしだってわかるんだ」
くっくっくといたずらに笑う柑奈。
「こんなことすんのはお前しかいないだろうが!ったくいきなり背中をはたきやがって…」
「あら、あんたの背中が叩いてほしそうなくらいどんよりしてたからじゃん。感謝してよね!」
(なんで俺ははたかれた上に感謝まで求められているんだ)
もっともすぎる突込みが頭をよぎるハルト。柑奈はというと早速ハルトの持っている通知表に目をつけた。
隙を見て手に握られている通知表を盗み見る。
「げっ、魔学はいいとして魔技が2点って…裏口入学は犯罪よ?」
勝手に人の通知表を見ておいて、なんたる言い草か。
今一番言われたくないことを一番言われたくないやつに言われショックを通り越して軽く怒りを覚えるハルト。
「そんなもんしてねぇ!言いたいことはわかるが俺だってなんで入学できたんだかわかんねぇよ!」
(くそ!さんざん言いやがってこの残念美少女が!)
文句を言ってやりたいところだがこの通知表が魔導士のセンスが皆無であることを告げているのは事実であり、心の中でしか言い返せない己の無力さに自己嫌悪したくなってきた。
そんなハルトに追い討ちをかけるように、柑奈は言葉を続ける。
「それに、やっぱり固有性質は不明なのね。無いわけじゃないけどわかんないって…魔学区の最新技術でもわからないとかあんた何者?」
ハルトは強く拳を握りしめ、悔しさをあらわにする。
「…そんなん…俺が一番知りてぇよ」
ー固有性質ー
遥か昔に発見された魔術という力は、長い歴史の中で進化を遂げていた。様々な技術や方式が生み出されては、その上位互換が研究され、今や人々の生活を支えるまでに大きなものへと変貌を遂げている。
国は法律のほかに魔術のための法律を作成し、それをまとめ取り締まる組織まで設立しているほどだ。
そして長きにわたる魔術の浸食は、生活のみならず人体にまで影響し始めていた。最もその影響を受けた者たちはより進化した魔術師、「新世代」と呼ばれている。
おおよそ今の20代より下の者たちにはほとんどその特徴が表れており、基礎能力の高さはさることながら固有性質と呼ばれる個性的な魔術の能力を発現させている。
特殊な魔術を即座に使用したり、常時発動している魔術を持っていたりと、人それぞれに一つ飛びぬけた個性があるのだ。
魔学区の学校では自分の固有性質を把握し一番その性質を伸ばすための授業を専門的に行うことができる唯一の学校であるのだが、ハルトの固有性質は存在こそ把握できるもののその実態は謎に包まれていた。そうなるとこの魔学区で学ぶ意味からしてわからなくなるのは当然である。
他人に言われるまでもなく、そのことを誰よりも知っているのは他ならないハルト自身だ。魔学区が揃える最新設備によるテストなら、いよいよ自分の固有性質が明らかになるものだと期待していた分、柑奈の言葉により一層気落ちするハルト。そんなハルトの様子をみて、さすがに柑奈も言い過ぎたと反省の色を見せる。
「ま、まぁ不明ってことはなんかすごい能力があるかもってことだしさ!人一人がもつ魔術容量ってみんな同じだから、きっと固有性質が容量をとってるせいで魔術の能力も低いだけじゃ…」
これ以上の言葉は今のハルトにはただ辛いだけだ。
「もういいよ。今日は帰る」
柑奈の言葉を遮り、視線を落としてハルトは背を向けその場を離れていく。
呼び止めようとした柑奈の手は途中まで伸びたものの、空をつかんでそのままゆっくりと降ろされた。
「…私のバカ」
こんなはずではなかった。素直になれない自分に怒りを覚えながら、離れるハルトを見送り自分もその場を離れる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『あれ、あいつじゃね?魔学はトップクラスだけど魔技はからしきだってやつ』
『そのうえ固有性質もわかんないんだろ?今時無性質のやつも珍しいよな』
『あいつ、なんで魔学区に来たんだろう』
『かわいそう、私なら耐えられないわ』
学生がごった返す雑踏の中、ひそかに聞こえる小話に聞こえないふりをしてその場を走り抜けるハルト。
(うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!どいつもこいつも嘲笑、同情、そればっかりだ!ここなら、この魔学区ならこいつらを黙らせる魔術師になれると思ったのに…クソっ!!)
昔から魔術の才能に目覚めなかったハルトがここまで魔術師の道に固執するのは、幼いころに約束した亡き父の言葉のためだった。
せめて自分にできることをと地道に勉強を積み上げて何とかここまで来たが、ハルトはもう限界だった。
向けられる嘲笑や同情の視線を避け走り抜けた先は、人の気配などないひっそりとした路地だった。
(ははっ、輝かしい学園都市なんかより、俺はこっちがお似合いだってか)
自嘲気味に笑うハルト。
次の瞬間、人の影などないはずの路地に再び視線を感じる。
(なんだ、あいつら魔学区の学生じゃない。これは…監視の視線か!?)
視線を感じる先にバッとふりかえるハルトだが、やはりそこには誰もいなかった。
(気のせい…か)
向き直るハルト。
「いや、あっていますよ。驚きました、勘がいいんですね」
刹那、誰もいなかった背後から女性の声がハルトに呼びかける。驚いたハルトはビクッと肩を跳ね上げ反射的に再び背後へ向き直る。
狭い路地の向こうから射す夕陽が煌々と照らしているその女性…いや、女子というべきだろうか。その女子の格好にハルトは言葉を失った。
まるで修道服のような服を身にまとい、手には分厚い本を持っている。これはいわゆるシスターという奴だろうか。
背はハルトよりも低く160センチあるかないか、そのフードからは流れるようなきれいな金髪が伸びている。逆光で顔は見えにくいが、まるで見透かすようなきれいな瞳だけははっきりと見えていた。
シスターは手に持った本を開き、中から一枚の用紙を取り出しハルトと見比べる。
「うん、あっている。四宮ハルトさん、ですね?」
「……」
いきなり現実離れした登場をしてきた現実離れした服装の少女に、ハルトは答えることもできず目を開いて驚くだけだった。そんなハルトなど目もくれず、勝手に話を進めるシスター。
「ふむ、沈黙はイエスととらえます。申し遅れましたが、私はウィングベル教会日本支部マーテル区を担当するアンリ・マユ・アステラ・バーミティアと申します。本来中立である我々教会が直接あなたの前に姿を現したのは、事態が急変したためです。今からいうことをよく聞いてください」
「あんた…何言ってんだ?」
突然の状況に頓珍漢なことを口走る目の前のシスターにただただ困惑するしかない。初めて会った少女にかける言葉のチョイスとしては不適切だが、この状況で『何言ってんだ?』以外の言葉を口にするやつなどこの世界中どこにだっていないだろう。そんな頭のおかしい少女は次の瞬間、衝撃の言葉を口にする。
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